「夢見る頃……4」  星都



  喪失!?

 次の日、早百合は元気に登校してきた。いつもと変わらぬ早百合に、ミドリも「あれはナニかの間違いね」と思わざるを得なかった。
 放課後。
「ネッ! ネッ! ネェッ!」
 真弓は引っ張られるように早百合の家へ連れて行かれた。夕べ、早百合のレイプシーンを想像、そしてイッてしまったことで、何処か早百合に後ろめたさを感じている。行けば昨日と同じ行為を要求されると分かってはいても、断れない。そして、
「忘れたい……」
 その言葉と涙。真弓は早百合の股間に手を入れずにいられなくなってしまう。
「忘れさせて……」
 結局、二日連続早百合のスリットを舐めるはめに。今日は特に念入りだった。明日、早百合は泊まりがけで家族旅行。両親が早百合の気分転換にと計画したらしい。早百合本人は「真弓と一緒に居たい」と希望しているが、心痛な両親を見ていると、一緒に行ってやらないと可哀相に思えてしまい、行くことにしたという。
(明日はやらずに済む)
 その開放感から、今日はたっぷりとイカせてやろうと思ったのだった。
 しかし、そればかりではない。
「ねェ真弓ィ、お願い! ネッ! 待ってるから……ネッ!」
「そんな……」
 昼休み、ミドリに強引に決められたコト。ミドリの彼氏、拓也の友達に彼女を紹介してくれと頼まれ、明日、真弓を紹介することに決めてしまったという。
「どんな男だろう……」
 早百合のスリットに舌を這わせていても、まだ見ぬ〃彼〃のモノが浮かんでしまう。真弓はつい、熱心に舌を動かしてしまうのだった。
 夜、鏡の前でファッションショーが始まった。いくら強引に決められたとは言え、例えどんな相手でもわざわざ嫌われたくはない。一番自分が良く見える服は……。
「やっぱりこれか……」
 気に入ってる服。それは一番新しく、しかも、男に見せることを前提に買ったナンパ用の服。真弓はそのスカートのウエスト部分を幾重にも折り返した。
「見えそう……」
 というか、見えている。
「こんな格好したら、男共は理性を失っちゃうな」
 ふと、先週も同じことを思っていたことに気づき、苦笑い。


「何処行くんだ?」
「……友達んとこ」
 形はどうあれ初めてのデート。なんとなく家族と顔を合わせ辛い。朝食は採らず、九時頃にこっそり出掛けようとしたら父親に見られてしまった。
「そんな短いの穿いて……パンツ見えるぞ!」
「見えませんよォ!っだ」
 最近父の目がいやらしく感じるのは気のせいか……。結局ノーマルのままのスカート丈で出掛けたにも拘わらず、父親には短すぎると見えるようだ。
(これ以上短くしたら、お父さんショック死しちゃうかも……)
 初めて乗るバイク。エンジンの振動が直接股間に響く。
(感じちゃったらどうしょう)
 言われるままリアシートに跨り、紹介された修に後ろからしがみついている。
「どう? 結構イイ線いってるでしょ!」
 紹介する前、ミドリが耳元でそう囁いた。
「う、うん……」
 確かに真弓の好みのタイプだ。こうしてピッタリ胸を押しつけているだけで、ドキドキが鎮まらない。
「ココは……」
 四人が行った場所。そこは、先週早百合がいった遊園地。
(まさかレイプされたりしないよね)
 ふと過ぎる不安。
 しかし、優しい修を見ていると、それが取り越し苦労にしか見えなくなる。 
 ちょっと気まずいながらも楽しい一時が過ぎていく。尤も、それはミドリと拓也が作り上げた雰囲気に、真弓と修が便乗しているだけ。別々に乗った観覧車の中で、二人は直接会話したことが極めて少ないことに気づいた。ミドリと拓也という媒体無しでは、互いの顔を見ることすらままならない。
(ミドリ達は今頃……)
 やけに長い時間を、二言三言の会話で埋めることなど不可能。ぼんやり日光連山を眺めながら、真弓はミドリと拓也の動向に思いを巡らせていた。
(ヤダッ、あたしったら)
 膨らみすぎた妄想のせいか、知らぬ間に修の股間をじっと見つめていた。
(せいぜいキス止まりよね)
 赤らんだ頬を俯かせ、暴走気味の妄想に終止符を打った。でないと、
(いくら見えないからって、ここじゃ……)
 バックの下で股間が疼いている。このまま妄想を続けては、我慢しきれずシテしまいそうだ。
「トイレ?」
「え?!」
「落ち着かないみたいだけど」
 太腿を摺り合わせていた仕草が、トイレを我慢しているように見えたようだ。
「もうすぐ下に着くから我慢して」
「え、えぇ」
 真弓は恥ずかしさで泣き出しそうな顔になった。とは言え、本当のことを知られたらもっと恥ずかしいのだが。
「これ、何の匂いか分かる?」
 観覧車から降りた真弓の顔に、ミドリが掌を近づけた。
「ン?」
 ちょっと酸っぱみのある汗臭さに、真弓は首を傾げた。それを見たミドリの顔にイヤラシイ笑みが浮かんだ。
(アレの匂いか)
 匂いの元をミドリが囁く前にピンときた。と同時に、アソコを疼かせた妄想が決して行き過ぎでなかったことも分かった。
「あたし、トイレ」
 中断した妄想を復活させ、更に激しく押し進める為に、真弓はトイレへ駆け込んだ。


 修のアパート。炬燵の一辺に二人ずつ、ゴロンと横になってビデオを観ている。
「こういうの、初めて?」
「……」
 真弓はゴクッとツバを呑み込んで頷いた。それは『レズナンパ』物。真弓はどうしても自分と早百合のことを浮かべてしまう。
(あたし、レズなんかじゃないもん)
 レズを否定しながらも、ああいうふうにすると悦ぶかな……などと考えてしまう自分が情けない。
「俺さァ、謝っておきたいことがあるんだ」
「え?」
「実は、俺、彼女いるんだ……まだ、彼女と言えるほどのモノじゃ無いんだけど……」
「彼女?」
「拓也にもまだ言ってないから、こういうことになっちゃったんだけど……」
「そう……いるの……いいよ別に。あたしはまだ、彼氏とか欲しいなんて思ってないから……ミドリに頼まれて来ただけだから」
「そっか、それを聞いて安心したよ」
「……」
 本当に彼氏が欲しいなんて思ってはいなかったが、修に会って、付き合ってみたいと思い始めていた。芽生えていた恋心が虚しさを倍増する。
「アッ……アッ……」
 二人は顔を見合わせた。小さな喘ぎ声はテレビからのものではない。二人は申し合わせたように、炬燵の向こう側を見た。
(ヤダッ!)
 真弓が思わず口を塞いだ。
(ミドリったら……あんな……)
「ヤッ!」
 修の手が胸に触れてきた。
「Bまで、いいだろ」
「……」
 頭を壁に押しつけながら、小さなよがり声を上げるミドリ。M字型に開かれた脚の付け根にスカートがたぐまり、拓也の頭がモゾモゾ動いている。
「……〃B〃……まで?」
「うん、Bまで!」
 服の上から修の手が動き出した。
「Bまで……なら……」
 真弓は目を閉じ、修に凭れた。正直言って『Bまで』なんて言わずに最後までシテ欲しい気分だ。でも、そんなこと恥ずかしくて言えない。
(気持ちイイ)
 唇が押しつけられ、修の舌が真弓の歯茎を撫で回す。幼い頃のマネごとのキスとは明らかに違う。痺れるような快感が走る。
(キスがこんなに気持ちイイなんて……)
 彼女がいてもいい。この人を、好きになる。真弓は自らの舌を修の舌に絡めていった。
 セーターが脱がされ、ブラウスのボタンも外された。しかし、ブラジャーのホックの在処が分からないようだ。
(前なのに……)
 修はフロントホックを知らないらしい。しまいに、ブラのカップをずらしに掛かった。仰向けに寝ると殆ど平らな胸。呆気なくずれてしまう。
「イヤなの?」
「……恥ずかしい……」
 真弓は両手で胸を隠した。多分、修が今までに付き合った女達の胸と比べ、自分のソレは余りにも小さいに違いない。そんな貧弱な乳房を見られるのは恥ずかしい。幼い頃の、男を悦ばせる為の言葉ではなく、本心から出た言葉だ。
「見たいんだ。キミの全てを!」
「……」
 真弓は何も答えず、ただ、グッタリと全身の力を抜いた。
「ありがとう」
 両手をどかし、修がそう呟いた。
 プックリ膨らんだ小さな乳首と乳輪。それは、ロリコンには堪らない興奮ものだろう。しかし、修は大人の女に興味を持つ年頃。膨よかな胸を思いっきり揉みながらしゃぶりつきたい願望がある。服の上から触った時点で分かってはいたが、いざ目の当たりにして更にがっかりした。とは言え、これでやめてしまうほど失礼な奴ではない。
「可愛いね」
 確かに可愛い。その言葉は修の苦肉の言葉だ。ここまで幼い胸を見ては、それ以外の褒め言葉が浮かばない。
「あっ……」
真弓の呻きは修の予想通りと思われた。だが、その表情を見て意味が違うことを知った。敏感過ぎる胸。強く吸ったり揉んだりすると痛いのだ。修は優しく乳首の周りを舐めた。そうしながら右手を下へ……。
「ウソ……」
 思わず声に出てしまった。慌てて口を押さえたが、修にもしっかりと聞こえていた。
「何が?」
 全ての動作を中断して聞いてくる。
「……初めてなんて……嘘でしょ?」
 下へ降りた手がスカートを捲り上げ、パンティの中へ潜り込んだ。と思った途端、クリトリスをくじり始めた。
「まだ童貞だし、デートもしたことないから、ナニもかも、お互い初めてよ!」
 と、ミドリは言っていた。しかし、手際の良さは初めてとは思えない。
「Bまでは、何回かあるよ」
「ごめんなさい……ヘンなこと言っちゃって」
(この程度は経験あるのか……)
 ちょっと残念。修の初めての〃女〃になりたかった。
「でも、自分からスルのは、初めてだよ」
「え?」
「それに、もう何年もして無いし……」
 修は昔を懐かしむように語り始めた。パンティに潜り込んだ指先はクリトリスを離れ、女陰全体をゆっくり揉んでいる。修の話の邪魔にならない丁度良い穏やかな快感だ。
 小学生の頃、当時中学三年生だった姉の友達に優香と言う才女がいた。眼鏡の似合う見るからに利発そうな彼女は、常に人目を気にし、真面目な振る舞いを崩すことが無かった。その為、彼女の本性を知る者は修ただ一人かも知れない。
 月に数回、修は優香に誘われ彼女の家へ行った。人目に触れぬよう裏道を通り、家へ入るのも勝手口を使った。
「誰にも言っちゃダメよ!」
 部屋へ入ると息を荒げながら「うん」と修が頷くまで繰り返す。頷いてからの優香の行動は早かった。数秒で修の下半身は剥き出しにされ、優香の指が巻き付いてくる。
「さあ、交替よ」
 弄ぶのに飽きると、今度は自分の身体を修に遊ばせてくれる。
 修は横たわった彼女のスカートを捲り上げ、パンティに手を掛ける。黒々とした陰毛が見え始める瞬間、それが、修が最も好きな一瞬だ。同年代のコのあっさりしたソコとは違う、まだまだ発展途上ではあるが、修の目には充分に大人の女陰に見える。見るからにいやらしく、男の欲望をかき立てる女陰に。
 ブルッと全身を震わせ手を伸ばす。優香に教わった指技で、一生懸命彼女に奉仕する修。
「気持ちよかったァ。じゃ、御褒美あげる」
 修の指に満足した時は御褒美が貰える。
「そこに寝て」
 言われるまま寝そべり、飛び出しそうな心臓を必死に押さえ付ける。何回かに一度しか貰えない御褒美。その都度、修は彼女の妖艶な微笑を、脳裡に焼き付けていた。
 勃起不完全の修のモノでは挿入は無理だった。彼女は、修のモノを陰唇で挟み込み、擦り付けることで快感を得ていた。そしてそれは、他のどんな遊びにも敵わぬ興奮と快感を修に与えてくれた。
「キミだって、Hな遊びしたことあるだろ?」
「……」
 真弓は答えられず横を向いた。
「子供の頃の方が、凄いコトしてたんだな」
「……」
 真弓も同感だ。散々互いのモノを見たり弄ったりしていた。それに、修とヤリ方は違うが、擦り付けて遊んでもいた。もし、今ほどの知識があったなら、
(処女なんてとっくに無くしてたわね)
 夢心地で昔を懐かしむ真弓の耳に、今までとは違った修の息遣いが聞こえてきた。
「ハンッ」
 傍にあったジャケットをグッと握った。何か握らないと落ち着かない。穏やかだった快感が急に荒々しくなり、昔を懐かしむどころではなくなってしまった。修の指が再びクリトリスを攻めてきたのだ。
「お、俺……」
 修の掠れた声。数年前の〃遊び〃を思い出したことで、その興奮を、否、それ以上の興奮を身体が欲し始めてしまった。Bまででは満足できそうにない。
「そろそろ、彼女と……シようと思ってるんだけど……その……経験無いし、失敗したらカッコ悪いだろ……だから、彼女の前に……そのォ……つまり、なんて言うか、練習……させて欲しいんだ……」
「えっ」
(〃練習〃あたしを練習台になれって言うの!) 
 修への思いが一気に失せていく。真弓は腹立たしく唇を噛み締め横を向いた。
「ア、アッ、ハアゥ〜ン」
 初めは炬燵を挟んで一直線上にいた二組のカップルが、いつの間にか炬燵と川の字になっている。右を向いた真弓の目に、相変わらず小さく喘ぎ続けるミドリの顔が。
(ナニしてんだろ)
 炬燵が邪魔で見えない。尤も、スルことなんて想像は付く。ただ、指か舌か、それともアレか。それが分からない。
(気持ち良さそう……)
 不意に目と目が合ってしまった。ミドリは一瞬息を飲むと、ウインクと共にVサインを出した。真弓はマゴマゴと顔を背けることしかできない。
「一度だけでいいから、ヤラセてくれ!」
 改めて頼まれてもどう答えていいか分からない。ナニも言わずに、
(さっさとシちゃえばいいのに)
 それが真弓の正直な気持ちだ。練習と言われ修への思いは消えたが、SEXへの好奇心と憧れは消える事なく膨張している。
「も、もう我慢できない! 彼女なんてどうでもいい! キミが欲しいッ!」
〃キミが欲しい〃
(なんて素敵な言葉……やっぱり、この人が好き!)
 オナニーでは決して味わえぬ言葉の刺激。
「……初めての女が、あたしでいいの?」
「キミしかいない! キミしか見えない!」
 それが、他の女は眼中にない。ということなのか、今目の前に真弓しかいない。と言うことなのか、「キミが欲しい」で舞い上がっている真弓にはどうでも良かった。
「あたしの、初めての男に……なって下さい」
 やっとの思いで言うと、両手で顔を隠した。隠さずにいられなかった。
(恥ずかしいよぉ……)
 恥じらう真弓に気遣うことなく、修は荒っぽくスカートを捲り上げ、勢い良くパンティを引き下げた。
(イタッ!)
 パンティを下げる時、伸びた爪が真弓の脇腹を傷つけた。
(優しくして……)
 そう瞳で訴えようと指の隙間を拡げた。
「ヤッ!」
 修はGパンとトランクスをズリ下げたところだった。勃起したペニスがピクピク動いている。太く逞しいソレが、涎を垂らし真弓に迫ってきた。
(あんなの入んないよ!)
 恐怖で逃げようとしたが、修の手は早かった。素早く真弓の右脚を抱きかかえ、充分に濡れたソコへ欲望で膨らんだペニスを押しあてた。
 真弓の訴える瞳など気づく様子もなく、
「いくよっ!」
「……」
 もうダメ! 真弓は全身を硬直させ、激痛に耐える態勢をとった。が……。
「あれ……」
 充分過ぎた。余りにもヌルヌル過ぎた。その上、初めての修は角度を間違えている。何度トライしても、修のペニスは虚しく真弓のスリットを撫で上げるだけ。そして、
「アッ!」
 乾いた修の声が情けなく響いた。生暖かな液が真弓の胸元へ、腹部へと着弾した。


「ここでいいの?」
 公園の電話ボックスの近くで真弓は降りた。
「うん」
「じゃ、今日は悪かったな……」
「うう〜ん。凄く楽しかった。それに……修さん巧いから……凄く良かった……アレ!」
 それは、修に対する精一杯の慰めの言葉。項垂れる修にそう言わずにいられなかった。
 それだけ言うと、真弓はクルッと背を向け公園の中へ逃げ込んだ。
「あ〜あ、あそこまで行って……」
 まさか処女のままで帰るとは思わなかった。ベンチにドカッと座り「ふぅー」と深い溜息を一つ。なんとなく落ち込んでしまう。出来なかったのは修のせいだが、真弓は恐怖で逃げようとした。
(逃げようとしただけで、逃げてないもん)
 こんなことで援助交際なんて出来るのか、不安が膨らんでいく。
「明日は頑張らなきゃ!」
 気分を変え、ガッツポーズ。明日は面接!


面接

どんより曇った空。まだ三時だというのに薄暗い。少し前から降り出した雨。冷たい雨を避ける為、真弓は電話ボックスに肩を竦めていた。
(来ないのかなぁ……)
 この冬一番の寒さだという。お気に入りの制服擬きの服装。ブラウスを変えただけで昨日と同じ服装だ。ただ、寒さの為今日はダウンジャケットを着込んでいる。しかし、スカートは短い。ウエストで二重ほど折り込んである。鏡の前でしかやらなかった折り込みを、ついに人前で披露するのだから、その意気込みは本物だろう。
(ンッ!)
 道路ばかり眺めていた真弓の後ろで咳払いが聞こえた。見ると、恰幅の良い禿頭が睨んでいる。
「……すみません……」
 チョコンと頭を下げボックスから出た。禿頭は、傘をボックスの隅に立て掛け、ゆっくりとボタンを押し始めた。
(間違いないよなぁ……)
「十一月二十六日の日曜日。西原球場前の電話ボックスで三時に会いたい」
 その伝言を初めて聞いたのは、3サイズを教えた次の日、金曜日だった。諦めていたにも拘わらず、直ぐに届いた「会いたい」と言う伝言に真弓は驚喜した。それ以来、何度もその伝言を聞いている。間違える筈がない。
 既に約束の時間を二十分経過。
「ひょっとして、今日はダメになったんじゃ」
 新らしい伝言が入ってるかも知れない。しかし、聞きたくとも禿頭は相変わらず受話器を握り締め、出る様子はない。
「後十分だけ、待ってみよう……」
 来なかったら帰ろう。そして、途中、いつもの電話ボックスで伝言を聞いてみよう。
 膝をガクガクさせながらそんなことを考えていると、
 キーッ。
 黒のステーションワゴンが止まった。男が真弓に目をやり、手を挙げた。
(来ちゃった……)
 真弓は戸惑いながらも車に乗り込んだ。
「ごめん、遅くなって……返事が無かったもんだから……」
「え?」
 会いたい。という伝言に対し、会えるとか会えないとかの返事があるのが普通。真弓はその返事を返さなかった。
「もしかして、来てたら悪いと思って……来て良かったよ」
「いえ、こちらこそ……」
 思ったより若い。そして優しそうだ。
「俺は松田って言います」
「真弓です」
 松田は車を走らせ、近くの市立体育館の駐車場へ止めた。
「暖まった?」
「えー」
 冷え切った身体も、車の暖房と自販機で買った缶コーヒーで随分暖まった。
「実は、女のコを捜しているのは俺じゃなくて、知り合いの産婦人科の先生なんだ」
「お医者さん……」
「今付き合ってるコも、以前俺が紹介したコなんだけど……最近ワガママになったらしくて、新しいコを捜して欲しいって頼まれて」
「あのう……捜すのは一人だけなんですか?」
「医者と言っても、そうは金も暇も自由にならないからね」
「何人と、面接するんですか?」
「キミが六人目。後、三人予定してる」
 九人の中から一人。やっぱり無理だと思った。こんな子供に、毎月数十万もくれる人はいないだろう。
「この面接で、三人に絞ろうと思ってるんだけど……君、処女?」
「エッ? えぇ、そうです」
「どういう目的で捜してるか、分かってる?」
「えぇ、大体……」
「今までにどの程度の経験あるの? AとかBとか」
「……B……は、あります……」
「へェー、意外だなぁ、真面目そうなのに」
 松田は本当に意外そうに真弓の身体をマジマジと見つめた。
「もし、君に決まれば、週に一度はSEXの相手をさせられることになるんだけど……出来る?」
「は、はい。出来ます」
「そうか……そこまで言うなら……」
「……」
 ひょっとして、選んでくれるのかも……。
「とりあえず、三人の中に入れてあげようか」
「本当ですか?」
「誰を選ぶかは、俺次第だからな……」
「お願いします!」
「今まで五人と会って……」
 松田はシートを倒し、大きく背伸びをした。そして、思い出すような口調で、
「みんないいコだったな。二人は『宜しくお願いします』って、フェラしてくれたし……後の三人は、たぶん、落選だな」
「フェラ……」
「勘違いするなよ。別に、ナニもしなかったから落とす訳じゃないし、ナニかしたからって絶対選ばれる訳でもないよ……ただ、しないよりはした方が……一生懸命さが伝わってくるからね。やっぱり、いい加減なコを紹介する訳にいかないから……」
「……」
 外は冷たい雨が降り続いている。ガラス面はすっかり曇ってしまい、外の様子は何も見えない。ここは、二人切りの世界。中でナニをしているか、外からは分からない。
「あたし……します!」
 震える手を松田のファスナーに掛けた。
「無理しなくていいよ」
「……さ、させて下さい」
 ファスナーを下げ、指を入れる。トランクス越しに硬いモノを感じる。
(どうやって出すの?)
 指先をあちこち動かしてみるが、何処から出すのか分からない。
 堪りかねた松田が動いた。
「本当に出来るの?」
 ファスナーの上のボタンを外し、スラックスとトランクスを膝まで下げてくれた。
 まさか二日連続でこんなモノを見るとは。真弓は知らず知らずのうちに、修のモノと比べていた。ただ、暗がりで良く見えなかった修のモノに比べ、今、目の前にあるモノは遙かにインパクトが強い。修のモノより遙かに逞しく見える。
(スゴイ!)
 浮き出た血管がドクッドクッと脈打っている。その太く逞しいソレに指を添えた。角度を起こし、口を開きなから近づけていく。
(出来た! 出来たじゃない!)
 松田のペニスの半分ほどが真弓の口に入った。しかし、
(どうすればいいの?)
 ペニスを口に含んだまま、真弓は固まっていた。


 体育館から西原球場まで八分ちょっと。必死で涙を堪える真弓には長すぎる時間だろう。
(もうダメ……)
 松田のモノを口に含み、そのまま数分経った時、
 フファハハハ……
 松田は急に吹き出し、
「ごめん」
 そう言ってズボンを上げてしまった。
「本当に初めてなんだね」
 楽しくて仕方ないといった感じの松田に比べ、真弓は泣き出してしまいそうだった。
(あんなに笑われたんじゃ、もうダメだ)
「あの電話ボックスのところでいいの?」
「あっ、はい」
 涙が零れる前に、なんとか球場に着いた。スピードが落ち、電話ボックスの横にピタッと止まる。
「ありがとうございました」
 瞼に涙が一杯。それを悟られぬように、真弓は瞬きを繰り返し軽く会釈をした。ドアを開けると、
「待って」
 松田が後部シートから透明の傘を取りだした。良くコンビニ等で売ってる安いやつだ。
「君の自然なパンチラ、良かったよ」
「えっ?」
 座っただけでも下着が見えるほど短くしたスカート丈。そのミニスカで、どんな悩殺ポーズを決めてやろうか、と散々考えていたのに。余りの寒さと極度の緊張で、すっかり忘れていた。
「近い内に連絡するから……出来れば、また同じ服装がいいな……じゃ」
 受け取った傘を半分開いただけで、身動きもせず松田の言葉をチェック。
「ひょっとして……大丈夫……かも」
 松田の車がすっかり見えなくなった頃、やっと動き出した真弓。傘は窄めたまま振り回し、スキップ。涙は嬉し涙に変わっていた。


   続く