「夢見る頃……3」 星都
忘れさせてあげる
「早百合はどうしたのかな……」
今週は一日も登校していない。毎日のように掛かって来た電話も、「ナンパ中止」の電話以来無い。
「ごめんなさいね、風邪で寝込んでるの。またね」
それ以上ナニも言いたくない。そんな調子で早百合の母は電話を切った。例え寝込んでいても、電話にぐらい出られるだろうに、そんなに酷いのだろうか、それとも……。
「彼が出来たりして……」
彼への思いが、真弓との友情を軽くしてしまっているのか……。
自分の部屋で一人。ベッドにポツンと座っている真弓。世界中で一番淋しい女に感じてしまう。
「彼女が来てるんだ」
兄貴の部屋から話し声がする。楽しそうな会話の響きが、一層真弓を孤独にさせる。
伝言を聞くことはできない。ミドリはデート。早百合は電話にも出てくれない。小さなカップルは真弓が信じられないほど進んだ行為をしている。一人、取り残されてしまった。
(いいもん。一人だって……楽しめるもん)
布団にスッポリ潜り込むと、パンツに手を入れ荒っぽく揉み始めた。孤独を紛らわせる為のオナニー。真弓の目尻には、涙が滲んでいた。
「早百合のこと、聞いた?」
夕方、久しぶりにミドリから電話があった。
「風邪だって聞いたけど」
「それがさぁ……」
声を押し殺すように話すミドリの内容は、衝撃的なモノだった。
昨夜、早百合の家の近くに住むミドリの伯母が来た。ミドリは、伯母と母親の話を襖越しに聞いてしまった。
日曜日の夜、ちょっと気の早い忘年会から帰る途中、前から歩いて来た女。ヨタヨタと放心状態さながら。街灯に映し出された女は両手に靴をぶら下げ、乱れた髪と服装はナニがあったか想像する必要もなかった。
「早百合ちゃん? 早百合ちゃんでしょ?」
ミドリの伯母の声に怯えたように走り去ってしまった早百合。
「きっとレイプされたのよ」
気の毒そうな声音の奥に、何処か嬉しそうな響きを感じる。
「早百合、最近男に狂ってたでしょ……ヘンな男に引っ掛かったんじゃないのかな……」
日曜日と言えば、一緒に行く筈だったナンパが中止になった日。そして、早百合が男と車に乗っているのを友達が目撃した日。
「まさか……そんな……」
早百合がレイプされたなんて、信じられない。
「ああ、いらっしゃい……」
早百合の母はいつになく真顔で挨拶を交わした。
「早百合ちゃん、どうですか?」
「エ、エー……ちょっと待ってね」
トトトトッと階段を駆け上がると、曇った声が交差した。
「早百合も会いたがってるから……どうぞ、上がって……」
階段を下りながら言うと、
「一つ、お願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「エー、早百合のこと……誰にも言わないで欲しいの。それだけ、お願いしたいの」
「……えぇ……」
やはり本当なのだろうか、真弓は無性に身体が震えた。
「ヤッホーッ 久しぶりィ!」
襖を開けると早百合の元気な声が飛んできた。布団の上に上体を起こし、肩から半纏を掛けている。
「なーんだ、元気なんじゃん」
ホッと気を許して襖を閉め、布団の傍に置かれた座布団に座る。と、
「どうしたの……それ……」
早百合の左の頬に、内出血の黒いアザが見えた。
「ヘヘッ……ちょっと転んで……」
「喧嘩でもしたみたい……」
「……」
今までニコやかだった早百合の顔が見る見る強張ってきた。そして、
「真弓! 男なんかと付き合わない方がいいよ。男なんて……男なんて大ッ嫌い!」
「早百合……」
早百合は両手に顔を埋めて泣きじゃくった。
「男なんて……嘘つきで……乱暴で……」
「早百合……どうしたの? ナニがあったの?」
真弓は早百合の肩を抱き寄せ、落ち着くのを待った。レイプされたに違いない早百合。そのまま忘れさせてあげたい。でも、ナニがあったのか聞いてみたい。真弓の好奇心が耐えきれないほど膨れあがっていく。
「早百合……ね、ナニがあったの? あたしになら言えるよね!」
「誰にも……誰にも内緒だよ!」
何度か問いただした後、やっと口を開いた。
「真弓を信じてるからね! 絶対だよ!」
「大丈夫。裏切ったりしないから……」
「日曜日にね……」
少し黙り込んでいたが、決心したように話し出した。
土曜の夜、早百合はツーショットに電話した。そして二十二才の武と話が合い、次の日会う約束をした。十時に駅西口で待ち合わせ、遊園地へ行った。初めてのデートがツーショットで知り合った男。ちょっと淋しい気もするが、優しくて面白い武に早百合は引かれて行った。
四時頃に遊園地を出ると、
「次、何処行く?」
「んー、お任せします」
「じゃ、俺のアパート行こうか」
「アパート……?」
「怖い?」
「え? う、う〜ん」
初体験の相手を捜す為、ツーショットへ電話した。そこで知り合った武。中一の早百合を子供扱いすることなく付き合ってくれる武に、早百合は生まれて初めての恋心を感じていた。武に抱かれたい。女として生まれたこの身、この心、すべてを捧げたい。そんな思いを胸に秘め、早百合は武の手を握った。
ちょっとエッチなアダルトビデオ。早百合は見てられずに目を逸らしていた。
「処女なの?」
「……うん」
「シテみたい?」
「……」
早百合は顔を真っ赤にして俯いた。炬燵に向かい合った武の足が、早百合の股間に伸びた。爪先でグリグリと刺激してくる。逃げずに刺激に耐えていると、
「そろそろだな」
時計に目をやりながら呟き、早百合の後ろへ廻った。学年でも三本の指に入る自慢の胸を、武の掌が覆ってくる。さすがに大きさでは大人の女に敵わないが、今まで武が揉んできたどの女よりも形はよい。
セーターとブラウスの裾から手を入れ、ブラジャーのカップをズリ上げた。硬いほどの青い果実。ピチピチとした弾力で、武の指を弾き返してくる。
(十二才と十ヶ月。とうとう女になるんだわ)
その悦びと不安の渦巻く中、パンティに潜り込んだ武の太い指が、意外に繊細な動きで早百合のソコを楽しませてくれた。
と、その時。
「オーッ、入るぞ」
見るからに普通の職業じゃ無い。と言って感じの男が入って来た。その後ろから、タバコを咥え、畳を気にもせずハイヒールの女がついて来る。更に四、五人の男が見えた。
「イヤッ!」
慌てて離れようとする早百合を抱き締めたまま、
「兄貴好みの初物ですよ」
武が自慢げに言う。
「面倒なのは嫌いだ。準備はいいか」
「もう、バッチリ! ヌレヌレで……あれ? 乾いちまった」
武の指が激しく蠢いた。
「イ、イヤーッ! 帰る!」
暴れ出した早百合を兄貴がビシッと引っぱたいた。一瞬怯んだ早百合を男達が炬燵の上に押さえ付ける。大きく開かれた脚の片方を、武が好奇の眼差しで押さえている。
「動くと大事なトコが怪我するぞ」
ポケットから取りだしたナイフでパンティを切り裂く。
「オオ、綺麗なマンコだ」
指先でスリットを開くと、感心したように唸った。そして、ズボンとトランクスを一気に脱ぎ捨て、はち切れんばかりに勃起したペニスを早百合に誇示した。
「イヤッ! ヤメテッ! 放してッ!」
「うるせェ!」
騒ぐと容赦なくパンチやキックが飛んでくる。優しかった武はそこにはいない。
「イッターイッ、イーッ!」
まだ未熟な早百合の部分。そこへツバを付けただけの太い指が二本、無理矢理ねじ込まれる。その指は直ぐに去り、続いて!
「ウッ、ウググゥゥ……!」
余りの激痛に歯を食い縛るのが精一杯。声も出ない。その激痛は真珠がめり込む時、一層激しく早百合を襲った。
「こりゃいい、ヒクヒク締め付けやがる。そーれ、もっと締めろ! それっ!」
「グッグッグッ……」
兄貴のモノが出入りする度、歯を食いしばった早百合の口から激痛が漏れる。
(アッ、出た!)
激痛に耐えるだけの早百合であったが、勢い良く放出された兄貴の体液をはっきりと感じ取ってしまった。無性に涙が流れ出る。
「ニンジンになっちまった」
早さを冗談で誤魔化し、ティッシュで後始末をすると、
「お前らもたっぷりと楽しませてやんな」
「ヘイ!」
「歓んで!」
待ってましたとばかり、男達が早百合へ飛びかかって行った。
炬燵の横にぼろ雑巾と化した早百合。数時間の間、常にペニスを受け入れていた部分はポッカリ口を開け、時折収縮を繰り返している。そこから、白く濁った液体がのったりと流れ落ちていた。
生気の無い目が何度か瞬きをし、枯れ果てたと思われた涙を一滴絞りだした。カクン、と顔が横を向いた。ネットリした精液が、唇の端から頬を伝い、炬燵布団に垂れていく。
「ねェ、アタシも楽しませてよォ」
「今日は終わりだ」
「あのコの方が良かったの?」
「お前より味のいい女はいねェよ」
ハイヒールの女は、兄貴に拒否されるとツカツカと早百合に近付いた。そして、ふん! と鼻を鳴らし下腹部を踏みつけた。ボコッと精液が溢れる。
「あんたのせいで楽しみが減っちゃったじゃないのさ! どうしてくれるのよ!」
二度三度と踏みつけると、ニタッと唇を歪め、精液が溢れ出る部分へ踵を移動した。
「さっきさぁ、犬のウンチ踏んじゃってェ、ちょっと洗わせてね」
「ウップ、ウッ」
女がズッズッと踵に力を入れる度、早百合の口から息が漏れた。
「でも、犬のウンチより公衆便所に踵落とす方が汚いかしら」
オーッホホホホ……。
女の高笑いが部屋中に響いた。
「男なんて嫌い! あんな女も嫌い! 男なんて、男なんて好きになっちゃダメよ!」
早百合は布団に突っ伏し、惹きつけながら泣いている。真弓はどうしていいか分からぬまま早百合の肩を抱いた。
「忘れたい。あんなこと、忘れたい。ねェ、真弓! 忘れさせて……あんなこと、忘れさせて!」
いつも強気で姉さんタイプだった早百合が、まるで生まれたての仔猫のように弱々しい。真弓はごく自然に早百合の唇を吸った。
「ありがとう」
早百合の震えがスーッと引いていく。
「もっと、忘れさせてあげる……」
早百合を思いやる気持ちが、忘れさせてあげたいと願う気持ちが、真弓を動かした。
「ソコは……ダメ……」
じっと真弓のされるままになっていた早百合が、真弓の舌が乳首を離れ、パンティのウエストに指が掛かった時、不意に呟いた。右腕で顔を隠し、左手でしっかりソコを下着の上から押さえてしまう。
「ソコ……汚いから……」
止んでいたすすり泣きが、また、始まる気配がする。
「あたし、早百合好きだもん。早百合の全てが見たい。綺麗なトコも、汚いトコも……」
「……」
早百合はナニも答えなかった。が、尻を僅かに浮かし、脱がすのを手伝ってくれた。ソコに置かれたままの左手も、抵抗無くどけられた。
「大人っぽい」
素直な第一印象だ。形も大きさも差は感じない。多少小陰唇がはみ出してはいるが、真弓のソコと大差ない。ただ、黒々とした陰毛と呼ぶに相応しい毛に覆われた丘が、羨ましかった。産毛程度の真弓のソコと比べ、なんと大人びていることか。
脚を開くと接合部が緩む。じんわりと滲んだ液が糸を引いた。
(ここに、何人もの男のアレが……)
滲んだ愛液が涙に見えてもおかしくないはず。しかし、今にも死にそうな早百合の顔と、色艶が良く、生き生きとして見えるその部分では余りにも対照的だ。そこから出る愛液はどう見ても涎。男性不信に落ち込んでしまった早百合に反抗するかのように、ソコは男を求めているのかも……。
「早百合……」
「ん?」
「……なんでもない」
涎を垂らす女陰を見ながらなら言えることも、腕に隠された早百合の表情を思い出しては言えなくなってしまう。
(気持ちよかった? なんて、訊けないよね)
SEXというモノを知り始めた頃から、SEX=快感という公式を信じていた。初体験の激痛さえ乗り越えれば、後は至上の快楽を得られる行為だと。
数人の男が次から次へ。当然、二人目の男が挿入した時、早百合は処女ではない。処女の激痛に唇を噛み締めることは無かった筈。三人目、四人目……。数時間に渡り弄ばれた早百合。次から次へと勃起したペニスをねじ込まれたソコは、挿入に痛みを感じることも無くなっていた筈だ。そして、痛みを忘れたソコは、湧き起こる快感を全身へ訴えていたに違いない。
(レイプは別なのね……きっと)
激痛は治まっても、欲情漲る男達への恐怖は消えない。その上、オモチャにされる惨めさでパニック状態の脳は、どんな激しい快感をも拒絶してしまったのだろう。
脳に伝わることの無かった快感。
(あなたが独り占めしちゃったの?)
悲惨な経験に押し潰されている早百合。なのに、ソコだけは悦んでいる。数時間もの間、快感を貪っていたのか……。
(入れて欲しいのね)
小さな蕾がヒクつく。ペニスをしゃぶりたがっているように。
「あうっ……」
早百合が喉を詰まらせた。一瞬、レイプの恐怖が甦ったようだ。
「痛い?」
「……」
早百合は真弓の問いには答えず、
「汚いよ、ソコ……公衆……」
そこまで言って鼻水を啜った。
女に「公衆便所」と形容されたことを、相当気にしているようだ。
「あたしが、綺麗にしてあげる」
これ以上、早百合の悲惨な声を、表情を見たくない。左右の大陰唇にクッキリと付いた歯形に自分の歯を重ねた。指をゆっくりと出し入れしながら、舌を差し出す。
「ああっ……真弓、ソコ、だめっ!」
その〃だめ〃は決して拒絶の意味では無い。もっとシテ欲しいと言う意味を込めた〃だめ〃だ。
(あたしのより、大きい)
舌先に触れるポッチ。自分のそれより大きめなそれを、舌でくじいた。
「ハフゥ〜ン」
早百合が堪らず声を上げた。腰を前後左右にくねらせ、頭もあちこちじっとしてられない様子。右手はギュッとシーツを握り、左手はオッパイを握り締めている。
ちょっと小便臭く感じたソコが、今は別の匂いになってきた。何処かで嗅いだ気がする。
(回転寿司だ)
家族で良く行く回転寿司。数ヶ月前に新装オープンした。真新しいカウンターで寿司を食べながら、真弓は匂いが気になってしょうがなかった。その時の木の匂いに似ている。
よく、女のアソコを貝に例えることがあるが、改めて見てみると、なるほど似ている。これからは、回転寿司に行っても貝類は食べる気がしなくなりそうだ。
舌先でクリトリスを弄びながら、指の動きに激しさを加えた。白く細い真弓の指を、嬉しそうに締め付けイヤラシイ音を奏で始めた早百合のソコ。
チロッと早百合を見ると、いたたまれない表情で口を開けている。声を出したくて仕方ないのだろう。真弓にも良く分かる。分かるからこそ、もっと苛めてみたくなる。
(入っちゃう)
指を一本追加しても、難なく受け入れてしまった。
(あたしなんか、一本がやっとなのに……やっぱり経験者は違うな……)
激しさを増した真弓の愛撫を、早百合は枕を噛み締めて耐えていたが、
「アァッ、イ、イクッイクゥ〜ゥ!」
「え? どこへ?」
クライマックス
街灯にぼんやり映し出される制服姿の少女。ベンチに座り、深く溜息をついた。何気なく鼻の頭を掻いた指が、一時間程前の早百合とのことを思い出させる。
(同じ匂い……?)
真弓はちょっと首を傾げた。早百合のソコに舌を這わせ、直に嗅いだ匂いは真新しい木のカウンターの匂いだった。ならば、ソコをたっぷりと弄んだ指先の匂いもまた、カウンターの匂いがしてもいいはず。なのに、オナニーの後の自分の指先と同じ匂いがする。表面に漂う匂いと、擦り付けて染みついた匂いとでは違うということか。
(あの匂いが凝縮されると、この匂いになるのかな……イカ臭い)
決して良い匂いとは言えないが、つい何度も嗅いでしまう。長年の汗と垢が織りなす匂い。嗅いでいると、少しずつ気分が晴れてくるようだ。
真弓を落ち込ませているのは、早百合のことと関係無い。先ほど、伝言を聞いてみた。電話番号を押し、ボックスナンバー、そして暗証ナンバーをプッシュすると、
『あなた宛の伝言が、1件あります。あなたに届いた伝言を、聞きたい時は1、そうでない時は#をプッシュして下さい』
とあった。自分宛の伝言をどうやって聞くか分からずにいたのに、なんのことはない、伝言が入っていれば自動的にメッセージが流れる仕組みになっていたのだ。真弓は緊張の面持ちで伝言を聞いた。
「伝言ありがとうございます。えー、希望者が多数いますので、とりあえず何人かに絞りたいんです。で、名前と年齢。身長体重3サイズを教えて下さい」
と、入っていた。『希望者が多数』と聞いて、ちょっと不安になった。更に、年齢や3サイズを教えろなんて……。まだまだ子供体型の真弓には酷な質問だ。
(どうしょう、ちょっとサバよんで……)
そうも思ったが、バレた時面倒だ。真弓は正直に伝言を返した。しかし、やっぱり多めに言うべきだったか、と思い悩んでいるのだ。
「ずん胴ペチャパイな中一なんか……選ばれる訳ないよなぁ……」
考えた所で、今更どうにもならない。それに、知らない男と会うことがどんなに怖いかを知った今、ホッとした感もある。
「っ!」
何かドスッという鈍い音が聞こえる。「ヤメローッ」と、人の声がしたような……。
(そう言えば……)
公園入り口付近の駐車場に車が三台止まっていた。妙な止め方だった。一台の車を逃げられないように二台の車が邪魔している。としか思えぬ止め方。伝言のコトで頭が一杯だった真弓は気にもしなかったが、ひょっとして……。
(リンチ……それとも……)
真弓は足音を忍ばせ公衆便所に近付いた。側面の壁を伝い、便所の裏を覗く。
(やっぱり!)
大きな切り株に男が座り、その股間に女が顔を埋めている。腰にスカートの切れ端。足にソックス。女が身につけているのはそれだけだ。その女の後ろから、大柄な男が激しく腰を突き上げている。
ドスッ!
バシッ!
鈍い音の方を見ると、女の連れだろうか、後ろ手に縛られた男がいる。それをサンドバッグのように、二人の男が蹴りまくっていた。
「おめえの女も好き者だなぁ、自分から腰振ってやがるぜ」
尻の辺りを蹴りつけた男が言った。
「あの腰の振り、相当年期入ってるな」
もう一人も負けじと言う。
(腰なんて振ってないじゃない……?)
男の振動か自分の意志か? 真弓には判別出来なかった。ただ同性として、女が自分から腰を振っているとは思いたくなかった。
幸か不幸か、女の彼氏は顔面を蹴られ目が塞がっている。自分の目で判断出来る状態ではない。男の耳に聞こえるのは「ングゥ、ング」と、言葉にならない声。そしてパンパンパンッというリズミカルな音。
そのリズミカルな音を立てている大柄な男が呻きだした。
「オオォォォ……で、出るぞォ……」
パンパン、パパパパン、パパパン、
パパパパパパ……
リズムが乱れ出すと、諦めきっていた女が逃れようと激しく全身を捩った。しかし、切り株の男は女の喉深くペニスを射し込んだまま頭を押さえ付け、大柄な男は身体を捩る女の動きに感じていた。
「ウッ! で、でる! ンーッでたぁっ!」
「コイツの子種は強力だぞォ。百発百中出来ちまうからな」
「俺の赤ちゃん、大切に育てろよ」
「おめえの女、ヒーヒー悦んでるぜ」
口に太いモノを突っ込まれた女の泣き声。聞きようによってはよがり声にも聞こえる。
「次は俺の番だ」
吃驚するほど真弓の直ぐ近くにもう一人いた。立ち上がり、ベルトを緩めながら歩いていく。と、
「ヤバイ! 逃げろーっ!」
直ぐ傍で女の悲鳴が木霊した。一目さんに逃げる男達。
「アッ!?」
真弓も急いで逃げた。その時、一瞬女の顔が見えた。それは、ピアノのレッスンをしていたゴマキの先生。確か、音大の三年生だ。
(あの二人、これからどうなるんだろう)
レイプされた女とその彼氏。全てを忘れて二人でやっていけるのか、それとも、気まずくなって……。
(多分、終わりだろうな……)
二人の行く末を悲しい別れと思えば思うほど、何故か指の動きに熱がこもる。公衆便所の陰からレイプシーンを見た時、早く警察に知らせなきゃ! と思いながらも、今まで感じたこともない強烈な疼きに足が動かず、そのまま見入ってしまった。その時の真弓は二人の行く末など考えもしなかった。それどころか、もっと激しく姦っちまえ! と心の何処かで望んでいた気がする。
あの時の強烈な疼きに襲われたい。その疼きの中なら、きっと最高のオナニーができるだろう。
「あたしって、悪いオンナ」
レイプされた同性をいたわるどころか、自信の快楽の〃おかず〃にしてしまう。そんな自分が怖い。しかし、快感に火照った真弓の身体は、冷酷なまでに性的興奮を求めている。
「早百合もあんなコトされたのかな……」
脳裡に焼き付いたレイプシーン。いつしか犯されている女が早百合に変わっていた。
クチュクチュクチュ……
ピチャ、クチュクチュッ……
布団の中から熱気と共に卑猥な音が聞こえてくる。シーツも濡れているに違いない。でも、止められない。これからもっと良くなる。
「早百合ったら、あたしの指であんなに気持ち良さそうに悶えて」
早百合の体内を出入りした右手中指が今、真弓の入り口をなぞっている。
「アッ、入る……入っちゃうぅぅ……」
数日前から、やっと指を挿入できるようになった。だが、それは油を塗りつけることで可能になっただけ。自らの愛液だけで入れたことはない。
「入った……!」
初めて、油の力を借りずに挿入できた。一つ大人になった満足感が湧き起こる。
「やっぱり、奈津美より大人よ!」
優越感は余裕を産む。そして余裕は、更なる挑戦を刺激する。
「二本……入るかな……」
早百合の穴。真弓のと変わらぬピンク色の肉穴。ソコは真弓の指を二本、簡単に受け入れてしまった。
「あたしだって……」
抜いた中指に薬指を合わせ、互い違いに入り口を拡げていく。そして、両方の指先が入り口に潜り込むと、一緒に侵入を開始した。
「入る……入ってく……」
その悦びと興奮。少し前なら直ぐに止めてしまったほどの痛みも、今の真弓は気にも止めないでいる。
「アッ、ンッ、アァ」
二本指でのピストン。一本の時とは比べものにならぬ充実感。そして、快感を後押しする淫らな妄想の中、全身をブルブル震わせてイッた早百合がおいでおいでしている。
「あたしも、イッてみたい!」
イキたいのにイケない。イキそうなのに、イケない。充分な快感は感じているのに、もう一つ、ナニかが足りない。
真弓はふと思いついたように指を抜き去り、クリトリスを攻めだした。
「感じるぅ〜っ!」
涎を垂らし、指を懐かしむ部分には左手の指をくれてやる。
「アッン、アッ、アッン……アァ〜」
(イクかも……イッちゃうかも……)
快感の荒波が全身を駆け巡る。理性も恥じらいも全てを打ち壊す。その恐ろしい程の快感の波は、やがて渦となり真弓を奈落の底へ引きずり込もうとする。
「あっ! だめっ! 落ちる、落ちちゃう、落ちてっちゃう……あ〜っ」
逃れられぬ巨大な渦に飲み込まれ、真弓はまだ知らぬ未知の世界へ落ちていく。不安だけを道連れに。そんな不安をかき消す為、無我夢中で指を震わせた。
「アッアッアーッ……イ、イッイックイック、もう、もうだめェー……」
薄壁を挟んで兄貴がいる。真弓の声は隣どころか階下の両親の寝室にも聞こえてしまいそうだ。
「あーっ……イクゥーンッ!」
左手の中指を快楽の穴に入れ、右手の中指はクリトリスを押さえたまま、真弓は身動き一つ出来ずにいた。初めての絶頂が、全身をビリビリ痺れさせてしまったのだ。
「つめたぁい」
汗ばんだ冷たい毛布が、快楽の園へ落ち込んだ真弓を現実の世界へと引き戻した。
「染みになっちゃう」
シーツも冷たい。特に尻。それは汗ではなく愛液のせいだ。早く濡れた部分を後始末しなければ。しかし、痺れた下半身は些細な刺激でさえ悲鳴を上げそうに感じてしまう。とても動くことなど不可能だ。深呼吸を繰り返し、痺れが鎮まるのを待つしかない。
「あーっ、いっけなーい」
どうにか落ち着いた。真弓はいつものように枕元を探った。だがティッシュがない。テーブルの下に置いたままだった。
指を抜くとドッと愛液が流れ出そうだ。真弓はヒクつく穴に指を入れたままベッドから降り、テーブルへ近付いた。シュシュシュッとティッシュを取る。スリットをティッシュで覆い、ゆっくりと指を抜いていく。
「やだぁ……」
抜いたティッシュを開いてみた。いつもの透明な液の他に、ネットリした白っぽい液体もついている。
(男の人のもこんな色なのかな……)
スリットを開き、奥の湿りも拭き取り丸めて捨てた。シーツの染みを擦るだけで何日分のティッシュを使ったことか、ゴミ箱が満杯になってしまった。それほど拭いても、シーツの湿っぽさはなくならない。仕方なく、寝場所をずらして潜り込んだ。
「はあぁー……」
深い溜息。そして、満足しきった表情。オナニーで得た快感の余韻。その余韻に浸るのは珍しくないが、今までとは一味も二味も違う充実感がある。
「良かったぁー」
しかし、そんな安らいだ一時は直ぐに壊された。
ガシャッ!
「ノックぐらいしてよ!」
いきなり入ってきた兄貴を怒鳴ってしまった。が、怒りは急速に戸惑いへ変化した。
(聞こえちゃったかな……)
兄貴に背を向けたまま丸まっている。
「ナニ怒ってんだ……英和辞典貸してくれ」
「カバンの中」
「ナニ?」
「カバンの……」
チャッカチャッカチャッカチャッカ。
と、音楽が漏れてくる。兄貴は耳にヘッドホンを当てたまま、足でリズムを刻んでいた。
(これなら聞こえないや)
ホッと一息。辞典を取ってやろうとベッドから……。
(あっ!)
下りようとして上体を起こし、まだ、下は裸なことに気づいた。上もボタンを外したまま、小さな膨らみが見えている。慌てて横になった。そして、大声で、
「カ・バ・ン・の・なかっ!」
「カバンの中?」
兄貴はカバンをまさぐり辞典を取りだした。明かりを消し、クンクンと鼻を鳴らし、
「女くせーっ」
一言呟いて出ていった。
ゴミ箱には快楽の匂いが漂いそうなティッシュの山。
(あした蓋付きの買って来よう)
真弓はそう決めて眠りについた。
そう言いかけた真弓も、直ぐに本来の意味を察した。指の動きを更に荒げ、クリトリスを噛んだ。
「アッ、ダ、ダメッ、イク、イクゥ、イクイクッッッ……アッッ!」
真弓の空いていた左手を両手でしっかり握り締め、早百合は一人でイッてしまった。指と口に痛いほどの疲れを真弓に与えて……。だが、真弓も満足していた。早百合をイカせたことが誇らしく思えた。
続く