「夢見る頃……1」  星都



援助交際

『ツーショットは2、伝言は5をプッシュして下さい……ツーショットは2、伝言は……』
 アナウンスに促されるまま2をプッシュ。
『ツーショットコーナーですね……直ぐに繋がりますので、BGMをお聴きになってお待ち下さい……お相手様と繋がりました』
「モシモーシ!」
 男の声が聞こえるか聞こえないかの内に切ってしまった。そのまま深呼吸を繰り返し、噎せる程の動悸と呼吸を整える。
「いっけない!」
 時計を見ると十時を過ぎていた。真弓は逃げるように電話ボックスを飛び出し、早百合との待ち合わせ場所へ急いだ。
「おそーいっ!」
 駅前広場の時計を指さし、口を尖らせる早百合。
「エヘッ!」
 真弓はチロッと舌を見せて謝った。二人ともお揃いの服装。チェックのスカートに紺のブレザー。そして、白のブラウスとソックス。何処かの女子校の制服に似ている。それは、早百合の研究によれば『ナンパ』したくなる服装のbPだそうだ。この服を探す為に、先週はブティックを歩き回ってしまった。ただし、値段の折り合いがつかず、結局は安売りのデパートで買った。が、一応気に入ってはいる。
「聞いたぁー? ミドリったら今日もデートなんだってよぉ」
「聞いたっ、おニューのパンティ穿いていくんだって……ナニ考えてんだろう」
 仲良し三人娘の一人、ミドリは三週間前の金曜日にコンビニでナンパされた。先週の日曜日にはファーストキスを済ませ、今日はより深い関係に発展することを仄めかしていた。
「今日は彼の家で二人切りなんだって……あんなスケベなコとは思わなかった」
 早百合の言い方にはどこかトゲを感じる。性知識では学年でもトップクラスと自他共に認める早百合にとって、仲間内のミドリに性体験を先取りされるのは、何とも腹立たしい。今の早百合は、兎に角ミドリより先に経験したいと望んでいた。
 真弓は早百合ほど対抗意識はない。ただ、今まではドラマの世界だけだと思っていた『ナンパ』が身近で起きたことで、ナンパへの興味は増していた。早百合が『性』を目指したナンパに対し、真弓は『ナンパ』そのものを目指している。
 中学へ入って八ヶ月ちょっと。二人は、大人への階段を一気に駆け上ろうと電車へ乗り込んだ。


「まったく! この辺の男共は女を見る目がないのよ!」
「声は掛けられたじゃない」
「あんなブ男お断り!」
「そうかな……」
 真弓は吹き出しそうな笑いをグッと飲み込んだ。今日の『ナンパ大作戦』を振り返ってみて、早百合が意外にも奥手であることを知ってしまった。いざ、男が声を掛けて来ると、素知らぬ顔で通り過ぎてしまう。そして「あんなブ男お断り!」と言い放つ。「ナンパされたら即ホテル!」なんて言っていた早百合だが、実のところ、返事を返す勇気もないのだった。尤も、それは真弓とて同じなのだが……。
「じゃ、またネ」
「バ〜イ」
 十一月も半ば。五時を過ぎるともう暗い。予定では、今頃素敵な男とデートの真っ最中の筈だったのに。
(ミドリはシちゃったのかな……)
 自分にはまだ彼氏も居ないのに、友達は恋のABCを実践中! 早百合ではないが、取り残された気分は歪めない。
 真弓の家は公園の角を曲がると直ぐ。その公園の入り口にある電話ボックスが、異様に明るく感じる。近付くにつれ、その明るさは増し、真弓の鼓動を速める。真弓はゆっくり歩き、後ろから来るカップルを追い越させた。
(0120、27の……)
 その番号をプッシュするのは今朝に次いで二度目。しかし、その番号自体はずっと前から知っていた。確固とした確信は無いが、容易に大人の世界へ踏み込める番号であることを感じ取っていた。
『プリーズへようこそ! ツーショットは2、伝言は5をプッシュして下さい……』
 知らない男と話す度胸はない。それは、朝の電話でもナンパでも分かった。しかし、伝言を聞くことぐらいなら……。
『伝言コーナーですね。初めての方は1、既に登録を済ませてある方は、ボックスbニ#をプッシュして下さい……これからあなたのボックスb発行します。メモの用意を……』
 伝言を聞くだけなのになんて面倒な! 気分が醒めかけた頃に、やっと伝言が流れ始めた。
「二十代の会社員です。今週の午後、三万前後で援助希望されるコ、伝言下さい」
『録音日時は、今日、午後、四時五分です』
 少し間が開き、
『伝言に直接返事を返す時は4、次の伝言を聞く時は#、もう一度今の伝言を繰り返す時は2、をプッシュして下さい……』
 真弓は#をプッシュした。
『次の伝言をどうぞ……』
「えー、今夜暇な女のコ、連絡下さい。携帯番号は……」
 ボックスといっても、電話ボックスの遮音性は良いとは言えない。車が通れば電話の声なんて消されてしまう。静かになればなったで、受話器から漏れる声が外まで聞こえてしまいそうで落ち着かない。かといって、H関係の電話を家からは掛けづらい。
(聞こえてないよね……)
 歩く速度を調整し、人が居ないのを見計らってボックスへ入ったのに。どこから湧いたのか、小太りのおばさんが横で待っている。その鋭い目線に、真弓は堪らずボックスを出た。
 眠れぬ夜。真弓は『援助交際』という言葉が頭から離れずにいた。
(一回三万で、月に五回なら十五万。年に百八十万……)
 真弓には夢があった。小さくても良いから自分の店を持つこと。可愛い小物を一杯集めたファンシーショップを開きたい。そのことを兄に言ったら「何千万も掛かるから無理!」と笑われた。しかし、
(十年後には一千八百万。週二回なら……)
 まだ足らないかも知れないが、夢がグッと近付いた感じだ。とは言っても……。
「援助交際か……」
 確か夏休みの数日前。女子達は、見知らぬ偉そうなおばさんの話を聞かされた。倫理観がどうのこうのと言っていたが、簡単に言えば「援助交際をするな」ということだった。
その頃の真弓は、援助交際なんて考えたこともなかった。が、頭ごなしに「するな!」と言われると、つい反発したくなる年頃。
(倫理観なんて人によって違うし、国によっても宗教によっても、時代によっても違うじゃない。その人が納得してやるなら、それでいいと思う)
 別に『しよう』とは思わなかったが、それが悪いこととも思わなかった。
(明日、伝言入れよう……)
 それは単に夢を叶える為の資金欲しさだけではなく、性への関心も大だった。
(あたしが……援交……しちゃう)
『夢の為』と自分に言い聞かせる真弓。だが、遠い未来の夢より、今現在の好奇心に興味が向くのは当たり前。ファンシーショップを夢見ていても、脳裡に浮かぶ光景は、次々と男に抱かれる乱れた自分。それは、ハイティーン向け雑誌の投稿欄を賑わすカルーイ女。
 男のアダルト雑誌が見るからに『スケベ本』という表紙なのに対し、女のソレはなんら一般の雑誌と変わらぬ表紙が多い。真弓も内容を知らずに開いてしまい、慌てて閉じたことがある。だが、そういったモノに興味を持つ年頃。今はそっと手に取り、素早く別のコーナーへ行って読んでいる。読む度に(大人ってこんな軽いノリでシちゃうの……)と半ば世の女性達を軽蔑していたのに。
(あたしも、軽くなりそう……)


  我慢日、撤廃!

「ヨッ! どうしたの? 浮かない顔して」
「別にィ」
 今朝は何人にその質問をされたことか。確かに真弓の表情は冴えない。
(もっと良く考えた方が……)
 援助交際が厭になった訳ではない。気分が昂ぶっていた昨夜は気づかなかったことを、今朝、気づいてしまった。
(痛いんだろうな……)
 そう、初体験は痛いのだ。以前読んだ雑誌に『初体験特集』があった。「身体が真っ二つに裂けてしまうと思った」「丸太をねじ込まれたような」「焼け火箸を突っ込まれたように」等々。その言葉を思い出しただけで、ブルッと身震いしてしまう。
「ねェねェ聞いた?」
 真弓とは対照的に、満面に笑みを浮かべた早百合が飛び跳ねてきた。
「ミドリ、ダメだったんだって!」
「え?」
「アレが出来なかったのよ」
「アレって……?」
「もう……」
 早百合は呆れ顔で左手を軽く握り、その穴に右手の中指を出し入れした。
「ヤダ!」
 真弓は早百合の両手をパッと放し、誰も気づかなかったことを祈った。
「ナニ赤くなってんのよ」
「だってェ……でも、どうして?」
「聞きたい?」
「……」
 別に。なんて言うと角が立ちそうだ。真弓はさも聞きたそうに頷いた。
「聞き出すのに苦労したのよ……」
 腕組みをして何度も頷き、自分自身を称える早百合。キョロキョロと辺りを見回してしゃがみ込むと、口に右手を翳した。
 真弓も同じように辺りを見回し、早百合の口へ耳を寄せる。
「勃たなかったんだって」
「……なにが?」
「ナニ、が、勃たなかったのっ!」
「ナニってなに?」
「信じらんない、ナニって言ったらアレに決まってるでしょ!」
「アレ?」
「キンタマよっ、キ・ン・タ・マ!」
「聞こえちゃうよ!」
 早百合の口を押さえ真っ赤な顔で周囲を伺った。そして、
「でも、どうして?」
「男って結構デリケートなのよ。その時の体調や精神状態で、勃たなくなることがあるのよ」
「へーっ……」
 意外だった。男は自分の意志で、いつでも勃てたり萎えさせたり出来るものだと思っていた。
「これは神様が与えてくれたチャンスよ! 今度の日曜、上手くいけばヤレる! ミドリより先にオンナになれるかも!」
「痛いんでしょ?!」
「エ?」
「耐えられる?」
「大丈夫。その為に毎晩指を入れ……ンッ! ンンッ!」
 早百合はソッポを向き咳払いを繰り返した。
「……毎晩、指を……ナニ?」
「そんなこと言ってないわよ……女はアレの痛みに耐えられるようにできてるんだから、大丈夫だって言ったの……」
「指を入れる、とか」
「アッ、宿題見直しとかなきゃ……じゃ」
 イソイソと席へ向かう早百合がやたら可愛く見える。
(シテるんだ……早百合も……)
 数年来の悩みが解消された。そんな気分だ。覚えたての頃は余計なことは考えなかった。気持ちよいからスル。単純に気持ちよさを満喫していた。ただ、場所が場所だけに誰にも言わず、こっそりとしてた。
(あの頃は子供だったな……)
 そのうち、誰も口にしないということは誰もシテないんじゃないか? と思い始めた。
(こんなことしてるの、世の中で二人だけじゃ無いか……否、あのコも今はシテ無いかも知れない……やめなきゃ!)
 そう心に決めたのは、小学校の卒業間際の頃。しかし、『これが最後』『一度だけ』と、結局シテしまい、やめられない自分に「なんて意志が弱いんだろう」と自己嫌悪に陥る日々が続いていた。
最近では、やめられないのなら、せめて回数を減らそうと努力している所だった。火、木、土曜の夜以外は我慢日。
(我慢しないでしちゃうんだったな)
 夕べの我慢が悔やまれてならない。
(そうすれば、あんなことしないで済んだのに……)
 したい気分の時に我慢して寝ると、ヘンな夢を見てしまう。そんな時は決まって、目が醒めるとパンツが冷たい。今朝も、ハッと起きあがり、部屋を見回して「夢か……」と深い溜息をついた。そして、ティッシュを何枚も取り、パンティの濡れた部分を一生懸命拭いたのだ。
 皆「自分でスルほど飢えてないもん!」なんて言ってる。早百合も「あんなコトするのは男の居ない中年オバサンよ」とか言ってた。
 男は皆オナニーをしている。なんて話題が出た時は、そこまで言わなくとも……と思うほど男子をボロクソに言っていた。そんな中に真弓もいた。ちょっと後ろめたさを感じながら、皆に合わせ男子のスケベさを馬鹿にしていた。
考え方によっては、皆、真弓と同じように周りに合わせているだけなのかも知れない。女は男ほどスケベではない。という不確かな風潮に合わせているだけ。実際の所は分からない。真弓が、そして多分早百合もシテいる。ということは、みんなシテると考えても何ら不思議ではないということだ。
(男も女も、みーんなシテるんだ!)
 そんなことを考えていたら疼いてしまった。間もなく授業が始まる。しかし、
(ちょっとだけ……)
 真弓は股間を押さえ、トイレへ走った。
「済みません……トイレに行ってたもので」
「たっぷり出たか? スッキリした顔して」
「……」
 笑いの渦に揉まれ席に着いた。確かにスッキリした。特に下腹部がスーッと軽くなった感じがする。
(やっぱ、我慢は身体に良くないんだな)


「こんな気持ちいいコト、一度知ったらやめられるわけないよ」
 冬の嵐。夕方から降り出した雨が激しさを増した。電線を吹き抜ける風が不気味な音を奏でている。真弓はそんな夜が好きだ。少しぐらい声を漏らしても、隣部屋の兄の耳まで聞こえないだろうから。
 冷たい布団が体温で暖まるまでは時間がかかる。でも、これをすればアッと言う間に暖まる。夏場は汗だくになり、終わった後にシャワーは欠かせない。だが、今は冬。思いっきり快感にのたうっても、汗だくになることはない。暖まった身体と布団、そして、適度の疲労感でぐっすり眠れる。
 スルッと尻を剥き出しに。色白の真弓、普段見せることのない部分はまた格段と白い。パジャマとパンティを足首に絡めたまま膝を開き、続きを始める。
 最近では胸も揉むようにしている。はっきり言って快感よりくすぐったさが強い。それでも揉んでいるのは、揉むことで大きくなると信じているからだ。胸に自信のない少女達は、藁にもすがる思いで胸を揉むのだそうだ。
 先週までは月曜は我慢日だった。我慢しきれずにシテしまうと、自己嫌悪に落ち込んでしまった。しかし今日、我慢日は撤廃された。解放された奴隷のように、真弓は伸び伸びと指をクネらせた。
(キモチイーイ……痛ッ!)
 胸専門の左手に力が入りすぎてしまった。膨らみ始めたばかりの胸は、強く揉むと痛みを訴える。その痛みに、ふと我に返った。動き続けていた右手の指も小休止。
(早百合の胸が大きいのも、自分で揉んでるからかな……)
 夏、プールの更衣室で着替える時、何度か見たことがある。真弓の倍はあるだろう。あそこまで大きくするには、相当揉まなければなるまい。
 ゴロゴロゴロ……ッ!
 鳴りを潜めていた雷鳴が突如鳴り響いた。それまでの思考が寸断された真弓は、新たな思考材料を下へ向けた。
(何本……かな)
 早百合は指を何本入れるのだろう。男のモノは、指、何本分ぐらいなんだろうか。
 右手を布団から出してみる。カーテンを擦り抜けた雷光が、真弓の指を浮かび上がらせた。指先に糸を引く愛液。艶めかしくキラめいた愛液に、真弓の好奇心は膨らんだ。
 指を二本突きだし左手で太さを測る。更にもう一本たしてみる。
(もっと太かったかな……)
 十三年間の人生の中で、二度、勃起した大人のモノを見たことがある。一度目は四年生の夏休み、公園で遊んでいたら、ジャージ姿の男が近付いて来ていきなり見せられた。真弓は驚きと恐怖で家まで逃げ帰った。余りの驚きのせいか、どんなふうだったかまるで記憶にない。
 二度目は去年の春。学校で変質者の話が噂になっていた。真弓のクラスでも被害にあったコがいる。学校側も「登下校は集団で!」と注意を呼びかけていた。
 そんなある日、忘れ物をした真弓は下校の途中で学校へ戻り、一人で帰るはめになった。
 真弓の横を白い乗用車が通り過ぎ、静かに止まった。
「ガイシャだ」
 車に興味はないが、運転手が左に乗ってるのでそう判断した。その車のドアが開いた。真弓が五メートルぐらいまで近付いた所で男が降りた。そして、グッと両手を天に突き上げて背伸び。ナニも着けてない下半身からも、天に向かってニョッキリと突き上げているモノがはっきりと見て取れた。
 怖くて動作を変更することもできない。今までと同じ速度で、同じように、ちょっと俯いて歩いて行く。上目、横目、怖いながらもしっかりと観察していた。
 車を通り過ぎ、数歩歩いてからやっと走ることが出来た。男はその間ずっと、両手とイチモツを天に向かって突き上げていた。
 玄関に飛び込むなり、カバンを下ろすのも忘れパンツに手を入れた。今までに感じたこともない激しい興奮に、真弓の股間は指を求め続けた。
 玄関先に立ったまま、どのくらいの時間続けたのだろう。大きく息を弾ませ、気怠い動作でパンツから手を抜いた。
「やだぁ……チビッちゃった……」
 指がほんのり濡れていた。今思うと、アレは小便をチビッタのではなく、真弓が初めて分泌させた愛液だったに違いない。
(あの頃は子供だったな……)
 滅多に濡れることもなかった。何処ででもできた。それが今は、後始末のことを考えると部屋か風呂、それにトイレでしかできない。大人になると面倒が増える。
(Hだって、相手が居ないと出来ないし……最初は痛いし……訓練かぁ……)
 右手を布団の中へ戻す。殆ど条件反射で指先が動き始める。その動きを止め、中指の先に力を加えていった。
(あ……カンジル……)
 自分の身体の一部でありながら、意識してその部分に触れるのは初めて。女陰全体を掌で揉むオナニーが定着している真弓は、ソコのどの部分がどう感じるかなど調べたことも無かった。
(入れるともっと、カンジルのかな……)
 指の力を更に強めた。細い指先がめり込み始める。と、侵入を阻止するように蕾が収縮した。そして、微かに痛みを訴えた。
「痛っ!」
それは顔を顰めるほどの痛みではない。しかし、入れることへの恐怖が強いせいか、痛みに敏感になりすぎている。痛いと思った瞬間、愛液がスーッと引いてしまった。
(こんなんじゃ、援交なんて出来ないよ……)
 やっぱり、早百合かミドリの話を聞いてからにしよう。真弓は初体験の生の話を聞いてから、もう一度援助交際について考えることにした。


ゴマキ

(もう! さっさと出てってよ!)
 そう怒鳴りたい心境だ。学校のトイレでスルのは二度目。一度目は月曜日の朝。時計と睨めっこのオナニーは忙しなかった。今は昼休み。時間はある。しかし、最初から躓いてしまった。トイレには個室が向かい合わせに六つあり、一番奥の左だけが洋式になっている。月曜日は洋式トイレに座ってシタ。今日もそのつもりだったのに、故障で使用禁止。しかも、使えないように釘で打ち付けてある。真弓は仕方なく適当に開いているトイレに入った。
 やや脚を開きパンティを太腿に絡ませる。隣の仕切板に背中をもたらせれば準備OK。自然と勃起したペニスが浮かんでくる。そして、股間に当てた指が小刻みに振動を始める。
 ドアの開け閉めの音、水の流れる音、行き交う足音。それは直ぐに慣れ、気にならなくなった。しかし、
(トイレはお喋りするとこじゃないのよ……出すもの出したら出てってよ!)
 手を洗ってそのままお喋りを続けているコがいる。物音はさほど気にならないが、話し声は気になる。アソコに押し当てた指も、暫く動かせずにいる。
(やめよ……)
 気分が醒めてしまった。それに、水の音を聞いていたらもようしてしまったのだ。
 スカートを腰に絡めてしゃがむ。透明の愛液に代わり、黄色がかった液体がジュワッと染み出した。まだ勢いのないそれはワレメの中を下り、尻の方からポタポタポタッと垂れた。下腹部に力を込めると同時に、真弓は勢いを増した小便の飛ぶ方向を見極め、膝と腰を動かす。飛ぶ方向を変えることで、最小限の音しか出ないようにしている。音消しのテクニックをマスターして以来、真弓は水を流しながら用を足すことをしなくなった。どうでもいいことだが、真弓は満足している。
「真弓ィ!」
 トイレから出た真弓を捜しあぐねた早百合が抱きついてきた。そのまま片隅へ引っ張って行く。
「まだ、手洗ってないよ」
「そんなこといいから!」
 早百合は早口で内緒話を始めた。
「ゴマキが、シちゃったんだって!」
「ゴマキ?」
 ゴマキと言えば、地元では有名は資産家の後藤真紀。真面目でルックスも良く、男子達の憧れの的でもある。そのゴマキが……。
「家庭教師の大学生と、昨日……」
「ゴマキが……」
「日曜日はナニがなんでもナンパ成功させて……せめて、二番手か三番手に……」
「そんなにムキにならなくたって……」
 あのゴマキが……。真弓は皆が思っているほど、ゴマキを真面目とは思っていない。確かに真面目ではあるが、Hなコトに関しては結構進んでいる気がする。ナニを隠そう、真弓がオナニーを覚えた切っ掛けはゴマキなのだ。
 あれは三年生の夏休みだった。真弓のクラスは、学校で飼っている小鳥とウサギの世話をすることになった。三人ずつ三日間。そして、当時同じクラスだったゴマキと同じ班に決まった。 
 最終日、一人が親類の葬儀で休み、真弓はゴマキと二人で世話をした。世話といっても餌をやって簡単に掃除するだけだし、一人休んでも影響なく終わった。
 職員室に行き、終わったことを担任に告げトイレへ寄った。そして、出てくるとゴマキの姿が見えない。
「帰っちゃったのかな……」
 念のため自分達の教室へ行ってみた。
「ン?」
(ナニしてんだろ……)
 教室の扉の隙間からゴマキが見えた。自分の机ではなく、人気者の近藤睦夫の机にいる。
「ナニしてんの?」
 突然の声に、ゴマキはその体勢のまま固まってしまった。真弓へ向けた顔が青ざめている。
「どうしたの?」
「……別に……」
 ゴマキはちょっと引きつった笑みを見せた後、ニタニタッとゴマキらしからぬイヤラシ気な表情をした。そして、
「近藤君、どう思う?」
「え?」
 何人か気になる男子の中でも、近藤が一番好きだ。でも、そんなこと恥ずかしくて言えない。
「私は好き。だから、こうして近藤君に好きなこと伝えてるの」
 ゴマキは近藤の机の角に、グイグイ股間を押しつけ始めた。
「佐々木さんもやりなよ」
「え?」
 好きな近藤の机に触りたい気はする。だが、ゴマキのしてる行為は、幼い頃に良くしていた秘密の遊びに似たイヤラシさを感じる。
「思いが伝わるとね……気持ちよくなるんだよ……やってみなよ」
 机が離れないように手で押さえ、尻をポコポコ角に押しつけながらうっとり顔で言う。
 イヤラシイものを見て悦ぶのは男の専売特許みたいに言う輩もいるが、Hなコトは老若男女を問わず皆興味があるもの。真弓とて同じ。ゴマキのHっぽい行為は気になってしょうがない。
(誰にも見られないなら……)
 誰も居ないと分かっている筈の教室をキョロキョロしてから、ゴマキを真似てスカートを捲り上げ、近藤の机の上に広げた。そして、膝を曲げ高さを調節。ふっくらと盛り上がった部分を、堅い机の角に充てた。
(どうしてこんなにドキドキするの?!)
 得たいの知れない期待で股間が熱っぽい。真弓は深く息を吸い込み、ふぅーっと吐いてから押しつけてみた。ゴマキからの振動が股間に伝わってくる。その振動に利子を付けて返したい気分が込み上がる。
「お尻を引く時にね、オマンチョを角に擦り付けるとイイんだよ」
 真面目でおとなしいと評判のお嬢様が、アソコの俗名をズバリ言うだけでも真弓は興奮してしまう。
「本当だ。さっきより気持ちイイ……」
 そう言った後で、恥ずかしさで真っ赤になった。どんなに恥ずかしくても止めることはしなかった。角へ擦り上げるように押しつけ、グイッと腰を落としながらズリ下ろす。近藤への思いなど関係なく、その行為が好きになってしまう自分を感じていた。
 一つの机の対角線で二人の女のコが股間を角に押しつけている。真弓の腰の動きは、とても初めてとは思えぬほど巧い。数分後、教室の中にカタカタゴトゴトと賑やかな音が鳴り響いた。
 数日後には指でスルことを覚えた。それによって、真弓は一人になれる所なら場所を選ばずできるようになった。家のトイレは勿論、学校、公園、旅行先の電車のトイレでもやった。冬は炬燵の中で、夏は扇風機をアソコに当てながらやった。人気のない道を歩きながらしたこともある。今では考えられないほど、暇さえあればしていた。
(簡単に気持ちよくなれるんだもの。病み付きになるのは当たり前よね!)
 クラスが変わってからは、挨拶ぐらいしかしたこと無いが……。
(行ってみようかな……)
 どこまで当てに出来るか分からぬミドリと早百合の初体験より、既に経験済みのゴマキに聞いた方が間違いない。


 オートロックの家なんて初めてだ。それにも増して、暖房器具の見当たらない広い家の中が、どこも程良い暖かさになっていることが不思議だった。
 十畳の洋間。そこがゴマキの部屋。あの一件以来多少親しくはなったが、学校で話す程度。それに、ここ何年も話したこともない。何から切り出していいか迷ってしまう。グラステーブルの向こうで、ゴマキもちょっと困り顔だ。
 トントン。
「お嬢様ァ、おジュースをお持ち致しました」
「開いてるわよ」
「失礼します」
 ゴマキが『ばぁや』と呼んでいる初老の女がジュースを置いて出て行った。
「鍵が掛けられるんだ……」
 真弓は両親にしろ兄にしろ、ノックも無しに勝手に入ってくる家族に困っていた。
「シテる時に、開けられたらヤでしょ!」
「え?」
 ゴマキはストローは使わず両手でコップを挟んで一口飲んだ。そしてあの時と同じように、ニタニタっとイヤラシイ笑みを浮かべた。
「大体分かるんだ。ナニしに来たか……学校中で噂だもんね」
 ウィンクしてクスクス笑う。
「本当なの?」
「うん」
 それほど親しい間柄でも無いのに、こんな話題に素直に答えてくれるゴマキ。お嬢様ともなると、庶民の思考感覚では計り知れないのか……。
「佐々木さんは秘密を守ってくれるから、教えてあげる」
 ゴマキは、真弓の部屋ほどもあるクローゼットから丸められたシーツを持ってきた。そして、真弓の近くへ広げた。
「……これ!」
 思わず飛び退いた真弓は、口を覆い、掠れた声を上げた。乾いて黒ずんではいるが、間違いなく血。
「もっとたくさん出るかと思ってた……先生にも『初めてじゃ無かったのか?』なんて言われて……ムカつく……」
 シーツの血痕を見るまで、初体験は痛いだけでなく、出血もすることを忘れていた。
(したくないよ……そんなの)
 何事も無かったように登校し、何事も無かったように一日を過ごしているゴマキが、自分なんかよりずっと大人に見える。
「生理の時に、ばぁやに洗ってもらわなきゃ」
(生理もあるんだ……)
 殆どのクラスメートは初潮を済ませている。でも、真弓はまだ。身体も決して小さい方ではないのに。
(あたしより小さいくせに……)
 ますますゴマキが大人に見えてくる。
「お姉さまのね……」
 ゴマキは丸めたシーツをクローゼットへ放り込むと、話を続けた。
 姉が風邪で寝込んでしまい、母が家庭教師の田中の家へ連絡した。だが、本人まで伝わらずに来てしまった。
「せっかく来てくれたのに、そのまま帰すのもなんだから、私が教えて貰ったの。そしたら『この問題をやってて下さい』とか言って、お姉さまを見舞いに行っちゃって……」
 ゴマキはニタッと笑いウィンクをした。
「分かるでしょ?!『アッ、これはナニかあるな!』ってピンときて、少し経ってからベランダに出て……」
 顎でしゃくるようにサッシを見た。サッシの外は広いベランダ。それは姉の部屋まで続いている。
「カーテンの隙間から見えたの……ナニしてたと思う?」
「……キス、してたの?」
 もっと凄いことを想像したが、口に出すのが恥ずかしい。
 ゴマキはゆっくりと、首を横に振った。
「お姉さまがね、ベッドに蹲ってお尻を突き出してるの。そして……先生が後ろから……ナニしてるか分かる?」
「……」
 真弓は生唾を飲み込み、コクンと頷いた。
「私ね、最初分からなかったの……あーゆーことって、抱き合ってスルもんだと思ってたから……人間は……」
 本屋でこっそり立ち読みするハイティーン向け雑誌。そんな中で、好きな体位は『バック』と答える女が多いと読んだことがある。そのページのイラストを思い出した真弓の顔は、真っ赤に染まった。
「私、もう我慢できなくって、その場でしちゃった……もう夢中! そしたら、いつの間にか電気が消えてて、『アッ、まずいっ』急いで部屋へ戻ったけど、先生はもう居て……私、ジョンの泣き声がしたものだから……なんて言いながら椅子に座ったら、先生、『ジョンの交尾は良く見えた?』ニヤニヤしながら意地悪く言うの……私が黙ってたら後ろから胸を触ってきて……」
 ゴマキは自分の胸を触り、「こんなに小さいのに」と、少ししょんぼりして見せた。
「やめて下さい……やめて下さい……」
 何度かそう言ってるとやめてくれた。ホッとしたのもつかの間、フワッと持ち上げられ、そのままベッドへ!
「男の人って、あんなことスルのね……」
「あんなこと?」
「アソコを、ナメナメ……」
「エッ! アソコを……」
「今まで生きてきた中で一番恥ずかしかった……けど……」
 ゴマキはうっとりした表情で「気持ち良かったぁ……」と続けた。
 雑誌のせいか、そういう行為があることは知っていた。ただ、それはほんの一部の変態がやることだと思っていた。
(あんなとこ舐められたら、恥ずかしくて死んじゃう)
 自分のアソコを舐められてる姿が頭に浮かぶ。真弓は頭を強く振ってソレを振り払った。
「アレだけで終わってたら、きっと毎日せがんじゃうようになってただろうな……」
「その後、ナニかあったの?」
「当然よ。アレだけで止めてたら、男は欲求不満になっちゃうよ。自分も気持ちイイことしなきゃ……」
 それがナニを指すか、真弓にも分かる。自分より小さなゴマキの股間に、真弓の視線は自然と向いていた。
「痛かった?」
「すっごく、痛かった」
 顔を顰めたゴマキの表情だけでも、その時の痛みがどんなに激しいものか分かる。
「でも、耐えたんでしょ?」
「先生が押さえ付けてなかったら、逃げ出してたと思う」
「練習はしてたの?」
「練習?」
「一人でスル時に、指……とか入れて……」
 真弓はこういった話をする時は、どうしても俯いてボソボソとしか言えない。
「ずっと前から……」
(ずっと前から入れてたんだ)
「入れてみようと思ってたけど、なんだか怖くて……入れたことはないわ。入れてたら、もっと痛くなかったのかな……どう思う?」
「さあ……」
(ソレを知りたくて来たのに)
「佐々木さんは練習してるの?」
 真弓は〃とんでもない〃と言った風に首を振った。
「ホンモノを入れたんだから……」
 ゴマキはニタッと笑い、そそくさとドアに鍵を掛けた。
「入れてみる!」
「エ?」
 真弓が呆然としてるなか、パンティを素早く脱ぎ捨て横になると、真弓に見せびらかすように股を開いた。
「後藤さん……」
 掠れた声しか出ない真弓の前で、ゴマキは左手を股間に充て、その上に右手を添えた。 指先が作業を開始する。ゴマキの表情は穏やかな〃夢見る少女〃といった感じだ。見られていることを少しも気にしていないのか、見られているからこそ、そんな表情を作っているのか、オナニーをしてる時の自分の顔など見たことのない真弓には分からない。
「今の私には、セックスより、こっちの方が好き。ナメナメもいいけど、後が怖いから、やっぱり、これがいい。気持ちイイ……」
「後藤さん……」
(こんなモノを見に来た訳じゃないよ)
 ゴマキの指の動き。なんてイヤラシイ動きなんだろう。でも、同じように自分もやっているのかと思うと、妙に興奮してくる。
「もう、いいかな……」
 ゴマキは右手を股間から離すと、中指を口に含んだ。ツバをたっぷり付けた指を股間に持っていく。それまで休むことなく動いていた左手をずらし、スリットを指先でなぞる。かなりの量の愛液が、真弓にもはっきりと見える。
 ツバで濡らした指に、更に愛液を塗り手繰る。そして……。
「……っ」
(入ってく!)
 ヌメヌメっとした感じで、ゴマキの中指がゴマキの体内へ練り込んでいく。真弓よりほんの少し色素が濃いその部分。殆どないに等しい恥毛も、真弓のソコよりは濃いようだ。とは言っても、真弓と大差ないゴマキの性器が、指を呑み込んでいく。
 スッポリ埋め込むと、ふぅぅっと息を吐いてその指を出し入れし始めた。その時になってやっと真弓も息を始めた。自分の息が止まっていることすら忘れ見入っていたのだ。
「ちょっと痛いけど、気持ちイイ……」
 時々顔を顰めながらも、満足な表情のゴマキ。リズミカルな指の出し入れに伴い、クチュクチャ、クチュクチュクチャッ、と卑猥な音が始まった。
「気持ちイイけど……」
 ゴマキは指を抜き取り、スリットを撫で上げ上端部分でナニかをくじりだした。
 先ほどまで指が出入りしていた蕾から、ネットリした白いモノが垂れた。
(オリモノかな……)
「アッ、アッン、アッ、アーッ……」
 ゴマキの切なげなアエギ声が大きくなった。右手の中指は、まだ真弓の知らない部分を激しくくじり、左手は長めの絨毯の毛を毟っている。
「やっぱり、ココが一番感じるゥ!」
「あっ」
(やだ、あたしったら)
 知らぬ間にパンツの中に手を入れていた。既に音を立てるほどに濡れている。
(こんなとこでしちゃイケナイ! でも、ダメ! やめらんないっ!)
「あんっ! あっ、あんっ!」
 自分の声。ゴマキの声。そして、二人の股間から聞こえるイヤラシイ音に、真弓は堪らない興奮を感じた。
「アーッ、アー、佐々木さん、どう? 感じてる? 気持ちイーイ?」
「ファッ、アッ……アッ」
 真弓は自分の声の大きさに驚いた。しかし、それがまた興奮する。
(我慢しないで声を出すことが、こんなにイイなんて)
 どうしても隣部屋を気にして声を殺してしまう。そのことが、とてつもなく損をしていたように思えてならない。
 トントンッ。
 無遠慮なノックの音に、二人の喘ぎは終止符を打つことを余儀なくされた。
「お嬢様! ピアノのレッスンのお時間です」
「ハァイ!」
 ゴマキは不機嫌な声で応えながら、濡れティッシュを一枚抜き取った。
「佐々木さんもどうぞ」
「どうも……」
 なんとも顔を合わせるのが恥ずかしい。真弓は視線を逸らしたまま、冷たいティッシュを受け取った。だが、濡れティッシュでソコを拭く気にはなれず、指だけを拭って捨てた。
「途中で邪魔されるのって、最高に気分悪いよね!」
「うん!」
 思わず頷いてしまった後で、
「一つ、訊いてもいい?」
「え? ナニ?」
「先生のこと、好きなの?」
「ンー、嫌いでは無かったって程度かな」
「その程度でシちゃったの?」
 信じられない。と言いたげに、髪の乱れを直しているゴマキを見つめた。
「机、好き?」
「つくえ?」
「指は好き?」
「指?」
 一体何を訳の分からないこと言い出すんだろう。と、真弓はポカンとしてしまった。
「指が好きだから、指でオナニーする訳じゃないでしょ? 机が好きだから、机でオナってた訳でもないでしょ?」
(何を言いたいの……)
「オナニーが好きだから……いえ、オナニーが与えてくれる快感が好きだからスルんであって、その道具はなんでもいいんでしょ?」
「ハ?」
 確かに、今まで色んなモノでやった。机、鉄棒、雑誌、枕、そして指。その時に目についたモノで、アソコを刺激して快感を得ていた。
「セックスが好きとは言えないけど、凄く興味があったの。『チャンスがあればシテみたい』って。で、そのチャンスが来た時の相手が、たまたま田中先生だった」
 ゴマキは残ったジュースを一気に飲み干すと、サッシを開け冷気を身体に纏った。
「私は、快感が好きなの。だからオナニーも好き。そのうち、セックスで快感が得られるようになったら、オナニーを覚えた頃みたいにセックスしまくると思う。でも、それはセックスが与えてくれる快感が好きなんであって、その快感を与えてくれる相手……」
 ン〜ンと首を振り、
「道具にこだわるつもりはないわ」
「道具……」
(簡単に言えば、気持ちよくH出来るなら誰とでもスルってこと?)
 清純無垢に見えるゴマキが、信じられない。でも自分だって、援交で何人もの男とスルつもりでいるんだ。
(ゴマキのこと言えないな)
「また、スルの……先生と」
「あんなお喋り……」
 ゴマキは不快感を露わに言い捨てた。
「今朝、三年の田中祐二って奴が教室に来たの。『お前、夕べヤッたんだって? 年の割に締まりが悪かったって、兄貴ががっかりしてたぞ。オナニーのヤリすぎなんじゃねェの』って……大声で笑いながら出てった」
「その兄貴って……」
「家庭教師の田中先生。相手は選ばないけど、お喋りはイヤ!」
 トントンッ!
「お嬢様! 吉永先生がお待ちかねです」
「ごめんね、邪魔しちゃって」
「ウウ〜ン、ピアノ、見てく?」
「え? いいの?」
 真弓はピアノのレッスンを少し見学してから帰った。ピアノを聴いていて、安らかな気持ちにはなったが、今夜は眠れそうに無いと覚悟した。


 いつになくゆったりしたペースでアソコを揉んでいる。考え事をしながらのせいか、もう一つ実が入らない。なら止めてしまえばいいのだが、止める気にもなれない。
 それにしても、
(初体験の相手を単なる『道具』だなんて、信じられない)
 しかし、快感を得る為にSEXをしよとするゴマキと、金を得る為にSEXをしようとする真弓。
(どっちがいいんだろう……)
 難しいことを考えるのは後。真弓はゴマキの姉と家庭教師とのSEX、そして、ゴマキと家庭教師とのSEXを想像した。
(後ろからだなんて……)
 犬の交尾は何度か見たことがある。誰か居る時は知らん顔して通り過ぎるが、誰も居ないとジッと観察してしまう。
(犬と同じようにヤルのかな……)
 SEXなんてイラストでしか見たことないが、後ろからっていうのは何故か一番イヤラシく思える。SEXに狂った中年女に似合うポーズ。そう思っていたポーズで、高二のゴマキの姉がシテたなんて……。そして、実際には誰もしないと思っていた性器を舐める行為を、ゴマキがされたとは……。
「セックスは当分スル気ないけど、アレは毎日でもシタイ!」
 舐められるのはそんなにもいいものなのか。死ぬほど恥ずかしいに違いないその行為だが、
(舐められてみたい!)
 指の動きに合わせ、イヤラシイ音が始まった。自分よりも小さなゴマキが男のモノを受け入れた。目の前で指入れオナニーを見せ、気持ちイイと言って見せた。
(指ぐらいならあたしだって……)
 充分に濡れた頃を見計らい、中指の先に力を加えた。ゴマキを真似てスリットを撫でながら愛液を指に絡ませる。そして、
「……イタッ!」
 余りにも神経を集中しすぎている。この前と同じ、痛みに敏感になりすぎているのだ。ササクレを毟る程度の痛みでも、今の真弓には激痛に感じてしまう。
「やっぱりダメか……」
 尻のワレメを通りシーツまで濡らしていた愛液が、スーッと引いてしまった。
「生理が無いとダメなのかな……」
 まだ大人になってない自分を感じた。
「やっぱり、ココが一番感じる!」
 ゴマキがそう言っていた場所。真弓は気を取り直してその場所を探した。
(確か、上の方に……)
 徐々に指先をスリットの上端に滑らせて行くと、
「アンッ!」
 ビクンッ! と全身が震えた。それは、快感というよりも痛みに近かった。クセになりそうな痛み。
 ビクンッ!
 ビクンッ!
 まさに、「気持ちイイ」ではなく、「感じる!」という言葉がピッタリくる。
「すごーい」
(なんて感じるの)
 指先の力加減で快感だけを感じ取れるようになった。時々痛いほどの刺激を加えることで、オナニーのメリハリがつき、より一層快感が増していく。一度は引いてしまった愛液が、止めどなくシーツを濡らしていた。
(なんとなく……分かりそう……)
 快感を貪った後の気怠い身体に、漠然とした悦びが見え隠れしていた。
 オナニーを覚えて四年。未だに〃イク〃という感覚が分からない。クライマックスが無いまま、ダラダラと醒めてきて終わりにするのが普通だった。しかし、今夜のオナニーを体験して、近い内に〃イク〃感触を味わえると予感した。


   続く