『カッコーの巣』

   第一部「カッコーの雛(その二)」
  Aristillus



      5.

 受話器を置いたとたんベルが鳴りだして、憔悴していた安永は、ぎょっとなった。
 先日も同じ事があった。嫌な予感が頭をよぎったが、出ないわけにもいかなかった。たぶん、たった今通話中にかかったものだろうから、居留守は使えない。
 渋々受話器を取り上げると、再び耳に当てた。
『もしもし、伸一さん? お久しぶり、元気?』
 彼は、ショックで高鳴る胸を押さえながら答えた。
「高橋さん……今さら、何の用だい」
『麗子でいいわ。まだ怒ってるの? ごめんなさい……。時間が経ってしまったけど、どう? いいかしら』
「ごめん、突然だったから……私に、何か用かい?」
『もう一度話したいのよ、どこかで会えないかしら。……私ね、あの時のこと、ちゃんとあなたに……』
 それは、数日前の彼なら、魅力的な提案だったろう。しかし、今の彼には何の意味も持たなかった。ほんの数日、その時間的距離を噛みしめて、彼は苦い顔で言った。
「悪いな、もう会えない……いや、そうじゃない、君とは終わったと思ってるだけさ。ごめん……さよなら」
 どうして今になって、と心の中でなじっても、彼には悲しみはそれほど生まれなかった。それよりも重大なことが、彼の心をふさいでいたからだった。

 なんの感情も浮かばなかった。
 あの後江里奈は、最後の一滴まで安永の精を飲み込んでから、座り込んだ彼に横になるように言うと、毛布を運んできて彼にかけた。そうして彼の脇に寄り添うと、彼を見守った。
 大人の彼も経験のないディープスロートで精液を搾り取った8歳の少女は、彼に彼女が上手かどうか聞きたがった。彼がやっとそう言うと、はにかみながらも色々と話し出した。あれは、彼女にとっても苦しく、かなりつらいものだったらしい。
「でもね、いやじゃないよ。これからも、してほしかったら、ちゃんとしてあげる」
「無茶を言うな」
 彼には、そう言うのがやっとだった。はっきりと彼女を汚してしまったという背徳感と、行為の快感からくる酩酊感が、彼の中でせめぎ合っていた。
「痛かったり、苦しかったら、やめていいんだ。やりすぎたって思うなら、無理をしない方がいい」
「ううん、そんな事、ない。それより、大事な事忘れてるよ。ちゃんとおまんこして」
 彼が、江里奈を恋人にするように抱きしめ、キスをしようとすると、彼女は何を思ったのか、彼に向かって息を吐いた。
「くさい? くさいでしょ。えりなの口は、パパの匂いでいっぱい。だから、今度は、おまんこの方もそうして」
 精子を飲み込んだ口の臭いに気付かされて止まると、彼女は楽しそうに毛布を跳ねのけた。して欲しいというのが全身から伝わる動作で彼を起こすと、自分が寝て体を折り曲げてお尻が宙に浮いた。でんぐり返しのポーズで左右に足を開くと、股間に左右から手を添えて、彼女の中心をいやでも彼の目を引くようにしてみせる。
「やっとしてもらうんだから、このぐらいいいよね。上に乗って、ここにおちんちん、突っ込んで」
 どうしても、普通にやるのは嫌らしい。
 彼が脇に立つと、子供の指が陰唇をつまんで、きゅうっと限界まで開いて見せた。突き出されて真上に向けられた性器はぽっかり口を開けて、膣の中の粘膜の色までぬらりと見て取れる。覗き込めば、膣の深いところまで見えるだろう。
「これが終わったら、忘れてくれるな?」
 もはや、言葉もなかった。
 愛した女性とする行為と違い、頭のどこかでは冷静な部分があって、それが彼に、彼女がいままでの女性の中でも選りすぐりの床上手だと理解させた。すぐに狭く奥が浅い性器は彼の全長を受け入れるのは無理があったが、絶妙なリズム、獣欲をかきたてるしぐさ、感じやすい体、なにより、幼い顔に浮かぶ不似合いな欲情の歪みが、彼を一本のペニスにした。
「きもちいいよっ!」
 下品な言葉を叫ぶのを安永がそれほど好きでないと判断すると、彼女は直接的に彼の性器を攻撃するのに絞りだした。受け入れる腰を微妙にずらして彼女の内部にペニスをこすりつけながら、下から手を添えて陰嚢を愛撫しだす。
「あんッ、あんッ、あんッ、あーーーーッ!」
「欲しいのか!?」
「ほしい!!」
「そんなに、大人の、汚い精子が、欲しいのか!」
「ほしいよっ!」
 またがるように上に乗った安永は、求めに応じて上からペニスを突きたてていた。
 平日の真昼間に、こんなポーズで小学生を犯している。快感は頭を熱く焦がし、背徳感がそれを何倍にも増幅していた。
「んッ、ンッ!!」
 射精感が上りつめ、彼は耐えた。それに気付くと、江里奈はずらしていた腰を戻し、激しい動きを止めた。ぬるりと彼女の中心に導き、息をつめた数秒間をじっと耐えた。
 片手は陰嚢、片手は軸の根元に回した少女の指がぎゅうと握られ、促されたように、二度目の熱い射精がはじけた。
「あヒイ……うんッ……、ウン……、ウン……」
 射精が終わり、受け入れるようにうねった腰も動きを止めた後で、江里奈は小さく「あッ、アッ!」と声を上げた。それが絶頂だと気付いた彼は、流れる汗をぬぐいながら、彼女の動きを待った。
 しばらく経って、まだ無我夢中で楽しそうにもだえ続ける彼女の尻を、安永は仕方なくそっと叩いた。
「あ、……ゴメンなさい」
 しっかり握られた陰嚢を離されて、彼はようやく柔らかくなったペニスを、小さな体から引きずり出した。
「……どうだ?」
 ようやく見つめ合った目に正気が戻り、彼女はとんでもないポーズのまま、紅潮した頬で彼に微笑んだ。
「パパ……」
 その言葉の誤解が含まれた複雑な意味を感じ取りながら、彼は、スッキリした体と裏腹の胸の内を感じていた。
 終わったという事の安堵感と、射精後の開放感。彼女とのセックスの具合の良さと、未知の暗い喜び、そして背徳感。あの後、自分の中から絞り出した彼の精子を顔中に塗りたくり、ニッコリ笑ってみせた江里奈に、彼が何を言えただろう。
 シャワーの間も、その後の姿も、彼女は恐縮したように、彼のしてやる事にすまなそうにしていた。
 言葉にできない感情のまま、彼はこの小さな生き物を、愛しいと思った。

 それはもちろん、大人の異性同士の恋愛感情とは、かけ離れたものだ。
 奉仕する事の快感に加えて、性に対する異常な執着心。マゾヒストとしての快感だけでは語り切れない、妙に純真で人並みはずれた情熱が、江里奈を支えている。
 彼女をどう扱うべきか考えて、彼の心は沈んだ。
 あの後、夕食をとるために外出した先で、彼女の顔を見れなかったのを、安永は覚えている。すっかり子供然として、特に気にするわけでもなく、むしろ上機嫌で食事する彼女を眺めていると、彼の背中をなんともいえない感覚が這い昇ってくる。
 江里奈のかわいい口に食事が運ばれるのを見ると、どうしても、みっともなく大口を開けて、彼のものを頬張った光景が思い出されてしまう。
 罪の意識が責めても、それには間違いなく暗い喜びがあった。自分の中にこういう変態趣味的なものがあると認めるのは、彼にとって許せる事ではなかった。
 すでに、かなり酒量をオーバーしていたが、酒を飲むのをやめられなかった。

 26歳になる麗子と安永がつき合っていたのは、数年前から最近までの話だ。
 大人の関係だったが、結婚までは考えない。そんな関係だった。麗子はキャリアウーマンで独身、安永は妻が他界して男やもめ、何も問題ない二人だった。しかしある日、ちょっとした問題が起こり、それっきり別れたままになっていた。
 彼の方は、心の中ではいまだに彼女を愛していた。しかし、自分から動くのはプライドが許さず、いつか彼女の方から謝ってくるのを期待して、ずるずると今日まで日々を過ごしていた。
 四ヶ月前に分かれてから、彼の方から連絡は取っていなかった。もちろん、彼女の方からも連絡が来た事はなかった。

 ノックの音に、壁に貼ってあった麗子の写真から目をそらすと、時計を見ながら声を出した。夜の十時過ぎ、子供はもう寝てる時間だ。
 デスクの上のスタンドだけが点いた薄暗い安永の書斎に、江里奈は入ってきた。その小さな姿は彼の方を見ると、はっと身を固くして立ち止まった。
「……今日はもういいだろう。一人にしておいてくれないか?」
 彼は、投げやりに言うとぐいっとグラスをあおり、はあっと息を吐いた。もう夜も遅い。みっともない姿を見せてしまったが、彼にとってはもう、どうでもよかった。
 すぐに引っ込むと思った少女がまっすぐに歩いてきたのに、彼は酔眼のまま不審の目を向けた。彼女は、肘掛椅子に座る彼のかたわらに立つと、そっと手を伸ばして彼の腕の服をつかんだ。
「……酔っ払ってるんだ。もういいから寝なさい」
「パパ、どうしたの? えりなのせい?」
「なにがだい?」
「とてもつらそう。昼間は優しくて、ステキだったのに、どうしたの?」
「……君のことが分からない。江里奈が何をして欲しいのか、分からないんだ」
「今日みたいので、じゅうぶん。なのにどうして、パパはつらいの?」
「……ああいうことがこれからも続くと思うと、私はつらいんだ。私は別に、江里奈とセックスしたいわけじゃない」
「セックスって、おまんこのこと? それならえりな、ガマンするよ。ガマンできなくなるまで、ガマンするから」
 そう言うと、彼女は静かに彼の肩に顔を付けた。
「私は、大人の女性が好きなんだ。江里奈は、子供だ。私は、いい父親になりたかったんだ」
「わたしの考えるいい父親って、パパのような人だと思う。……それじゃダメ?」
 応答のない問いに、江里奈は彼女の保護者に目を向けると、彼が目線を向けている写真の一つに目を止めた。
「……だあれ?」
 彼は、はっと彼女を見下ろすと、頭をなでて、精一杯の優しい声で「もう寝なさい」と言った。


      6.

 家政婦のせいさんがいるとはいえ、彼女が出勤して来るまでは、安永が全てやらねばならない。例えば朝食の支度も、その一つだ。
 彼は、家事がまるでできなかったので、朝食はパンやシリアルと飲み物、そして果物が多かった。江里奈が来るまではせいさんが来るまで待つ事も多かったが、江里奈の通学時間を考えると、それはできなかった。せいさんの作る食事に比べて粗末な食事だったが、江里奈が不満をもらした事はなかった。
 その日、朝食を済ませた安永は、江里奈をソファに呼んで、親が子にするように抱っこしてから、「どうした?」ときいた。
 みっともない酔っ払いの現場を見られた気恥ずかしさと、保護者としての義務感、そして、秘密を守る事を確認するという、自分でもよく分からない気持ちで、彼女を甘えさせるために膝に呼んだ。
 晩の出来事以来、昨日一日、江里奈は落ち込んで、落ち着かない様子だった。彼も別に立ち直ったわけではなかったが、そんな場合でもなかったので、自分から彼女に触れる必要があった。
「何をそんなにしょげてるんだい? 江里奈が元気がないと、私も落ち着かない。ここが嫌いになったのか?」
 彼には二つの道があった。一つは、彼女との関係を拒絶して、厳しくあたり、いずれは立派な人間になれるよう、遠くから見守る方法。そしてもう一つは、彼女と仲良くなることで、親しい親子関係を築いていく方法だ。
 どちらが彼女のためになるかという事の前に、二人の間には肉体関係という大問題が横たわってしまった。どちらを取るにせよ、安永にとって立場は有利とは言えず、江里奈次第という所が大きかった。
「パパは、えりなが悪い子だから、えりながキライなんでしょ」
 どう言ったものか考えながら、丁寧に彼女の頭をなでてやった。
「それで、しょげてたの?」
「わたし、せいいっぱいやったよ。パパも、よろこんでた。それなのに、したくないっていうし、好きな人、いるみたいだし」
「えっ?」
 彼女がそっぽを向いたのを、彼は強引に向き直させようとして、すぐに思い直した。くるむように抱き寄せて、お互い肩にアゴを預けるように抱き合ってから、そっと言った。
「江里奈を嫌っては、いない。私を困らせるから、悩んでいただけだ。大人の悩みだから、まだ理解できないかもしれないね」
 耳元で、彼女のはふうという吐息を聞いた。少女の体は思いのほか温かく、抱擁の充実感は、彼の悩みを遠ざけていった。
「わたしがやる事は、みんなうまくいかないんだ。前のパパも、それでおこってた」
「……それは違う。君のお父さんが怒ったのは、お父さんの思う通りにしたかったからだ。自由な考えを奪われて、お父さんの事ばっかり、考えさせられてたんだろう」
「うそ」
「嘘じゃないさ。ここにいて、沢山楽しい事を知れば、君にも分かる」
「えりな、キラいじゃない?」
「……嫌いじゃない、好きだ」
 もぞもぞと彼女の体が動いて、マズいと思った安永は、言葉を継いだ。
「ところで、好きな人、いるって、なんだい?」
「……写真の、ひと」
「え?」
「机にかざってたの、パパの、ママだった人でしょ。それはいいんだけど、でも、じゃ、パパが見てた、カベの写真の女の人は?」
「……」
 別段、しまったとまでは思わなかったが、妙にカンが働くものだと、彼はあきれた。
「パパの、こいびと?」
「違うよ」
 即答してしまってから、少し後悔した。しかし、首に回された少女の腕に力がこめられて、彼はそれでもいいかと、しばしの幸せな抱擁を楽しんだ。
「わたしね、ここにいたい。もっとこうしてたいよ」
「ああ、いいよ」
「おまんこも、してね」
「それは……」
「アハハハ、……こうしてると、したくなっちゃうから、わたし、もう行くね」
 とんと膝から降りると、ランドセルを取ってこちらを向いた。
「抱っこしてくれて、ありがと、やさしいパパ! 今晩は、お酒のまないでね」
 くるりとひるがえると、笑顔がきらめいてドアに駆けて行った。
 逃げられたと感じるよりも、彼女の好意が本気なのを感じて、彼の気分は悪くなかった。それに、あんな言葉を言えるようになったということは、ようやく彼には心を開いてくれたということだ。しかし、それが二人の肉体関係にもとづいているというのが、問題だった。
 去った少女の温もりを感じながら、彼は、さしあたってせいさんに秘密にする為に、どうしたらいいかを考え始めた。

 その午後から、江里奈は浮かれ気味に、安永につきまとった。まだ家政婦のせいさんがいるというのに、彼の後についてまわり、触ろうとまとわりついた。しまいには、せいさんから「おやおや、すっかりなついて、良ござんしたねえ」などと言われて、安永が複雑な気持ちになったぐらいだ。それは、せいさんが帰って、夕食が済んだ晩になっても続いた。
「こら、邪魔」と安永は言いながら江里奈の脇を通り過ぎると、新聞と淹れたお茶を持って再び通り過ぎた。どかされてソファに座った彼女は、ぷうっと膨れて足をソファに上げると、ぱかっと足をM字に開いて言った。
「こっち見て。ほら、ほうら、かまわないと、こんな事しちゃうからー」
 ズボンの上から彼女の大事な所をなぞって、すぐに足を下ろすと太股までズボンを下げる。半脱ぎのまま足を戻すと、今度は下着の上から中心部分をこすり始める。ちらりと見た彼がそのまま茶をすするのを見て、江里奈はパンツをぐいっとずらすと性器を露出させた。再び彼が見たのを確かめながら、大胆にこすり始める。
「こら、こんな所で、何してる」
「かまってくれないから、悪いんだ。ねえ、こっちへ来て」
 小学生にふさわしくない指の動きで陰唇をしごき始めた彼女を見て、さすがに彼も新聞を下ろした。
「やめなさい」
 彼がその気でない事ぐらい、彼女にも分かっているはずだ。彼女がしたのは、自分の体をおもちゃに見立てた、遊びの一種だろう。その証拠に、かわいい顔に浮かべているのは、いたずらそのもののにやけた微笑みだ。歯をむき出して、それでいて、指の動きはセックスそのものの動きではみ出したパーツを舐っている。
「困った子だなあ」
「あ、いい気持ち。ねえ、したくなっちゃった」
 彼は、仕方なく向かい合わせのソファに移動した。前に来ると、彼女の腰は大胆に突き出され、指の動きは露骨になった。
 つぷりと彼女の中に入れると、かき回すように指をひねる。彼が一緒に盛り上がらないので、彼女は次に、ぱかっぱかっと陰唇を左右に引っ張った。見せつけるように、開いた空洞を彼に向けている。
「どう?」
 彼は、苦笑してその光景を見た。否定的な事を言っても、無駄な事は分かっている。
「なあ江里奈。……約束して欲しい事が、あるんだが」
「なあに?」
「これからこの家で暮らすには、ルールが必要なんだ。これだけは、絶対守らなきゃならないって決まりだ。分かるね?」
「うん」
「じゃ、まずはやめて。……よし、さて、一つ目は、私と君がこんな事してるなんて、誰にも知られないようにする事だ。君は、せいさんにだって、それを話しちゃいけない。誰かがいる時は、こんな事はもちろん、私に話しかける時も、それっぽい事を言ってはいけない。……いいね?」うなずく小さな頭を見て、彼は続けた。「もう一つは、セックスする時のルールだ。片方がしたい時、相手がしたいとは限らない。だから、相手にきいて、都合が悪い時はあきらめるんだ。それは、嫌いになったとか、そういう事じゃない。相手の事を、気にしてあげるんだ。分かるだろう?」
「どうしても、したくなったら?」
「そう言って、それでも断られたら、あきらめるんだ。あんまりしつこく言うと、それこそ嫌われるぞ」
「パパは、キラいにならないもん。そうだよね?」
 ぐにゅっと膣を開くと、にこりと笑う。
 思い切り開かれたそこを見ながら、彼は困った声を出した。
「今は、その気はないんだ。今日の君は、本当の娘みたいだった。そんな気にならないよ」
「イヤーー! したい」
「こらこら。ズボンにしまいなさい。ソファが汚れたら、どうするんだ」
「してくれないなら、このままこすりつけて、イスに、えりなのおまんこのくっさい臭い、つけてやるから! せいさんにバレちゃうぞ」
「あーもう、自分でくさいとか言わない。そんな事しなくても、抱っこしてやるから。さあ」
 それでも、彼女は上機嫌で彼に抱かれた。甘えさせながら、彼は妙な満足感を感じていた。すると、彼女が思い出したようにささやいた。
「まだ、してもらってないことがあるよ」
「えっ、何を?」
「あなる。お尻の穴に、おちんちん入れるんだ。パパは、知ってるよね?」
「……」
 知ってるが、彼にはその経験はない。知らないと言うのは、男の見栄が許さなかった。
「とっても気持ちいいんだって。でも、えりなのお尻は使えないの。だから、カンチョー買ってきて。あとは、わたし知ってるから」
「……なんでまた、そんな所でしたがるんだ?」
 彼女の答えは、いつになく心がこもっているような気がした。
「パパに、気持ちよくなってほしいから」


      7.

 安永は、週末になると江里奈を連れ出して、ショッピングをさせるのを新しい習慣にしようとした。
 それぞれ異なる理由で引きこもりがちになる二人に、安永が危惧して決めた事だ。
 毎週出掛けては、服やおもちゃ、その他の様々なものを買い与えた。それは江里奈を喜ばせたが、それでも彼女は、それだけで満足しようとはしなかった。
 彼女は昼間こそ、安永の望む、どこにでもいるただの小学生らしく振舞っていたが、夜になると様子を変えた。ある時は子供が甘えるように、ある時は発情したメス犬のように、彼を挑発した。
 彼がいさめても、どこかゲームを楽しむように彼を見て、誘うのをやめなかった。

「おねがいがあるの」
 その晩江里奈は、テレビを見ている安永のかたわらにすり寄ると、彼にもたれかかってそう言った。横に寝た彼は、黙って彼女の体に腕を回してさすり出したが、テレビから目は離さなかった。
 彼女とのスキンシップは、当たり前になっている。彼はもう特に気にせずに、テレビの方に集中していた。
「なんだい?」
「ビニールシートが欲しいんだけど、買ってくれる?」
「ビニールシート? いいけど、ピクニックでも行くのか?」
「ううん。もう一つ、欲しいものがあるんだけど……」
「うん?」
「ビデオが欲しいんだけど……」
「ビデオなら、そこにあるだろう。それとも、なんかのソフトが欲しいのか?」
「ううん、デッキでもソフトでもなくって、カメラ」
「えっ! そんなもの、なんにするんだ?」
 彼が目を江里奈に移すと、彼女はもじもじして「ねえ?」と言った。
「わけを言いなさい」
「やっぱだめかあ……」
 あっさり断ち切るように言うと、彼女は立ち上がって彼の前から去った。
 別にもったいないと思ったわけじゃないが、なんとなく不穏なものを感じたのでOKしなかった。割り切れない気持ちを捨てて再びテレビを見るていると、彼女が再びすりよる気配が感じられた。
「じゃーん、見て。えりなはパパを待ってるぞお」
 声と共に、視界がピンクでおおわれた。ズボンを脱ぎ捨てて四つん這いになった彼女は、彼の前にパンツをはいた小さなお尻を高く上げてふさいでいた。
「こらこら」
 彼がどかそうとすると、ぷりぷりとお尻を振って抵抗する。
「前のパパはこうすると喜んだよ。やっぱりダメ? えりな色っぽくないかなあ、麗子さんよりも」
「? なんで麗子が出てくるんだ。色っぽいというよりこれは、かわいいよ」
 実際、目の前にあるのは子供用のかわいいデザインのパンツだ。色っぽいよりも、彼女の可愛らしさしか伝わってこない。とんでもない姿をしている大事な部分が隠されているせいで、子供らしい清楚ささえも感じられた。
「こうすれば?」
 下から手を伸ばすと、大事な部分を指でなぞった。じわりとしみが広がって、隠された部分の状態がいやでも分かる。
「……ここはね、パパの近くにいる時はいつだってこうなんだよ。ね、教えて」
「な、何を?」
「えりなのおまんこは、大人でしょ? 麗子さんと比べて、どうかなあ?」
 とんでもない言葉に、彼は困って手を離した。考えないでもなかったが、江里奈は会った事もない麗子に、嫉妬の炎を燃やしている。
 彼は嘘をつきたくなかったので、体を起こしながら重々しく言った。
「比べるもんじゃない。江里奈のここは、確かに子供らしくない。でもそれは、大人になるって事じゃないんだ」
「子供のえりなじゃ、パパはちゃんと相手してくれない?」
「我慢できない時は、相手してやってるじゃないか……。まさか、ビデオカメラってのも、そういう事の話なのか?」
「うん」
「まさか、私たちがしてる所を、撮るつもりか?」
「うん、パパのおちんちんがえりなのおまんこに入ってる所をよく見たいの。ビデオなら何度でも見れるし」
「……なんでまた」
「だってえ、してる時はえりな、よく見えないじゃない。前のパパが、見せながらしたことあったの、思い出したの」
 彼はあきれながら、彼女のセックスにかける異常な情熱を感じて、内心頭を抱えた。
「……そうすれば、してくれない時も、がまんできると思うんだけど……。だめかなあ?」
 頭の中では、そうすれば相手する回数が減るという事実と、そんなものを世に残すわけにはいかないという事実が秤にかけられていた。その内に、そもそも江里奈とセックスする事を前提に考えている自分に気がついて、はっとなった。
「江里奈」
「はい?」
「江里奈は、私が好きかい?」
「どうして?……うん」
「じゃ、聞いてくれ。江里奈が私を本当に好きで、どうしてもしてもらいたいって時は、相手してやろう。そのかわり、どちらかがそうでもない時は、ガマンだ。カメラはなしだよ。せいさんに見つかったら大変だからね」
「わあっ、じゃ、ベッド行こうよ! ね?」
 彼は内心の葛藤を押し隠して笑みを浮かべると、小さな彼女を抱っこした。

 そもそもは口止めと、ショックで投げやりになった気分でしたセックスだったが、今では打ち解けたせいもあって、一つのゲームのような雰囲気があった。
 はしゃぐ江里奈は、彼が服を脱ぐとすぐに抱きついてきて、念を押すように「大好き!」と叫ぶと、隣の部屋へ駆けて行った。
 クッションを運んできた彼女は、大の字に寝るように彼に言って、半分起き上がる姿勢を取らせた。彼の足を開かせると、その間に潜り込みながら、言った。
「えりなはねー、抱っこも好きだけど、実はここがけっこー好き。パパに包まれてるって感じがするし、近くにこれがあるし」
 そう言うと、ごろんと自分も仰向けに寝て、ペニスを持ち上げながら、彼の股の間にすっぽりと体ごと頭を入れてしまった。実に楽しそうに太股の間にはまると、あごを上げて彼の陰嚢をおでこで押し上げて見せた。
 おでこに陰嚢を乗せ、鼻でするする亀頭をこすりながら上目使いに彼を見上げている。彼の陰毛の向こうにペニスがあって、その向こうに逆さの少女の顔がある。シュールな情景だ。
「これからも、ずーっとおまんこしてね。パパが誰を好きでも、これはもう、えりなのものって決めたんだ」
 ちゅっちゅっとキスをしながらのけぞってくわえると、優しく彼の先端を愛撫し始める。のけぞった喉が白くて、被虐的な姿勢が男をそそる。充血したペニスが彼女の顔から浮くと、彼女は手を添えて顔にこすりつけ始めた。
「そんなに私のおちんちんが好きかい? いやらしい女の子だな」
 優しく言うと、彼女は、得意そうな表情で顔全体にこすりつけながら、ささやいた。
「この匂い、好き……。おちんちんの匂いをかぐと、えりな、どんどんいやらしくなっちゃう」
 先端をくわえると、舌でつつきながら体を揺する。片手は自分の股間に消えて、小刻みに動き始めている。
 強い刺激よりも、目で楽しませるためのプレイだ。ほとんど勃起状態になったペニスは、彼女の口を突き刺していた。
 勢いに負けてぴんとペニスが跳ね上がると、彼女はくるりと起き上がってペニスにむしゃぶりついた。
 舌でなめ上げ、飲み込んでは引き出しながら、彼の目とペニスを楽しませる姿は、ふだんの彼女から想像もつかない。恥知らずな姿は、心を許し合った大人でも、そうは見られないだろう。
 そんな表情と口使いに、彼はすっかり没頭していた。たまらずにうめくと、彼女は叫んだ。
「あっ! だめよ。まだガマンして」
「うっ、なんでだ?」
「パパのベッドを汚しちゃう」と言いながら、彼女はクッションと共に持ってきたバスタオルを広げて、彼の足の間に敷いた。
「おまんこの中も口の中も好きだけど、たまには、えりなにかけてほしいの。今日は、パパのざーめんが飛び出すとこ見たいから」
「江里奈の、顔に?」
 かわいらしいハーフの顔が、彼を見てうなずいた。
「汚さないように、ビニールシートがいるの、ねえ、買ってよ」
 彼女の気づかいに納得して、彼はたまらずに言った。
「分かった」
 ふにゃっと表情が変わると、重い息をしながらさらに大胆に彼のペニスをくわえ始めた。
 再び射精感が込み上げてくると、その時、根元をつかむ小さな指がぎゅうと握りしめられた。彼はあわてて目を開くと、首を上げてのぞきこんだ。
「だーめ! もっとガマンして」
 裏側の根元を締め上げられたせいで、射精感はあったが精液は出ない。彼女はそのままさらに、陰嚢を片手でもみながら、くわえた唇で激しく彼の亀頭を攻め続けた。
 行き場のない射精感が、裏筋の根元に集中して痛い。彼はたまらずに悲鳴を上げた。
「ば、馬鹿! 手を離せ!」
 苦痛と快楽が激しく交錯して、何も考えられなくなった。永遠に続くように思われた射精感は突然ふっと開放され、激しく「びゅっ」という音がした。
 はっと目を開けると、次々と勢いよく出る精液が彼女の顔にはねかえって、したたっている所だった。鼻から口にかけて飛沫が飛び散り、おでこには、ななめに粘液の筋が走っている。
 彼女は真剣な顔で、握ったペニスの先端を見つめていた。目に入るのも恐れずに見ていた彼女は、噴出が止まって顔を上げると、うっとりとした表情を浮かべた。
「見ちゃった。すっごい勢い。カンドーしちゃった」
 精液まみれの唇が動いて言葉を押し出すと、すぐに舌を出して端のしずくをなめる。射精と、彼女の顔を汚した快感にふるえて、彼は言葉を失っていた。
 見つめる彼の目の前で、彼女はそのままべたべたと精液を顔全体に塗り始めた。体を起こすと、「ああ……」とため息をつき、「このまま、いいよね?」と物欲しそうな表情を浮かべる。かわいらしかった8歳の少女の顔は、彼の精液を塗り込められて、ひどい様になっていた。
 うなずく彼にまたがると、力を抜くように細い腰が落ちた。ずるりとペニスが入った時、既に潤んで開き切っていた彼女の膣から、空気の抜ける下品な音が響き渡った。
 はっと恥ずかげな表情を浮かべた彼女は、口をむすんで目をつむった。彼の両手が彼女の腰をつかんでも、その目は閉じたままだった。彼は黙って、つかんだままの彼女を上下に動かし始めた。
 突き上げられて、彼女はひゃっと喜びの声を上げた。目線を上げると、彼の目にはにかんだ笑みを返し、腰を使い出す。
 精液を塗られた顔を見つめ合ったまま、二人の腰は別の生き物のようにはねた。たっぷりと絡んだ視線は、今度は喜びの交換を続けながら離れなかった。


      8.

 安永は、今までの数ヶ月の間に、江里奈からたくさんの話を聞きだしていた。多くは父に関する話だ。というより、セックスに関する話題がほとんどだった。
 彼女が最初に実の父親からレイプされたのは、まだ5歳の頃だったそうだ。何も知らなかった彼女は、ただ黙って耐えるしかなかった。その頃から母親への暴力は収まっていったが、今度は彼女への虐待が始まった。エスカレートする暴力とレイプは、だんだん歪んだ変態的なものになっていき、彼女は知らなくていい様々な事を体験させられ、安永も初めて聞くような変態行為の数々をされたらしい。
 母親は、世間体と利己的な理由で、黙って見ないふりを貫いた。それどころか、自分の身を守るために積極的に江里奈を無視していたフシまである。江里奈は本来頼るべき唯一の存在であった両親を怖れ、憎み、愛しながら、大きくなっていったのだろう。
 江里奈は、父親を恐れながら、好きだとも言った。だが、母親に対しては、ほとんど語ろうとしない。幼い娘を無視し続けた無力で卑怯な母親に、彼女の心は記憶をふさいで、忘れ去ろうとしているようだった。
 それらは、彼女の記憶と体に刻印を残しただけでなく、魂まで歪めてしまった気がする。安永はそれを、既に自分の体を使って感じ取っていた。
 虐待が明るみに出たのは、彼女が8歳で盲腸にかかったからだ。運ばれた病院の検査ですぐに虐待が発覚して、父親は逮捕され、江里奈は保護された。
 これは施設の先生が言っていた事だが、江里奈の母親は、あきらめとせいせいした顔で荷物をまとめると、取り調べもそこそこに本国へ帰って行ったそうだ。親権は放棄されていなかったが、もちろん関係者の誰もが、母親の元へ行くべきだとは言い出さなかった。
 江里奈の父親には、幸か不幸か親戚がたくさんいた。彼らは、縁を切るほど強くもなれずに、彼女をたらい回しにした。そうして、最終的に安永が引き取り、江里奈は肉体関係を持って、彼を新しい主人、パパに選んだ。
 一組の男女が生み出した邪悪は、江里奈という幼い少女の中で醸成され、安永の想像もつかぬ事態となって、彼の身に降りかかった。不幸を一手に引き受けた形になった彼だったが、幸せそうな江里奈の様子を見ていると、近頃妙な気分になる。それは、彼自身認めていない、新たな感情だった。

 不幸の中でただ一つの救いは、江里奈が安永との現在の生活を求めている事だ。
 体を許し合った二人は、秘密を抱えて運命共同体になった。江里奈は所有物としての安心感を手に入れたが、安永はもちろん彼女を物としては扱わず、二人の間には中途半端な親愛関係が築かれていた。
 彼女はすっかり彼になついて、笑顔を振りまくようになっていたが、彼の心中は複雑だった。
 彼は、自分のした事については、考えないようにしていた。善悪の判断よりも先に、彼は自分の身を守った。その事のうしろめたさは常に彼を苦しめたが、江里奈のけなげで情熱的な態度は彼を和らげ、絶望へとは向かわせなかった。
 彼が最初に認めた時こそ「パパは逆らえない」と言っていた江里奈だったが、その後彼女が、その事で脅迫めいた事を口にする事はなかった。それどころか、徹底的に服従を示すことで、彼の愛情を得ようという努力は、彼をとまどわせ続けていた。
 安永はごく常識的な人間だったので、江里奈との変態的なセックスに、それだけで罪の意識を感じていた。彼の人生には、サディズムもマゾヒズムも小児性愛も縁がなかったので、それまで知らなかった禁断の扉の向こうを知り、喜びを覚えてとまどい続けた。いつか、全てを認めてしまうのが、なにより恐ろしかった。

「こら! 出てきなさい!」
 安永は、自室の大きな机に向かって叫んだ。江里奈の小柄な姿は、部屋のどこにも見えなかった。
「早く椅子に座ってよー。お仕事するパパに、えりな、ふぇらちおするんだから」
 その声は、彼の書斎の重厚な樫の木でできた机の中から聞こえた。彼が席を立った隙に、もぐりこんでいたらしい。彼女は、机の脚を入れる空間にすっぽりと入って、座り込んでいた。
 戻った彼が、気付かずにたまった郵便物の処理を始めると、突然足の間に暖かな感触を感じた。小さな指が素早くジッパーを下ろし始めて、驚いて席を立つと、そこに彼女がいた。
「何を馬鹿な事してるんだ。だめだ。出てきなさい」
「イヤ。えりなはパパのものだから、そばにいたいの。邪魔しないから、ここにいさせて」
「どうして……そこまでするんだ」
「えりなは机。もうしゃべれません」
「まだ昼間だぞ。せいさんが来たら、どうするんだ?」
 彼女は、机の下で人差し指をとがった口に当てながら、楽しくてたまらない顔をしている。これも遊びの一種なのだろう。彼はため息をついて、引いた椅子に座った。
「満足したら、すぐに出るんだぞ。せいさんが来たら合図するから、じっとしてなさい」
 にこりとした彼女の顔を見てから、椅子を戻して浅く座り直した。さっそく子供の手が伸びて、さわさわと下半身をなで始める感触がする。
 遊びとはいえ、彼は興奮していた。こんな状況で、8歳の子供に奉仕させようとしている。目に見える風景に何も異常な所がない分、体の一部だけの感触はリアルに、彼の興奮を高めていた。
 充血して硬くなり始めたペニスが強引に引っ張り出されると、すぐに短い指が巻きついてきた。さらにていねいに陰嚢も取り出されて、彼のペニスが根元まで露出させられると、机の下からふーとため息が聞こえた。
 とろとろと生暖かい感触がして、彼女の唾液が塗られたのが分かった。すぐに亀頭をこすり始める指の感触と共に、陰嚢をこりこりと口で揉まれている。睾丸が大胆に口に吸い込まれ舌で転がされると、彼は未知の快感に驚き、ペーパーナイフを置いた。
「うお!?」
 そのままペニスの軸に、下から横向きにくわえると、順繰りに上まで唇で噛んでいく。挟まれた唇の感触の間で、小さな舌がちろちろと激しく動いている。何度も根元から頭まで往復してから、最後に亀頭が温かい粘膜に包まれた。
「うっ、江里奈」
 彼が思わずつぶやいても、彼女は黙って奉仕を続けた。再び陰嚢を吸い込むと、くいっくいっと亀頭を手の平で包んでひねり始める。
 彼は自制しようとしたが、どんどん高まっていくのを感じた。自ら動けず、性器だけを露出させられたせいで、感覚が集中している。その上姿が見えない分、性感は彼の頭の中で高められて、オナニーのような気がねない性欲の爆発に向かっていた。
 下腹に力を込めて耐えていると、察したらしい彼女は、つるんと亀頭を含んで、頭を下げて喉までまっすぐに彼を受け入れた。ごりごりと滑り込んでいく感触は、彼の理性を遠くへ飛ばして、彼を獣に変えていく。
 思わず机の下に両手を入れて、彼女の頭をつかんで引きつけると、口一杯に頬張った中で、きゅうと全体に渡ってペニスが締めつけられた。
「ぐぅっ!」
 そのままぎゅっぎゅっと喉の筋肉が絞り上げて、彼の射精を待ち受けている。2秒と持たずに激しく発射していた。
 江里奈の顔が、彼の陰毛と服越しに、下腹に押し付けられていた。喉に白い弾丸を打ち込みながらしっかりと頭を押さえ続けても、彼女は抵抗しないで、舌をゆるやかに動かしながら、彼の精液を飲み込み続けた。
 真っ白な頭に、ノックの音が聞こえた。
「は、はい!?」
 思わずのけぞった体を戻すと、手を離して机に乗せる。椅子を戻すより先に江里奈の頭が引き抜かれて、彼の先端から最後の一滴が発射された。
 入って来た家政婦のせいさんは、町内の連絡ビラと予定表を手にして現れた。
 普通に応対したつもりだが、気が気ではなかった。机の下で、しぼんでいくペニスの感触が口惜しかった。
「買い物に出ますが、なにかメニューの希望はございますか?」
「ん? ああ、江里奈に後で、きいてやってくれ。それでいいと思う」
 せいさんが出て行くと、彼はすぐに椅子を引いて覗き込んだ。
 江里奈は笑っていた。話している間に彼のペニスをきれいになめ取った彼女は、息を殺していたせいでふーふーと肩で息をしながら、彼を見返していた。
 二人は、いたずらを共犯したような気分で笑い合った。
「ごめん。苦しかっただろう」
 暗がりの中で、彼女の濡れた瞳は彼を見上げた。涙が伝っていたが、彼女は笑顔を浮かべたまま、口をすぼめて彼を見ていた。
 ずいっと身を乗り出すと、うかがうような表情で口を開く。ねちゃねちゃと口の中で粘液をかきまぜて、彼に見せる。舌の真ん中で集めると、たまった彼の精液をゆっくりと飲み込んでから、口を開いた。
「ぜったいあやまらないで下さい。あっ、しゃべっちゃった」
 すぽんと下に沈むと、もう柔らかくなったペニスを口に含んで、名残が垂れてこなくなるまで吸い続ける。無心に奉仕し続ける姿に彼女の幸福を感じて、彼は初めて、この小さな少女を自分のものだと思った。



   続く