『えきせんとりっく☆せりな』

   第5回「パパVS『パパ』?」    坂下 信明


「ただいまぁっ」
 室尾せりなは大きな声で叫びながら玄関を開けた。いつものように、誰も家にいないのはわかっている。それでも元気よく口をついてしまう。今日こそはきっと、いや絶対……そんな期待が、せりなの気分を天より高く昂揚させていた。
 せりなは真っ先にリビングルームに飛び込むと、テレビ台のガラスの扉を開けた。そにはせりなのノートパソコン、iBookがある。せりなは繋がっているケーブル類を手早く取り外し、胸に抱えて自室へと向かおうとする。
 しかしはた、と立ち止まり、テレビの上に置いてあるクマのぬいぐるみの頭を撫でた。せりな愛用のそのぬいぐるみからは、目立たないように一本のケーブルがおしりの辺りから伸びている。
 とたとたと階段を駆け上がり、せりなはすぐにベッドに座った。いそいそとiBookを開いた。
「パパ、もういっしゅうかんもしてない……きっときのうは、しちゃったよね」
 慣れた手つきでトラックパッドを操り、せりなはムービープレイヤーを起動させた。
 せりなは、パパのオナニーシーンが見たくてしょうがなかったのだ。そのため、わざわざ盗撮用ピンホールカメラを購入、ぬいぐるみの目に仕込んでリビングルームに置き、毎晩録画していたのだ。パパが、夜中にこっそりそこでオナニーをしている証拠は掴んでいる。毎日盗撮を続ければ、いつかはパパのオナニーシーンをムービーに収めることができるとせりなは考えたのだ。
 一時間ごとに分割したムービーファイルを順番にチェックしていく。夢中になったせりなは、うつ伏せにベッドに横たわって液晶画面を凝視した。スカートがめくり上がり、無地の真っ白なパンツが丸見えになっている。
「これもちがう……これも……じゃあ、この……」
 昂揚した気分が落胆へと次第に変化してゆく。ただ真っ暗な部屋の映像か静止画のように続いているのだ。昨日も収穫無し……諦めかけて最後のファイルを開くせりな。
「……あ、あぁ!」
 それはもう、夜中と言うより明け方の午前五時の映像だった。パパ、つまり室尾猛秋は一度せりなに見つかりそうになったため、用心して夜中の時間帯は避けていたということらしい。リビングルームの電気が点り、ビデオとティッシュを手にしたパパが映し出される。
「……まちがいないよぉ。今から、するんだ」
 ベッドの上に座りなおし、身をのり出して液晶画面に見入る。画面のパパは、ビデオテープをセットしてリモコンを握っていた。どんなビデオを見ているかは、この映像からはまったくわからない。アングル的にテレビ画面など見えるわけもないし、マイクは仕掛けていないのだ。それでも、せりなの目的は『パパのオナニー姿』なので、なんの問題も不満もない。
「……あ、パパの……」
 画面の中のパパが、ズボンを下ろした。
「もう……おっきくなってる」
 パンツから、窮屈そうなパパのおちんちんが飛び出した。ぴん、と力強く上を向いたおちんちんを右手で強く握りしめ、パパはこちらの方を真剣な顔で見つめた。
「パパが、こっちをみてる」
 アダルトビデオの画面を見ているはずだが、せりなにはそう思えてしまう。少し頬を赤らめて、何故だか背後を振り返ってから、液晶の中のパパに語りかけた。
「せりなも……いっしょにしてあげる、ね」
 おずおずと、せりなは膝立ちしてパンツを下ろした。
「せりなもね、もうがまんできないの……」
 下ろしたパンツのには、わずかだが染みができていた。
 せりなはパンツから片足を抜くと、液晶の向こう側のパパに見せつけるように足を拡げて見せた。白く柔らかそうな肉に走る亀裂が、少しだけ拡がった。そこには、透明でねっとりとした液体がこびりついている。
「パパも、せりなの、みてね。せりなも、パパのをみてするから」
 せりなの指先が、亀裂さらに拡げた。ピンク色の粘膜が押し拡げられ、ぽつりと空いた膣口までがあらわになる。
「んっ、パパぁ」
 押し広げた裂け目の上端にある包皮を、せりなはくりくりとつまんだ。すでにねっとりと潤っていたせりなのスリットが、ひくひくと蠢きながら更に粘液を吐き出した。
 うっとりと細められたせりなの目が、液晶の中でしごきたてられるパパの男根に釘付けになる。男根──そう、それはもうおちんちんとかペニスとか、そんな生易しい言葉ではそぐわないほど、硬く屹立しているのだった。
「すごい、すごいよぉっ、あんなの、あんなのがせりなのなかに……」
 セックスというものについて、大抵の知識をせりなは身につけていた。まだ小学校三年生で、さらにそれよりも幼く見られてしまうせりなが、淫らな妄想に耽りながらクリトリスをいじっているのだ。
「あ、あ、すご……」
 分泌される粘液に指をからませ、せりなの愛撫はクリトリスだけではなくスリット全体に及んでいた。幼いながらもぷっくりと充血した花びらを擦り、いやらしい音を部屋に響かせている。
「ひゃんっ」
 つぷっ、と一瞬、指先が僅かに膣口にもぐり込む。その感覚にせりなはのけ反った。硬くなった乳首がシャツにこすれて、痛みとも快感とも取れる刺激が小さな身体を駆けめぐった。
「……んっ、こんなに、なっちゃってる」
 見下ろすと、乳首は二枚の布を強く押し上げ、服の上からでもハッキリとその姿を浮かび上がらせていた。胸自体にはまだなんの膨らみもないのに、乳首だけが力強く突き出していた。
「あ、きもちいい……」
 自然と、せりなの手は乳首に伸びた。服の上からくりくりとするだけでも、じぃんと気持ちよくなってくる。すぐに耐えきれなくなり、服をたくしあげた。乳輪の色すら僅かな小さい乳首が、ぴんと垂直に突き出している。その先端に指を置き、くりくりとこね回す。熱を持った快楽が、脳を焼く。脳だけではなく、スリットもどろどろに溶かしてゆく。次第にせりなは快楽の虜となり、今自分がどこをいじっているのかさえ、確かにはわからなくなっていた。
「んっ、んんっ、あぁんっ」
 朦朧とする意識の中で、それでもせりなは画面の中のパパの男根だけは、必ず視界の中に入れていた。そうすることで、せりなは本当に、パパに愛撫してもらっている気分に浸れるのだ。
 いや、それだけではない。それだけなら、今までも何度も浸ってきた妄想と同じだ。今回はいつもと違う。実際の映像として、実際の出来事として、パパのオナニーシーンを見ているのだ。妄想は、より一層の現実味を帯びてせりなの前に現前する。
 ムービーの中のパパが、ふと手を休めた。視線を、カメラの向こう側にいるせりなに向けた。少なくとも、せりなにはそう思えた。
「パパぁ、せりなね、せりなね、パパが、本当のパパが……ほしいの」
 こちらを向いたパパに見せつけるように、せりなはぐちょぐちょになったスリットを見せつけた。愛液がしたたって、シーツに大きな染みを広げている。
 半ば忘我の境地にいるせりなは、とても小学生とは思えない艶っぽい流し目をパパにおくる。映像のパパは、その視線に頷いた。そして、ゆっくりと立ち上がった。
 カメラに近づいてゆくパパ。手をずっ、と前に差し出した。
 それは信じられない光景だった。
 カメラに触れようかとしたパパの手は、そのままiBookの液晶を突き抜けた。表面のザラついていた解像度の低いムービー画像が、いきなりリアルな実体として前に現れたのだ。そして、小さなiBookの液晶から完全なパパの実体が吐きだされるまで、大した時間はかからなかった。
 その時のせりなには、それが現実であるかどうかなどという整然とした思考回路は備わっていなかった。ただ、望んでいたものが叶おうとしている、そんな喜びに我を忘れていた。
「パパ、パパ、パパ」
 傷ついたレコードのようにそう連呼するせりな。その前には、ズボンを下ろしたままのパパが微笑んで立っていた。
 パパはせりなの呼びかけにも返事をしないで、脱ぎかけのズボンを脱ぎ去った。上着も脱いだ。すぐに全裸になった。
 全裸に、いや男根に見入ってぼーっとするせりなの肩に手を置いて、パパはせりなを優しく押し倒した。せりなは、されるがままだ。
 パパの手が、みるみるせりなの服を脱がせていく。やがて、二人ともが全裸になった。「……パパ」
 頬を撫でるパパの手に、せりなは甘えた視線を返した。それを、パパの優しい笑顔が受け止める。
 このパパが、せりなの妄想中に現れる『パパ』であり、本物のパパではないことは、少しでも考えれば気づくことだったろう。しかし今のせりなには、そんなこともわからなかった。それどころか、せりなはすっかり舞い上がり、夢の成就を信じてしまっていた。
 ──せりなは、このままパパのものになるの。
 相手がパパなのか『パパ』なのか、そんなことすら気がつかないまま、せりなはその気になってしまっていた。
 『パパ』が、せりなの両手首を掴んだ。そのまませりなの頭の上の方に押しつけると、小柄なせりなはすっかり自由を奪われてしまう。それでもせりなは『パパ』を信じて、笑顔で『パパ』の顔を見上げた。
 その顔が、首筋に近づいた。幼女特有のきめ細かな白い肌に、『パパ』の唇が吸いつく。せりなはくすぐったくて、軽くもがく。しかし両手の自由は奪われているので、足をばたばたと動かすことしかできない。
「やっ、くすぐったいよぉ」
 『パパ』の舌先が首筋を這い、肩を舐め、腋に移った。せりなはくすぐったい感覚のなかにあるもどかしいような快感に目覚め始めたか、全身の力を抜いて『パパ』にされるがままになった。
 一度『パパ』の唇は腕に上っていったが、すぐに折り返してきた。腋から薄い乳房に、そして敏感な突起に触れた。
「んんっ、はっ、あんんっ」
 舌先を尖らせ、同じく尖ったせりなの乳首を軽くつつく。ちろちろと舌を這わせ、唇を押しつけて強く吸う。
 右の乳首をさんざん味わってから、わざとナメクジのような這い跡を残して左の乳首に移った。同じように丹念な愛撫を施す。
「んあ」
 せりなは太腿を擦り合わせた。そこはまだ触れられてもいないのに、燃えるように熱くなっていた。じゅくじゅくと染みだしてくる愛液が、おもらしした時のような染みをシーツに描いてゆく。
 ──はやく、はやくせりなのえっちなところ、なめて、ほしいな……
 せりなの思いを焦らせるように、『パパ』の舌先が丹念に乳首を責めつづけた。ようやく止めたかと思うと、そのままゆっくりと下へ向かい、今度は臍へともぐり込んだ。
 すぐそこまで来ている、そう思ってせりなは足を大きく広げた。一番舐めて欲しいところを舐めやすくしたのだ。
 その気持ちがようやく『パパ』にも伝わったのか、『パパ』はせりなを押さえつける手をはなし、せりなの股の間に顔を押しつけた。せりなの腰が、期待にくねった。
「……あうっ!」
 極限まで熱を帯びたせりなの秘部に、『パパ』のひんやりとした舌が触れた。それだけでいってしまいそうになるのをせりなは懸命に我慢して、唇を噛んだ。
 『パパ』は手を使っておしりの肉ごと押し広げた。スリットからは愛液がこぼれ落ち、アヌスまでをてらてらと濡れ光らせていた。そのアヌスに舌先をあてて、ゆっくりと上へと這わせていく。スリットの下端にたどり着くと、左右に割れた秘肉を交互に味わいながら、更なる深みへともぐり込ませていく。
 せりなの足は、宙に浮いていた。指先が曲がっている。絶頂に達しまいと必死に我慢しているのだ。
「んっ、んー、ふうっ、んっ、あっ」
 ついにクリトリスへと舌先はたどり着いてしまった。指でスリットを押し広げているため、せりなの最も敏感な突起は容易に包皮から姿を見せてしまう。『パパ』はその無防備な突起に吸いついた。そして口の中で、転がす。
「あっ、だめ、だめ、んん、あ、だめぇぇっ」
 びくんびくん、とせりなが痙攣する。自由になっていた両手で、必死に『パパ』の頭を掴んだ。それでも『パパ』は意地悪く、クリトリスを吸い続けた。
「あ、あ、あぁぁっっ!」
 とうとうせりなは、『パパ』の頭に全身でしがみつくようにして、絶頂に達してしまった。
「はぁっ、はぁっ、はぁ」
 荒い息をついて、せりなは弛緩してゆく。『パパ』もゆっくりと顔をはなし、立ち上がった。せりなが見上げると、たくましい『パパ』の男根のシルエットが見えた。部屋の蛍光灯の逆光のせいで、顔まではよく見えない。
「はぁっ、はぁっ……パ、パパぁ、ごめんなさい……だって、きもちよすぎて……」
 せりなの頭の中では、今日こそあの、パパのおちんちんをせりなの中に入れてもらえる日であった。だからせりなだけが先にいってしまったのが、パパに申し訳なく思えてしまったのである。
 せりなは極めて自然に、手を伸ばした。
「ごめんなさいぃ……せりなも、するから……」
 せりなの小さな手が、ごつごつとした『パパ』の男根を包み込んだ。オルガスム直後の気だるい身体に鞭打ち、膝立ちになって男根にしがみついた。
「……それにね」
 鼻先にある亀頭へ、話しかけるように言った。
「パパのいくとこも……みてみたいなぁ」
 恥ずかしそうに頬を赤らめ、せりなは男根をしごき始めた。
 限界まで硬く大きくなっていたと思っていたのに、せりながしごくと更に硬くなってゆく。それがせりなには嬉しかった。感じてくれているのだと思えるのだった。
「……おくちでも、するね」
 膨れ上がった亀頭は、せりなの口には大きすぎるかと思われた。しかし、せりなの頭の中では舐めてもらったら舐め返してあげるのが当たり前のことになっていた。大きく口を開いて、なんとか亀頭を口に含んだ。それだけでいっぱいだ。とても口を動かすことなんてできなかった。
 よく見るインターネット上の無修正ムービーのように上手くできないことに自分自身で落胆しつつも、とにかくパパに気持ちよくなってもらうためにせりなは頑張った。舌だけは動かして亀頭を舐め、手で必死に竿をしごいた。無理に口を開けているためか、せりなの目には涙が滲んでいる。
 そんなせりなを哀れに思ったか、『パパ』は優しくせりなの頭を撫でてやり、腰を引いて男根を抜いた。せりなはそれでも名残惜しそうに握りしめたままだが、『パパ』はその手もはがしとった。そして、仰向けに寝かせた。
「……なにするの?」
 開いたせりなの太腿の間に膝をつき、『パパ』は自分で自分の男根をしごきたてた。せりなは自分の愛撫を続けさせてくれなかったことに少し不服のようだったが、すぐに『パパ』の男根を見つめるのに夢中になった。
 パパが、自分のスリットの前でオナニーしている。そんな状況が、せりなの脳髄を痺れさせていた。期待感に酔いしれ、言葉がつい口をつく。
「パパ……そのまま、そのまませりなにかけてねっ」
 せりなは、絶頂に達したばかりの充血したスリットを指で広げた。そこにかけてもらえれば、たとえ実際にペニスを挿入されていなくても繋がった気持ちになれるから。
 『パパ』の手の動きが激しくなった。せりなはその瞬間が近いのを悟り、わき出る唾を音を立てて飲み込んだ。
「!」
「ひゃんっ!」
 『パパ』の男根の先から、何かが飛びだした。そろそろだとは思っていても、それは唐突だった。白いだとか液体だとか、そんなことよりも先に、なにかがせりなの身体を打つ感覚だけがあった。それから、暖かさ。しかしその温もりはすぐに失われ、気化のためにひんやりとした感覚に変わる。
 肉体的な感覚の次には、なんとも言えない充足感に満たされた。『パパ』の発したものはせりなの胸、腹、そしてスリットにたっぷりと振りかかっていた。『パパ』の精液が、愛しい人の精液を浴びた、その喜びがせりなを幸福に包み込んでいた。
「……パパぁ」
 万感の思いを込めた、せりなの言葉。そして『パパ』の反応を待つ。
 しかし、そんな二人だけの世界は、不意に破られた。
 コンコン。
 ノックの音。そして声がかけられた。
「……せりな、ただいま。誰かいるのか?」
「!」
 せりなは驚いた。ドアの外から聞こえる声は、たった今まで愛を営んでいた(と思い込んでいた)パパのものだったからだ。
「……? せりな、入るよ」
 状況を把握しきれないせりなには、その場を取り繕うことなどできようもなかった。それどころか、説明すらできない。せりなはようやく、互いに愛撫しあった男がパパではなく『パパ』であると気がついただけだった。
 ドアの外の本当のパパは、なんだか嫌な予感がしてドアを開けた。そこで、信じられない光景を目にした。
 素っ裸の愛娘が精液まみれになっていた。そして、その犯人らしき影が立っていた。パパは茫然と、その光景を見つめた。その男は、自分にそっくりであった。
 せりなは慌てて服を着ようと衣類をかき集めた。それからどうしたらよいのか判らず、服を抱えてパパを見た。パパは、せりなではなくせりなの前の男を見つめていた。
「……パ、パパにも見えるのっ!?」
 せりなのその驚きの言葉が、合図になったかのように『パパ』は走りだした。本物のパパに向けて。
「!」
 『パパ』がパパに襲いかかっていた。拳を握りしめ、顎を思い切り撃つ。せりなには信じられない光景だった。愛すべきパパが二人いて、一人が一人に襲いかかっている。
「や、やめてぇぇぇっ!!」
 せりなの叫びが響いた。
 殴られたパパは、激しく後ろに倒れ込んだ。そして殴った『パパ』が、せりなを振り返った。
 何故か顔はよくわからず、表情も読み取れなかった。しかしせりなには、『パパ』が怒り悲しんでいるように思えた。
 そして『パパ』は、そのまま透けていき、やがては見えなくなってしまった。部屋には茫然とする全裸のせりなと、昏倒しているパパだけが残された。



第6回へ続く