『えきせんとりっく☆せりな』

   第4回「せりなの長い夜」    坂下 信明


 せりなは夜半、目を覚ました。
 その日は珍しく早くベッドに入ったので、こんな時間に起きてしまったのだ。時計の針は深夜三時を指している。
「……どうしよう、ぜんぜんねむくない」
 かといってネットサーフィンを始めたら始めたで、寝不足のまま学校に行くことになってしまう。
「……こんなときは、やっぱり……」
 せりなはベッドの中でもぞもぞした。パジャマのボタンを外し、胸に手をあてる。
「夢のなかで、パパとえっちするの」
 平坦な胸を手のひらで撫でる。やんわりとかわいい乳首を刺激すると、徐々にぽつりと突き出てきた。
「あん、パパぁ」
 すぐに我慢できなくなり、せりなの手がパンツの中に滑り込む。僅かの茂みもないスリットに指を押し当て、包皮に包まれたクリトリスを刺激した。
「……あっ、せりな、もうこんなに……」
 指はぬるりとした液体に迎えられ、抵抗なくスリットの中にめり込んだ。自分でもびっくりするぐらい、せりなの身体はあっという間に『えっちモード』になっていた。
「どうして……やだ、ゆびがとまんない」
 くちゅくちゅ、と湿った音を立てて指がスリットをかき回す。曲げられた指がクリトリスを引っかけると、きゅうんと心臓が締めつけられるぐらいに電流が走る。
「あぁっ、せりな、せりなパパにしてほしいのにぃ……」
 時折、せりなは自分でしているのが寂しくなる。本当は、パパにしてもらいたい。パパにせりなのいろんなところを触って、舐めて欲しい。大好きなパパに、せりなの全てを捧げたい。
 友達の和泉星花が高校生の彼氏を作り、えっちを経験してしまったことも、せりなの寂しさを煽っていた。
「パパぁ、んっ、せりな、さみしいよぉ」
 真っ暗な部屋で呟きながら、せりなは寂しさを忘れようとするようにオナニーに没頭する。なぜか滲んできた涙をこらえようと、ぎゅっと目を閉じた。
 しかし、せりなは感じるはずのない人の気配を感じて、目を開けた。
「パパ……じゃない。『パパ』……」
 せりなにだけ見える、白い人影。せりながパパを望むと現れる、せりなだけのパパ。せりなはそれを、心の中で区別して呼ぶようになっていた。
「『パパ』、してくれるの?」
 枕元に立っていた『パパ』は、答えないでただせりなの頭を撫でてくれた。せりなの心が温かくなる。
「じゃあ『パパ』、せりなをうんとかわいがってね」
 『パパ』とパパ、両者は違うが同じものであった。せりなにとっての『パパ』は単なる妄想ではない。顔はぼんやりとして見えないが、たしかに肉体の感触があり、温もりがあるのだ。不思議なことに、せりなはパパと『パパ』を呼び分けていながらも、同じ存在であると信じて疑わなかった。
 『パパ』はボタンの外されていたパジャマの前を開いて、せりなの胸をマッサージした。つん、と突き出た乳首がこすられ、せりながおとがいを反らす。
「んんんっ、せりな、つんつんになってるの」
 『パパ』はえっちの時には何も言わない。その分、せりなは饒舌に状況を口にする。自分で口にすることによって、なお一層興奮するのだった。
「あん、『パパ』ぁ、もっとえっちなところも、さわって」
 ズボンとパンツは、まだ脱いではいない。『パパ』はウェストのゴムに手をかけて、一気に両方をずり下げた。足を閉じた状態だと、せりなのスリットはまだまだかわいい一本の線にしか見えない。
 そのまま脱がせてしまうのかと思いきや、『パパ』はズボンを膝の位置で止めた。そしてせりなの揃っている両足を高く持ち上げた。
「きゃっ」
 せりなは二つ折りのような恰好になった。そのままでは痛いので、膝を曲げる。それでもおしりのほとんどが宙に浮いている状態だ。
「パっ、『パパ』、なにするの?」
 『パパ』はせりなに膝を抱えさせ、自分はせりなのおしりを押し広げた。スリットも丸見えになるが、おしりの穴も丸見えだ。せりなは恥ずかしくなって、頬を真っ赤に染めた。それでも心の中では、お風呂のあとにうんちをしてなくてよかった、なんていうことを考えていた。
「ひゃうんっ」
 いきなり、『パパ』の舌がせりなのスリットに這った。不意を突かれたせりなは強く膝を抱きしめて声を出さないようにするのが精一杯だ。夜中はよく声が通るので、あまり声をたてるわけにはいかない。
 それでもスリットを舐めるぴちゃぴちゃとした音は、静かな室内に響きわたっていた。「んん、せ、せりな、そんなにぬれてるんだぁ」
 その音が、せりなをますますえっちな気分にさせる。『パパ』の唾液とせりなの愛液が入り混じって、アヌスまでびしょ濡れになった。
 そこで、せりなははっ、と気がついた。
「んっ、ねぇ、『パパ』……また、おしりでするのぉ?」
 自分で訊いておいて、せりなはその口調がどう聞いてもおねだりにしか聞こえないな、と思った。実際、せりなは今、ものすごくドキドキしていた。
 ところが『パパ』の動きが止まってしまい、せりなは慌ててフォローする。
「あっ、あのね、いやなんじゃないよ。でも、すごくしてほしい、って思ってるんでもないよ。せりなね、あの、こっちの……えっち用のほうはね、もっととくべつなとき、たいせつなときに取っておきたいから……するなら、おしりがいいなって」
 『パパ』が苦笑いをしているような気がした。顔は見えないのに、そんな気がせりなはした。そして『パパ』は、ぽんぽん、とせりなの頭を軽く叩いてくれた。それだけで、せりなは嬉しくなって、何も言えなくなってしまう。
 照れた顔で、やっと口を開く。
「……えっとね……せりなもしてあげるっ」
 がばっ、と身を起こし、せりなは『パパ』のおちんちんに手を伸ばした。ベッドの外に立っている『パパ』のおちんちんは少し低い場所にあり、せりなは手をついて、四つんばいになっておちんちんに触れた。どうして『パパ』が始めからズボンをはいていないのか、そんな事にまで気は回らなかった。
「『パパ』の……こちこちにかたい」
 ぎゅっ、と握りしめても、すごい力で押し返してくる。感触を楽しむかのようにせりなは何度もぎゅっ、と握りしめながら力強くスライドさせた。もう限界まで硬くなっていると思っていたのに、なお一層硬くなっているような気がした。
「……せりな、『パパ』のおちんちん、だいすき」
 ちゅっ、と亀頭にキスをしてから、大きく口を開けた。亀頭全体を口に含むだけでも大変だが、せりなにはそれが苦にはならなかった。大好きな『パパ』の、パパのおちんちんなら、せりなはどんなに苦しくても愛することができるのだ。
「んんんっ」
 鼻で喘いで、せりながフェラチオする。『パパ』が優しくその頭を撫でてやると、せりなは微笑みを見せて一生懸命舌を動かした。
 パジャマを脱ぎかけのままで奉仕する少女は、幼いはずなのに充分淫らだった。四つんばいになった下向きの乳首が、剥き出しで微妙に揺れるつるつるのおしりが、そしてなにより恍惚めいた表情を浮かべる顔が、まだ二桁にも満たない年齢には似つかわしくないエロティシズムを醸しだしている。
 『パパ』は、その微妙に揺れるおしりに手を伸ばした。アヌスの皺を丁寧に伸ばすようにして、揉みほぐしてゆく。せりなも、『パパ』がしやすいようにおしりを掲げた。
「んっ、んんっ、ひゃんっっ」
 せりなは、その愛撫にしっかりと反応し、苦しげな喘ぎを洩らす。
 アヌスがある程度ほぐれると、『パパ』はスリットから再び溢れだしたえっちなぬるぬるに指をひたした。粘度のある愛液をアヌスにも塗り広げ、指先ですぼまった中心をぐりぐりと広げてゆく。
「んっ」
 あっさりと、指先がアヌスにめり込んだ。せりなはフェラチオどころではない感覚に、つい『パパ』のおちんちんを吐き出して、それにしがみついてしまう。
「あっ、あっ、ああん、お、おしり、あついよぉ。せりなのおしり、ひくひくってしてるぅ」
 意識せずに、せりなは『パパ』のおちんちんをしごきたてていた。口に溜まっていたよだれをシーツに垂らして、せりなは『パパ』のおちんちんを激しくスライドさせているのだ。
 『パパ』も我慢できなくなったのか、せりなのアヌスから指を引き抜いた。せりなが荒く息をつきながら、不思議そうに『パパ』の顔を見上げる。相変わらずはっきりと顔は見えないが、なぜだか何を言いたいかは読み取れた。
「……うん、せりな、『パパ』のね、ほしいの。『パパ』も、せりな、ほしいんだよね?」
 せりなが恥ずかしそうに言って微笑む。そして自ら、四つんばいのおしりを『パパ』に向けた。
「……パパぁ、愛してる」
 この時、せりな自身も気がついていなかったが、呼びかけた相手は『パパ』ではなくパパであった。
 『パパ』は自分のおちんちんを握ってせりなのアヌスに押し当てると、一気に貫いた。いきなりの挿入に、せりなは激痛を訴える。
「やぁっ! 『パパ』ぁ、いたっ、いたいよぉっ! んふっ」
 それでも声のトーンだけはなんとか落とし、せりなは自分で自分の口を塞いだ。今の声が聞こえて、パパが起きてきたら大変なことになる。いや、ここにいるのも『パパ』なのだから、別のパパが来るわけがない。しかし、パパは寝ているはずだし、えっちなことなんかしてくれるわけもない……
 せりなは思考が混乱してきていた。ぐちゃぐちゃになった頭の中を、ずんっ、と『パパ』のおちんちんが焼けつくような感覚とともに貫いた。
「んぁっん、あ、あうぅ」
 やや逃げ腰になったおしりをしっかりと抱え、『パパ』は激しく何度も突き上げた。せりなの思考をかき乱すその突きは、優しさやいたわりの気遣いは全くなく、ただ暴力的に欲望を吐きだしているだけのようだった。
「あっ、あっ、せりなの、せりなのおしり、こわれちゃうようぅ」
 それでもせりなの肉体はその暴力を次第に受け入れ、痛みを快楽に変えてゆく。
 白く小さなせりなのおしりの割れ目を、『パパ』のおちんちんが激しく出たり入ったりする。せりなはシーツを掴み、枕を抱え、スリットから愛液を垂らす。『パパ』はだらしなく愛液を溢れさすスリットに手を回し、硬くなったクリトリスをこね回した。
「あうぅ、んっ、パっ、パパぁっ」
 うわ言のようにせりなが呼びつづける。それは愛の言葉であるはずなのに、『パパ』の応えはより激しい抽送だった。
「あっ、だめ、だめっ、あついっ、こ、こえが、こえがでちゃうぅぅっ」
 アヌスが燃え上がってしまうぐらいにせりなは感じていた。
「あっ、あっ、あ、あ、せ、せりな、もう、もうだめだよぉぉっ!」
 ずんずんっ、と深い突き、そして中に満たされる熱い液体。せりなは脳内が白熱したまま、ぱたっ、と倒れ込んだ。
「……はぁっ、はぁっ、『パパ』ぁ」
 苦しげに喘ぐせりなが、『パパ』の方を振り返った。しかし、『パパ』はもういなかった。
「……『パパ』ぁ、やだぁ、そんなの、そんなの……」
 あわてて起き上がったせりなは茫然として、呟いた。
「……えっちだけが、もくてきみたいなの……」
 えっちの後の口づけを期待していたせりなには、いきなりいなくなってしまったことがショックだった。ふてくされて、ベッドに倒れ込んだ。


「……ねむれない」
 せりなは時計を見た。午前四時。もう眠らないと、授業中が居眠りばかりになってしまう。それでも、なかなか寝つけない。
 パパのことを考えながらえっちすれば、しあわせな気分になって寝つけると思っていたのに、実際の『パパ』とのえっちではあまり優しくされず、逆にフラストレーションが溜まる結果になってしまったのだ。なんだかすっきりしないまま、せりなは部屋の闇を見つめていた。
「……おトイレ」
 そのままでは埒があかないと思い、せりなは何気なしにトイレに行くことにした。
 階段を降りると、なぜかリビングルームに明かりがついているようだ。
「……あれ、パパ?」
 せりなが呟くと、中でどたばたとなにかを片づける音がした。怪訝に思ったせりながリビングに入ろうとすると、パパが慌てた様子で飛びだしてきた。
「せ、せりな? どうしたんだ、こんな時間に?」
「……目が、さめちゃったの」
「そ、そうか、それは大変だなぁ」
 パパの反応がわざとらしい。せりなはきょとん、として、当然の質問をした。
「パパはなにしてたの?」
「パ、パパか? パパはね、ちょっとまだ調べ物が残ってて、こんな時間までお仕事だったんだよ。ははは」
「…………」
 ここまで素直な反応だと、さすがのせりなにも嘘がわかる。しかしせりなは、パパがそう言うんならそういうことにしておこう、と思った。
「……せりな、おトイレいく」
「そうか? ひとりじゃ怖いだろう。ついていってあげよう」
 意味もなしに、頭を撫でてくれる。せりなはかぁっ、と赤くなった。純粋に嬉しかったこともあるが、さっきの『パパ』とのえっちのフォローをしてもらっているみたいだったからだ。
 パパはすぐそこのトイレまで、せりなについていった。
「よし、それじゃあパパはここで待っていてやるからな」
「……そ、そんなの……はずかしいよぉ」
 音が聞かれてしまうのは、えっちよりも恥ずかしかった。
「それもそうか。じゃ、おやすみ。パパももう寝るから」
「おやすみなさい」
 せりなはぺこり、と頭を下げる。
「よしよし、せりなはちゃんと挨拶のできるいい娘だ」
 パパはいきなり腰を屈めて、せりなの頬にキスをした。
「!」
「あははは、パパもだが、せりなもちゃんと朝、起きるんだぞ」
 パパのきまぐれのキスは、せりなには刺激が強すぎた。湯気が出そうなほど真っ赤になって、ふらふらと倒れそうになる。なんとかトイレのドアノブを掴んで、そのまま中の便座にへたり込んだ。
「……き、きす、されちゃった……それも、パパに」
 上気する頬を両手で押さえて、せりなはうっとりと夢心地に浸る。
「はぁっ、パパ……大好き」
 そう呟いた途端、おなかが熱くなり、ぐるぐると音をたてた。
「きゃっ、でちゃうでちゃうぅ」
 大急ぎでズボンとパンツを下ろして、便座に座り直す。
 熱い奔流が、おしりの穴から流れだした。おしりの穴が痛いぐらいだ。せりなは排便の解放感にほっ、と息をつきながら、ほんとにパパがそこに立ってなくてよかった、と心から思った。
「ふう……でも、どうしていきなりおなかがいたくなったのかな」
 別に昨日はおなかをこわすようなものは食べていないし、おもらしを恐れて水分もあまり取っていない。そのくせ、音と感覚からして下痢気味のようだ。
「……まぁ、いっか。パパにキス、してもらえたし」
 気を取り直して、せりなはペーパーに手を伸ばした。
 その時、せりなは自分の便に混じっていた、湯気を放つ白い液体に気がつかなかった。


「それにしても、パパはうそをつくのがとってもへた」
 そのまま部屋に帰ってしあわせ気分で眠りにつくかと思えば、そうはいかないのがせりなの「えきせんとりっく」な所以だ。
「……パパの趣味は『白石ひとみ』で……これが『くりのはなのにおい』……」
 リビングのビデオデッキやゴミ箱から、せりなは素早く情報を読み取っていた。
「パパもこそこそしないで、せりなにたのめば、いろんなこと、してあげるのに」
 自分で口にしてから、せりなは赤くなった。
「……でも、パパはこのじかん、このばしょで『ひとりえっち』してたんだ……」
 高鳴る胸を押さえつつ、せりなは腕組みをして考え込んだ。
「……こっそりと、見つからないようにのぞくには……あ」
 ネットサーファーであるせりなが、ぴん、とその答えを導き出した。
「とーさつ!」
 とても小学三年生のものとは思えない答えに、せりなは自分自身でうっとりと陶酔していた。


 翌朝。
 ネットを使って「ピンホールカメラ」などというマニアックな商品を探しつづけていたせりなは、真っ赤に腫らした目を擦りながら学校に行くことになった。



第5回へ続く