『えきせんとりっく☆せりな』

   第3回「フォトショッパーせりな」    坂下 信明


 雨降りの日曜日。
 室尾せりなは退屈そうに、ベッドの上から窓の外を見つめていた。なにもする気が起きないのだった。
「……あーあ、つまんないぃ」
 悔しそうに、唇を噛む。吊しておいたてるてる坊主も、水性ペンで描いた目鼻が滲んで、まるで泣いているかのようだ。
 今日は、お昼からパパと公園に散歩に出かける予定だったのだ。せりなはずっと楽しみにして、てるてる坊主まで作ってこの日を待ちわびていた。
「それなのに……神さまのバカ」
 せりなの怒りは、雨に対するものだけではなかった。パパは会社に呼び出され、休日出勤になってしまった。ピクニックに行く代わりに家の中で仲良く、なんていう代案さえぽしゃってしまったのだ。
 結果、なにもする気の起きないまま、なにもせずにせりなはベッドに佇んでいた。
「……えっち、しちゃおっかなぁ」
 今日なら、家には誰もいないし、帰ってくる心配もない。昼間から堂々とオナニーできる状況というのは、貴重だとも言えた。
「パパのこと、考えながら……」
 せりなは目を閉じた。今、パパは編集部にいる。休日出勤だから、そんなに編集部員はいないはずだ。その中で、机に座って……。
「……パパの仕事って、どんなんだろう?」
 せりなも詳しくは知らなかった。雑誌の編集長ということぐらいは知っているが、その雑誌がどんな雑誌であるかもよくわからないし、そもそも編集長の役割自体がよくわからない。
「とにかく、パパは仕事ちゅうなの。それで、せりながお茶を持っていくの……」
 せりなはその様子を思い描いた。思い描くだけではなく、実際にベッドを下りて、お茶を運ぶ仕草をする。
「そうすると、パパがほめてくれて、せりなの手をにぎって、それから……」
 ひとりえっち用の妄想なので、難しい理屈は抜きで展開してゆく。いきなりオフィスで、というシナリオらしい。
「あっ……」
 自分の勉強机──しかしせりなにとっては編集長のデスク──に両手をついて、せりながおしりを突き出した。もともと短いスカートだから、そうすれば純白のパンツがパパに見えてしまう。
 妄想の中の『パパ』が席を立ち、せりなのスカートをめくり上げた。吟味するように、パンツの上からおしりを撫でさする。せりなは恥ずかしげに顔を赤らめて、振り向く。抗議と期待、そんな相反する感情を含んだ顔は、幼いながらも充分すぎるほどに女であった。
 『パパ』はせりなのパンツに指をかけた。するするとヒップラインに沿って下げられると、ゆで卵のようにつるつるとしたせりなのおしりが現れる。もちろん実際には、せりなが自分で下ろしているのだが。
「あ、いきなりそんなところ……やん」
 『パパ』の指が、おしりの割れ目からせりなの一番敏感な所へと滑り込んだ。せりなの太腿が一瞬だけ緊張して強く閉じられたが、すぐに指を受け入れた。
「……パパのえっち」
 一本の恥毛もないせりなのスリットを、『パパ』の指がかき分けてゆく。だんだんと奥に潜り込んでくる、ということは、次第にあそこに近づいていっているということだ。最も敏感な、あの突起に。
「んっ、ふわぁぁっ」
 くりっ、と指先がせりなのクリトリスに触れた。こうなると、もう立ってはいられなかった。ベッドに倒れ込む。せりなの頭の中では、『パパ』に押し倒されたことになっている。
「あ、そんな」
 せりなの脚が大きく拡げられ、『パパ』がせりなのそこを覗き見る。あまりにまじまじと見つめるので、せりなは恥ずかしがって脚をばたばたとさせた。しかし、本気で嫌がっているわけではない。
「そんな……ぬれてなんか、ないよぉ」
 そう否定するせりなだが、自分でも、おしりの穴まで伝ってくる蜜の感覚があった。とろとろとした液体が溢れ、シーツに染みを作りつつある。
「きゃ、よごしちゃうぅ」
 せりなは自分の溢れ具合に驚いて、慌ててティッシュに手を伸ばそうとする。しかしバランスを崩し、今度は仰向けに倒れ込む羽目になった。
「わわわっ……あ」
 せりながとっさに掴んだのは、以前愛用していたくまのぬいぐるみだった。
 以前、というのは、今では直接指で触る方が好きだから、ということであり、愛用、というのは無論、オナニーの道具として、ということである。
「……くまさん、もしかして、シット、しちゃったぁ?」
 せりなには、ぬいぐるみに過ぎないはずのくまが、何故だか不機嫌そうに見えたのである。それが妙におかしくて、せりなは微笑んだ。
「……いっしょに、しようか?」
 照れながら、せりなはくまの手を握る。せりなはパパ一筋で、浮気なんて絶対にしたくないが、このくまさんなら別だろうと、なんとなく思ったのである。
 せりなはくまに寄り掛かるようにして座った。くまの手がせりなの脇をくぐり、胸のあたりに押しあてられている。せりなは自分から上着をたくし上げ、胸をあらわにする。
 くまのふさふさした手で、乳首を擦ってみた。
「あんっ……やっぱりこれ、いいかも」
 さわさわとした感覚が、まだ幼く敏感な乳首を優しく撫でてゆく。指でいじるときとは全く違った、くすぐったくてもどかしくて、でもこみ上げてくる快感。
「『パパ』とちがってしんせん……あ、ごめんなさい」
 シットした『パパ』が、正面からせりなの唇を奪った。燃え上がるような、情熱的なキスだ。せりなは愛されていることを実感して、うっとりと目を閉じる。
 くまに乳首を責められ、『パパ』に唇を奪われ、せりなは更に蜜が湧き出してくるのに気づいた。シーツに染みが残ることを少しだけ心配したが、もう止まらなくなってしまっていた。
「んくっ、せりなのココねぇ、あふれてるの」
 軽くスリットを押し開くだけで、指がびしょびしょになる。その指先でクリトリスをくにくにとこね回す。鼻にかかった声でせりなは鳴いた。
「んんんっ、だめ、だめぇ、すぐ、すぐにいっちゃうよぉぉっ」
 くまも乳首を擦ってくれているので、いつもよりもすぐに絶頂に達してしまいそうだった。しかし──
「あ、だめ、あ、あっ」
 ちゃっちゃちゃらららら〜ん♪
「きゃぁっ!」
 せりなはいきなり立ち上がろうとして、足首に引っかかったままだったパンツに爪先を引っかけ、派手にベッドから転げ落ちた。
「……いったぁい」
 ……ちゃっちゃちゃらららら〜ん♪
「いっけない、でんわ、でんわ」
 軽快に鳴り響く「エリーゼのために」にせき立てられて、せりなはコードレスホンを取った。
「……はい、室尾ですが」
『せりな、悪い、お願いがあるんだ』
「ぱっ、パパ?」
 せりなは見えていないのにも関わらず、焦って服を整えた。
『大事な資料を忘れてしまって、今すぐFAXしてくれ』
「い、いますぐファック……す?」
『パパの部屋に入って、机の上の封筒があるから、折り曲げてない書類五枚、こっちに送って欲しいんだ。番号は短縮ダイアルに入ってるから、判るな?』
「……うん」
『じゃあ、頼むぞ』
 ぷつっ。
「あ、パパ……」
 つー、つー、つー。
 さんざんまくしたてるだけまくしたてておいて切れたコードレスホンを、せりなは見つめた。
「パパ……おしごと、がんばって」
 ぎゅっ、と抱き締める。乱暴で飾り気のない電話だったが、それがせりなには嬉しい。パパはせりなのために、お仕事を頑張ってくれているからだ。
「せりなもがんばる。パパのために」


 せりなは仕事部屋の扉を開けた。
「そういえば、ひとりで入るのってはじめてだ」
 たまに入室する機会があった時も、いつもパパも一緒だった。うずうずと、せりなの好奇心がうずいた。
「……でもでも、はやくたのまれたこと、やっちゃわないと」
 せりなは部屋に踏み込んだ。窓にはカーテンが閉めっぱなしになっており、薄暗い。電気をつけて、部屋を見渡す。
「つくえって……どこ?」
 部屋は荒れ放題で、いろんな書類だか原稿だか資料だかが散乱している。ヘタに触れると崩れそうなほど、うず高く積み上がっていた。几帳面なはずの猛秋だったが、仕事に関しては別らしい。
 それでも人の移動する道の分は床が見えているので、それにしたがって進むと、椅子にぶつかった。
「イスがこれだから……これがつくえぇ?」
 机の卓面はまったく見えなかった。全て書類などで埋め尽くされている。せりなには、何の書類なのかよくわからないが、きっとそれなりに大事な書類に違いない。
「……封筒って、これかなぁ」
 むき出しの書類の山の中に、一通だけ大判の封筒があった。封はしていなかったので中を開けてみると、確かに三つ折りの書類に混じって、折り目のない書類が幾枚かある。
「はやく、はやく……」
 せりなはそれを摘みだし、すぐにFAXしようと振り向いた。
 こつん。
「わ」
 肘が、高く積み上がった本の山に当たった。絶妙なバランスを保っていたその山が、ぐらぐらと大きく揺れる。
「わわ〜っ!」
 慌ててせりなはその本の山を押さえようとした。すると力余って押してしまい、本の山は向こう側に崩れてゆく。向こう側には別の山があり、さらにその向こう側にも山があった。
「あ……」
 ドミノのように、山が順番に崩れてゆく。その様子を見たせりなはふうっ、と意識が遠のいていった。どうしよう、どうしよう……。
 埃とカビの匂いに包まれて、せりなは途方に暮れるしかなかった。
 見渡す限り、ぐちゃぐちゃだった。高そうな本も重そうな雑誌も黄ばんだ書類も封がしたままの手紙も、みんなごちゃまぜになってしまった。
「どうしよう……」
 半泣きになりながら、せりなは立ち尽くした。きっと、おしごとに使う大事なものもあるはずだ。こんなになっては、パパの明日からはどうなってしまうんだろう。
「……そうか、お掃除しちゃおう!」
 急にぱぁぁ、と表情を明るくしたせりなが叫んだ。こうなってしまっては元に戻すことは不可能だ。戻すことができないのなら、よりキレイに片づけ直してやればよいのだ。
「このおへやがキレイになっていたら、パパ、よろこんでくれるよねぇ」
 せりなは、帰宅したパパに頭を撫でられている自分を想像して、うっとりとした。赤くなった頬を手で押さえると、持っていた書類に気づく。
「あ、そうか、先にこれを送らないと」
 ちゃっちゃちゃらららら〜ん♪
「わ、でんわだ」
 待ちかねたパパが、また電話してきたに違いない。せりなは書類を持って玄関の方へ向かった。


「さてっ、はじめましょっ」
 FAXし終わり、せりなは気合いを入れた。この台風が過ぎ去った後のような部屋を、キレイに片づけようというのだ。気合いでも入れない限りは、やる気にすらならないだろう。
「まず……じゃまなものを、ぜんぶ外に出さないと……」
 非力なせりなには大変な仕事だが、そこから始めないことには身動きすら制限される部屋なのだ。とにかく床の本を持ち上げ、外の廊下に積み上げるという地味な仕事にとりかかった。
「本と紙はべつにして……あれ、これなぁに?」
 せりなは特に重そうな本のようなものを見つけた。つい、開いてみる。
「ああぁっ!」
 せりなは派手に驚き、叫んだ。
「パパが、パパがヤンキーだぁ!」
 それは、アルバムだった。せりなが生まれる前、更にママと結婚する前のものらしかった。開いたページにあった写真は、髪を染めてタバコをふかしているパパ、室尾猛秋の学生時代の写真だったのだ。
「……ぷぷぷっ、にあわなーい」
 せりなは座り込んでアルバムを見始めた。同じくヤンキーな友達らしき人たちと写っている写真が多い。せりなはパパの新しい面を見たような思いで、にやにやしながら見つめていた。今でも若いパパは、この頃と顔が変わっていないのだ。
 ところが、ページを開いてゆくと、せりなの顔が青ざめた。
「やだっ……これって……」
 ベッドの上で、女の人の肩を抱いて写っている。背後が鏡になっており、シーツで身体を隠していても裸でいることがわかる。
 つまりこれは、えっちな写真なのだ。
 そして、せりなにとっての問題は、そこではなかった。
「……ママ、じゃない……」
 一緒に写っている女の人が、ママとは似ても似つかない人だったのだ。
 茫然としつつ、ページをめくってみる。
「あー、こっちのは、ちがうひと……これも……」
 数えてみると、そんな写真が七枚あって、その全てが相手の顔が違っていた。
「そんな、そんなのって……」
 せりなは、パパが好きだ。でも、パパが好きなのは、死んでしまったママなのだ。せりなはママも好きだから、ちょっびりママに対して引け目を感じることもあった。
「そんなのって、ママがかわいそう……」
 せりなは、かなりおませな小学生だ。セックスのことも、その意味もわかっている。
 ただし、せりなにとってのセックスとは、愛の行為なのだ。互いを愛しあって、その究極にセックスがあるのだ。少なくとも、相手を取っ替え引っ替えしてすることではない。
 せりなはずっと、パパとママは理想の愛の形だと思っていた。その思いが、この写真によって打ち砕かれた。
「ママだけじゃ、なかったんだ……」
 せりなががっくりと肩を落とす。
 確かに、ママと出逢う前の写真だから、仕方ないこともあるだろう。でも、こんな風にたくさんの相手とセックスしていたという事実が、今のせりなには痛かったのだ。
「……ひっく、ひっく」
 せりなは、いつの間にか泣き出していた。悔しいのか悲しいのか、そんなこともわからないまま泣き出していた。ただ、泣きたくなったのだ。
 ぽたぽたと、涙がアルバムを濡らした。
「……こんなしゃしんっ!」
 衝動的に、せりなはアルバムから写真を剥がそうとする。その瞬間、せりなの脳裏にひらめきがはしった。
「あ! そうだ」
 涙も拭わず、せりなは写真を七枚とも、引き剥がしていた。


「ママの顔を、合成しちゃえばいいんだ」
 なにがいいのかよく判らないが、自室に戻ったせりなはそうつぶやきながらiMacを起動した。スキャナとプリンタの電源も入れる。
「そうすれば、昔のパパとも、ママは愛しあえるんだから」
 持ってきた写真をスキャナにセットして、取り込み作業に取りかかる。アダルトサイトばかり巡回していたから、コラージュのコツは掴んでいた。
「……でも、ママの写真って、あんまりないんだっけ」
 ベッドの枕元にある、フォトスタンドを見る。あの写真では、表情的にも合成しにくい。かといって、他の写真はどこにしまってあるのかわからない。
「パパに聞くのはダメだし……どうしよう」
 考え込んだせりなの脳裏に、再びひらめきがはしる。
「そっか! せりななら、この写真にあわせて……」
 すぐに、はっ、と気づく。
「だめだめ、そんなの、ママがかわいそうだよ」
 でも、すぐに首を振る。
「……でもでも、ママの写真がないのはしょうがないし」
 自分の頭をぽかぽか殴る。
「ばかばか、せりなはそんなことまでして、パパをママからうばいとりたいの?」
 スキャナの読み込みが終わり、iMacの画面に写真が表示される。
「……ううん、ちがう」
 せりなは画面を見つめて、言った。
「ママからうばうんじゃないよ。この人たちから、とりかえすの」
 結論は出た。ママに代わって、せりなが、この写真の中のパパを取り返すのだ。
 そうと決まれば、せりなは早速デジカメを準備した。ベッドの上に載って、元気よく全裸になる。
「……あ、パンツはいてなかったんだ」
 デジカメを右手に持ち、一枚写してみる。液晶で確認した。
「サイズはあとから変えればいいから……もんだいは、表情」
 画面の写真を睨みつけながら、せりなはつぶやいた。
「パパとえっちしたあとの、表情……」
 せりなの妄想が、大きく膨らんだ。
「……えっちなホテルで、シャワーを浴びて……」
 せりなが、ベッドに身を横たえた。パパではない、『パパ』が、ベッドの中に入ってきた。
 『パパ』は、せりなの胸に手を置いた。ふにふにと揉む。せりなはくすぐったそうに身をよじるが、『パパ』はもう片方の手を腰に回す。これで逃げられなくなった。
「やん……んっ」
 『パパ』がせりなの乳首に口をつける。舌全体で、大きく舐めた。それだけで、せりなの乳首が反応して尖り始める。『パパ』は楽しそうに、その細く尖った乳首を舌先で弄んだ。
「ふわぁっ、んんっ」
 腰を押さえられているので、軽く脚を揺すって快感を表現すると、『パパ』はすかさずその間に手を割り込ませる。いきなりスリットに指を入れようとした。
「あんっ、だめぇ」
 せりなは『パパ』の手を押さえた。まだせりなのスリットには、指は入らない。自分で入れようとして、痛くて泣き出したこともある。
 『パパ』はそんなせりなのお願いを聞き入れ、今度はスリットに顔を近づけた。指でスリットを大きく開かせて、クリトリスの包皮を強く吸った。
「んんんっ、そ、そこはっ」
 せりなが激しく腰を浮かせた。刺激が強すぎて逃げようとしたのだったが、結果的に『パパ』の顔にスリットを押しつけた形になった。スリットの中で、『パパ』の舌が暴れる。
「ひゃっ、ん、はぁっ、あ、あ」
 せりなはシーツを握りしめ、快感の奔流に身を任せた。
 ──なんか、なんかちがう。いつもより、きもちいいの。
 明らかに、いつもの感触とは違っていた。自分の意志とは関係無しに、『パパ』は動いていた。それに、本当に舌で舐められているような感覚なのだ。自分の指先とは全然違った。
「あ、あっ、はぁっ……?」
 唐突に『パパ』の愛撫が止まったかと思うと、せりなの身体はぐいっ、と引き起こされた。うつ伏せに倒れ込むと、目の前におちんちんがある。それも、固くて大きくなったおちんちんだ。
 せりなは自然にそれを握った。『パパ』が、それを望んでいると知っていたからだ。指を絡めて強くしごき、充血した亀頭にぺろぺろと舌を這わせた。
 『パパ』はそんな健気なせりなの脚を掴んで、自分の顔の方へ引き寄せた。器用に片足をくぐり、股に顔を挟む。シックスナインだ。
「……んっ、やだ、そんなの、はずかしい、よぉ」
 せりなのおしりが掴まれて、おしりの穴まで丸見えになっている。『パパ』はその、丸見えのアヌスの方にむしゃぶりついた。
「やぁぁぁっ! やだ、そんなの、きたないよぉ」
 せりなは本気で嫌がったが、『パパ』の力は強くて逃げられない。しっかりとおしりを掴んで、アヌスの皺を舌先でなぞったりする。せりなは初めての感覚に戸惑いながらも、抗しがたい快感に酔い始めていた。
「あぁっ、だめぇっ、だめなのにぃ……」
 せりなは『パパ』のおちんちんを握りしめて、必死に口に入れようとする。しかし気持ちよすぎて、集中できない。
 そんなせりなのおしりを撫でて、『パパ』はせりなの下になっていた身体を引き抜いた。うつ伏せで膝を立てた状態のせりなは、荒く息をついて呼吸を整えた。
 しかし、『パパ』は休ませてはくれなかった。せりなは自分のアヌスに、ぬるっとしてはいるが固いものを押しつけられたのに気づいた。
「おしりの……あな?」
 慌てて振り返りながら叫ぶ。
「そんなっ! せりな、そんなの入らないよぉっ!」
 ずんっ。
「……っっ!!」
 声にならない声で、せりなは呻いた。アナルセックス。妄想の中とはいえ、はじめての経験だ。なにしろ、せりなはまだ、妄想の中でも処女であったのだ。
 いきなりの変態的な行為に、せりなが羞恥の涙をこぼす。それでも『パパ』は構わず、ずん、ずん、と突き上げてくる。
 ──ひどい、ひどいよ、パパ……
 せりなが心の中でつぶやく。自分の妄想のはずなのに、自分の思うとおりにはならない。それだけではなく、感覚も本物のようだ。現に今、せりなは自分のアヌスには指一本触れていないのだ。
 ──どうして、どうしてこんなに……
 誰も答えるものなどいないはずなのに、せりなには答えが聞こえた。
 ──……ちがっ! ちがうぅ。せりな、せりな、こんなこと、望んでないよぉ。
 『パパ』の腰の動きが、激しくなる。手がクリトリスに伸びる。
 ──……でも、せりな、ぐしょぐしょになってるぅぅ……
 せりなが考えられたのは、そこまでだった。アヌスとクリトリスへのリズミカルな攻めが、神経を焼き切ってしまったかのようだ。白熱した頭では、なにも考えることができない。
「ふわぁ、あっ、んっ、んんんん、はぁっ」
 ぽたぽたと愛液を垂らしながら、せりなはただシーツを掴んでいた。聞こえるはずのない、ぱんっ、ぱんっ、という音まで聞こえてくる。
「……っ、い、いっちゃう、せりな、おかしくなっちゃうぅ」
 アヌスをえぐるおちんちんの勢いが早くなる。『パパ』も絶頂が近いに違いない。せりなはシーツを噛みしめた。
「んんんんっっっ!!」
 達した瞬間、ずんっ、と強く深い一撃。『パパ』の射精だ。せりなのアヌスの奥深くで、『パパ』も達したのだ。
 小刻みな痙攣の後、おちんちんの抜ける感覚がした。せりなは力無くベッドに突っ伏す。
「はぁっ、はぁっ」
 目を閉じたまま、苦しそうに息をするせりなの頬に、柔らかい感触がした。唇のようだった。
「……パパ?」
 せりなが目を開いても、そこには『パパ』もパパもいない。誰もいない。
 全てせりなの妄想なのだから当たり前なのだが、せりなにとってはとても妄想とは思えない出来事だった。
「……パパ、きもちよかったよっ」
 あんなにひどいことをされたのにも関わらず、せりなの思いは最後の口づけ(らしき感触)でめろめろに溶けてしまっていた。悪気があってのことじゃなくて、パパはせりなを悦ばせるためにしてくれたんだ、そんな風に思えたのだ。
 それ以前に、たかが妄想のはずの『パパ』にそれだけのことができたという点に疑問を持つべきだが、今のせりなはなんだかとても満ち足りていて、そんな無粋なことを考えてこの幸せをかき消したくはなかったのである。
「……ふみゃぁ、パパぁ」
 パパの代わりに、せりなはくまのぬいぐるみに抱きついた。ぎゅっ、としがみついて目を開けると、枕元に置いておいたデジカメが視界に入る。そうしてやっと、せりなは当初の目的を思い出した。
「……じゃあパパ、いっしょに記念撮影だよっ」
 少し恥ずかしげに、それでも満面の笑みを浮かべて、せりなはデジカメを自分に向けた。
「ぴぃーっす!」


 その夜、遅く。
「ただいまー……なんだ、せりな、まだ起きてたのか」
「うん、パパを、待ってたの。おかえりなさぁい」
「そうか。でも、早く寝ないと明日、遅刻するぞ」
「うん」
「……あ、そうそう、今日のFAX、助かったよ」
「えへへ」
 玄関で待っていて、パパの荷物を持ったせりなの頭を、猛秋はなでなでした。本当に嬉しそうな顔で、せりなはパパの先を歩く。
「パパ、あとね……」
「ん?」
「……おへや、かってにかたづけちゃった」
「おへやって……パパのか?」
「うん」
 猛秋は急に不安になった。猛秋の仕事部屋は、それはもうすごい状態だった。猛秋本人が、もうお手上げだと思っていたのだ。それをせりなが片づけたという。不安になるなという方が無理な話だ。
 せりなのために、猛秋はなるべく不安を押し隠しながら扉の前に立った。
「……どれどれ」
「…………」
「お、おおっ!」
 物の多さは仕方ないにしても、部屋は格段に整理されていた。少なくとも、崩れてしまうようなことはない。
「す、すごいじゃないか、せりな。これを全部ひとりで?」
「うん、じつは、ついさっき、終わったの」
「ありがとう、せりな」
 パパは、せりなを抱き締めた。せりなはみるみる真っ赤になる。
「パパ、せりなを見直したよ。来週こそ、一緒に出かけような。せりなの好きな場所でいいぞ」
「ほんとぉ!? パパ」
「ほんとほんと、今度は呼ばれても出勤なんかしないぞ」
「やったぁ」
「でも……今日はもう寝なさい」
「うんっ」
 元気よく答えて、せりなはぱたぱたと自分の部屋に向かう。しかし、すぐに立ち止まって、ぺこりと頭を下げた。
「おやすみなさぁい、パパ」
「おやすみ、せりな」
 自室に入るのを見届けてから、猛秋は仕事部屋に踏み込んだ。部屋を見渡して、本当に感心する。
「……いやー、やっぱり、ウチの娘はやればできる娘だった。最近いろいろあって、少し不安だったが……やっぱり天才だよ」
 親バカな猛秋が、『若気の至り』として封印しておいたはずのアルバムの中の数枚の写真が差し替えられていることに気づくのは、まだまだ当分先のことであった。


「……えへへへ、ほめられちゃった」
 ベッドに潜り込んで、せりなはパパに抱き締められた感触を思い出していた。
「それに……パパの昔の思い出に、せりなも参加できたし」
 フォトスタンドを裏返した。そこには今日合成した、せりなとパパの写真が入れられていた。その技術はなかなかで、目を凝らしても作りものには見えなかった。さりげなく、パパの髪の色も黒く染め変えられている。
「……ママ、ごめんなさい。でもっ」
 せりなは、力強く宣言した。
「やっぱりせりなは、パパを愛してるの」



第4回へ続く