『えきせんとりっく☆せりな』
第2回「せりなの恋愛相談室」
坂下 信明
私立義陵大学付属小学校。それがせりなの通う学校の名前だった。
名門である義陵大学の付属校であり、完全なエスカレーター制ではないもののかなりの生徒が付属中学、付属高校と進学する小学校ということで、特に競争率の高い私立小学校の一つである。
室尾せりなは自分の席から窓の外を見つめていた。教室にはまだ、半分ぐらいしか児童はいない。遅刻の多いせりなにしては、そんな時間に教室にいることは珍しかった。
「……はぁっ」
溜息をつく。重い重い溜息。せりなの脳裏には、昨晩見てしまったインターネットでのムービーが何度もリフレインされていた。
「……せりなぐらいの子だったのに、ちゃんとできてた」
せりなの性知識は、偏ってはいたもののより多くのエロメディアに触れることによってそれなりに成熟してきていた。セックスの最終的な目的が、おちんちんをえっちな穴に挿入して射精すること、ぐらいはもう知っている。そして、おちんちんとえっちな穴のサイズがあまりに違う場合は、それが不可能であることもわかっている。
……どんなに望んでも、せりなの穴にはパパのおちんちんが入りそうもないことも、理解している。悲しいことだが、入らないものは入らない。一度自分の小指を挿入しようとして泣きだしてしまったことが、せりなにはあった。
だからせりなの妄想は、たいていが挿入までには至っていない。本人がありえないと思っていることなのだから、妄想や夢想とはいえ、そこまで展開することがなかったのだということだ。
「せりなとおんなじぐらいの子なのに、ちゃんとはいってた……」
しかしせりなは昨晩、見てしまったのだ。パパの目を盗んでのエロサイトのネットサーフィン中に、うっかり紛れ込んでしまったハードコア・チャイルドポルノの世界。そこでは、ありえない行為があたりまえの行為として扱われていたのだ。
まだ一ケタであろう年齢の少女たちが、おちんちんと戯れ、えっちな穴をいじられ、そして……挿入されていた。せりなは初めて見る映像に釘付けになり、結局昨日は一睡もしていなかった。
「……せりなにも……できるのかも」
昨夜から、何度も繰り返されたつぶやき。そしてつぶやくたびに、せりなの股の部分が熱く火照るのを感じていた。せりなは無意識の内にスカートの中にもぐり込んでしまう自分の手に気づき、慌てて自制した。
「だめ、こんなとこでしちゃ……」
「どうしたの、せりなちゃん」
「あっ」
いきなり声をかけられて、せりなは口から心臓が飛び出そうになった。ドキドキしながら振り向く。
「せっ、星花ちゃん」
「おはよう、せりなちゃん」
声をかけたのは、せりなと特に仲のよい少女、和泉星花だった。
長くてボリュームのある髪を持つせりなは、どちらかというと派手めな美少女といった印象だが、星花はそれとは反対の、素朴なかわいらしさを持った少女だった。短く切りそろえた髪は健康的だかボーイッシュというわけでもなく、せりなを見つめる笑顔が愛くるしい。
「めずらしくはやいんだね。わたし、遅刻しちゃったかと思っちゃった」
「あは、あははは」
せりなは照れ笑いを浮かべてごまかした。しかし星花は、なぜだか恥ずかしそうに俯いてつぶやいた。
「……でも、ちょうどよかった」
「え?」
「……あのね、せりなちゃん、わたし……相談があるの」
言いにくそうに口ごもりながら、星花はそう言った。
「なになに、せりなでよかったら、なんでも相談にのるよ」
「ありがとう……でも」
星花はもじもじと教室を見回した。だんだん生徒が増えてきていた。せりなはぴーん、とひらめいた。気をきかせて立ち上がる。
「……じゃ、おトイレいこ」
「うん」
二人は、教室を出た。
「えー? じゃあ、星花ちゃん、そのひととつきあってるの?」
「そ、そんな大きな声で……」
洗面所の鏡の前で、せりなが驚いて大きな声を出した。星花は慌ててせりなの口を押さえる。
「……ごめんね。でも、ほんとにほんとなんだぁ」
「んと……つきあってる、とまでは言わないと思うんだけどね」
真っ赤な顔で、星花は訂正する。
「ただ、いっしょに遊んでくれるようになったの」
「……いいなぁ」
せりなが率直な感想を漏らす。
「……だけどね……」
星花は、急に顔を曇らせた
「なんだか照れちゃって、自然に遊べないの。どきどきしちゃって、顔とかもちゃんと見られなくて」
「うんうん」
せりなはわかったような相槌を打つ。
「……でね、せりなちゃんって、そうゆうことくわしそうだから、どうしたらいいのか、相談にのってもらおうと思って」
「そ、そんな、くわしくなんかないよ」
せりなは少し慌てながら、自分の家での態度を思った。いつからだろう。素直でストレートな感情を、あまりパパに見せなくなったのは。
──せりなも、おんなじ。パパが好きだって思うようになってから、うまく言葉が出なくなったんだ。
せりなは学校では人気者の部類に属する。誰にでも好かれる愛くるしい容姿と、少女マンガから得た知識によるやや大人びた話は、同級生の女の子たちからしてみればとても魅力的に見える。誰とでも会話を弾ませることができるというのは、貴重な能力でもあった。
だから、こういった内容の相談は、他の子たちからもよくあったりするのだ。
そんなせりなが唯一、スムーズに会話できなくなる相手が最愛のパパ、猛秋であるというのは皮肉な話だった。しかしせりなは頭がいい。それが、恋心のせいであることぐらいは気がついている。気がついていても、解決法がわからないのだ。
──そんなこと、せりなだって教えてほしいよぉ。
「……せりなちゃん、どうしたの?」
「あ、ん、なんでもないよ」
つい考え込んでしまったせりなに、怪訝そうに星花が声をかける。
「……こんな相談、されるのいやなの?」
「そんなことないけど、ちょっと……」
せりなが言いよどんだ。星花から目をそらしたつもりだったが、逆に鏡に写った星花と見つめあう形になる。うるうるとうるむ星花の瞳。
「わ、わかった。わかったから、星花ちゃん泣かないで」
「……ひっく」
小さくしゃくりあげる。星花は内気な性格で、誰とでも話せるタイプではない。星花は、ここでせりなに断られたら、もう誰にも相談できないと思っているのだろう。
「……こまったなぁ」
「……わ、わたし、せりなちゃん、困らせてるの?」
「わぁ、いいよいいよ、こまってない。だから泣かないで」
「……うん、ごめんなさい」
ぐしぐし、と溢れかけた涙を拭う星花。せりなはほっ、と溜息をつきながら、どうしたらよいのかを考えてみた。
「……ごめんなさい。もう平気」
星花は落ちついたようだ。せりなは訊ねた。
「じゃあ、星花ちゃん、まず相手のひとのこと、おしえて」
「うんっ」
さっきまでとはうって変わって、星花の顔に喜びの色が溢れた。
「おとなりのおにいちゃんなんだけどね、かっこよくてね、背が高くて、サッカーをやってるの。それでね、わたしに優しくて、この前なんか風邪ひいたとき、おみまいにも来てくれたんだよ。でも優しいだけじゃなくて、からだは大切にしないとダメだよ、ってしかってくれるの。だからわたし、ああ、このひとはわたしのことをほんとに心配してくれてるんだなぁって思っちゃって、でもわたし真っ赤になっちゃってなにも言えなくて、そうしたら彼が勘ちがいして、こうやっておでこに手をあてて熱をみてくれたから、わたしますますなにも言えなくなっちゃって。それから彼はたまに部屋まで会いにきてくれるようになって、でもあの時のこと思い出すとね、わたしまたなにも言えなくなっちゃうの。でも彼はほほえんでくれて、その笑顔がかっこよくて……」
「…………」
せりなは口を挟めないまま、星花の話を聞いているしかなかった。
家に帰ったせりなは、さっそく花柄のiMacの前に座った。
「……ようはきっかけ、なんだから……」
呟きながら、マウスに手を置いた。
あれから、せりなは延々と星花から彼の話を聞かされる羽目になった。おかげで、その彼がどんな人物であるかはだいだいわかった。
「……少女マンガとしては、ありふれたタイプ。かっこよくて男らしいけど、それだけ鈍感で、女の子の気持ちにまでは気がまわらない……」
インターネットに接続し、目的のファイルを検索し始める。
「そんな彼と、せんさいな少女とのあいだをうめるもの……それは『うらない』」
せりなの作戦はこうだった。
簡単な相性占いのソフトを使って、二人の相性を『らぶらぶ』ってことにしてしまえば、いやでも相手も意識するようになるだろう、という他愛のないものだ。ただしその為には、二人の相性が『らぶらぶ』になる占いソフトが必要になる。せりなはとりあえず手当たり次第にフリーの相性占いソフトをダウンロードすることにした。いくらコンピューターが得意なせりなにも、まだ逆コンパイルして書き換えなどという芸当はできない。それなら、なるべく多くのソフトを実際に試してみるしかないのだ。
「星花ちゃんと相手の誕生日と血液型は……あれ?」
星花に書いてもらった紙片を拡げて、せりなは違和感を感じた。
「……これって、八才年上だぁ……」
相手の生まれた年は、星花の生まれた年よりも八年前になっていた。つまり相手は十七才、普通に考えれば高校生のはずだ。
「そんなこと、星花ちゃんひとことも言わなかった……」
せりなはなんだか騙されたような気になった。せりなはてっきり、せいぜい六年生ぐらいの少年を想定していたのに、ずいぶんと計算が狂ってしまう。果たして、高校生にこんな子供だましな作戦が通じるのだろうか。
「……でも、しょうがないや。せりなには、これぐらいしか思い浮かばないんだもん」
保存先を指定してから、せりなは椅子の背もたれに体重をかけて伸びをした。
高校生と星花。その二人が占いをやっているところを想像してみる。あまり相手にしてもらえないのではないかという思いがする。
「……じゃあ、もし、せりなとパパがやったら……」
せりなの夢想が始まってしまった。
背後に人の気配がする。せりなが振り向いた。
「あ、パパ、ちょうどいいとこにきた」
せりなはそう言ってiMacの画面を指さす。『パパ』は画面をのぞき込む。
「相性占いだよ。やってみよ」
せりなは占いソフトを起動し、二人のパーソナルデータで項目を埋めていく。ハート型をした判定ボタンを、どきどきしながらクリックする。
「……わぁ、やったぁ」
相性は最高。向かうところ敵なし。二人はらぶらぶ。
「パパとせりな、お似合いのカップルだってー」
笑顔で振り向くせりな。『パパ』は照れくさそうにしながらも、せりなの頬に手を触れる。
「あ……んっ」
『パパ』はせりなの唇を自分の唇で塞いだ。愛を確かめあうように、ねっとりと絡みつくようなキスだ。
せりなは妄想の中の『パパ』とのキスに、うっとりとした。唇が離れてゆこうとした瞬間には、ついおねだりしてしまう。
「パパぁ、もっとして……」
そして、キスが繰り返される。
──せりなの『パパ』には、なんでも言えるのに……
そんな思いが一瞬、せりなの脳裏をよぎった。途端、夢想した『パパ』がふっ、とかき消えた。
「あっ、まって……」
「せりなー、誰かいるのかー?」
「!」
いつの間にか、本当のパパが帰ってきていたようだった。階段を昇る音もする。
「……せりな?」
「はぁい、パパ」
せりなは何となく不自然にiMacに向き直り、返事をした。ドアが開けられる。
「帰り、早かったんだな」
「うん……」
パパはiMacの画面をのぞき込む。
「お、ダウンロードができるようになったんだなぁ。あんまり使ってないようなフリをして」
「うん」
さっきまでの妄想のせいで、せりなはうまくパパに接することができなかった。パパは少し残念そうな顔で、きびすを返した。
「あんまり、熱中するんじゃないぞ。目が悪くなるからな」
「はぁい」
バタン、とドアが閉まる音がして、パパは立ち去った。せりなは、寂しそうにその姿を見送ることしかできなかった。
翌朝。
せりなは大きめの手提げカバンを持って登校した。寝不足の目をこすりながら、席に着く。すると星花はすぐにそばに寄ってきた。
「せりなちゃん、おはよう」
「おはよー、星花ちゃん」
「……なんだか、すごく眠そう」
「うん、すごく眠いの……」
せりなはあくびをかみ殺しつつ、手提げカバンを机の上に置いた。
「……なに、これ」
「これはね、パソコン」
「パソコン?」
回りを少し気にしながら、せりなはカバンの中からオレンジ色の物体をちょっとだけ出した。
「iBookのたんじぇりん。せりなのサブマシンなの」
「たんじぇりん?」
せりなはすぐにiBookをカバンに押し込んだ。学校に持ってきているのがバレれば、先生に預かられてしまうからだ。
「これをね、使ってもらえばいいの。今日も、彼と会うんだよね?」
「う、うん」
「その時にね、この中に入ってる相性占いをやって、自然にフンイキをもりあげるの。それに、星花ちゃんと彼の相性が最高になるようにしてあるから」
「あ……だからきのう、わたしたちの誕生日をきいてきたんだ」
「そう。だから、今日はこれを貸してあげるね」
「…………」
返事が返ってこない。
「星花ちゃん?」
「……ありがとう。せりなちゃんが、そこまでしてくれるなんて……」
「い、いいよぉ。気にしないで」
星花は少し涙ぐんでいた。せりなはなだめる。
「星花ちゃんの恋、おうえんしてるよぉ」
「ありがと、ありがとう」
「……だけど、なんでせりなまで、行かなきゃいけないの?」
「ごめんなさい……だって」
下校途中。せりなと星花は一緒に歩いていた。星花とせりなの家は逆方向にあり、現在向かっているのは星花の家の方だ。つまりせりなも、星花の家へ向かっているということである。
「いいけどさぁ、ジャマなんじゃ……」
「だって……やっぱりふたりきりになると緊張しちゃうし」
だから緊張しないように立てた作戦なのに、とせりなは思ったが、口にはしなかった。結局押し切られる形で、星花の部屋までやってきてしまった。
「……うーん、なんだかせりなも緊張しちゃうなぁ」
「やだ、せりなちゃんまで緊張してたら、わたしだって……」
二人は星花の部屋でちょこん、と座っていた。ちゃんと座布団が二つ、準備されていた。
「……じゃあ、まずこのパソコンの使い方、教えとくね」
「うん、お願いします」
せりなはテーブルの上にiBookを置いて、電源を入れた。今日の朝に、家のiMacからファイルをコピーしてある。
「星花ちゃん、あのね、まずここの……」
ぴんぽーん。
「あ、もう来ちゃった!」
「え、え」
二人は軽いパニックに陥った。心の準備が整っていないのだ。わたわたと部屋の中を動き回る。
「じゃ、じゃあ、せりなはココに隠れてるから」
「え、なんで、どうして……」
ぴんぽーん。
「はいはーい」
「がんばってね、星花ちゃん」
「そ、そんなぁ」
ぴんぽーん。
「はーい、今いきまーす」
「……おうえんしてるからね」
ぱたぱたと部屋を出ていった星花を見送って、せりなはクローゼットの中に潜り込んだ。扉はブラインド状にスリットが入っているので、かすかだが外の様子もうかがえる。ぱたんと扉を閉めて、息をひそめた。
「……なかなか出てこないから、留守かと思ったよ」
「ごめんなさい、あの、ちょっと……」
話し声が近づいてくる。部屋の扉が開いて、二人が入ってきた。
──ふうん、よく見えないけど、たしかにかっこよさそう。
せりなは、相手の男を見てそう思った。
──でも、せりなのパパには負けるけどね。
そうつけ加えるのも、忘れない。
相手の高校生は、制服姿のままだった。きっちり詰め襟のホックを締めているところを見ると、真面目な生徒なのだろう。
「あれ、星花ちゃん、パソコン持ってたんだ」
「え、あ、ちがうの。お友達に借りたの」
「ふうん。でもマックはだめだよ。やっぱりウィンドウズじゃないと」
──ぐっ、いつものことだけど、すっごくハラがたつ。あの人は、悪い人だ。
Mac信者のせりなが、クローゼットの中で歯ぎしりした。
「……なんか、変な音が……」
「そ、そうかな、わたしには聞こえないけど」
星花はそう言いつつ、クローゼットの方を不安そうに見つめた。
「で、何に使おうとしてたの? このパソコン」
「あ、占いがね、出来るんだって」
「占い、かぁ。どれどれ」
相手の高校生は、座布団に座ってiBookをのぞき込んだ。しばらく見つめていて、星花の方に向きなおる。
「……で、どうやってやるの?」
「え、博史おにいちゃんもわからないの?」
星花が驚いた。せりなに教えてもらうことが出来なかったが、博史おにいちゃんならわかっているだろうから大丈夫だと思い込んでいたのだ。
「いやー、俺はウィンドウズしかいじったことないからなぁ。ま、だいたい一緒だと思うけど」
そう言いながら、博史はトラックパッドをちょこちょこ動かしてみた。
「ふんふん、なるほど。これかな?……違うな。じゃあこっちを開いてみて……あれ」
「どうしたの」
「ムービーファイルなんか入ってるぞ」
──!!
クローゼットの中のせりなが、声にならない叫びをあげた。
──まさか、あわててたから、アレもコピーしちゃんたんだぁ!
アレとはもちろん、インターネット上からダウンロードしたチャイルドポルノだ。QuickTime形式だったから、手当たり次第に保存してあったはずだ。
「結構あるな。これ何か、見たことある?」
博史の問いかけに、星花はぷるぷると首を横に振る。
──ダメ、そんなの見ちゃダメ、やめて。
クローゼットの中のせりなは、そう祈っていた。そんなものを見てしまえば、フンイキが盛り上がるどころか、凍り付いてしまうに違いない。
「じゃあ……」
博史がダブルクリックする音がした。せりなは、もうダメだ、と思った。
星花と博史、二人の動きが止まった。視線が、画面に釘付けになっている。
せりなからは画面は見えないが、音は聞こえてきた。じゅぷじゅぷという、下品なフェラチオの音。ネットのムービーだから短いはずの再生時間が、やけに長くせりなには感じられた。
「……なに、これ……」
星花が呟く。博史は黙って手を動かし、次のファイルを開く。
今度は、少女のワレメをローターでいじっているムービーだった。勿論無修正だ。一本の毛も生えていない幼い少女の脚を大きく開かせ、毛むくじゃらの中年の男がローターを押しつけている。
「これって、おしっこするところ……」
星花には、そのムービーの意味するところは理解できない。それでも、その行為がなんだかとてもいやらしいものであることだけは感じとっていた。
博史は無言のままで、次々とムービーを再生していった。
ファイル名の数字順に再生していくと、それは一つの流れになっていた。ローターの次には指挿入、クンニリングスと続き、少女にオナニーをさせ、再びフェラチオさせ、シックスナインの体勢になる。次第に星花も無口になり、押し黙った二人は画面を食い入るように見つめ続けた。
──どうしよう、どうなっちゃうんだろう。
せりなは、すでに飛び出すタイミングを失っていた。今、この重苦しそうな雰囲気の場に飛び出すのはかなり勇気のいることなのだ。とりあえず、なりゆきを見守るしかない。
「おちんちんが……」
星花がそれだけ言って、口をつぐんだ。おそらく、挿入シーンだろう。その後、射精シーンで終わりのはずだ。
博史は一通り見終わっても、しばらくは何も言えないでいた。エロ本自体、特に自分で買ったりはしたことのない博史だった。こんなものが世の中に存在するというだけで、ただ驚きだった。そして、こんなものに下半身が反応している自分にも、驚きだった。
「……博史おにいちゃん?」
星花がおそるおそる声をかけた。星花もよくわからないなりにショックを受けていたが、それよりもこの重苦しい雰囲気が耐えられなくなったのだ。
博史はどきっ、として振り向いた。そこには、やや瞳を潤ませたかわいい少女がいた。そう、このムービーの中で犯されていた少女と、同じくらいの年齢の少女が。
衝動的に、博史は動いていた。星花の手を取って、押し倒したのだ。
「きゃぁっ!?」
星花は、一瞬何が起きたのか理解できなかった。それは、実は押し倒した博史でさえも、理解はしていなかった。
気がついたら、博史は幼い星花を組み敷いていた。
星花の瞳が、恐怖の色に染まる。戸惑う博史。自分はなんということをしているのだろう。たとえムービーに触発されたとはいえ、こんな小さな娘に対して……。
自分のしたことの重大さに気がつき始めた博史だったが、次の星花の反応は予想外のものだった。全身の力を抜き、ゆっくりと目を閉じたのだ。更に戸惑う博史。
星花は星花なりに、なけなしの知識を駆使して起こったことの理解をしようとしていたのだ。きっといけないことなんだ、きっとよくないことなんだ。でも、きっとおにいちゃんもしたがっているんだ。
「……しても、いいよ?」
星花の大人びた言葉に、博史の心がかき乱される。
「博史おにいちゃんが、したいんなら……」
それは悪魔の誘惑であり、天使の誘惑でもあるように博史には思えた。
博史も最初は、星花のことを妹のように思っていた。博史も星花も一人っ子で、きょうだいが欲しかったのだ。でも、それだけなら足繁く通ったりはしないだろう。星花に会いたい、星花の顔が見たい、気がつけばそんな思いで日々を暮らすようになっていた。
そう、それはきっと恋なのだ。
そこまで悟った博史に追い打ちをかけるような、星花の言葉。
「……だって、わたし、おにいちゃんのこと、好きだもん」
何故だか、星花は泣いていた。悲しいわけでもないのに、涙が溢れてきた。そんな星花を見つめる博史の目が、ふっ、と優しくなった。顔を近づける。そんな知識などないはずなのに、星花は目を閉じた。
唇と唇が重なった。
──ど、どうしよう。始めちゃったみたい。
せりなは、もうクローゼットから出るわけにはいかなくなってしまった。星花と博史の二人は、ベッドに入ってしまったのだ。今出たら、どうしようもないまでに雰囲気もなにもかもをぶち壊してしまうことになるだろう。出来ることと言えば、隙間から覗くことと音を聞くことだけだ。
二人のぎこちないキスが繰り返され、博史は不器用に星花のブラウスのボタンを外してゆく。星花も手伝って脱ぎ去ってしまうと、もう上半身はランニングシャツ一枚になる。博史も慌てて詰め襟の制服を脱いでTシャツになる。
そのまま、二人は服を脱いでいった。二人にとっての教科書は、さっきのムービーファイルだ。つまり二人とも、一糸まとわぬ姿にならなければならないと思っていた。
互いに恥ずかしそうに、最後の一枚を脱いだ。星花は大きく膨らんで固くなったおちんちんにびっくりし、博史はつるつるのスリットにどきどきした。
全裸になってから、星花がテーブルの上のiBookを指さした。博史も頷いて、テーブルごとベッドのそばに持ってくる。そして再生。最初のファイルからだ。
その画面を見つめながら、星花はおそるおそる、仁王立ちになった博史のおちんちんに手を伸ばした。指を絡めると、燃えるような熱さが伝わってくる。ムービーの方にちらちらと視線をやりながら、星花はそれに口を近づけていった。
──ふぇ、ふぇらちおしてる。
せりなは驚きのあまり、クローゼットの中で硬直していた。まさか、あの星花がそんなことをするとは、夢にも思わないことだった。
──せりなもまだ、したことないのに……。
星花は思いっきり口を大きく開け、博史の半分皮のかぶったままのおちんちんをくわえた。星花の口は、亀頭の部分を口に含んだだけでいっぱいになったが、それでも健気にムービーの真似をしようと口を動かした。
しかし、ムービーとは違って、童貞の博史にはそれだけの刺激でも充分だった。慌てて腰を引いて星花の口からペニスを抜くが、あえなく射精してしまう。ばしゃっ、と星花の顔に白い液体が弾けた。星花は何が起こったのかよくわからぬまま、目を閉じて耐えるしかなかった。
「ご、ごめん……」
博史が慌ててティッシュを取った。星花の顔を拭いてやる。したたり落ちた精液もふき取った。星花はぼーっとしたままだ。
すっかり拭き終えると、博史は自分のおちんちんを見た。まだ全然萎えていない。星花もそれを見て、あっけらかんと言い放った。
「……じゃ、次にいこう?」
「うん」
博史はテーブルの上のiBookを操作した。ローターのシーン。しかし、ここにはそんなものはなかった。次のムービーに移る。
指挿入のシーン。星花はそれを見て、少しだけ恐いと思ったが、おにいちゃんがしたいんなら自分もしてもらいたい、とも思った。ムービーにあわせて、自分から脚を開いた。
博史は息を呑んで、星花のスリットに指を伸ばした。下腹部からそろそろと、下に指を這わせていく。
「……んっ」
そこは、僅かだが潤っているようだった。博史にも、女性が気持ちよくなればそこが濡れてくることぐらいは知っている。だが、こんな小学三年生でも濡れてくるとは思っても見なかった。
「もっと見たいけど……いい?」
「うん……」
多少ムービーとは違ってくるが、それを博史が望むのなら構わなかった。
ただの縦のスジでしかない星花のスリットを、博史は二本の指で押し開いた。ピンク色の粘膜が外気にさらされる。博史は奥までのぞき込もうと顔を近づけた。
いっぱいまで押し拡げると、ぽつんとした穴が開いているのは確認できた。でも、それに指が入るとは到底思えない。無理矢理入れれば、傷ついてしまうだろう。
博史は、粘膜部分を指でなでさする程度に抑えた。それでも、星花は反応した。特にスリットの上端あたりに触れると、びくっ、と電気が走ったかのような動きをする。
「……気持ちいいの?」
「わかんない……でも、んっ」
まんざらでもない反応に、博史の脳髄がかぁっ、と白熱する。もうムービーなどどうでもよくなった。そのまま、スリットに口をつけた。
「あっ」
スリット全体を唇で覆い、舌先でなぞるように愛撫する。やはり星花はスリットの上端あたりが一番感じるらしく、舐め上げるとびくびくっ、と身体を震わせた。それが嬉しくて、博史は何度も何度も舐め上げる。
「あん、んっ」
自然と閉じていってしまう脚を押さえて、博史はスリットを味わった。おしっこの薫りと、おしっこではない不思議な味が博史を陶酔させた。
「んっ、博史、おにいちゃぁん……」
星花はムービーでのワンシーンを再現しようと、今度は博史を押し倒した。そして博史と互い違いの方向を向く。シックスナインだ。
天を突くおちんちんを握りしめ、星花は再びフェラチオに挑む。博史はその快感にとろけそうになった。それでもさっき射精したばかりなので、すぐに達してしまうことはなかった。反撃とばかりに、スリットにむしゃぶりつく。
身長差があるため、やややりにくそうだが、互いにソフトな愛撫という点では二人とも、かなり気に入ったようだった。夢中になって、舐め合い続けた。
──やだ、せりなも、えっちしたくなっちゃう。
クローゼット内のせりなは、狭い場所で太股をもじもじと擦り合わせた。すでにパンツの中が湿っているのは、触らなくてもわかる。
──せりなも、ちょっとだけ……
スカートに手を入れ、パンツの中に指を潜り込ませると、せりなは自分のスリットを責めたてた。オナニーに慣れているせりなだ。自分の感じるところがどこか、熟知している。だが、声を立てるわけにはいかない。ぐっ、と漏れ出しそうになる声を押し殺して、指を動かした。
──せりなも、パパとあんなこと、したいよぉ。
嫉妬めいた感情を抱きつつ、せりなは二人を見つめながら指を動かし続けた。
星花と博史は少し疲れてきたようで、愛撫もゆっくりとしたものになっていた。逆にその方が、しっかりと快感を味わえることに気がついたのかもしれない。そう、この時点ですでに、星花はその感覚が「気持ちのいいもの」であることをはっきりと認識していた。
博史にも余裕が出てきたようで、包皮に包まれたままのクリトリスを吸いながら、星花のおしりを撫でさすったりした。とはいっても、時折腰をくねらすのは、再び射精の感覚が近づいているからに違いない。
感覚的にそれを察した星花が、おちんちんを舐めるのをやめた。そのまま博史の上からおりると、博史も身体を起こした。
「……入れない方が、いいね」
「うん……まだ、こわいから」
博史は星花の意向を確認してから、iBookを操作した。画面の中では、星花ぐらいの女の子のスリットに、極太のおちんちんが出入りしている。星花はそれを見て、すっと目を逸らした。そんな星花の頭を撫でて、博史が微笑んだ。
「大丈夫。あんなことはしないから。でも……」
「でも?」
博史は星花を横たえると、膝を掴んだ。不安そうな星花の顔。少しの膨らみもない胸と淡い乳首。かわいいおへそ。そして薄く開いたスリット。それらを満足げに見つめて、博史は同じ言葉を言った。
「大丈夫」
そう言いつつも、博史のおちんちんは星花のスリットにあてがわれた。スリットに沿って上下させると、粘液が音を立てる。
「こわい……」
「だからこうして……」
博史は星花の脚を閉じさせた。スリットと太腿に、おちんちんが挟まれた。
「このまま動くから」
「あんっ」
スリットと擦り合わせるように、博史のおちんちんが動く。すでに射精が近くなっていたこともあり、いきなり激しく動く。それでも、星花に痛みはない。互いの分泌した愛液と唾液が混じり合い、スムーズな動きを可能にしているのだ。
──やだ、ほんとにしてるみたい。
せりなの位置からでは、本当に挿入されているような動きに見える。現実の目の前で行なわれているその行為は、やはり小さい画面でしか見られないムービーよりも余程、刺激的だった。お友達である星花がしているというのも、ポイントだ。
「ああ、もう出る、出るよ」
「んっ、んあぁぁっ、お、おにいちゃぁん」
更に素早くなる腰の動き。射精が近かった。星花はシーツを握りしめる。
──んんっ、せりなも、せりなもいくよぉ。
せりなの指がひときわ激しく、スリットをかき回す。イクのなら同時にいきたい、そう思った。
「うっ!」
「ひゃんっ!」
「んくぅぅぅっ」
二度目とは思えない量を、博史は星花の腹にぶちまけた。星花はその温度を感じてうっとりとした。
どさくさに紛れて放たれたせりなの声に、二人とも気がつかなかった。
「……あの、星花ちゃん」
「ん、なに?」
服を着終えた二人は、なんだか改まった雰囲気で向かい合った。
「こんなことしておいてから、言うのもなんだけど」
「…………」
星花は、早くなってゆく心臓の鼓動を聞きながら、次の言葉を待った。
「……俺と、付き合ってくれないか?」
「はい……」
即答。そして、改めて交わされる約束のキス。
名残惜しそうに唇が離れる。何気なく、二人同時にiBookを見た。
「……じゃあ、いっしょに占いやろう」
「そうだね」
博史は占いソフトを探して、起動した。すぐに自分の生年月日と血液型を入れる。後ろで星花が自分の生年月日と血液型を言った。それも入力して、ハート型の判定ボタンを押す。
「……相性最高。絶対上手くいくってさ」
「もううまくいってるもん」
二人はそう言って、顔を見合わせて笑った。
──まだ、帰んないのかなぁ。
クローゼットの中のせりなは、いちゃいちゃしている二人を見つめながら思った。早く博史が帰らないことには、せりなは出るに出られないのだ。ここにいることを知っているはずの星花も、初めての年上の恋人にめろめろになって、せりなのことなど忘れてしまっているようだった。
──そろそろ帰らないと、せりな、またパパにしかられちゃうよぉ。
泣きたくなる気持ちを我慢しつつ、それでも幸せそうな二人を見ていると、ま、いっかぁなんて思ったり、複雑な思いを抱きつつ狭いクローゼットの中で眠りに就いてしまうのだった。
結局、夜九時過ぎに助け出されたせりなは、必死になって探し回っていたパパの車に迎えに来てもらうこととなり、延々とお説教されることになったのだった。
第3回へ続く