『えきせんとりっく☆せりな』

   第1回「おふろでパパを待ちながら」    坂下 信明


 まだ五月の朝は肌寒い。
 せりなの目覚まし時計が軽快な電子音で歌いだす。せりなはベッドの中でもんどりうちながらも、なんとか目覚ましを止めることに成功した。
「……うにゅ……まだ、ねむいよぉ」
 夢見る少女、せりなは独り言が多い。眠い目をこすりながら、枕元のフォトスタンドを見やり挨拶する。
「……天国のママ、おはようございます」
 せりなのママは、まだせりなが小さいときに死んでしまっている。写真にはママとパパ、そしてせりなが映っているが、それはせりなが三歳の時のものだ。
「……パパにも、あいさつしなきゃ」
 せりなはベッドから身を起こし、立ち上がろうと努力した。しかし、ベッドに根っこがはってしまったかのように、せりなはそれ以上動けない。
「……だめ、まだおきられない」
 昨夜も遅くまでマンガを読みふけってしまったので、朝がつらいのだ。
「……パパぁ、やさしく、おこして……」
 なかなか起きられない朝には、いつもある儀式を行なう。それはパパに頭を撫でてもらうことを夢想するというものだった。
「えへへへ」
 創造力豊かなせりなにとって、夢想は単なる夢想ではない。パパのおっきな手が頭に載ったと思った瞬間には、ちゃんと温もりが伝わってくるのだ。
 そして大抵、その温もりが引き金になってしまう。
「あっ、せりな、だめ……おきなくちゃいけないのに……」
 せりなの布団の中にある足が、もじもじとすり合わされた。愛するパパの温もりが、せりなの素直すぎる欲求を開放してしまったのだ。
「パパぁ、せりなね、パパがほしいの」
 せりなの夢想の中では、パパの手は頭ではなく頬に移動している。せりなはその架空の手に自分の手を重ねて、潤んだ目で宙を見つめる。そう、そこにはパパの顔があるのだ。夢想したパパの姿が、次第に現実的な映像としてせりなの妄想をくすぐり始める。
「パパは、こんなせりなが、きらい?」
 問い掛けに、夢想上のパパが首を横に振る。せりなはその返事が現実のものであるかのように、表情をぱぁっと明るくする。
「ほんと? せりなのこと、愛してくれるの?」
 するとパパはすうっと、せりなの顔に唇を寄せる。自然に目を閉じたせりなのおでこに、頬にキスをする。せりなはうっとりとした。
 しかし、せりなの夢想がそんなかわいいところで終わるわけがなかった。
 夢想のパパは、せりなの首筋に手を這わせて、唇にむしゃぶりついていった。せりなもそれに応えるように、強くパパの唇を吸う。両手をパパの首に回して、短い舌でパパの唇を割ってゆく。
 夢想したパパとの熱いディープキス。終わるころには、せりなはすっかり出来上がってしまっていた。全身が上気し、うるうるとパパを上目づかいで見つめる。
「……うん、せりな、ぬぐね」
 夢想の中で何を言われたのかはわからないが、せりなはいきなりパジャマのボタンに手をかけた。下には何も着ていないので、すぐに肌があらわになる。
 袖から手を抜いて、上半身はすっかり裸になった。自分で胸元を見下ろす。ぺったんこの胸。わずかに浮いた肋骨。やや突き出したおなか。でもおへそはまだパジャマのズボンに隠れている。
 せりなの手が、胸に押し当てられた。両手で、両胸を押さえる。想像の中では、その手はパパの手ということになっているようだ。すぐにせりなが身を震わせて反応する。
「あっ、パパぁ」
 せりなの手、いや、夢想の中のパパの手が動く。手のひら全体で、せりなの淡く色づいただけの乳首をこすったのだ。
「あぁん、そんなにすると、すぐにかたくなっちゃうぅ」
 桜色の、虫さされのように幼い乳首が、刺激によって次第に色を濃くしてゆく。勃起しているとまでは言えないが、それなりにとがりつつあった。
「……あのね、パパ。せりな、おまたがぬれちゃった」
 片手で器用にパジャマのズボンを下ろす。白いパンツだけの姿になったかと思うと、その股の部分をパパに見せつけるように脚を大きく開いた。
「ね、パンツの上からでもわかるんだよ……」
 他の部分よりも布地が厚く、二重になっているはずなのに、そこにはすでに縦筋の細い染みができていた。
「はやく、パパがほしいからなの……パパのゆびとか、パパの、ベロとか……」
 かぁっ、とせりなの顔が赤くなる。
「ぱ、パパの、おちんちん、とか……」
 つぶやいてから、顔を手で覆った。口にした言葉が恥ずかしいものであるという認識はあるらしかった。
「だから、パパ、ね、さわって……」
 おねだりはするが、実際にパンツの中に潜り込んだのはせりな自身の指だ。へそ付近のゴムをくぐり抜け、じわじわと核心へと迫ってゆく。
「……んきゃっ」
 せりなは短い嬌声を上げる。そこは、自分ですら予想していなかったほどの潤いに包まれていたのだ。
「すご……こんなに……」
 脚を大きく拡げたぐらいでは開かないスリットは、幼いながらもしっかりと蜜をたたえていた。せりなの指が蜜にひたされ、くちっ、と音をたてる。
 そのまま、スリットに食い込んだ指を、上下に動かした。
「あっ、ぬるぬるだよぉっ」
 指の腹が、アヌスの手前からクリトリスのある辺りまでを往復する。幼い肉芽は包皮から顔を出すことはないが、包皮越しの刺激にも敏感な反応を見せた。指のひっかかり具合で、次第に勃起していることがわかるのだ。
「あん、あっ、パパぁ、せりなの、もっと、もっと愛してぇ」
 くちゅくちゅくちゅ。
 蜜の量が増え、音が変化してゆく。
 せりなは自分の股を攻めながら、もどかしそうにパンツを下ろした。膝までしか下ろされないパンツが、逆にいやらしさを倍増させている。
 膝にひっかかったままのパンツのせいで脚を拡げられなくなってしまったが、せりなの指はたくみにスリットをかき分け、最も感じる部分を愛撫する。
 せりなの夢想の中では、パパがせりなの大事なところを優しく愛してくれていることになっている。そう思うだけで、スリットに甘い疼きが走るのだ。
「あ、あ、あっ、ん、ぱ、パパっ、せ、せりな、もう……」
 指が早くなり、大胆になる。蜜の源である膣口に、ほんの僅かだが指先が食い込んだ。その刺激に、せりなは身体全体をくねらせて腰を浮かせた。
「だめっ、でちゃ、だめぇぇっ!」
 急に訪れた衝動。しかしその瞬間のせりなには、対抗するすべはなかった。
 ぷしゃあぁぁぁっ。
 金色のほとばしりが放物線を描く。なんの抵抗もできないせりなは、無駄だとわかっていながらも必死に股を手で押さえた。
 朝一の放尿は、そう簡単にはとまらない。手で押さえたため、せりなとベッドはおしっこまみれになった。臭くはないが、独特の匂いが部屋に充満する。
「……やっちゃった……」
 オナニーの快感も夢想の喜びも一瞬で吹き飛んで、せりなは青ざめた。せりなはもう九歳だ。小学校三年生だ。おねしょをするような年齢ではなかった。
 それだけではない。ほんの一週間ほど前、今日と全く同じシチュエーションでおもらししてしまって、パパに怒られたことがあったのだ。
「どうしよう……またパパにおこられる……わるいこだって、いわれちゃう」
 つぶやくと、自然と目が潤んできた。大好きなパパ、愛してるパパ、そんなパパに怒られること、悪い子だと思われることが、せりなにはつらいのだった。
「うっ、うっうっ……」
 ぼたぼたと涙が落ちていった。せりなはパンツを上げることすら忘れて、ただ涙をこぼした。ベッドに新しい染みを拡げてゆく。
「んっ、すん、ま、ママぁ、どうしようぅ……」
 今度は溢れ出る涙が止まらず、せりなはごしごし目をこすりながら枕元のフォトスタンドを見やる。しかし、写真が答えてくれるわけがない。
 このまま泣き続けたとしても、事態が好転するわけがない。せりなは泣きながらも、必死になってどうしたらいいのかを考えていた。
「……わかんないよぉ」
 更にこみ上げてくるものをぐっ、と飲み込み、せりなは絶望に震えた。
「……とにかく、ふかなきゃ」
 このままなにもしないでいるのはよくない。とりあえずせりなは、少しでも自分のおしっこを拭いておこうと思ったのだ。
 ようやくパンツを上げると、せりなは脱いだパジャマに視線をやった。この部屋には雑巾なんて常備されてはいない。しかし何か拭くものが必要だ。となると、適当な布で拭くしかない。
 せりなは赤くなった目をこすりつつ、パジャマを丸めたものでベッドをごしごしした。すると不思議なことに、ベッドの染みはなんにも変わらないのに、今度はパジャマの方がおしっこを吸って重くなっていった。
「あ……」
 結局その行為が事態を更に悪化させているということに気がついた頃には、ずっしりと濡れてしまったパジャマとびっしょりと濡れてしまったベッドとの二点セットが出来上がってしまっていた。
「あ、あうぅぅ」
 独り言が多いわりには、せりなはどうしようもなくなるとなんの言葉も出なくなってしまう。ただ、呻くような声を出すだけだ。
「ううぅ」
 すっかり頭の中が混乱してしまい、せりなはベッドに突っ伏した。つん、とおしっこの匂いが鼻を刺激する。気化してゆくおしっこが、せりなの体温を急激に奪い始めていた。


 パジャマ姿の室尾猛秋は、いつまでたっても降りてこない娘のため、階段を昇っていた。
 猛秋は独身だ。妻を亡くしてから五年になる。その間、猛秋は娘のせりなを男手ひとつで育ててきた。せりなは学校でも評判の優等生で、誰にでも好かれる、優しい娘だ。猛秋の自慢の娘であり、目の中に入れても痛くもなんともない。
 その愛娘に最近奇行が目立つようになって、猛秋は不安になっていた。遅刻が増えただけではなく、一度だけだが学校をサボった日もあった。理由を訊ねても、教えてくれない。
 更に、先週はおねしょをした。小学校に上がって以来、初めてのことだった。
 猛秋は、愛娘がよい子に育っていっていることが子育ての自信に繋がり、一人でも立派に育て上げようという信念を持っていた。それが、揺らぎつつある。
 ──やっぱり、母親は必要なのか?
 などと弱気に考え込んだりもした。
 出来うる限りは、猛秋は母親役もこなしてきたつもりだった。それなのに、今のせりなには猛秋にも理解できない部分があった。子供のことは、常に把握しておく努力を怠らなかったはずなのに。
「……せりな、まだ寝てるのか?」
 せりなの部屋の前に立ち、猛秋は声をかけた。なんの反応もない。
「開けるよ」
 猛秋はドアノブを回した。小学生のうちは部屋に鍵はかけないことが、せりなとの約束だ。
「せりな……っ!」
 せりなはベッドの上で、パンツ一枚で突っ伏していた。つん、とおしっこの匂いがする。また、おねしょをしてしまったらしい。
 しかし一体どんなことが起きれば、こんな状況になるのだろう。くしゃくしゃになったパジャマまでおしっこでぐしょぐしょになっているし、掛け布団は全部めくられた状態だし、広がった染みの真ん中でせりなはうつ伏せになっている。
「……そうか、パジャマでおしっこを拭こうとして……」
 猛秋はベッドに駆け寄った。せりなはおしっこをパジャマで拭き取ろうとしながら、再び眠りについてしまったらしい。
「……いかん、身体が冷えているじゃないか」
「ん……パパ?」
 猛秋は慌ててせりなを抱き上げた。急な浮遊感に、せりなが目を覚ます。
「あ、パパっ、ごめんなさいっ!」
「いいから、そんなことより、早く身体を……そうだ、ついでにお風呂に入った方がいいな」
 全身からおしっこの匂いを発散しているせりなを見て、猛秋は言った。
「……ごめんなさい」
「いいから、早くお風呂に入ろう。このままだと、風邪をひくぞ」
 せりなを抱えたまま、猛秋は階段を下りた。せりなは、ぎゅっ、と猛秋のパジャマを握りしめる。
「そうだ、一緒に入ろうか?」
「え……」
 しゅんとしていたせりなは、猛秋の思いがけない言葉に心臓を止めた。
「最近、忙しくて一緒に入ってなかったからなぁ。今日はパパもゆっくりだから、一緒にお風呂に入ってから、学校まで送ってあげるよ。少し遅刻するかもしれないけど、そのまま学校には行けないだろ?」
「ほ……ほんとに、いいの?」
「ああ、ただし、今日だけだぞ」
 猛秋は、せりなの喜びは『学校に送ってやる』ことだと思っていた。しかし、せりなが本当に嬉しいのは『一緒にお風呂に入る』ことなのだ。
 風呂場について、猛秋はせりなを下ろそうとした。
「……せりな、手、はなして」
「……あ、ごめんなさい」
 掴んではなそうとしないせりなの手をほどいて、猛秋も無造作にパジャマを脱ぐ。
 パンツ一枚だけのせりなは、そんな猛秋の姿を見つめながら、ぼうっと立ち尽くしてしまった。
 ──パパのはだか……すてき。
 やや痩せ気味だが、均整の取れた身体をしていることは事実だ。それでも、うっとりと見つめてしまうのは、恋の欲目というものだろう。
「おっと、眼鏡を忘れてた」
 危うく引っかけてしまいそうになった眼鏡を洗面所に置き、猛秋はズボンも脱いだ。派手なトランクス一枚になる。
「……せりな」
「…………」
「せりな、どうしたんだ。早く脱ぎなさい」
「はっ、はい」
 見とれていたせりなは、猛秋の声で現実に引き戻された。自分も脱がなければならないのを忘れていた。つい、思ったことを口にしてしまう。
「……ほんとは、ぬがせてほしいなぁ」
「はははっ、もう赤ちゃんじゃないだろ」
「!」
 口にするつもりじゃなかった言葉。さらに『赤ちゃんじゃないだろ』という答え。せりなはショックを受けた。がーん、という文字が頭の上に浮かんだ。
「……どうしてそんな泣きそうな顔をするんだ? しょうがないなぁ」
 重度の近視である猛秋は深刻な表情になったせりなの顔を覗き込んで、やれやれといった感じで手を伸ばす。猛秋にしてみれば、おねしょにしろ、この言葉にしろ、優等生だったせりなが少しだけ幼い頃に巻き戻った感覚なのだろう。
 しかし、せりなにとってみれば、それは僥倖とも呼べるものだった。パパに、愛するパパに、下着を下ろしてもらえるのだ。それも、シャツとかではなく、パンツだ。
 せりなは緊張して、「きおつけ」の姿勢になる。
「おいおい、それじゃ脱がせられないぞ」
「あ、うん」
 せりなが脚を少しだけ開くと、猛秋の手が無造作に白い布を引きずり下ろす。きれいな筋一本のスリットがむき出しになった。
 ──ああっ、パパに、パパにせりなの、見られてるぅ。
 しかし、猛秋は特に何の反応も示さない。すでに眼鏡を外してしまった猛秋にとって、せりなのスリットはただの肌色にしか見えなかったのだ。それにたとえ見えていたとしても、娘のスリットをまじまじと見るようなことはしないだろう。
「はい、脚上げて……よし、それじゃ、先に入って」
「……はぁい」
 あまりにもそっけない反応しか得られず、せりなは少しがっかりした。
 扉を開け、せりなは風呂場に入った。洗い場は二人同時に入っても充分な広さだろう。清潔そうな青いタイルに、猛秋の几帳面とも呼べる性格が現れていた。
「……やっぱり、せりながまだ子供だから、だめなのかなぁ」
 せりなは自分の裸を見おろしながら、溜息をついた。裸を見ても、パパはなにも反応してくれない。それがなんだか悔しいのだ。
 というか、子供という点では、せりなはいつまで経っても猛秋の「子供」以外の何者でもないのだが、そんなことは最初からせりなの思考回路には組み込まれていない。せりなはいつか、パパと結婚できるのだと信じている。
「もっとおっぱいがあって、おまたに毛がはえてたりすれば、パパもよろこぶのかなぁ」
 せりなの読んでいる「教科書」では、裸どころか下着を見せただけでも男は興奮してすぐにその気になっていた。せりなはパンツまで脱がさせたのだから、そのまま襲われてもおかしくはないはずだ、などと勝手に思いこんでいたのだった。
「……パパ、せりなはいつでも、おっけーだよぅ」
「おっけーなら、入るぞ」
 猛秋はそう言いながら風呂場に入ってきた。せりなはまた考えをそのまま口にしていたことに気づき、真っ赤になる。
 更に、せりなの視線は猛秋の股間に釘付けになった。最近よく夢見ていた、パパのおちんちんだった。夢想の中のものとは違い、それはおっきくも固くも天を突き上げてもいなかったが、愛するパパのおちんちんであることには違いはない。
「……パパの、かわいー」
「なっ、なにを言うんだ! せりな」
 猛秋は大慌てで股間を手で隠した。
「あ、あんまり見るんじゃないぞ……くそう、気にしてるのに」
「え? どうして」
「いいからいいから、ほら、シャワーを出すぞ。目をつぶって」
 猛秋は力ワザでせりなの目を閉じさせると、いきなりシャワーを出した。
「きゃあっ、つめたーい」
「おっと、温度調節温度調節……よし、これでいい」
 しゃあぁぁっ、とせりなの全身にお湯が降り注ぐ。せりなはその感覚にうっとりとする。自分で入るお風呂の時とは、段違いの気持ちよさだ。愛する人に身体を流してもらえる、それ以上の喜びはそうそうないのだ。
「……あれ、ちょっと待てよ」
 その至福の時が、いきなり中断された。猛秋がシャワーを止めてしまったのだ。せりなは残念そうに猛秋の顔を抗議のまなざしで見上げる。しかし猛秋は扉の外の方に、意識を集中させていた。
「……やっぱり電話だ。悪い、せりな。あとは自分でやりなさい」
 そう言い残して、猛秋は慌ただしく風呂場をあとにした。シャワーヘッドを手渡されたせりなは、ぽつーんと立ち尽くしてしまった。
「……そんなぁ」


「……はいっ、おまたせしました、室尾です……なんだ、滝沢か」
『なんだじゃありませんよ、大変なんです、編集長』
「どうしたそんなに慌てて。雑誌に穴でもあくっていうのか」
『そうなるかもしれないんです。特集記事の甲野さん、事故で入院です』
「なんだと!」
『意識不明で、かなりヤバイ状態らしいです。どう考えても間に合わないんで、急いで代稿依頼しないと』
「ちっ……今回は信頼してたからな……わかった、こっちから電話する。そっちは、見舞いの準備をしておいてくれ」
『もう呉崎さんが行ってます』
「わかった。手配が終わったら、連絡する」
『お願いします』
 電話を切り、猛秋は溜息をついた。
「……なんてことだ、油断したとたん、これだ。運のない……」
 腰のタオルをきつく巻き直すと、猛秋は風呂場に向かって叫んだ。
「せりな! パパはちょっと急用だ。自分で洗って出なさい。送れなくなったが、ちゃんと学校には行くんだぞー!」
 返事を聞く暇もなく、猛秋は自室に仕事用のアドレス帳を取りに走った。


「えー、そんなぁ」
 猛秋の言葉を聞き、風呂場のせりなはむくれた。
 しかし、なにかおしごとで大変なことが起きたらしいことは、せりなにもわかった。聞き分けのよい、いい子であるせりなにとって、ここでわがままを言ってパパを困らせるわけにもいかない。
「……さいきん、ずっといっしょに入ってなかったのに」
 わかってはいても、なんだか納得できない。
 せりなは釈然としないまま、シャワーで身体を流してから、湯船につかった。待っていたので、身体が冷えてしまっていたのだ。
 昨日から入れたままだったぬるいお湯の中で、せりなはむうっ、と膨れて顔をお湯の中に突っ込んだ。ぶくぶくと泡を吹いた。
「……ぷはぁっ」
 苦しくなって、ようやく顔を上げる。長い髪が濡れてずっしりと重く垂れ下がっていた。寂しそうに、その髪の先を指でつまむ。
「……パパの、ばか……」
 なんだか妙に切なくて、せりなは自分が涙ぐんでいるのに気づいた。
 いつから、こんなに苦しくなってしまったんだろう。純粋にパパを好きで、一緒にいられるだけで嬉しかった時代もあった。でも、今ではそれだけでは満足できなくなっていた。もっとずっと一緒にいたい、肌と肌を触れあわせていたい、唇を重ねたい。そんな思いで、せりなはたまに押しつぶされそうになる。
「もう、せりなはあのころにはもどれないの」
 せりなはもう子供ではない、と本人は思いこんでいた。恋を知ったその日から、父への思いが恋だと知った時から、せりなはもう子供ではなくひとりの女になっていた、と本人は思いこんでいた。
 泣きたくなったので、ぷるぷると頭を振ってせりなはガマンした。違うことを考えようとする。ぬるいので追い焚きのスイッチを入れながら、いろいろと考える。
「……だめ、パパのことしか、かんがえられない」
 ぼんやりと、パパの姿を思い描く。久しぶりに見たパパの裸を、夢想した。
「……パパの、かわいかったなぁ」
 だらりと垂れ下がったパパのおちんちんは、これまでせりなが勉強と称して見てきたもののどれよりも、かわいらしかった。
「せりなが、おっきくしてあげたいの」
 湯船のへりから身をのり出して、せりなは夢想した父親の姿に手を伸ばした。夢想のパパはせりなの方に歩み寄り、腰を突きだした。
「たしか、これぐらいの太さで……」
 せりなは右手でわっかを作った。パパの、おちんちんの太さだ。
「せりな、パパのおちんちん、元気にしてあげるね。パパのために、べんきょうしたんだよ」
 夢想のおちんちんを、せりなは握った。触ったことなどないはずなのに、ふにゃっとした感覚が伝わってくる。
「こうやって、ゆっくりと……」
 せりなは指を絡めたまま、パパのおちんちんをスライドさせた。せりなには、パパが包茎であるという知識も認識ももちろんなかったが、皮をむいて亀頭を出してやらなければならないことは勉強済だった。
「……ね、だんだんおっきくなるんだよね」
 せりなのお勉強道具は、最初は本だけだったのだが、最近はインターネットを駆使するようになっていた。元々頭のいいせりなにとって、父親のかけた子供用のプロテクトを解いて海外のエロ動画サイトにアクセスすることは、大して難しいことではなかったのである。
「かたくなってきたよ……パパ、こうふんしてるんだよね?」
 手の動きが早く、力強くなってゆく。夢想の中のおちんちんは、どんどん固く大きく膨らんでいっている。せりなの指が、正確にその形を表現するように動いていた。
「うん、わかってる……おくちで、したほうがいいんだよね」
 包皮をスライドさせて、はちきれんばかりに膨らんだ亀頭を全て露出させると、せりなはどきどきしながら舌を伸ばした。ぺろん、とアイスキャンディーを舐めるように軽く動かした。
「……うん、せりなもどきどきだよ」
 照れて、せりなはつぶやいた。それから一度、躊躇うようにして自分の唇に指を触れて、いきなりおちんちんに口をつけた。
 つやつやした柔らかい唇に、熱くたぎった亀頭の感触が伝わる。フレンチキスで、せりなは尿道口あたりをちゅうちゅうと吸う。その間も、右手はしっかりとおちんちんを握りしめ、前後にしごく。
「……おっきい、せりな、こんなにおっきいの、口に入れられないよぉ」
 そのままくわえようとしたが、せりなの小さな口では全てくわえ込むのは無理だった。残念そうな、せりなの声だ。
「これで……ゆるして」
 ちゅぱっ、ちゅぱっとリアルな音を立てて、せりなは亀頭全体にキスを浴びせる。時折吸い付き、時折舐め、おちんちんへの愛撫を続けた。
 左手で玉袋を包み込み、マッサージを加えるところは、すでに百戦錬磨の娼婦のようだ。とても、九歳の少女とは思えない手つきだった。
「……ちがうの。せりな、そんなに『いんらん』な子じゃないよ」
 急に泣きそうな顔になって、せりなは夢想のパパの顔を見上げた。
「みんな、パパのために、べんきょうしたの……ほんとにするのは、パパがはじめて……」
 悲しく俯くと、パパの手のひらが頭の上に載る感覚がした。ぱぁっとせりなの顔が明るくなる。
「うんっ、せりな、がんばるね」
 再び、おちんちんに吸い付いていった。
 ちゅぱちゅぱしながら、しっかりとおちんちんをしごく。玉袋への愛撫も忘れることなく、せりなは懸命に奉仕した。
「……はぁっ、はぁっ、パパぁ、きもちいい?」
 せりなは、上目遣いでパパの反応を窺う。
「……せりなもね、なんか、きもちよくなっちゃったみたいなの」
 玉袋にあった左手で、せりなは自分のスリットに触れた。
「でも、いまはパパが先にきもちよくなってね。せりな、がんぱるから」
 更に懸命に、せりなはおちんちんへの愛撫を繰り返す。
「んっ、んっ、はぁっ」
 時折苦しげに吐息を漏らすが、せりなはくじけることなく続けた。次第に、パパのせわしない息づかいが聞こえてきた、ような気がした。
「……もうでるの? パパ、もういくの?」
 右手の動きを早めて、せりなが訊く。パパの反応が、絶頂の近いことを告げていた。
「パパ、せりなにかけてね。パパのせいえき、せりなのおかおにいっぱいかけてね」
 せりなにとって、精液は愛の証だ。せりなは一生懸命パパを愛したから、それだけたくさん愛がお返しされるはずだ。そう思って、どきどきしながらおちんちんをしごいた。
「……だして、せいえき、いっぱい、せりなにちょうだい……」
 その瞬間、ぱぁっと世界がフラッシュしたような気がした。
 ぴゅっ、などという生やさしい感じではなかった。ぱしゃっ、という激しい勢いで、パパの精液がせりなを撃った。
「あううっ!」
 その熱量、その勢い、それはせりながこれまで思い描いていたものとは段違いに激しいものだった。そして段違いに、気持ちのいいものだった。
 力強い最初の射精に続いて、ぴゅ、ぴゅ、と精液がせりなに降りかかる。白くて温かいそれを浴びながら、せりなはうっとりと満ち足りていた。
「……パパの、あったかいくて、いいにおいがするぅ」
 いまだぴくぴくと痙攣するおちんちんから、精液は吹き出し続けていた。せりなは現実には存在しないはずのその精液を指で弄びながら、パパに向かって笑いかけた。行為とは裏腹にその笑顔は、やはり九歳の少女には似つかわしい、邪気のない素直な笑顔なのだった。
「えへへへへ、パパ、だぁいすき……また、しようね」
 そう言って、せりなは湯船の中に倒れていった。


「……はい、そうです、ほんとにお世話をおかけします。はい、はい、ええ、宜しくお願いいたします。はい、それでは後ほど……ふう」
 ようやく受話器を置いて、猛秋は一息ついた。なんとか代わりのライターをお願いし、一安心といったところだ。
「……これから、打ち合わせか……すぐに出ないと」
 猛秋は壁の時計を見た。もう九時を回っている。移動時間も含めると、約束の十時までにあまり余裕はない。
「それにしても、なんで編集長である俺が気をつかってお願いしなきゃならないんだ? くそ、二度は使ってやらんぞ」
 普段はあまり関係のない、大御所が相手なのだった。こちらの弱みにつけ込んで、大きな態度に出た向こうが、猛秋には気に入らない。とはいえ、他にめぼしい人間がいないのも事実だ。ここは、猛秋の方が折れるしかなかった。
「……しかたない、今回だけのガマンだ……あれ、そういえば」
 猛秋は、そこでようやくある事実に気づく。せりなが、玄関を出た様子がないのだ。
「……せりな、まだ風呂に入ってるのか? 完全に遅刻じゃないか」
 猛秋は再び時計を見る。自分も急がねばならないが、せりなを放っておくわけにもいかない。編集部への連絡は移動時に入れることにして、猛秋は風呂場に向かって走り出した。
「おいっ、せりな、まだ入ってるのか? もう九時過ぎてるんだぞ」
 呼びかけても反応はない。すぐに猛秋は扉を開けた。
「せりな……」
「……んにゃ、パパぁ、待ってたの……」
 せりなは湯船につかったまま、すっかりのぼせてしまっていた。顔だけではなく全身が赤くなり、ぐにゃぐにゃになった身体が湯船に寄り掛かっている。
「……やっぱり、せりな、パパといっしょにおふろはいりたくて、それで……」
 ぱしゃっ。
 せりなは笑顔のまま、お湯の中に倒れ込んでいった。ぶくぶくと泡を出し、それでもなんの抵抗もしないまま、お湯の中に倒れていった。
「せりなぁっ、おい、死ぬぞっ」
 猛秋は大慌てで湯船に入って、せりなを抱き抱えた。朦朧とする意識の中で、せりなはパパに抱き抱えられたのを知った。満面の笑みを浮かべる。
「……やっぱり、待っててよかったぁ……」
 がくっ、とせりなは意識を失った。


 この後、猛秋は病院によらねばならなくなり、打ち合わせには一時間遅れてライターには嫌味を言われ、連絡しなかったために編集部からは責められ、タオル一枚で電話していたのがたたって風邪をひいてしまった。
 せりなはといえば、特になんの異常もなく、その日はのんびりと部屋で寝て過ごした。あの抱き抱えられた時の、パパの温もりを思い出しながら。



第2回へ続く