『呪縛の色相』より第三章

   「青い枷」  石薬師 暁生



イラスト:河澄翔


 その日は、学校全体が妙にざわめいていた。生徒たちが皆落ち着きがなく、授業もうわの空の子が多い。
 教頭である川口は特に授業を受け持っていないが、生徒たちが浮かれているであろうことは、生徒と直接触れ合う機会がなくとも大方予想がついていた。
 ──もう、夏休みか。
 時間の進む速度は、子供の頃には遅く、歳をとるごとに早くなってゆくという。それもそうだ。学生の頃には毎年、違った行事や環境の変化がある。しかし大人になってしまえば、環境は殆ど変わることもなく、一年々々が同じように過ぎてゆく。ましてや教員など、毎年同じ仕事の繰り返しなのだ。年月の移り変わりが、早く感じるのも当たり前のことだろう。
 川口は職員室の窓から、校庭を眺めた。
 生徒たちが浮かれているのは、夏休みが近いからだけではなかった。この学校──私立金剛般若学園初等部には、夏休み直前に一つの大きなイベントがあった。全校一斉の社会科見学である。社会科見学とは言っても、実際にはそんな字義通りの堅苦しい課外授業を行なうわけではない。社会科見学の名は単なる建前であり、結局は遠足に近いものだ。一般的に私立校の遠足には金がかかったものが多いが、この学校も例に洩れず、郊外にある大型遊園地に全校生徒約千二百人で繰り出すことになっている。
 その社会科見学という名文の遊覧ツアーが、明日に控えている。浮かれるなという方が、無理というものだった。
 校庭では六年生が体育の授業をしていた。走り高飛びの授業だ。炎天下の七月の校庭は、靄が浮かぶほど高温になる。川口は、よくやるな、と思った。今年で四十になる川口の身体は、既に中年男特有の脂肪がまとわりついており、生徒と一緒に体育をするということなど考えられなかった。
 ──誰の授業だ?
 川口は目をこらした。青いジャージに身を包んで笛を吹いているのは、眼鏡をかけた若い男だ。
「木崎くん、ということは二組か!」
 川口は慌てたように自分の机に戻り、引き出しからオペラグラスを取り出した。そしてすぐに窓際に寄り、オペラグラスを覗き込む。
 六年二組、それは川口の娘、理名のいるクラスだった。娘と言っても、血が繋がっているわけではない。養女として、つい半年近く前に引き取ったばかりだ。その理名を、この六年になった時に半ば無理やりこの学校に編入させた。それも、教頭という地位があったからこそ、出来たことだった。たとえ中学は公立にするとしても、この時期に学校を移るというのは、学校側に取っても保護者側に取っても余り好ましいことではない。
 川口は理名を見つけた。年齢のわりに長身な理名は、遠くから見てもよく目立った。今手を挙げて、走りだす。跳んだ。ふわりと軽く、風に乗るように身体が浮き上がり、理名はバーを越えた。体育は苦手だと言っていたが、気にするほどのことではないようだった。それどころか、飛び越えるフォームはとてもきれいで、生徒たちからも拍手が沸き起こっていた。
 川口は何故、理名を半ば強引にこの学校に編入させたのか。それは、常に手元に置いておきたいという川口自身のエゴのためだった。川口は孤児の理名を哀れんで引き取ったのではなく、子供がいない我が身を儚んで引き取ったのでもなかった。目的はただ一つ、自分の趣味、願望を満たすためだった。
 次の生徒も跳んでいる。紺のブルマーからすらりと伸びた脚が、健康的に陽光を跳ね返していた。川口は興奮して呼吸を乱しながら、オペラグラスを覗き込んだ。今の職員室には、川口しかいない。人の目は気にする必要がなかった。
 川口は異常性欲者であった。
 性欲は勿論、生殖のためにあるべきものである。しかしその目的である生殖行為を逸脱して、正常の範疇から飛びだしてしまった性欲というものも、少なからず存在した。同性愛にしても、SMにしても、結果として生殖行為に及ばないものは逸脱した性欲とされている。川口はその逸脱した性欲の中でも、最も犯罪と結びつきの強いもの──幼児愛好者に属する逸脱者であった。
 同性愛にしろSMにしろ、それが両者の同意に基づくものであったのなら、何ら犯罪とは関わりのない遊戯に過ぎない。ところが幼児愛好の行為は、いかなる状況であれ、子供の人権保護の見地から犯罪行為となる。
 よって幼児愛好の趣味は、現代においても禁断のものとなっている。同性愛のような、告白とは無縁のものだ。必死に押し隠しながら、想像力の世界の中で戯れるようになる。公園で見つけた少女を想像力で裸にし、ちらちらと覗く下着を凝視しながらその奥を思い描く。
 川口も今、その状態にあった。バーを跳び越える少女たちの姿を見ながら、頭の中で体操服を一枚々々剥がしている。小学六年生にもなると、女としての成長が顕著になってきた少女もいる。しかし川口は、そんな少女には食指を動かされなかった。川口は、真正のペドファイルだ。第二次性徴に入った少女はもう、大人の女になろうとしている。胸を膨らませ、腰に肉を蓄え、縮れた毛を大事な部分に密集させる。そうなると、川口には興味がない。川口が必死に、食い入るように見つめているのは、未だ性的な成長の見られない幼い少女だけだった。
 川口は左手でオペラグラスを強く掴んだまま、右手をスラックスの前に置いた。その中にある川口の男自身はもうすっかり怒張し、懸命にスラックスを押し上げている。川口は薄い布地の上からそれを握った。もう、我慢出来なかった。
「……誰も、来るなよ」
 小さい声で独語しながら、川口はスラックスのチャックを下ろした。中から肉の棒を引っ張りだす。石のような強度をもつ肉棒を、右手でゆっくりと扱き始めた。鈴のように割れている先には透明な液体が滲み出ており、扱く度に辺りに生臭い香りをまき散らした。指の動きに伴って身体が揺れるが、川口はオペラグラスだけはしっかりと保持して覗き続けた。
 順番が一周したのか、再び跳ぶのは理名になった。手を挙げ、助走する。踏み切って、宙に舞った。
 紺のブルマーから伸びる、日焼けした細い脚。
「うっ!」
 川口が低い呻きを洩らして、精を放った。放たれた精は勢いよくガラスにぶち当たり、どろりと伝い下りていった。


「ねえ、理名ちゃん」
 更衣室で体操服から首を抜きながら、小柄な少女が理名に呼びかけた。
「何? 藤枝さん」
「明日、社会科見学でしょ。おやつ、いっしょに買いにいかない?」
 その少女は体操服の下には何も着ていなかった。上半身裸のままで、理名の顔を見つめる。
「うん、いいけど」
「よっしゃ!」
 藤枝さんと呼ばれた少女は、素肌の腕で大げさに空を掴んだ。
「じゃ、今日はいっしょに帰ろ。お金、持ってる?」
「……うん」
「それなら、そのまま買いに行こ。車出してもらえるから、ちょっと遠くまで行けるよ。わたし、いい店知ってるから」
 おやつを買うのに、いい店などあるのだろうか、理名は少し変に思ったが、とりあえず微笑み返した。
「……それにしても理名ちゃん、着替えるの、遅いねー」
「えっ」
 藤枝はもう、ブルマーも畳んでしまい、Tシャツも着てしまっている。今からキュロットスカートに脚を通すところだ。しかし理名の方は、まだ体操服を脱いだだけで、ブルマーにランニングシャツといった恰好である。
「ほら、早くしないと次の授業が始まっちゃうよぉ」
 藤枝はくりくりと大きな瞳で理名を見て、口を尖らせた。
「あっ、ご、ごめんなさい」
「別にいいよ、理名ちゃん。そんなに慌てなくても」
 そこでくすっ、と藤枝が笑った。
「なんか、変な感じ。自分を呼んでるみたい」
 理名も一緒に笑うと、チャイムが鳴った。チャイムといっても、洋風の洒落たものではなく、寺の釣り鐘のような音だ。理名のいた孤児院はもともと教会だったから、このチャイムにはなかなか馴染めなかった。
「あっ、前言撤回、急ぐべし!」
 藤枝が叫んで、理名のブルマーに手をかけた。
「手伝ってあげる」
「え、あ、いいって……」
 理名は恥ずかしがりながらも、友達っていうのはこういうものなのかな、と思った。そして藤枝の手が、ぐいっとブルマーを下ろす。
「……あ、ごめん」
 でも、普通パンツまで脱がしてくれる友達はいないよね。理名は顔を真っ赤にしながらも、くすくすと笑った。藤枝も白く丸い理名の尻を申し訳なさそうに見つめて、頭を掻きながら笑った。


 理名が家に帰ると、もう川口はリビングのソファでくつろいでいた。
「あっ、お父さん。ただいま、遅くなってごめんなさい」
「いや、いいんだよ、別に。買い物でも、してきたのかい?」
 理名がそっと置いたビニール袋を横目で見ながら、川口は書類の束を片づけた。理名の顔が早く見たくなって、残っていた仕事を家に持ちかえってきたのだが、理名は家にいなかった。いらいらしていたところだったが、こうして理名の顔を見ると怒る気は少しも起きなかった。
「うん、明日のね、おやつを買ってきたの」
「一人で?」
「うんん、あの、藤枝さんといっしょに」
 理名はすぐにエプロンを身につけ、台所に立った。夕食の支度は、川口の妻が実家に帰って以来、理名の役目だった。
「丸善て、すごく大きかった。おかしもたくさんあって、安くなってたからいっぱい買っちゃった。こんなに食べられるかな、明日」
「丸善て、結構遠いだろ。歩いていったのか」
 丸善は、ついこの間出来たばかりのデパートだ。郊外型の大規模店舗ゆえに、車でなら行きやすいが徒歩で行くには少し距離がある。
「うんん、車に乗せてもらえたから……あっ」
 理名はそこで急に黙り込んだ。川口は訝しげに訊いた。
「どうした?」
「ん、あのね、そういえばこのことは、絶対誰にも言っちゃだめだよって、藤枝さんに言われたの」
 くるりと振り返りながら、理名は言った。
「特にお父さんには、だって。わたしのお父さんは教頭先生だから、絶対話しちゃだめだよ、って」
「……やっぱり、知られてるんだな、そのことは」
「うん、わたしは何も言ってないけど、名字もいっしょだし名簿に保護者の名前があるから、みんな知ってるみたい」
 川口は予想していたこととはいえ、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。少しでも自分の趣味を隠匿するために、自分の養女を自分の所の学校に編入させたことは秘密にしておきたかったのだ。それにPTAから、贔屓されているのではないかといった無粋な勘繰りが出てくる可能性もある。
「まあ、それは仕方ないとして、その藤枝さんの話は……」
「……言わない」
 理名は短く言い切った。川口は初めて見せた理名の反抗に、ぐっと言葉を飲み込んだ。しかし少し考え込んでから、川口は大胆な言葉を口にした。
「……そうか。言うことを聞かない子は、『お父さん』いらないなぁ」
 ごとっ、と理名が包丁を落とす音がした。冗談のつもりで言った川口は慌てた。養女にしてから、もう半年近く経っている。もうそんな冗談でも言える頃だと思っていたのだが、甘かったようだ。
「いやぁぁぁっ!」
 エプロン姿の理名が、膝を床に落とすようにして頽れた。両手で顔面を押さえて、首を激しく横に振る。
「理名!」
 川口はソファから身を撥ね上げると、慌てて理名に駆け寄った。肩を抱いてやると、細かく震えているのが判った。
「すまない、悪かった! 理名。許してくれ」
「『お父さん』! 『お父さん』すてないで!」
「ほら! 『お父さん』はここだ! ここるいるぞ」
「……『お父さん』!」
 理名は川口にしがみついた。
「理名、理名なんでもするから、すてないでぇ……」
 川口は縋りつく理名を見つめて、目を白黒させた。理名は今、自分のことを『理名』と呼んだ。ということは、今の理名はいつもの理名ではない。あの時の、毎晩十時過ぎに『お父さん』のキーワードで姿を見せる、あの幼児退行した時の理名だ。
 ──どういうことだ? あの理名は、寝てからにしか姿を現さないのではないのか。起きている時にも、あの状態になるのか?
 川口は混乱した。そしてこれまでのことを思い返している。確かに孤児院「ひかりの家」で凌辱した時にも、覚醒状態からあの状態──幼児退行のような状態になっている。そして凌辱の記憶は失ったままらしい。毎晩の凌辱は、まず初めに『お父さん』のキーワードによってあの状態にしてから、行為に及んでいる。だから翌朝の記憶に残らないことは、別段不思議ではなかった。
 こうして考えてみると、もしかすると、という考えが川口の脳裏をよぎった。
 ──つまりあの状態の時の記憶はともかく、その少し前の記憶までもがなくなるというかとか。そして目が覚めているときにもあの状態になれるのだとしたら……
 一度あの状態になったら、元に戻るたびにキーワードを与えてやる。そうすれば、あの状態を長い間維持出来るし、昼間に楽しむことも可能になる。
 川口は理名の肩を抱いたまま、そんなことを考えていた。すると理名が痙攣をやめ、ゆっくりと首を振った。
「ん、ん、」
 理名はゆっくりと目を開け、川口の顔を見上げた。
「……あれ、わたし、どうしたんだろ?」
「……理名」
 川口は、理名の口ぶりから元の状態に戻ったことを知った。適当にこの場をごまかすために、口を開く。
「理名は急に倒れたんだよ。日に当たり過ぎたんじゃないのか?」
「……うん、そうかもしれない」
「じゃあ、今日はもう夕食の支度はいいから、何か出前でも取ろう」
 川口は優しく声をかけながら、電話の方へ行った。理名は力なく、頷いた。
 ──そうか、そういうことか。それなら、明日は……
 川口の口許が、醜く歪んだ。理名には明日のために、ゆっくり休んでもらわねばな、川口はそんなことを考えながら、受話器を取った。


 翌朝、理名は準備に余念がなかった。赤いリュックサックにおやつと自分の作ったお弁当を入れ、ハンカチやティッシュ、暑いのでフェイスタオルも押し込んだ。忘れ物がないのかを、「社会科見学のしおり」を開きながら確認する。
 川口も学校へ行く準備をした。とはいっても川口は一緒に遊園地に行くわけではなく、学校で待機することになっている。よって服装も荷物も、いつもの出勤時となんら変わりはない。
「……昨日は楽しみで、あんまり眠れなかった」
 理名は嬉しそうに、リュックの口を閉めた。川口もにこやかに微笑みながら、訊く。
「嬉しいか?」
「うん。だって、遊園地なんて、行ったことないから……」
 ふっと、理名の瞳に翳りがよぎった。孤児院にいた頃を、思い出しているのだろう。しかし元気にリュックを背負うと、思い出を振り切るようにして立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行ってきます」
「それなんだがな、理名」
 川口は言いにくそうに口ごもりながら、理名の肩に手を置いた。
「何? お父さん」
「理名は社会科見学に、行けないんだよ」
 理名が驚きの表情を作った。
「……ど、どうして」
「それは、私が淋しいからだよ」
 川口の言葉がよく判らなかったのか、理名は小首をかしげた。
「みんなは楽しく遊園地へ遊んでいるが、私はお留守番なんだ。独りぼっちで、学校にいなきゃならない。だから理名、一緒に学校でお父さんといてくれ」
「そ、そんな……」
 理名は悲しげにリュックの肩紐を握りしめると、俯いた。
「……わかって、くれたかい?」
「いや」
 理名は短く答えた。
「わたし、遊園地に行きたい。だって、だって約束したから。藤枝さんといっしょにジェットコースターに乗るって。写真も、撮ってもらうの。わたし、友達いなかったから、これまでの分もたくさん写真、撮ろうって、藤枝さん、言ってくれたもん!」
 川口は予想外の強い抵抗に、戸惑いを隠せなかった。素直に「うん」と言うわけがないとは思っていたが、まさかここまで言い返されようとは、正直思ってもみなかったのだ。川口の心が、揺らいだ。昨日立てた計画を中止しようかと、考えた。
 ──いや、今日くらいしか実行できる日はない!
 しかし川口は、計画を諦めきることができなかった。やむをえず、奥の手を使うことにする。
 ──この手は、学校に行ってから使いたかったが、やむを得まい。
 川口は両手で理名の肩を強く掴んで、前後に揺さぶった。そして怒鳴りつけるように、理名に語りかけた。
「理名! 『お父さん』の言うことが聞けないのか!」
 はっ、と息を飲むような理名の顔。川口は続けた。
「言うことが聞けないような悪い子は、『お父さん』の子じゃない。どこにでも行ってしまえ!」
「……ご、ごめんなさぁい!」
 理名は顔をくしゃくしゃにして泣きだした。その泣き方は小学六年生のものと言うよりも、まるで幼稚園児の泣き方のようだった。
「もぉ、もぉしないから、『お父さん』ゆるして!」
「……じゃあ、『お父さん』と一緒にいてくれる、な?」
 そして川口は、さらに自分に言い聞かせるように言葉を継いだ。
「『お父さん』淋しいから、理名は離れないよな?」
「……うん」
 川口は自分の心の動きに、少なからず戸惑っていた。この計画に関しては、昨晩充分に悩み抜いた。しかしそれは犯罪行為が露顕する危険性について葛藤していたのであり、今自分に湧いて出た感情に関しては、予想すらしていなかった。
 ──理名、許してくれ。
 もはや自分の中には存在しないと思われていた良心の呵責が、涙を頬に伝わす理名の顔を見つめることで心を締めつけるとは、川口は信じられなかった。川口は自分の趣味のために理名を引き取ったのであり、既にその時点で理名の人格など無視している。それが今更理名を「かわいそう」だと思うのは、ひどくおかしなことだった。
 それでも川口は、心の中で理名に謝らずにはおれなかった。川口は澄んだ瞳で涙を流す、理名の眼鏡越しの澄んだ瞳を覗き込んだ。理名は川口と視線を合わせると、おずおずと腕を川口の腰に回した。
「……ごめんなさい、『お父さん』」
 川口はその言葉に、心が締めつけられるような気がした。ここで、ここで思い止まれば、もしかして私は、この娘のいい父親としてやっていけるのではないか? そんな思いが襲った。
 ──いや、もう後戻りは出来ないのだ!
 川口は首を激しく横に振って、妙な感傷を棄て去った。そして黙り込んでしまった理名の肩に手を置き、囁いた。その口調は、すでにあの悪魔のような、偽善めいた猫なで声に戻っていた。
「……よし、じゃあ『お父さん』と一緒に、学校へ行こうね」
 理名は黙ったまま、力なく頷いた。

 川口は他の生徒や先生に逢わないかと内心怯えながら、辺りを見回して歩いていた。右手は理名と繋いでいる。理名は俯きながらゆっくりと歩を進めるので、川口はもどかしくなり時折手を強く引く。その度に理名はつんのめり、転びそうになって強く川口の手を掴んだ。
 校門の前に到着した。全校の集合時刻よりも二時間程、遅い。川口が立ち止まると、理名も顔を上げた。バスはもう、とうの昔に出発してしまっている。全生徒とほとんどの先生を乗せて、バスは今頃どこを走っているのだろうか。校庭はがらんと広く、校舎も静まり返っていた。
 理名はその光景にわずかの恐怖をおぼえたか、川口の右手を両手で握りしめた。誰もいない校舎はただひたすらに空虚なだけで、まるで意味もなく建てられた巨大なオブジェのように見えた。
 川口は理名の手を引きずるようにして校門をくぐった。ついに、川口の念願としていた行為を行なうことが出来るのだ。もう川口の心には、その行為のことしか頭になかった。理名の意志など、考慮されるわけもなかった。
 その行為とは、学校の中で少女を凌辱することに他ならなかった。
 川口は、やはり無人のままの職員室の窓を横目で見ながら、感慨に浸った。一体何度、あそこから少女たちを見つめ、その場で裸にする夢想に耽ったのだろう。聖職者としての仮面を脱ぎ捨てて、まだ幼い少女たちを犯す妄想に身を焦がしたろう。しかしそれを実行することと引き換えに失うものは、大きすぎた。字義通りに、全てを失うことになってしまう。
 しかし今、川口の禁断の欲望は満たされようとしている。臆病な川口でも大胆になれるほど、理名の状態は好都合なものなのだ。精神状態は幼児並で、記憶は通常時には残らない。そして養父という立場は、たとえ疑わしきがあったとしても揉み消すことが可能である。
 川口は理名をまず、更衣室に連れ込んだ。昨日理名が藤井にパンツを下ろされた、体育用の女子更衣室だ。
「よし、理名。いい子だから、これに着替えるんだ」
 川口は自分の鞄から、理名の体操服を取り出した。昨日の脱衣籠の中から、夜の内に抜いておいたのだ。
 理名はやはり俯いたままで、黙って体操服を受け取った。そして体操服を棚に置くと、服を脱ぎはじめた。川口は眩しそうに目をそばめて、その光景を眺めていた。
 社会科見学に出掛けるつもりだった理名の服装は、普段はあまり着ることのない活動的なものだった。余裕のあるカーキのキュロットスカートに、シンプルなデザインの淡いブルーのYシャツを合わせてある。
 その服が、すとんと床に落ちてゆく。板張りの床はつやつやと光っており、おぼろげながら理名の姿を映し出している。川口の喉が、唾を飲む音をたてた。
 理名は下着一枚になった。孤児院の時よりも肉が付き、肋も以前よりかは目立たなくなっている。しかし太っているわけではない。それでもスレンダーな肢体は、未だ性的な成熟には程遠い、直線的なフォルムに包まれている。だからこそ余計に、薄い桜色で盛り上がる二つの乳首が目立っていた。
「……理名、きれいだ」
 川口は言ってしまってから、はっと口をつぐんだ。言うつもりなどなかったのに、自然に言葉が口をついて出たのだ。理名は少し恥ずかしげに、はにかむ仕種を見せた。川口はその姿にもまた、心を動かされた。それは普段の川口が抱く劣情とは異なった、本当の父親のような感情だった。
 しかしその感情を振り払うかのように、川口は理名の背後に立った。腕を前に回して、理名を抱きしめる。床に膝をつくと、理名のうなじに口をつけた。理名はくすぐったそうに背をかがめる。
 川口の掌が、理名の平坦な胸を大きくさすった。理名が鼻にかかったような声を洩らす。それは娼婦の、媚を含んだような声に川口には聞こえた。妙な感傷のために熱を失っていた劣情が、激しく首をもたげるのを川口は感じた。
 掌の愛撫に、理名の乳首が少しずつ盛り上がりを強くしてゆく。硬度も増してゆくのを満足げに確認すると、川口は指先で軽くつまんだ。理名はのけ反るようにしてそれに応える。
 川口は膝立ちのままで理名の前に回り込むと、固くなった乳首に舌を這わせた。今度ははっきりと、理名が声を出した。
「あっ、『お父さん』きもちいい……」
「そうか? じゃあ、もっとしてやろう」
 川口の腕は、腰を抱えるようにして回された。川口は舌で乳首を味わいながら、指先を白いパンツのゴムに引っかける。少しだけ、パンツを下ろした。理名の白く、ゆるやかなカーヴを描く尻が、半ばまで姿を見せた。川口は両掌で尻に直接触れると、じっくりと感触を楽しむように動かした。
 理名が恥ずかしげに川口の頭を見下ろす。腕をおずおずと伸ばして、川口の禿げた頭に手を置いた。川口の舌と指が意地悪な動きをするたびに、切ない声を洩らして理名は手に力を込めた。そうしないと、立っていられないのだろう。
 川口は理名の反応にほくそ笑むと、乳首を吸う唇を離した。そして理名の身体を存分に眺めながら、ゆっくりとパンツを下ろす。臍の下の、やや膨らんだ下腹部が姿を見せ、ついには僅かにしか見えない裂け目までもが姿を現した。川口は急に立ち上がる。川口の頭に体重を預けていた理名はバランスを崩して、倒れそうになる。それを川口は抱きとめた。頼りない理名の身体が、すっぽりと川口の胸の中に収まる。
「……『お父さん』」
「何だい?」
「……んん、なんでもない」
 理名は川口の胸に、ぴったりと頬を密着させた。何故かその仕種は、幼児退行しているはずの理名にはそぐわない、大人びた態度のように見えた。川口は急に、得体の知れない不安が押し寄せてくるのを感じた。
「……『お父さん』は、理名をずっと離さないからね」
「うれしい」
 川口は理名の意識を繋ぎ止めるために、『お父さん』という言葉を口にした。理名はその言葉に、無邪気に反応した。川口は安堵した。どうやら、杞憂に過ぎなかったようだった。
 川口は理名の下着を一気に引き下ろすと、理名に脚を抜かせた。これで理名は、一糸まとわぬ生まれたままの姿になった。川口は全裸の理名を押し倒す。固い床面に、理名の骨が当たる音がした。
 愛撫が再開された。川口の唇が、蛭のように吸いつきながら理名の腹部を這った。理名はくすぐったそうに身をよじるが、逃げるような意志は見られない。川口の唇が次第に南下し、下腹部を下った時点で、理名は恥ずかしそうに太腿を強く閉じた。
「……どうした、理名? もっと気持ちよくなりたくないのか?」
「うん、でも……」
 川口は理名の言いよどんだ理由など、気にもしなかった。半ば力ずくで脚を開かせると、内腿にも舌を這わせる。日に焼けた腿から日に焼けていない部分まで、行ったり来たりしながら上ってゆく。
 唾液の跡をぬらぬらと残しながら、川口の舌はついに理名の核心に触れた。理名の手が、川口の頭を押さえる。しかしそんなことでは、川口の舌の動きを止めることはできない。川口は苦しげに呻きながら、割れ目を擦るようにしてなぞり上げた。
「ひゃっ!」
 氷を押し当てられた時のような、高い嬌声を理名は上げた。脚を閉じようとする力を、強くする。しかし川口は理名の腿をしっかりと掴み、それを阻んだ。舌で割れ目を押し広げるようにして、鮮やかな朱色の秘肉を味わった。
「……もう、しみ出てるのか」
 理名は川口の言葉には応えなかった。ただ黙って、唇を噛みしめる。しかしきつく閉じられた唇の隙間からは、我慢しきれなかったリズミカルな呼気が洩れている。
「いい味だ」
 爛れた腐肉のような舌をべっとりと押しつけて、川口は慨嘆した。どうして少女の秘所は、こんなにうまいのだろう、と思った。本当に食べてしまいたいとさえ、思った。今なら川口にも、人肉嗜食者の心理が理解出来るだろう。
 しかし川口の感動とは裏腹に、今回の理名の反応は今一つだった。川口は理名に、毎晩と言っていいほど調教を繰り返している。貫通式も済ませてあった。そして意識が幼児退行しているのだから、理名はもっと素直な反応を示してもいいはずだ。さんざん開発し続けた快感に、もっと溺れてもいいはずだ。
 ──そうか、場所がいつもと違うからか!
 環境が極端に変わったために、理名は性の快楽に身を委ねることができないのだろう、川口はそう解釈した。それならば、仕方のないことだ。
 そして川口は考えた。ではついでに、新しい感覚について教え込むのも悪くない趣向だと。そう考えて、理名の裂け目から口を離して立ち上がった。しかし、それはここでではない。それなりの舞台と衣装を、川口は準備しているのだ。
 物憂げに身体を投げ出したままの理名は、突然川口が舐めるのを止めたので不思議そうに瞳を開いた。眼鏡越しの瞳は、艶やかに潤んでいる。
「『お父、さん』?」
「理名、続きは外でしよう」
 川口は理名の素肌に、棚に置かれていた体操服を投げかけた。理名はのそのそと身を起こして、白い体操服に袖を通す。するり、と理名の肢体が体操服の下に隠れてしまう。しかしブルマーを穿くために立ち上がった理名の尻と裂け目は露なままで、それがむしろ布地の端から覗くようにして姿を見せているのが、例えようもなくエロチックだ。
 その姿を見つめて、川口はようやく痛いほどに怒張している自分のものに思いが至った。本番は舞台の上だが、今すぐこれをどうにかしてやらないとかわいそうだ、と川口は思った。ブルマーに脚を入れようとする理名を、制止する。
「ちょっと待ってくれ、理名」
「え?」
 川口がベルトを外し、チャックを下ろすと肉棒は勝手に頭を突き出した。ごつごつとしてグロテスクなそれは、狭苦しいズボンの中から開放された歓喜によるものか、亀頭を大きく膨らませて震えていた。
「『お父さん』を、愛しておくれ」
 理名は一瞬だけ眉根を寄せたが、すぐに頷いた。
「うん」
 理名はどうやって愛すればいいのか、そしてそれを拒んだらどうなるのか、よく判っていた。判らされていた。だから返事は、「うん」以外にはあり得ないのだった。
 理名の手が、やんわりと川口の肉棒を包んだ。そしてゆっくりと膝をつき、唇を醜く膨らむ亀頭へと近づけていく。川口は理名の唇が己の肉棒にまとわりつく瞬間、目を閉じて嘆息した。柔らかい唇と舌の感触が、鳥肌が立つような快感を生み出してゆく。
 唾液がじゅぷじゅぷといやらしい音をたて始め、理名は必死に首と口を動かした。川口はゆらゆらと揺れる理名の頭の向こう側に、時折見える白い尻に視線を奪われた。下半身が裸の少女が、白昼に更衣室で自分のものをいとおしそうに舐めてくれる。その状況は、川口から耐久力を奪うのに充分過ぎた。
「いいよ、理名、いい。もっと、動いてくれ」
 理名の三つ編みを掴むようにして、川口自身も腰を振った。理名は喉に突き当たる亀頭の感覚に涙しながらも、言いつけ通りに口だけは離さなかった。
 甘噛みするような理名の小さな前歯が、肉棒の竿をしごきたてた。川口は目眩がするような感覚に目を強く閉じ、理名の頭に爪を立てて痙攣した。
「うぉっ!」
「……!」
 理名はすぐに口を離して、むせ込んだ。川口の精液が、気管に入ってしまったのだ。そして苦しげに呻く理名の頭の上にも、川口の精液は雫を垂らした。


 ちゃんと体操服に着替えた理名を従えて、川口がやって来たのは炎天下の運動場であった。何もなくただ茫漠と広い地面は太陽に焼け、じりじりと焦がすような輻射熱で二人を襲う。川口は予想以上の暑さに、忌ま忌ましげな顔で地面を見た。まだ、多くの足跡が残っている。つい数時間前には、社会科見学に出発する前の集会がここで行なわれていたことに思いを馳せ、川口はくっくっと低い声で笑った。毎年の行事である社会科見学も、こうしてみるとまるで川口の夢を叶えるために、全校揃って協力してくれたようなものだった。
「ねえ、『お父さん』、なにするの?」
 理名は先程の凌辱のことなどすっかり忘れたのか、純真であどけない表情で川口に訊ねた。川口はその質問に答えず、黙って運動場を歩み続ける。理名は歩くのが遅いので、時折駆け出すようにして、必死に川口についてゆこうとする。
 川口の歩みが止まったのは、運動場のほぼ真ん中だった。川口はそこでくるりと振り向き、遅れ気味の理名を待った。
「『お父さん』……」
「理名、こんな『お父さん』を、許しておれ」
 川口は許しを乞うてから、理名に躍りかかった。
「きゃっ!」
「……そう、これだ。これなんだよ!」
 訳の判らないことを叫びながら、川口は体操服の襟に手を入れて、理名の胸に触れた。服の上からでも微かに判別出来た乳首を、指でつねるように弄ぶ。理名は突然のことで、さらに許しを求めた『お父さん』の真意を掴みかねて、混乱したままだ。しかし川口はそんなことを全く意に介せず、素直に己の欲望に従うだけだった。
 屋外での性行為、それは閉鎖空間では味わえない解放感と自由な感覚があるという。川口は職員室から体育の授業を盗み見る時にいつも、それに憧れていた。あの青空の下で、自分の思うように少女をねじ伏せるのはどんな感じなのだろう。そんなことばかりを、考えていた。
 そしてその憧れは、現実としていまここにあった。誰もいない校庭で、一人の少女を凌辱する。この青空の下で、理名を犯すことが出来る。この喜びは、全てを忘れさせるほど甘美なものだった。
「『お父さん』、いや、いたくしないでっ」
 川口は僅かに見せる理名の抵抗を、必要以上の力でねじ伏せた。両手首を強く押さえつけ、体重を使って理名を大地へ横たえる。理名はしたたかに腰を打ちつけ、痛みで抵抗する力を弱めてしまう。その隙に川口は、体操服をたくし上げた。
 眩いばかりの日光に、理名のすべらかな上半身が照らされた。川口は舌なめずりしながら、理名の胸に手を置く。理名は仰向けなので、直射する日光がまぶしくて堪らないのか強く目を閉じた。川口はその態度を、屈伏と取ったようだった。
「大丈夫だよ、理名。痛くなんかしないから」
 川口はブルマーにも手をかけた。オーソドックスな紺色のブルマーから、つるんと素肌が現れる。下着は穿き忘れたようで、ブルマーの下はすぐに素肌であった。
 するすると足首まで下ろして、川口はブルマーを完全に脱がした。再び、上半身にだけ体操服をまとった格好になる。川口の肉棒は、つい先刻に欲望を放出したばかりだというのに、また猛々しく屹立しはじめていた。
 川口はその格好の理名を四つんばいにさせると、尻の桃を割った。色素の沈着した、皺襞に囲まれたアヌスが空気に晒される。川口の指が、アヌスに触れた。
「理名、今日はここに入れて見るからね」
「えっ、だってそこは……」
 理名の反駁を聞かずに、川口はアヌスに口をつけた。理名のものなら何でも、川口は舐めるのが好きだった。触るだけでは、感触しか判らない。しかし舐めることで、川口は理名の味さえも知ることが出来るからだった。
 舌先でほじくり返すようにして、川口は理名のアヌスを味わった。皺の隙間に沿うようにして、舌を這わせる。理名の腰が逃げようと前に出ると、川口は空いている手でがっちりと掴んで固定した。
「んんっ、あっ、なんか、なんか」
 理名はうわ言のように、繰り返し何かを言っていた。感じているのは、間違いない。
 川口は取り敢えず舐めるのを止めた。そして地面に腰を下ろす。いきなりあぐらをかくと、理名に呼びかけた。
「理名、今度はここに座ってごらん」
「……うん」
 まだ舐められた感覚が残っているのか、理名はもじもじと脚を擦り合わせ、手で尻を隠すようにして川口の側へ寄った。そしてあぐらをかいている川口を見つめて、考える仕種をした。どうやって座ればいいのか、考えているようだった。
「ほら、ここにお尻を載せて、『お父さん』に寄っ掛かる風に座るんだ」
 理名はやはり尻を手で押さえたまま、言われた通りに座った。そして手を前に回して脚を抱える、所謂体操座りの形になると、理名は甘えた声を出して川口に身体を預けた。
「『お父さん』……」
「理名」
 川口の腕も前に回り、理名を抱えるようにした。理名の長い髪から漂う清潔なシャンプーの香りにくらくらして、川口は天を仰いだ。
 ──空がこんなに、青い。
 透き通るほどに青い空は、最近見ていなかったような気が川口にはした。普通に生活している限り、空を見上げることなどそうそうあることではない。こうしてたまに見る晴天の青空は、急に自分自身を矮小に見せるほど、広くて大きかった。
 そして視線を戻すと、何故か幸せそうな理名が腕の中にいる。川口は空と理名とを見比べて、小さく呟いた。
「この青空の下でも、理名に自由はないんだよ」
「え、なに?」
 小首を傾げて、理名が訊ねた。しかし川口はそれを黙殺して、理名の腕に自分の腕を重ねた。一気に理名の手を引き剥がす。不意を突かれた理名は川口に腕の自由を奪われ、脚は抱えてくれるものがなくなったので、じわりじわりと開いてゆく。
「わっ、どうしたの?」
「さあ理名、脚を開くんだ」
 理名の手首を掴んだままで、川口は言った。だが逆に、その言葉に自分の脚が開きつつあることに気付いた理名は、慌てて脚を閉じようとした。
「駄目だ、『お父さん』の言うことを聞きなさい!」
 びくっ、と理名の身体に電気が走った。理名は『お父さん』には逆らえない。おずおずと脚を開いてゆく。
 日光の下で初めて開かれる秘所は、まだ川口の唾液と理名の愛液が乾き切らずに光沢を留めていた。川口はその裂け目を更に指で開くと、理名の頭を顎で押した。
「ほら、見てごらん。これが理名の、恥ずかしいところだよ」
「……」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいい。ここも、理名の身体の一部なんだ。ちゃんと知っておいてやらないと、かわいそうだろ。ほら、よく見るんだ」
 川口は羞恥に戸惑う理名に、無理やりそこを見せた。理名も顔を背けることは、しなかった。興味は、あるのだろう。
「ここが、おしっこの出るところだ。じゃあ、ここは何だ?」
「……わかんない」
「そうか。ここはな、『お父さん』のおちんちんが入るところだよ」
 川口はそこまで言うと、下品な笑い声をたてた。そして、その「おちんちんの入るところ」を指で押さえる。理名の声に、潤いが加わった。
「ん、じゃあ、あ、ここ、わぁ」
「ここか? これはな、理名を気持ちよくしてくれる魔法のボタンだ」
 今度も川口は、説明しながらそれに触れた。
「あぁっ、ほんと、きもちいい」
「よし、じゃあ、自分で触ってごらん」
 川口は裂け目の中から指を撤退させると、理名の太腿をしっかりと保持した。大きく脚を開いたままの理名は、おそるおそる自分の指を裂け目に置いた。右手で押し拡げると、魔法のボタンは僅かに大きくなっており、理名は左手の人指し指で触ってみた。
「きゃうん! な、なんかすごい。びりびり、って、くる」
 興味深げに、理名は魔法のボタンだけではなく、おちんちんの入るところやおしっこの出るところもいじり回した。その度に理名は、快感に身を震わせた。
「……あー、おしっこがでてきた」
「理名、それはおしっこじゃないよ。理名のそこがね、気持ちいい、って言っているんだよ」
「……・うん、きもちいい」
 理名は指に絡みついてくる粘液を、裂け目にすり込むようにして恍惚とした。理名自身にいじらせるのは初めてだが、やはり川口が教え込んできた実績があるためか、初めてということが信じられないほどに慣れた手つきだった。
「あ、あ、んぅ、はっ、はっ」
「気持ちいいかい、理名?」
 理名は喘ぎながら頷いた。その様子を確認してから、川口は態度を豹変させた。
「理名!」
「きゃ!」
 理名の身体を前に放り出すと、うつ伏せになってしまった理名の尻を叩いた。
「自分でそんなことをするなんて! 『お父さん』は理名をそんな悪い子に育てたおぼえはないぞ!」
「い、いたぁい、いたい!」
 パシーン、パシーン、と小気味のよい音をたてて、川口は理名の剥き出しの尻を打ちすえた。理名の白い尻が、みるみる赤く染まってゆく。
「ご、ごめんなさぁい。ゆるして!」
「駄目だ! 悪い子にはお仕置きが必要だな」
 十数回も叩いていると、理名は力尽きたかのようにぐったりとなった。地面にへばりつくように横たわり、動こうとしない。川口はそんな理名の腰を抱えると、尻を高く掲げさせた。
「まだ、お仕置きは終わってないぞ」
 川口は理名の裂け目に溜まっている愛液をすくい取り、アヌスに塗りたくった。ついでに入念なマッサージも行なう。それでも理名の反応はない。川口は粘液にまみれた指先を、理名のすぼまったきつそうなアヌスにめり込ませた。
「あっ!」
 理名が叫んだ。川口は指をゆっくりと前後に動かした。肛門は川口の指に押し込まれ、引き出され、次第にその緊迫を緩めてゆく。理名は始めに叫んだきり、低く唸り声を鳴らしているだけだ。
 ──さあて、もう、いいかな?
 川口はズボンを下ろし、肉棒を取り出した。自分で扱いてもすぐに放出してしまいそうなほど、それは限界に達していた。早く入れたい、川口はその欲望に脳裏までも焦がされていた。慌てるようにして、亀頭を理名のアヌスにあてがう。
「さあ理名、これが本当のお仕置きだ!」
 ごり、とめり込む音が響いた。
「あ」
 理名の声は、何故だか感情も痛みも含んではいなかった。
 川口はあまりの締めつけに、自分の方が失神してしまうのかと思った。理名は声を出さずに、必死で激痛に耐えているようだ。
 ──こ、これはたまらん!
 川口は腰の動きを止めて、理名の前の穴に指を差し入れた。
「……あぅぅ、んふう、あっあっ」
 すると理名は甘えるような、鼻にかかった声をあげた。川口は驚愕した。
「……り、理名、痛くないのか?」
「……う、ん、きもちいいよぉ。『お父さん』、もっと理名におしおき、おしおきしてぇ、あっ」
 ──何故だ! 何故痛みを感じない? 前の貫通式ではあれほど泣き叫んだというのに、どうしてアナルでは痛みを感じないのだ?
 川口は心の中で何度も自問しながら、腰を動かし始めた。理名はこれまでよりも一番素直に、感じているようだった。地面に立てる爪にも、柔らかさがある。
「あっ、あっ、いい。おしおききもちいい、んっ、んん」
 理名は自らも、腰を動かしていた。川口は耐えきれずに、理名の尻を掴んだまま一気に達していた。
「はぁっ、ふぁぁっ!」
 熱い滾りが理名の腸内で弾けた。川口も理名も、壊れたおもちゃのような動きで何度か腰を振ると、すぐに力尽きてくずおれた。地面に這う理名、その上にのしかかるように倒れ込んだ川口。二人は荒い息をつきながら、朦朧とする意識の中で確信した。初めて、同時に昇りつめたことを。
 川口は理名の上でバランスを崩し、横にごろんと転がった。理名の横で仰向けになると空の青さが目に痛くて、川口は腕で瞼を覆いながら思った。
 ──そうか。誰でも、この青空から逃げることは出来ないんだ。
 自分でもその言葉の意味を測りかねて、川口は苦笑した。そして横で荒い息をついている理名の頭を、川口は優しく撫でてやるのだった。



最終章「黒い帳」へ続く