『呪縛の色相』より第二章

   「赤い鎖」  石薬師 暁生



イラスト:河澄翔


 家路を急ぐ、川口の足取りは喜々としていた。心の軽やかさが、素直に足の運びに表れている。
 四月。小学校教頭である川口にとって、決して気楽な時期ではない。新入生が学校に慣れるまでは、気が抜けない。そして慣れたころには、六年生の進路の問題もある。
 それでも、川口の心は晴れやかだった。
 学校の、羽虫のように群集し騒がしい児童のことなど、どうでもいい。川口は今、一人の少女に夢中だった。
 川口は自宅の呼び鈴を押した。小さいながらも、四年前に無理して建てた新築だ。まだまだローンが残ってはいるが、自分の家というものは気分がいい。
「あ、おかえりなさぁい」
 ドアが開いて顔を出したのは、髪を三つ編みにした眼鏡の幼い少女だった。分厚いレンズの向こう側の瞳が、明るく輝いている。
「ただいま、理名」
 川口も微笑みを浮かべながら、持っていた書類鞄を少女に渡す。少女は、ほんの二ヵ月ばかり前に川口の娘になったばかりの、久松理名改め川口理名だった。
 川口が家に入ると、3LDKの家の中が、やけに広く感じられた。不思議なものだった。妻と二人きりで住んでいた頃には、この家も随分と重苦しい圧迫感があった。それが妻が実家へと逃げだし、代わりに理名がいるだけで、これほどまでに家の中が明るく快適に感じるのだ。
「どう、うちの学校には慣れたかい?」
 外套を脱ぎながら、川口は訊いた。
「うん。友達もね、いっぱいできたよ。先生もいいひとだし」
 理名の答えには、屈託がなかった。笑顔が、輝いている。孤児院にいたころよりも肉付きがよくなって、細身の文学少女だった理名は健康的な美少女に生まれ変わっていた。
「先生、っていうと、六年二組の担任は木崎くんだったな」
 ソファに身を沈めながら、川口は記憶をまさぐった。眼鏡を掛けた、好青年風の顔を思い出す。女生徒には特に、人気があるらしい。川口は少し、嫉妬に似た感情を抱いた。頭頂部が大分禿げかけている川口には、男子生徒にからかわれたことはあるが女子生徒に慕われた経験などなかった。
「あとね、お友達のなかにね、同じ名前の子がいるの。字は違うんだけど」
 理名はそう言いながら、テーブルの上に指で字を書いた。利奈。
「委員長やってる子なんだけど、すっごくおもしろい子なの」
「ほう」
 川口もその子のことは知っている。何故なら、自分の学校の中にいるかわいい子は大抵、チェックしているからだった。その委員長である子──藤枝利奈は、その中でも特に川口の嗜好に合った美少女だ。実際にその子の下着を盗んで、思わず校内で自慰に耽ったこともある。
 川口の口許に、いやらしい笑みが浮いた。まさか私の理名とあの利奈が友達になるとは。十分に考えられたことにしても、至極面白い趣向になったことは間違いない。
 川口の意識が、妄想へと飛び立った。
 少女愛、そう言うと文学的で聞こえはいいが、結局は異常性欲の一つである。川口はその少女愛に耽溺していた。川口には成熟した女性の象徴である大きく膨らんだ乳房、豊かなラインを描く臀部、黒々と生い茂った性毛、そのどれもが受け入れられないものだった。川口の求める性の対象とは、第二次性徴以前の少女に限られているのである。肢体はまだ顕著な凹凸を持たず、脂肪を蓄え始めていないのですらりとした、そんな少女しか川口は愛せなかった。
「ねえ、お父さん」
 はっ、と川口は我に返った。
「な、なんだい?」
「ごはん、もうできてるけど、食べる?」
 理名の首をかしげるような仕種が、妄想から帰ってきたばかりの川口の精神に黒々とした焔を生じさせた。しかし、川口は我慢する。調教の時間は、毎日午後十時からと決まっていた。
「ああ、そうだね」
「じゃ、支度するね」
 理名はキッチンの椅子に掛けてあったエプロンを身にまとうと、食卓の準備を始めた。孤児院ではお姉さん格だったために、理名は大抵の家事をそつなくこなすことができた。妻が実家に帰っていても、何ら困ることはなかった。
「……お母さん、早くよくなるといいのにね」
 その呟きに、川口は答えなかった。理名には、妻は体調を崩しているから実家で静養していると話してある。しかし実際には、川口の趣味に耐えきれなかった妻が別居を申し立てたのだ。つまり、自分の性欲のために養女をとった、川口への訣別の意味を込めて家を出たのである。理名が家にいる限り二度と、帰ってくるはずはなかった。いや、もう何があっても、妻は川口の元には帰るまい。
 しかし、理名はそんな事情は知らない。ただ、天涯孤独だったはずの自分に急に父親が出来た事実が、嬉しくてたまらない。にこやかな笑みを湛えながら、食器を並べ始めている。
 その姿を見つめながら、川口は今夜のことを、思った。


 柱の時計が、夜の十時を告げた。風呂から上がったばかりの川口は、ガウンの帯を指先で弄ぶのを止めると、ソファからゆっくりと腰を上げた。脚を迷うことなく、階段へと向ける。二階には、理名に与えた部屋があった。
 ──もう、耐えられん。今夜こそ……
 川口の口許に、いやらしい笑みが浮いた。握りしめた拳の内側に、ねばい汗が滲んでいる。
 階段を昇り終えた川口は、掌の汗をガウンの裾で荒々しく拭うと、ドアのノブを回した。わずかな軋みと共に、扉は開いた。大して広くはない部屋の中はもう真っ暗で、シングルのベッドの毛布が盛り上がっているのだけは視認出来る。
 川口は毎晩のことながらも激しく動悸しながら、足音を忍ばせてその枕元に近づいた。せわしなくひくつく鼻先を、穏やかな顔で眠りに就いている理名の耳朶に寄せて、川口は囁いた。
「理名、『お父さん』だよ」
 醜悪に歪んだ川口の表情とは正反対に、囁かれた言葉は偽りとはいえ慈愛に満ちていた。優しく聞こえるその言葉に、理名は静かに目を開けた。川口はその瞳を満足げに覗き込むと、枕元にあるアンティーク調のランプに光を灯す。赤みを帯びた柔らかな光が、理名を妖しげに浮かび上がらせた。
「……『お、とう、さん』」
 横になったままで、理名の口がその言葉をトレースした。すると川口がさらに、言葉を反芻する。
「そうだ、『お父さん』だ」
「……『お父さん』!」
 理名はがばっと身を起こすと、虚ろなままの視線を辺りに漂わせた。川口の鼻孔に、理名の髪から漂うシャンプーの香りが吸い込まれた。
「ほら、ここだよ」
 悪魔の囁きにも似た言葉が、理名を誘った。理名の視線が川口の姿を捕らえると、理名は両手で川口の首に抱きついた。
「『お父さん』! 『お父さん』!」
 泣き叫ぶように、理名は繰り返しその名を呼んだ。しかしその呼び方は、普段の川口を呼ぶ時とは響きが違っていた。もっと甘えるような、鼻にかかった呼び方だった。
 川口は縋りつく理名の頭を、優しく撫でてやった。寝るときには三つ編みをほどいているので、随分と長く感じる髪がいつもより理名を大人っぽく見せている。眼鏡も外しているため、よりいっそう大人びて見えてしまう。ところが必死に川口に縋る今の理名は、どう見ても三つか四つの幼児のようだった。
「『お父さん』! もう理名をすてないで!」
 毛布を撥ねのけて、理名は更に身を起こして川口の胸に頬を埋めた。淡い灯の中に、薄いブルーのパジャマが露になる。川口は理名の頭を抱えるようにして、理名の言葉に答えた。
「ああ、もう二度と棄てやしないよ。ただし、理名がいい子にしていたら、だ」
 川口は理名の細い肩を押さえて、理名を再びベッドに横たえた。軽く軋むベッドの上に、やっと安心したのか穏やかに微笑む理名が沈む。そしてその上に、川口はのしかかっていった。
「いいかい? いい子にしてるんだよ」
 猫なで声を出して、川口は理名の小さな唇を吸った。理名は呪縛に囚われたかのようにゆっくりと目を閉じ、おとなしくされるがままだ。
 川口の指が理名のパジャマに触れた。薄手の綿生地の上から、理名の平坦な胸をまさぐる。ゆっくりと指を蠢かせて、川口は何かを探しているようだった。しかし見つからなかったのか、川口は唇を吸うのを止めて舌打ちすると、パジャマのボタンを外し始めた。以前よりは肉付きがよくなったが、それでも肋の浮かぶ白い胸部が剥き出しになった。
「きれいだよ、理名。こんなきれいなものを、棄てたりなんかするもんか」
「……『お父さん』、理名うれしい」
 理名は潤んだ瞳で川口を見上げた。しかし虚ろなその視線は、本当に目の前の川口を見つめているのか、疑問だった。何か遠い、記憶にある存在を思い出しているかのような、そんな視線であった。
 川口は白く平らな理名の胸部にある、虫刺されのような小豆色の小さな突起に指先を置いた。理名の身体が軽く硬直する。川口はその反応を確認してから、指先を擦りつけるようにして幼い乳首を弄んだ。
「ん、ん」
 理名の口から、吐息が洩れる。
「ほら、理名。ここがこんなに固くなって……」
 川口の指先が意地悪く、理名の乳首を弾いた。ぴぃん、と音がしそうなほど、理名の乳首は凝り固まって愛撫に応えていた。
 夜十時過ぎの愛玩──それは理名がこの家に入ってきた二月から二ヵ月、毎日繰り返された行為だった。「ひかりの家」で行なわれたあの洗礼が理名にとって激しいものであったことは、川口もよく承知している。だからこそ、調教を行なう必要があったのだ。初めは優しく裸体を撫でる程度の愛撫だけで、理名もただおとなしく横たわるだけだったが、今ではもう乳首を軽く撫でただけでも女としての反応を伺わせるようになった。焦らずに調教を繰り返した甲斐があったというものだった。
 ──それにしても、『お父さん』の言葉にこれほど反応するとはな。
 『お父さん』という言葉に理名が過剰に反応したのは、「ひかりの家」での初めての行為の時からだった。あの時も理名は、幼児のように縋りついてきた。どうやら、過去の経験に起因するもののように、思われる。
 しかし川口には、そんなことはどうでもいいことだった。ただ、便利な言葉として『お父さん』を利用していた。寝入った理名にその言葉を囁きかけると、精神が幼児退行したかのような状態になる。とにかく『お父さん』に棄てられないために、何でも言うことを聞く。何をしても抵抗しない。そして翌日の朝には、その間にあったことは全く記憶に残っていない。これほど川口にとって、都合のいいことはなかった。
 乳首を嬲った指を離すと、理名はふうっと溜息をついた。しかし川口は愛撫を止めたわけではない。次に川口はしこった左側の突起に舌を伸ばした。赤黒い腐肉のような川口の舌が、可憐に盛り上がった淡く色づく理名の乳首にまとわりつく。理名は再び身体を固くした。ねっとりとした唾液をすり込むように、川口の舌は左胸の突起を舌でねぶった。そして右手で、理名の右胸全体を摩る。
「お、『お父さん』、きもち、いいの」
 理名の口からは、そんな言葉も洩れた。川口は楽しくて堪らないのか、下卑た笑いを口端に浮かべた。そして更に、指と舌の動きを激しくする。舌の先で乳首を押すと、それは健気にも押し返してくる。強く吸ってやると、それはよりいっそう大きく膨らむのだ。
「よし、じゃあもっと、気持ちよくしてやろう」
 理名の胸から唇を離し、川口は涎を拭いながら言った。ぐったりと脱力している理名のパジャマのズボンに、手をかける。
「ほら、腰を上げて」
 理名は黙ったまま、川口の言葉に従った。腰を反らせて、理名はいまだ虚ろなままの瞳で川口を見つめている。川口はその視線に応えることなく、はやる心を押さえながらズボンを脱がした。足首を抜いて、川口はズボンをベッドの外へ放り投げた。理名のすらりと細くしなやかな脚が、剥き出しになった。そして純白の下着も。
 川口は理名を膝で跨ぐようにして、見下ろした。パジャマの上着はまだ、袖を通したままだ。ボタンだけが全て外され、前は大きくはだけている。川口は舌なめずりをした。全裸よりもむしろ半裸の方がエロチックであり、川口の嗜虐性を煽るものであった。赤みを帯びた淡い灯も、より劣情を際立たせている。
「きれいだよ。ああ、とてもきれいだ」
 川口は嘆息まじりに呟きながら、理名の臍に顔を近づけた。なめらかな肌に、川口の脂ぎった頬が触れる。髭の剃り跡の残った顔で頬ずりすると、理名が身をよじった。
「『お父さん』、いや、くすぐったい」
「我慢しなさい」
 軽い叱責を受けて、途端に理名は黙り込んだ。拒絶も抵抗も、今の理名には許されてはいないことなのだ。『お父さん』の機嫌を損ねれば、理名は再び棄てられてしまう。そう、あの時のように。
 川口は理名の脚を大きく拡げさせると、その付け根、つまり白い布に覆われた最も大事な所の臭いを嗅いだ。わざとらしく、川口はくんくんと鼻を鳴らす。
「……なんだ、この臭いは」
 演技がかった仕種で、川口は布地の上から大事な部分を押さえた。
「あれ、少し湿っているぞ。さてはおもらししたな」
「おもらしなんか、してないよぉ」
 泣きそうな声で、理名が反駁した。川口は喉の奥でくっくっと低く押し殺した笑い声をたてた。
「そうか? じゃあ、確かめてみなくちゃな」
 右手の人指し指を突き立てるように、川口はその部分を強く押した。パンツは軽くめり込み、理名の秘密の園から熱を帯びた液体を吸い込んだ。指先に、より強く湿りけを伝えたのだ。
「ほら、やっぱり濡れてる」
「ちがぅぅ、おもらしなんか、してないもん」
「よし、じゃあパンツを脱いでみよう」
 川口はズボンを脱がした時のように、パンツも脱がしてしまった。しかし左足首だけを抜いて、パンツ自体は右の足首に引っかけておいた。全部脱がしてしまうよりも半裸を好む、川口らしい趣向である。
 理名の太腿を更に拡げて、川口はまじまじと理名の秘密の亀裂を眺めた。思い切り脚を開かせているのにもかかわらず、理名の裂け目は裂け目のままで、その内部を押し隠したままだ。それはいわば静的未熟さの証なのだが、それが川口には例えようもなく強烈なエロスの象徴なのだった。
「どれどれ」
 ひりつくように乾く喉を唾液を飲み込んで湿らせると、川口は理名の裂け目を指で押し広げた。するとねっとりとした透明な粘液が、幾本か糸を引いた。よく見つめると、その透明な粘液は幼い秘肉の表面にうっすらと付着しており、ピンクと呼ぶより緋色に近い秘肉に艶やかな光沢を与えているのだった。
「おしっことは、違うようだぞ」
 それが何か知っているのにもかかわらず、川口は再び意地悪な演技を繰り返していた。そしてよく観察するふりをして、理名の開かれた秘肉に優しく触れた。
「……あっ」
 驚きを表したものなのか、それとも別の類のものなのか、理名は短い悲鳴をあげた。川口の指は亀裂に沿うように、ゆっくりと上下に往復運動している。指先に絡みつく粘液の感触を楽しむように、単調な動きを繰り返している。
「ん、ん、んあっ」
「どうしたんだ?」
「んっ、なんかね、へんなきもち」
 その答えに川口は満足げに微笑むと、指先に力を込めた。少し動きを速めると理名が脚を閉じようとするので、川口は左手でそれを押し返しながら行為を続けた。
「あれ、ここに何か突起があるぞ」
 川口の指先がそれを見つけると、不思議そうにその突起をつまんだ。すると理名は声にならない悲鳴をあげた。芽のようなそれは白っぽく、米粒のようだったがこりこりとした感触を持ち、亀裂の上側から頭を出していた。
「お、『お父さん』、こわいよぉ」
 今にも泣きだしそうな声で、理名が訴えた。川口は一旦そこから顔を上げて、理名に微笑みかけながら言った。
「大丈夫。心配しないで、全部『お父さん』に任せるんだ」
「……うん」
 上目遣いで理名が川口を見つめた。理名はまだ不安そうな顔をしているが、川口の微笑みにつり込まれるように、頷いた。
 川口はもう、遠慮はしなかった。飢えた獣のように、理名の肉の芽──クリトリスへむしゃぶりついていった。舌先を尖らせてつついたり、舌の腹で擦り上げたり、クリトリスを集中して攻めたてた。
「んぁっ、あっ、はっ、『お父さん』、やぁっ」
 理名の腰が愛撫に反応して撥ね上がる。しかし川口は少しも舌を休めず、ただひたすらにクリトリスに愛撫を続けた。理名はその感覚の荒波に耐えようと、ベッドのシーツを強く掴んだ。それでも身体の痙攣が収まらず、理名は断続的な悲鳴を放つ。川口は空いた両手を理名の胸へ伸ばし、固く突起したままの乳首にも愛撫を加えた。ぴんとそそり立った乳首を摘み、弾き、転がすと、理名は耐えきれなくなって自分の親指を噛んだ。
「いやぁっ、へん、へんなの、あっ、やぁっ」
 びくびくっ、と一際激しい痙攣をしながら、理名の意識は白熱した。何も考えられない意識の領域で、理名はそれが快感だと知ることすら出来ないまま、時間が止まってしまったかのような感覚に包まれていた。


 ぐったりとした理名を横目で見ながら、川口はベッドを下りた。そしてガウンの帯に手をかけて、ほどいた。ガウンを脱ぎ捨てると、下を見る。中年太りが始まって醜く膨れた腹より、更に前に突き出た己が肉棒がある。川口はそれを握りしめると、強く扱いた。激しく昂った肉棒は、既に爆発寸前になっていた。
 ──やはり、今日は最後まで……
 川口は、決意を新たにした。これまでの愛撫は、もう以前からしていることだ。今日は更に、もう一つ先に進める気になったのだ。つまりそれは、この肉棒を理名の幼い身体の中に埋め込むことだ。
「理名、眠るのはまだ早いよ」
 パジャマの上着だけを羽織ったままで眠りに就こうとする理名の耳元で、川口はそう囁いた。理名は寝返りを打つように、身をよじった。顔が横を向く。川口は自分の膨れ上がった肉棒を、目を閉じたままの理名の口に押し当てた。
「ほら、『お父さん』だよ。さあ、愛しておくれ」
 普通の人間なら吐き気を催しそうな偽善的な猫なで声で、川口が言った。
「う、ん、『お父さん』……」
 寝ぼけているような声を出して、理名が目を開けた。目の前に突き出されているのは、川口の醜くそそり立った男根だ。しかし理名は極めて自然に、その男根を受け入れた。
「……また、なめるの?」
「ああ、口に入れるんだ」
 理名はけだるそうに身を起こすと、川口の男根に手を伸ばした。細い指を絡ませると、舌を出してべろりと亀頭を舐めた。しかしベッドの下で立っている川口の腰は、理名の顔より下にあった。非常に舐めづらい位置にある。
「さあ、こっちに下りて来るんだ」
 川口の言葉に従って、理名はベッドを下りた。床に膝をついて、さっきと同じように指を絡ませた。赤黒く膨れた亀頭を、澄んだ赤色の舌がなぞるようにして蠢く。川口は情けない声を洩らして、理名の頭を両手で掴んだ。
「ああ、いいよ、理名。もっと、もっと『お父さん』を愛してくれ」
「……『お父さん』!」
 理名は川口の男根を口に含んだ。理名の小さな口には川口の男根は大きすぎて、やっと亀頭が全部くわえられる程度だったが、理名は懸命に口を動かして奉仕した。亀頭でいっぱいになった口の中で、必死に舌を動かしている。時々喉の奥に突き当たるのか、苦しげにむせながらも、しゃぶることは止めなかった。
 しかし川口は、理名の頭を軽く叩いた。
「ほら、右手はどうするんだった? この前、ちゃんと教えただろう?」
 理名は涙の浮かんだ目で、川口の顔を見上げた。潤んだ目は「ごめんなさい」と言いたげで、川口はぞくぞくっと背筋を奔る感情に身を震わせた。その瞳は、川口の嗜虐性を煽り立てる弱者の瞳だった。
「忘れたのか? ほら、こうやって手で扱くんだ」
 川口は男根に添えられただけの右手を上から掴んで、前後に扱いてみせた。理名はやっと思い出したのか、指示通りに右手を動かした。懸命に亀頭をしゃぶりながら、右手で竿を強く扱く。そうしているのはまだ十一になったばかりの少女だ。川口にとって、それは天国のような状況だった。何分も、耐えられるものではない。すぐに、頂点がやってきた。爆発する。
「うおっ」
 理名の狭い啌内でそれは弾けた。理名は予兆なく炸裂したその液体に喉を直撃され、慌てて口を離した。むせ込む理名の黒髪の上に、それでもまだ放出を続ける白濁の液体が降り注ぐ。川口は荒い息をつきながら、全て絞り出そうとするかのように男根を扱きたて、残らず理名に振りかけた。理名の艶がある美しく長い黒髪を、ねばい液体が汚してゆく。理名は嫌悪感と嘔吐感に眉根を寄せて、顔をしかめた。
 やっと放出を終え、呼吸を整えた川口は、理名の頭に手を置いた。自分の出したばかりの白濁液にまみれながら、理名の頭を撫でまわす。すると理名は嬉しそうに、全裸の川口にしなだれかかった。
「『お父さん』、大好き」
「私もだよ」
 川口の胸に身体を預け、理名は心底安心しきったかのように目を閉じた。川口は理名の華奢な細い肩に腕を回すと、唇を重ねた。
 ──なんという至福だろう! この娘は私を愛してくれているのだ!
 理名の『お父さん』を慕う気持ちは、川口に誤解を抱かせるのに充分だった。理名が愛しているのは川口ではなく、『お父さん』という存在に過ぎない。しかし川口には、今の理名が自分を心から慕っているようにしか思えなかった。
 ──つまり、これ以上のことをしたとしても、それは強姦にはならない。
 自分のために理名を養女にした男には、やはり今の状況も自分の都合のいいようにしか解釈出来なかった。さらにそれは、少女を愛するために計画を立て、養女まで引き取った男の、妙な慎重さと肝の小ささの表れでもあった。
 その考えがどうであれ、もう川口の意志は変えようのない所にまで来ていた。自分を慕う理名に対して、一度だけの射精では収まりがつかないのだ。
 川口は理名から身を離すと、言った。
「理名、今度は四つんばいになるんだ」
「四つんばい?」
「お馬さんの、恰好のことだよ」
 理名はのろのろと身体を動かし、膝と手をついて四つんばいの姿勢になった。
「こう?」
「そうだ」
 尻の方に移動した川口を首をひねって見た理名は、少し照れたように呟いた。
「こんどは、なにするの?」
「さっきの、続きだよ」
 川口は理名の丸い尻に手を置くと、左右に開いた。ココア色で皺の寄ったアヌスを、しげしげと眺める。ぎゅっとすぼまったそこは、亀裂とはまた異なったエロスを漂わせていた。川口はそこにもむしゃぶゃついてゆく。
「あっ、そんなとこ、きたないよぉ」
 妻のものなら、汚いと思ったろう。実際、十何年にも及ぶ妻との生活の中で、妻の肛門を見たいなどと思ったことは、ただの一度もなかった。だが理名のものなら、たとえ排便してすぐあとのものだったとしても、平気で舐められるだろう。川口は皺の一つ一つを丹念に延ばすように舐め回した。理名はくすぐったいのか、懸命に身をよじったりしている。しかし、逃げようとはしなかった。
 川口は図に乗ったように、理名の腰を上から押して、尻を高く掲げさせた。そうすると、アヌスだけではなくスリットまでもがよく見える。川口は裂け目にも手を触れた。理名はその感覚に大分慣れたのか、身を固くすることなく、より尻を高く掲げて川口の愛撫を受け入れた。
 裂け目の方はまだたっぷりと濡れていた。太腿の内側にも、少しだが垂れてきていた。川口はその液体を指によくなすりつけると、裂け目の深奥をまさぐった。ぽつりと穴がある。指は粘液で滑りながら、その穴の中へもぐり込んでいった。
「あっ、いたいっ!」
「大丈夫、力を抜いて」
 指は一気にめり込んで、奥に突き当たった。川口はゆっくりと指を動かした。ねちょねちょと音を立てて、抽送を繰り返す。締めつけるような緊張感をほぐすように、ゆっくりと、ゆっくりと。
「まだ、痛いか?」
「……ううん、あんまり」
 理名の声には、先程と同じ未知の感覚に対する響きが含まれていた。
 感じているであろうことは、川口にも判っている。潤滑液は再び溢れだしているし、膣が更に熱を持ち始めているのだ。川口は調子に乗り、指の動きを速くした。すると理名の身体に、時折硬直のようなものが起きた。姿勢が苦しいのか、くぐもった声も洩れている。川口は、もう行くしかないと思った。
 指を抜くと、粘度が高くなったのか、潤滑液が細く糸を引いた。川口はそれを味わうように舐め取ってから、自分の男根を握りしめた。それはもう、すっかり回復して力強く屹立している。
「理名、ちょっと痛いけど我慢しなさい」
「え……なにするの?」
 理名は不安そうな顔で振り返る。川口は厳しい顔をして言った。
「『お父さん』のためだ、我慢するんだ」
 びくっ、と身を縮込めて、理名は項垂れた。理名は『お父さん』には逆らえなかった。もう、棄てられたくはないのだった。
 川口は男根を握りしめ、亀頭を裂け目にあてがった。とても入りそうもなかったが、ここで諦めることも不可能だった。
「行くよ!」
 川口は強く、理名の腰を引き寄せた。
「ぎゃっ、い、いたいっ!」
 ぶちっ、と鈍く肉の裂ける音がしたかと思うと、川口の男根は理名の膣の中にめり込んでいた。男根の半ばまでめり込むと、子宮にぶつかる感触がした。理名は白目を剥いて、だらしなく開けた口許から涎を垂れ流した。いまだかつて味わったことのない、激痛が身体中を駆けめぐっている。あまりの痛みに、それがどこなのか判らないのだ。
「あっ、あがっ」
 川口はその状態でしばらく動かずにいた。このまま動けば、理名は間違いなく気絶するだろう。しかし、気絶した少女を抱くのは味気なかった。理名が落ちつくまで、この状態のまま待つのだ。
「……痛いか?」
「『お父さん』、いたいよぉ、やめてよぉ、もう、ゆるして」
 泣き叫び、許しを乞う理名の声を聞いて、川口は理名の意識がまだはっきりとしていることを知った。安心して、腰を突き動かす。
「……ぐっ、うっ、い、いたぁ、やぁっ」
 ごりごりと川口の亀頭が、幼い膣壁を蹂躪する。川口が腰を一度振る度に、理名は今にも死にそうな声を出す。しかし川口はそんなことにはお構いなしに、腰の動きを激しくした。ぎちぎちと締めつける狭い膣の中では、そう耐えられそうもない。爆発しそうな川口には、この動きを弱める気はなかった。
「い、いいよ、理名。すごくいいぞ。ああ、堪らない」
「いやぁぁっ、いたいっ、いたぁいっ、たすけて!」
 川口は二度目だというのに、あっという間に絶頂へ登り詰めていった。強く子宮を突き刺すように深く男根を押し込むと、迸った。
「いやぁっ、あつっ!」
 どくどくと精液は注ぎ込まれた。理名は幼い子宮が焼かれるような感覚に、つっ伏して顔を床に押しつけた。川口は快感のために痴呆のような表情で、天を仰いでいた。
 二人とも、しばらくそのままの姿勢で固まっていた。川口の強烈な快感、理名の初めての激痛、そのどちらもが、互いの時間を止めるのに充分なものだった。
 先に動いたのは、川口だった。余韻に浸りながら、ゆっくりと理名から男根を抜いた。するとその亀頭には、川口の精液と理名の愛液、そして早すぎた破瓜のための大量の鮮血が、どろどろに混合しながらまとわりついていた。それは非常に粘りがあり、川口が身体を離して立ち上がった時にも、長い糸を引いていた。
 川口は自分の男根と理名の膣を繋ぐ、赤く染まった粘液を見下ろして高笑いをした。そして死んだかのようにぐったりとうつ伏せになっている理名の背中に、語りかけた。
「理名、ほら、これが私たちの絆だ。私たちは血が繋がっていないが、こうして一つになったんだよ。ほら、赤い、血の絆だ」
 しかし理名は全く反応しなかった。うつ伏せになった顔は横を向いており、頬には涙の伝った跡がある。それを見て川口はまた、高笑いをした。その笑い方は、正常な精神を持つ者には不可能な、異常性と陶酔を孕んでいた。
「ははははは、そうとも。この絆は、そう簡単には切れやしないよ。私と理名との愛の証、これは鎖のように、そう、鎖のように頑丈なんだよ」
 川口はおかしくて堪らないように、いつまでも笑い続けた。理名の尻と自分の男根、そしてそれを繋ぎ合わせる赤い粘液の筋、それらを交互に見やりながら、いつまでもいつまでも笑いつづけていた。



第三章「青い枷」へ続く