「つるぺた天使・友情篇」  人面石発見器


 なにが間違っていたのだろう?
『きゃっ! さくら恥ずかしいぃ〜! で、でも……お兄さまになら、ポッ……大作戦!』
 は、必ず成功するはずだったし、しなければならなかった!
 なのに……なせ!?
 わからない。さくらには、なにがいけなかったのかわからない(今のままだと、一生かかってもわからないと思うが……)。
 どうして愛しのお兄さまは、自分を無言でタコ殴りにしたのだろう? 本当なら抱きしめて、キスして、一気に最後までいってしかるべきだったはず!
 確かに、タコ殴りは気持ちよかった。ステキだった。ある種の愛を感じた。
 だがさくらが求めていたのとは、ちょびっとズレていた。
 だから、
『きゃっ! さくら恥ずかしいぃ〜! で、でも……お兄さまになら、ポッ……大作戦!』
 は失敗だ。
「もしかしたら、お兄さまは……」
 お兄さまは、さくらのことが嫌いなの!? ……とは続かないのが、さくらの思考回路の複雑さ。というか、腐敗具合。
「お兄さまは、殴ることでしか愛をつたえられない人なの!?」
 ……だったらいいな。ま、違うけどな。
 ひとり悩んでいても、答えはみつからない。
 さくらは、唯一といってもいいお友だちに、あの大作戦のなにがいけなかったのかを、相談してみることにした。

「ちがうわ、さくらちゃん! きっとそれは、お兄さんの愛情の裏返しなのよ!」
 と、これが、『きゃっ!(以下省略)』の結末を話したさくらに与えられた、お友だちからの第一声だった。
 さくらは今、そのお友だちの部屋にいる。
「きっと、さくらちゃんのお兄さんは恥ずかしかったのよ! おとこの人って、素直に愛をひょーげんできない生き物なのよっ」
 そのお友だちはさくらのクラスメイトで、柚木小百合(ゆのき こゆり)という少女だ。けして知世ではない。当初へボ作者は、知世にしようと思っていたらしいが、そこまでするのはどうだろう? と思い、適当に小百合と名づけたらしい。
 ま、そんなどうでもいいことは置いておくとして、さくらをかわいい系美少女とするなら、小百合はキレイ系美少女だろう。どこか気品を感じさせる端正な顔立ち。真っ直ぐに落ちる黒髪は長く、お尻を完全に隠している。
「さくらちゃんは、なにもまちがってはいないわっ! お兄さんが素直じゃないだけよ。きっと恥ずかしがり屋さんなのね。さくらちゃんのお兄さん」
 が、類は友を呼ぶ……というか、小百合はさくらと同一思考ベクトルの持ち主で、ぶっちゃけた話変わり者だ。というか、おかしい。腐っている、脳が。さくらと同じで。
「そこのとこ、わたしのおねぇさまは違うわ。おねぇさまは、わたしだけをみてくれて、わたしだけを愛してくださるものっ。血のきずなというじゅばくをこえ、わたしとおねぇさまは愛し合ってるのよおぉっ!」
 そ、そうなのか? それはなかなか興味深い。
 うっとりとした顔で、なぜか立ち上がって天井をみる小百合。さくらは、「さくらとお兄さまのことをそーだんにきたのにぃ」……と思いながら、小百合が見上げる天井も自分も見上げた。
 そこには、セーラー服をきたショートカットの女性の拡大写真が貼られていた。歳の頃は十七、八。切れ長の目が、凛々しい感じで輝いている。
 どうやらその写真の主が、「おねぇさま」らしい。
「あぁん! お、おねぇさまあぁ〜っ」
 と、不意に自らの身体を抱き、腰をクネクネさせ始める小百合。さくらは、ビクウゥ! として、珍行動をとるお友だちに奇異の視線を向ける。
(こ、小百合ちゃん……なんだかこわい)
 お前も似たようなものだ。というか、同じだ。
「かわいいわ、小百合」
 ……ん? これは「おねぇさま」のマネなのだろうか。どうやら小百合は、一人芝居モードに入ったみたいだ。この珍行動も、さくらと同じだ。
「うっ……うぅ〜ん、あっ、あっ、ぅくン!」
 切なげに鳴く小百合。歳のわりに官能的な鳴き声だ。
 小百合の声は、声優でいうと岩男○子ではなく、前田千○紀ふうな感じだ。前田○亜紀といえば、「マリオ○ット・カンパニー」でマリオネット役を演じていたので、まず知らない方はいないだろう。萌え萌えだ。
 ちなみにさくらは、丹○桜ではなく、前田こ○みふうな声をイメージしていただきたい。前田○のみも「マ○オネット・カンパニー」に出演していたので、当然誰もが知っているはず! うん! 萌え萌えだ。
 と、まぁ……へボ作者の偏った声優知識は無視して、小百合の一人芝居は続いている。
「もっと聞かせてちょうだい? 小百合の、かわいくてイヤらしい声」
「は、はい……おねぇ、アッ! くうぅ〜ンッ!」
「かわいい、かわいいわぁ小百合いぃ〜っ!」
「アンッ! お、おねっ、おねぇさまああぁあぁ〜っ!」
 放っておけば、いつまで続くのか想像もつかない一人芝居。「おねぇさま」の部分はちゃんと声色を変えているところなど、やけに芸が細かい。
 芝居はエスカレートし、小百合は床に転がって身悶え始める。さくらは引いてしまっていた。
(へ、変だ! 小百合ちゃんが壊れちゃったあぁっ)
「あっ、アンッ! お、おねぇ……」
「好き、大好きよ。小百合」
「は、はい……わ、わたしもおねぇさまが、おねぇさまがあぁ〜っ!」
「あぁ、小百合、小百合いぃっ!」
「おねぇさま! おねぇさまあぁ〜っ! イッ、イッちゃうっ! イッちゃううぅうぅ〜ゥン!」
 と、

 ピタッ!

 床に転がり、右手は左胸に、左手は……って、いいのか? パンツの中に入れて、明らかに大切な穴に中指を突っ込んでいる体勢で、不意に固まる小百合。
 どうした? 壊れたのか? 脳が。っていうか、壊れてはいるんだろうけど、徹底的に修復不可能なくらいまで……という意味で。

 ピョコッ!

 突然、バネ仕掛けのオモチャのような動作で跳ね上がる小百合。なんでもないような顔でトタトタと移動し、ティシュの箱を手にする。何枚かティシュを抜き取ると、パンツを膝までずらして……。
 コ、コイツ……一人芝居でホントにイッてしまったらしい。それも、さくらの目の前で。普通じゃない。尋常じゃない。まちがいなくヘンタイだ。
 パンツを定位置に戻し(濡れてないのか?)、股間を拭ったティシュを丸めゴミ箱に放り込むと、小百合ははだけた襟元を正しつつ、
「わ、わたくしとおねぇさまは、いつもこんな感じですわよ?」
 少し頬を桃色に染めて(恥ずかしさからか、一人芝居での快感からかは不明)、平然と、そしてなんか毅然とした口調でのたまった。
 さくらは思う。
「小百合ちゃんはいい子だし、数少ないさくらのおともだち。でも……実のお姉さんとだなんて、ちょっと脳味噌くさってるみたい。うつったらヤだなぁ……」
 ……と。
 お前がいうなよ! っていうか、あの一人芝居には触れないのか!? という貴兄貴女のツッコミは、当然のものとして受け流すことにして……そのとき!
「ただいま」
 部屋の外から女性の声がした。小百合の家族の誰かが帰宅したらしい。
「あっ! おねぇさまあぁっ」
 さくらのことなど眼中にないように、バタバタと部屋を出ていく小百合。帰ってきたのは、愛しの「おねぇさま」なのだろう。
 さくらも小百合を追って部屋を出ることにした。
 部屋を出てすぐ、さくらが目にしたのは。
「お帰りなさいっ! おねぇさまあぁ〜っ」
 帰宅した姉に抱きつこうと、廊下を疾走する小百合の姿。これぞ姉妹愛! へボ作者の歪んだ思考が、最もいろんな想像をしてしまうシュチエーションだ。
 う〜ん……いいよねぇ、姉妹愛って。
 予想されうる、姉と妹の禁断の抱擁。そして口づけ。いやいや、もっとすごいことになるかもしれない!
 ドキドキ、どきどき。
 ……が、

 ドズッ!

 姉の右膝が、抱きつこうとした小百合の腹部にメリ込む。うむ、見事な右膝蹴りだ。
 そして、
「寄るな! 気持ち悪いッ。友達がいるからって、わたしがあんたを甘やかすとでも思ったの? これだから腐れ脳味噌は困るのよね。シネ! っていうか、砕けろ!」
 本当に忌々しげに吐き捨てる姉。
 ……? どういうことだ? 小百合の話と違うぞ?
 これから、人目もはばからず姉妹の禁断のラヴシーンが始まるはずじゃ……。
 鳩尾(みぞおちと読むぞ)に姉のキレイな膝蹴りを喰らい、身体を「くの字」に曲げて廊下に沈みゆく小百合。
「ど、どう……し、して……お、おねぇ……さ、さま」
「ケッ! なにが、どうして……よッ。あんた、ホント懲りないわね。ウザイのよ」
 姉は小百合の背中を踏みつけ、スタスタと歩いていく。
 そして、さくらとすれ違うとき、
「あなた、お友だちは選んだ方がいいわよ? うちの妹はおすすめできないわ」
 ハッキリといった。
 廊下と平行になり、ピクリともしない小百合に目を向け、さくらは、
「やっぱり小百合ちゃんは、さくらの本当のおともだちだぁっ!」
 という思いを新たにした。

 とりあえず、友情が深まったということで、めでたしめでたし……なのか?


 次回予告
 どうやら他人はあてにならない。悟ったような悟らないようなさくらは、またなんか珍奇行を思いつく。
 いい加減やめろよ……と、いったところで、恋するオトメに常人の言葉が通じるはずもなく、さくらの一方的な愛は新たな局面を迎えることに!?
 次回「つるぺた天使・修行篇」
 天使の微笑みは、ほら、キミのすぐ隣に……。

 う〜ん……どうなの? これ。と、キーボードをたたいているヤツ自ら、首を傾げるこのシリーズ。坂下さんのお許しがでれば続く!



終わり