「つるぺた天使・野望篇」 人面石発見器
ついにこの時がきた!
愛する兄、蓬(よもぎ)と、蓬の部屋に二人きり。朝比奈さくら(あさひな さくら)小学三年生にとって、それは夢にまでみたどりぃ〜むしーん。
……ん? 夢にまでみたどりぃ〜むしーん?
ま、いっか。なんだか意味不明だが、正しくそんな感じだ!
ドキドキ、どきどき。
さくらは高鳴る鼓動をそのままに、蓬に視線を釘づけにした。すると蓬が唐突にTシャツを脱ぎ、瑞々しく、適度にしまった上半身を露わにする。それはさくらにとって、すでに腐りきっている脳味噌が一段と腐敗を増すほどに美しい光景だった。
(あっ……そ、そんな! お兄さまったら、いきなり服を……きゃっ! さ、さくら困っちゃうぅ〜!)
しかしそれはオトメの恥じらい。恥じらいのないオトメは存在しない決まり(どこで?)なので、ここは恥じらっておかなければならない。
が、本心では、
(うわっ! は、はだか、お兄さまのはだかあぁ〜!)
などと思いつつ、さくらはまばたきもせずに兄の半裸を凝視する。
(部屋には二人きり。服を脱いですることなんてきまってるわ!)
小学三年生らしからぬ、極めて欲望むき出しの想像が腐りきった脳内に拡がり、つー……さくらの右鼻の穴から、真っ赤な鼻血が垂れ落ちた。
さくらは鼻血が垂れるのもお構いなしに、「自身が隠れている収納スペースの隙間」から、愛用のデジタルカメラ(父親のを勝手に愛用している)で、兄の半裸姿を激写! 激写! 激写に次ぐ激写! もう、なんだかわかないけれど取りあえず激写!
部屋には二人きり。そして、自分に半裸を晒す(さくら視点)兄。
すでにさくらの腐った脳内では、自分が隠れているなどという事実は、すっかり異世界に叩き売ってしまっている。
さくらの脳内では、
「これはもう、愛しのお兄さまもついに「その気」になってくれたに違いない!」
という自分勝手な妄想が、サイジョウ・ヒデオ(知る人ぞ知る!)ばりのバイオレンスさで東名高速ふうな場所を爆進中だ。
「ハァ、ハァ、ハァ……す・て・きっ」
そしてさくらは、
「すてきすぎますうぅお兄さまああぁあぁ〜ッ!」
デジタルカメラのシャッターを切りながら、思いの丈を奇声に乗せて発していた。
「すてきすぎますうぅお兄さまああぁあぁ〜ッ!」
ビクウゥッ!
突然室内に響いた妹、さくらの声。蓬は「できればそんな異様なことはあって欲しくない」……と思いつつ、さくらの声が聞こえた部屋に備えつけの収納スペースに目を向ける。
と、かすかに、ほんのかすかに収納スペースの戸に隙間ができていた。
一気に頭に血が上る。
が、蓬は自分に「落ち着け、落ち着け」……といい聞かせ、弛めたベルトを締め直すと、収納スペースの戸を開けた。
予想通り。いや、当たって欲しくはなかったが、そこにいたのは、デジタルカメラを手に、なぜか自分を激写しているらしきさくらの姿。それも、「どうやったらそんな場所に入れるんだ?」……と思いたくなるほど、狭い場所に鎮座……というか、挟まり込んでいる。
「なにしてる、さくら……」
どこか、あきらめを含んだ声色で問いかける蓬。が、さくらは大きな瞳をうっとりと潤ませ、
「お、お兄さま……さ、さくらはもうガマンで、できな……だ、抱いてえぇ〜お兄さまあぁーッ!」
予備動作もなしに飛びついてきた。
……ので、
ケシイィ!
さくらの顔面を、見事に足の裏で塞き止める蓬。ま、当然の行動だ。
足の裏に阻まれ、狭い収納スペースに逆戻りしたさくらは目に涙を溜め、
「な、なにを……さくら、やっとお兄さまもその気に……」
蓬以外の人間には可憐とも思える表情をつくる。
が、
「ぐぎゃっ!」
その可憐かもしれない顔の真ん中に、蓬の右拳がメリ込んだ。それも、見事なまでに中心だ。
「その気というのは、こういうことか?」
態とだろう。優しい口調で問いかける蓬。顔面を被うさくらの両手の隙間から、ポタポタと鼻血が滴り落ちる。
そしてさくらは蓬に首根っこを鷲掴みにされ、問答無用で部屋から叩き出された。
☆
おかしい。変だ。なにかが間違っている! 自室に戻り両鼻の穴にティシュを詰め込んださくらは、自分の行動は間違ってないとして、蓬の行動の理不尽さに思いを馳せていた。
そして、思い悩むこと四十九分。
さくらは、ある結論に到達した。
ブポン(鼻息でティシュを飛ばす音)ッ!
「そうだ! お兄さまは、みられるのは恥ずかしいんだ!」
……そ、そうかぁ? それは違うだろ? っていうか、間違いなく違う。
「だったら、さくらがみせてあげればいい!」
なぜそうなるのか理解不能だ。狂っている……キ○ガイだ。
と、唐突にさくらの頭の中で、お☆さまが名案とともに弾け飛ぶ。
「こ、これだあぁ!」
名づけて、
『きゃっ! さくら恥ずかしいぃ〜! で、でも……お兄さまになら、ポッ……大作戦!』
「これならお兄さまも、きっとよろこんでくれるはずだわ!」
作戦は成功する。そう確信したさくらの脳内で、作戦成功後の妄想が繰り広げられる。
「あぁ、さくら。なんてすてきな身体なんだ。好きだ……いや、愛しているさくら!」
ガシッ!
力強く自分を抱擁する蓬。
「そ、そんな……あっ、お兄さまぁ」
戸惑いながらも、蓬の腰に腕を回すさくら。
そして二人は、真っ赤なバラの花が敷き詰められたベッドにパイルダーオン!
目眩く愛と官能の始まり。
血のつながりという鎖を断ち切り、真実の運命に……っていうか、もういいや。バカ妄想に浸り、一人で身悶えるさくら。
ここまでいくと、ただのヘンタイである。
そして、ひとしきり身悶えたさくらは、作戦決行の準備を始めることにした。
さくらが勝手に自室に入り込み、収納スペースで隠し撮りをしていたのを優しく窘めた翌日。大学とバイトを終え蓬が帰宅して自室に入ると、安心してくつろげる場所なはずのそこは、ある種の地獄に変わっていた。
「……」
変わり果てた室内。呆れて声も出ない。
いたるところに貼られた、(認めたくはないが)血の繋がった妹であるさくらの痴態写真。
これこそが、
『きゃっ! さくら恥ずかしいぃ〜! で、でも……お兄さまになら、ポッ……大作戦!』
の作戦内容だった。
「さくらのかわいいは・だ・か・に、お兄さまもメロメロになって、その気になってくれるはず! 間違いない! か・ん・ぺ・きっ!」
と思って、さくらがこの作戦を決行したであろうことは、想像に難くない。
痴態はパンチラから始まり、撮影が進むごとに段々エスカートしていったのであろう、最終的には、幼いスリットを両手でおっぴろげ、薄桃色の中身がバッチリクッキリ……まで、合計189枚の写真に納められていた。
蓬には、妹の裸体をみて悦ぶ趣味はない。みたところで別段なにも感じないが、それよりも、「こういうヘンタイ的なことをするヤツが自分の妹」……という事実を突きつけられ、絶望的な思いにかられていた。
……五秒後。
蓬は衝動に突き動かされるままにさくらの痴態写真を破り、丸め、踏みつけると、迷うことなく以下の行動をとった。
1・自室を出る。
2・さくらがいるだろう、さくらの部屋に向かう。
バタン!
3・「さくらの部屋」……プレートのかかったドアを乱暴に開ける。
4・ヤツがのほほんと自室にいやがったことを、少しだけ神に感謝する。
「お、お兄さま!? ど、ど、どうしたの!?」
5・なぜかどもりながら、頬を染めて変に期待している感じの顔をしているさくらを、
グボッ! メリッ、メリリリィ! ゴグッ! グチッ! ビチャッ!
6・無言でタコ殴りにする。
7・殴られながらも「ステキ」だのと訳のわからないことを口走るさくらを、数分間タコ殴りにする。
8・さくらが床に沈み、ピクピクと楽しげに痙攣しているのを確認し、
「二度と立ち上がるな! このクソヤローがッ」
9・いい放つと、止めの一発といわんばかりに、腹部へ蹴りを入れる。
10・少しすっきりしたので、完全に気絶したさくらをそのままに、部屋を後にする。
11・部屋を後にして、一つ溜息を吐く。
最後に蓬は、
12・全て(さくらという名の妹がいることも含め)を忘れようと、普段は飲まない酒をかっくらって寝ることにした。
こうして、今日もとりたてて変わったこともなく、朝比奈家の毎日は平穏の内に流れていく……のか?
次回予告
類は友を呼ぶ。その言葉通り、さくらに心強い味方が現れる! っていうか、実は出てきてないだけで、以前からいたらしい。
なにも考えず適当に書いた「黎明篇」とはうって変わり、「野望篇」からは、どうやらへボ作者がいろいろと設定を考えたようだ。
次回「つるぺた天使・友情篇」
天使の微笑みは、ほら、キミのすぐ隣に……。
ハァ……次回は新キャラ登場っす。さくらと同い年の女の子っす。でも、名前は知世じゃありません。ま、期待せずにまっててください。
終わり