「黒薔薇」  人面石発見器


     0

 欠けたピースはどこにも見つからない。
 しかしもう一つの〈キミ〉はここにある。
 あるからこそ、残夢は〈キミ〉を追いつめる。

     1

「きゃッ」
 クラスメイトの風見鏡子とおしゃべりしながら歩いていた松本瑠未(まつもと るみ)は、混雑する夕方の駅構内で一人の青年とぶつかった。
 原因は、瑠未の前方不注意だった。
「す、すみません」
 慌てて頭を下げる瑠未。後頭部で一纏めにした長い髪が、主人に従ってぴょこんっと跳ねる。
「気にしなくていいよ。でも、気をつけてね」
 青年はさわやかな笑顔で、瑠未の頭を見下ろしながらいった。
「すみません。この娘、おっちょこちょいで」
 鏡子も青年にわびる。
「ハハッ…このくらい大丈夫ですよ。僕より、キミは大丈夫? どこも痛くない?」
「……」
 青年にそう訊かれた瑠未は、ぽ〜っとなって青年に見取れた。
 だが、それも無理はないだろう。青年は芸能人としても通用するような、背の高い美男子だった。
 歳は二十歳前後。大学生だろうか? 歳に合わない落ち着いた雰囲気の、少女マンガでヒロインが憧れる年上の男性といった印象だ。
 と、黙り固まっている瑠未を、青年が『?』顔で覗き込む。
 息が届くほど近くに置かれた、白皙の美男子の顔。瑠未はハッとなり、
「は、はいッ。ぜんッぜんッへーきですッ」
「そう? よかった…」
 青年は一度クスッと笑い、「じゃあね」といい残すと、その場を後にする。
 人混みに紛れゆく青年。二人はその後ろ姿を、彼の姿がまったく見えなくなるまで、その場所に突っ立って見送った。
 特に瑠未は、高鳴る胸の鼓動が傍らに立つ鏡子に聞こえるほど、ドキドキと緊張を共存させながら。

 その夜。瑠未は駅でぶつかった青年を想って自慰に耽った。
 ベッドの中でパジャマのズボンとショーツを足首まで吊り下ろし、右手を股間に忍び込ませる。
 瑠未のオナニー歴はまだ三ヶ月に満たないので、彼女の手つきはぎこちない。瑠未は不器用とも思える指使いで、微かな湿り気をもつ割れた部分を軽く擦った。
「ぅん…」
 指が温かい滑りを得る。
 瑠未の恥ずかしい汁は、透明でサラッとしていた。白く粘りが強い汁を、瑠未はまだ吐き出したことがない。小学六年生になったばかりの処女らしい、子供味の恥汁。
 それと同時に、瑠未は左手で成長途中の胸を揉む…というよりはやさしく触れて押す。瑠未の手の平にも収まるほどの、小さくかわいらしい胸。敏感な先端は桜色で、まるでさくらんぼのようだ。
 そのさくらんぼが、瑠未の手の中でツンッとした硬さを持つ。気持ちいい証拠だ。
「はぁ…はぁ…」
 切なげな吐息。甘い…少女の悦びの声。
 瑠未は夢中になって両手を動かす。しかし、秘穴に指を入れることはない。それは怖くてできない。
 瑠未はセックスがどのような行為か理解しているし、男のペニスがどのようなものかも、おぼろげながら知っている
 だが自分の小さな秘穴に「それ」が入るとは、到底思えない。自分の指一本すら、入れるのが怖いのだ。
 男の子とつきあったこともなく、キスもしたことがない瑠未にとって、セックスは異世界の物語のようなもの。いつかは知るだろうが、だが今ではない。
 今は稚拙なオナニーだけで、瑠未は頭の芯が痺れるほど気持ちよくなれる。硬くなった乳首を指で捏ねると、キュンと胸が締め付けられ、皮を被った未発達なクリトリスをさするだけで、ゾクッとした電流が背中を走る。
 青年の顔を思い浮かべ(少し曖昧になっているが)ながら、瑠未はちゅっちゅぷと湿った下の口で鳴いた。
 「気持ちいい」が、段々大きくなってくる。
(あッ…イッちゃう…)
 瑠未は慌てて、用意してあったティシュを数枚引き抜いて股間にあてた。恥ずかしいお汁で、シーツを汚すわけにはいかないからだ。
 しかし瑠未は、本当の意味で「イク」わけではない。
 瑠未が「イッちゃう」と思っているのは、軽いエクスタシーでしかなく、彼女が本当の絶頂に達するわけではない。本当の絶頂を知らない瑠未にとっては、透明な恥汁がとぷっと零れるのが、「イッちゃう」なのだ。
 イッちゃった瑠未は、新しいティシュを引き抜いて、それで股間の湿りを拭うと、丸めたテッシュをゴミ箱に捨てた。
 もちろん、朝にはゴミ箱から出して、ティシュ袋(と、瑠未が呼んでいるコンビニのビニール)に入れて母親に見つからないようにする。
 ティシュ袋にそれなりにティシュが溜まると、瑠未はそれを鞄に入れて通学途中に捨てる。彼女はこれまでに、二回ティシュ袋を捨てた経験があった。
 瑠未は、ほぼ週二回の割合でオナニーをしている。それが多いのか少ないのかわからないが、遣りすぎているとは思っていない。
 自己嫌悪に陥るような、「酷いこと」を想像して遣ることもない。そもそも、キスもしたことがないのに、「酷いこと」など想像できない。
 思春期の女の子が、微笑ましく思えるような方法で自分を慰めているだけの、なんの罪もないお遊び。
 それが瑠未の自慰行為であり、唯一の性生活だった。

     2

「あっ…あのッ」
 あの日から丁度一週間目。帰宅途中、瑠未は駅前広場近くであの青年を見つけて声をかけた。
 青年は少し考えるような顔をした後、
「…あ、あぁ…あのときの…」
「ぐ、偶然ですね」
 本当は偶然ではない。瑠未はこの一週間、青年がいないか駅の様子を気にかけていたのだから。
「そうだね…えっと…」
「あ、あたし松本瑠未っていいます」
「ルミさん? かわいい名前ですね。僕は赤間宗一郎(あかま そういちろう)です。よろしく、ルミさん」
「は、はいッ。よろしくおねがいしますッ」
 と、瑠未が勢いよく頭を下げるのを見て、宗一郎はクスッと笑った。
「それで…僕になにかご用ですか?」
「……」
 別に用などない。ただ、もう一度会いたかっただけだ。
「…どうかなさいましたか? ルミさん」
 困っているような瑠未を見て、宗一郎はそれなりに理由を察した。彼はこれまでにも、瑠未のような女の子に何人も出会っている。
 宗一郎の見た目のよさに、好意を覚えた女の子。
 宗一郎は、そんな女の子のあしらいかたも知っているし、「利用価値」も知っていた。だから…
「ルミさん。よろしければ、少し僕とお話しませんか? お時間がよろしければですけど」
「は…あっ…で、でも…」
「都合がよろしくありませんか?」
「すみません…そろそろ帰らないとマ…その、お母さんが心配しますから…」
「そうですか…残念です」
「でも明日なら」
「明日は僕。ここには来ないのです」
「そう…ですか…」
「日曜日なら、一日空いているのですが」
「あっ、あたしも日曜は空いてますッ」
「でしたら、日曜日に僕とデートしてくださいませんか?」
 さわやかな頬笑みで告げる宗一郎。
「でっでっでーとですかッ?」
 突然の申し出に、瑠未の声が上擦る。
「なにか?」
「いいえッ。よろこんでッ!」
 瑠未は快く…というか、舞い上がって承諾した。
「ありがとうございます。では、日曜の…そうですね、十時にここで待ち合わせにしましょうか?」
「は、はい。十時ですねッ?」
「えっと…あぁ、分かりやすいように」
 宗一郎は右側の広場中心に設置されている噴水を指さし、
「そこの噴水前で待ってますから」
「はいッ。絶対来ますッ。約束しますッ」
「クスクス…はい。約束です。では、日曜のデート楽しみにしています」
 商店街のほうに歩き去る宗一郎が見えなくなると、瑠未は跳ねるようなステップで、駅構内に小さな身体を滑り込ませていった。

『瑠未さん』
 自分の名を呼ぶ宗一郎の声が、瑠未の頭の中で何度もリフレインする。
「瑠未さん…だって…きゃッ」
 瑠未はベッドにうつ伏せになり、枕に顔を押しつけて、パタパタと脚を何度も上下させた。
「そ、そういちろう…さん」
 呟いてみる。
 胸の奥がカッと熱くなった。
 瑠未は、身体も心もフワフワとして、どこかへ飛んでいってしまいそうに感じた。
「そういちろうさん」
『なんだい? 瑠未』
 瞼の裏で、彼が頬笑んだ。
「くうぅ〜」
 瑠未の脚の動きが、パタパタからバタバタになる。
 このような舞い上がった日々を経過させ、ついに瑠未は約束の日曜日を迎えた。

     3

 約束の時間よりも三十分も早く、瑠未は待ち合わせ場所に到着した。
 今日の瑠未は目一杯オシャレして、よそ行きの服を着て、一番お気に入りの純白のリボンで二つ結びにした頭を飾っている。
 瑠未は「自分の方が絶対に早い」と思っていたが、待ち合わせ場所には、すでに宗一郎の姿があった。
「おはようございます。ルミさん」
 ラフな格好はしているが、それでも宗一郎は「瑠未的に完璧」だった。
「あっ。もう、いらしていたんですか…」
 馴れない丁寧(と瑠未は思っている)な言葉使い。舌がもつれそうだった。
「えぇ。待ちきれなくて」
 と、どこか照れたよう顔で微笑む宗一郎。瑠未は、胸の奥がきゅぅうんっとなった。
「じゃ、行きましょうか?」
「はいっ」
 瑠未に合わせるようにゆっくりと歩く宗一郎の半歩左斜め後ろに付き、瑠未は初デートの第一歩を踏み出した。

 宗一郎が買ってくれたクレープを食べながらの、ウインドゥショッピング。二人の傍らを、手をつないだカップルが微笑み合いながら通り過ぎる。
(あっ…いいな。あたしも、手…つなぎたいな)
 そっと見上げるように宗一郎を見る。すると宗一郎が瑠未を見下ろして、「はい」と右手を差し出してきた。
 瑠未は差し出された手の意味を、二秒ほど理解できなかった。瑠未がその意味を理解したと同時に、
「手、つないで歩きませんか?」
 宗一郎が、さわやかな(瑠未視点)笑顔と口調で告げた。
「イヤですか?」
 宗一郎の言葉に瑠未はフルフルと首を横に振り、「いいん…ですか?」と小さな声で返す。
「僕は、そうしてくれたほうが嬉しいです。でも、ルミさんがおイヤでしたら、残念ですがあきらめます」
「イ、イヤなんてっ。そ、そんなことありません」
 瑠未は震える左手を、差し出された宗一郎の手に重ね、繋いだ。
(うわあぁ。手、繋いじゃったぁ…)
 宗一郎の温かな体温が、手の平を通って身体中に浸透してくる。通りすがりの女子高生らしき少女が、瑠未と宗一郎に羨ましそうな視線を向け、瑠未はその視線に「どう? 羨ましいでしょ」と、心の中で返した。
 繋いだ手に、少し力を入れる。それに応えるように、宗一郎も手を少し強く握った。
 瑠未が、並んで隣を歩く宗一郎を見上げる。
「ごめんなさい。少し、強く握りすぎましたか?」
「い、いいえッ。ちょ、ちょうどいいです」
 瑠未の答えに、なぜか宗一郎が笑う。瑠未は自分が「ヘマ」をしたのではないかと思い、耳まで真紅に染めてうつむいた。
 瑠未を優しくリードするように、そして瑠未の歩調に合わせて歩きだす宗一郎。瑠未は初デートという記念すべきイベントの相手が宗一郎であったことを、信じてもいない神に感謝した。
 魅力的な青年と手を繋いで歩く街。道行く人全てが、「自分たち」を見ているような気がしてならない。恥ずかしい。だが瑠未は、それ以上に誇らしかった。
 瑠未は自分の容姿に、多少は自信がある。「かわいい…かも」と、自分でも思っている。だが、宗一郎と自分がつり合っているとまでは思わない。それには宗一郎が「大人」で、瑠未がまだ「子供」だということも関係しているが、そんな「年齢差」以前に、宗一郎は瑠未にとって完璧な存在だった。
 瑠未が思い浮かべる理想的な「大人」。そして「異性」。それが、赤間宗一郎という青年だ。
 優しくて、かっこよくて、自分を子供扱いしない。もちろん瑠未はまだ小学六年生でしかなく、宗一郎にとっては子供だろう。そんなことは瑠未も理解している。
 だがこれまで一度も、宗一郎は瑠未を子供扱いせず、一人の女性として接してくれている。そのことが、瑠未はなによりも嬉しかった。
 だから瑠未は精一杯背伸びして、宗一郎に呆れられないように振る舞った。
 喫茶店で少し遅めの昼食を終え、デートの再開。店を出て宗一郎が差し伸ばしてきた手を、瑠未は当然のように掴んだ。
 歩き出す宗一郎。
「どこにいくんですか?」
 訊ねた瑠未に、
「少し、休める場所です」
 瑠未は意味がわからなかったが、変な質問をして笑われるのがイヤだったので、無言でそれに従った。
 数分後。
「ここに、入りませんか?」
 大通りから一つ外れただけの通り。極端に人通りがなく、周りには瑠未と宗一郎の姿だけ。瑠未は目の前に建つ、奇妙に「めるへんちっく」な建物を見上げた。
(う、うそ…ここって、ラブホテルとかいう場所じゃないっ!)
 小学六年ともなれば、こういう場所の存在は知っているし、瑠未はそこでなにをするのかも知っていた。といっても、入ったことも、「そういったこと」をした経験もなかったが。
「あ、あ、あのっ」
「なにか?」
「い、いえ、その…ここって、その…」
「僕と入るのは、おイヤですか?」
「そ、そんなことないですうぅ〜っ!」
 瑠未は奇妙な裏声で、思わずそう答えていた。
(そ、そうよね。アカマさん大人の人なんだから、デートでこういう場所にくるのって、ふ、普通…なんだよ…ね)
 真っ昼間から女性を、それも小学生をラブホテルに誘うのが普通の大人の行動とは思えないが、瑠未はそこまで考えが至らない。
 瑠未は宗一郎に手を引かれるまま、緊張と期待に胸を高鳴らせ、建物に入っていった。

「どうぞ、先にシャワー使ってください」
 宗一郎が選んだ部屋。ホテルの外見とは違い、妙に殺風景で暗い色調の部屋だった。なぜか床はタイル張りで、瑠未は「お風呂場みたい」と感じた。
 とはいえなにも知らない瑠未は、「でも、これが普通なのかもしれない」と勝手に納得することにした。
 宗一郎に勧められるまま、シャワー室に入る瑠未。小さな脱衣場で服を脱いでいると、
(あ、あたし…ホントにエッチしちゃうんだぁ…)
 不安と期待と緊張が混じり合った、なんともいいようない感覚におそわれた。
(でも、アカマさんになら、初めてあげても…いいかな?)
 シャワーのノズルを回す。少し熱めの湯が降り注いだ。リボンを解いた長い髪に染み込み、白い肌に弾ける。
 瑠未は恥ずかしいと感じながらも大切な部分を丹念に洗い、あまり待たせるのも悪いと慌てて脱衣場に置かれたタオルで身体と髪を拭くと、もう一枚置かれていた大きめのバスタオルで身体を覆い、シャワー室を出た。
「あ、あの…」
 シャワー室を出た瑠未の目に飛び込んできたのは、上半身裸でベッドの傍らにたたずむ宗一郎の姿だった。
 覚悟はしていたはずなのに、咄嗟のことに瑠未は驚いて、「きゃッ」と目を伏せる。数秒うつむいていた瑠未が顔を上げると、目の前に宗一郎が立っていた。
「ルミさん…」
 真っ直ぐに瑠未を見つめる宗一郎。瑠未はぽ〜っとなって、
「は、はい…」
 夢を見ているような頼りない返事を返す。と、正面から宗一郎に包み込まれた。身長差があるため、瑠未の顔は宗一郎の胸の下に収まる。
 心のどこかでキスを期待した瑠未の右手首が、痛いくらいに掴まれた。
「痛いです」
 いおうと思った瞬間。
 ガチャ
 冷たい金属の感触が、瑠未の右手首を支配した。
「なッ」
 宗一郎の胸の隙間から、自分がなにをされたのか確認する。右手首に、鈍く輝く手錠が填められていた。
(えっ? な、なにっ?)
 どうして自分の腕に手錠が填っているのか理解できない。だが瑠未は、これまでの浮かれた気分が急速に冷めていくのを感じた。
「ヤッ…こんなの止めてくださいッ!」
 それに返ってきた答えは、後ろ手に左手首にも輪を填められるというものだった。
 長さ十センチほどの鎖で繋がれた両手首。瑠未は宗一郎がどうしてこんなことをすのか理解できず、混乱と疑問で頭の中がグチャグチャになった。
 呆然となっている瑠未の躰を包むタオルを、宗一郎がもぎ取る。瑠未はハッとなり、悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
 ガクガクと膝が震え、瑠未は初めて宗一郎に恐怖を感じた。自分が、とんでもない場所に連れ込まれたのではないかということに、ようやく気がついた。
 だが、もう遅い。
 瑠未にできるのは、躰を丸めて震えることぐらいだった。だがその「抵抗」も、後ろから宗一郎に背中を蹴られるという動作で消え去る。
 床に顔を押しつけ、少し膝を立てて背中を丸めた姿勢でうずくまる瑠未。腕の自由が奪われているため、小さく薄いお尻を突き上げるような格好になっていた。
「い、いやぁ…や、やめてください…」
 恐い。あんなに優しく紳士的だった宗一郎の変貌を、瑠未はとても恐ろしく思った。
「ダメだよ」
 宗一郎は顔に笑みを浮かべ、いつの間にか手にしていた鞭、長さ五十センチほどで、先端に細長い扇形の固い皮製の「飾り」が付いた乗馬用の鞭(に形は似ているが、実際には馬ではなく人を打つために作られた物だ)を、動けない瑠未に振り下ろす。それはごく自然の、当たり前のような動作だった。
 ビチッ!
「ウグァッ!」
 声にならない悲鳴と共に、瑠未の白いお尻に紅い線が刻まれる。
「ったいッ…や…やめ…」
 ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ!
 宗一郎は瑠未の懇願を無視して、何度も鞭をお尻に振るった。その度に瑠未は「ヒギッ!」とか「ハヴァッ!」とか、宗一郎にとって心地よい鳴きかたで鳴いた。
 瑠未のお尻は赤く染まり、血が滲んでいる箇所もある。
「…も…や…め…」
 ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! 
ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ! ビチッ!
 瑠未は引き裂かれるような激痛に気を失った。
 だが宗一郎はそのことに気づいている様子もなく、気絶した瑠未のお尻に向かって、何度も何度も鞭を振り下ろし続けた。

     4

 ビチャビチャと頬にあたる液体の感触に、瑠未は目を醒ました。
(…なんだろ…これ? 臭い…)
 まだはっきりとしない頭で考えたが、答えはでなかった。
 と、ズキッとした痛みがお尻から全身に広がった。そして、思い出した。
 自分が今、どこでなにをしているのかを。
「…ぁあぁああぁあぁあっ…」
 思い出した瞬間。瑠未は叫んでいた。
「イヤッ…イヤアァアァ〜ッ!」
「目を醒ましたかい?」
 頭の上から声がした。「あの男」の声だ。
 瑠未は鞭で叩かれていたままの体勢で、後ろ手に腕を手錠で拘束されて転がっている。うつ伏せでお尻を突き出すような、あの恥ずかしく忌々しい姿で。
 頬にあたる液体が止まり、瑠未は首をひねって視線を声に向けた。
「ヒッ」
 そこには、全裸の宗一郎が立っていた。
 宗一郎は普通の状態のペニスに右手を添え、滴を飛ばした。それが目の中に入らないように、瑠未は咄嗟に瞼を閉じた。
(…まさか…)
 瑠未は、自分の頭部と顔を濡らす液体の正体に思い至った。
(これって…おしっこッ?)
「…ぁあぁああぁ…や…いやあぁ〜っ」
(どうして? なんでこんなことするのッ?)
 瑠未の疑問はもっともだが、宗一郎としては、小便がしたくなったからしただけだ。瑠未の頭にかけたのも、なんとなくそうしたかったからだ。
 ここは「そういう部屋」だし、別にホテルの迷惑にはならない。
 瑠未が転がされているタイル張りの床には、排水溝も完備されている。「そういうこと」、いわゆるSMスカトロプレイを想定した部屋である以上、失禁に対する装備をするのはホテル側として当たり前のことだ。
 だが、そんなこと瑠未には関係ない。
 なぜ、おしっこをかけられなければならないのか? そんなことをして、なにが楽しいのか? どうしてこんな非道いことができるのか? 疑問は尽きない。
 髪は酷い悪臭を染み込ませ、顔はその悪臭の元でびしょ濡れになっている。お尻は痛いし、無理な体勢に躰が軋む。
(どうして? どうしてこんなことになったのッ?)
「ルミさんも目を醒ましたことですし、続きを楽しみましょうか」
 宗一朗は瑠未の後ろに移動し、「どうぞご自由にしてください」といって突き出されている、血が滲んだお尻に手を添えた。
 手が置かれた瞬間。ズキッと痛みが瑠未の躰を走った。
「ったッ」
「…痛いですか? それはよかったですね」
(…よかった? な、なにいってるのッ? いいわけないじゃないッ!)
 しかし、言葉としてはなにもいえなかった。
「かわいいお尻ですね」
 宗一郎は、その堅く閉じた肛門に右の中指を入れた。思い切り、根本まで。
「ふぐウゥッ!」
 お腹の中に入り込んだ異物に、瑠未は呻いた。
 ズプズプと宗一郎が指を前後させる。お腹の中を掻き混ぜられる感覚に、瑠未は声もなく口をパクパクさせた。
「…や…やめ…て…」
「気持ちいいですか? ルミさん」
 宗一郎が指を動かす速度を速める。
 ずぷじゅぷじゅぷずずぴゅ。
 指に巻き付いた直腸が捲れ顔を出す、だがすぐに指と共に埋まる。その繰り返し。
(だ…ダメえぇ…)
「…あっ…も、もう…だ…め…」
「どうしましたか?」
 楽しそうに訊く宗一郎。
 わかっているのだ。瑠未がなにをいいたいのか。なにが「ダメ」なのか。わかっていて楽しんでいる。
(ダメ…もう…もう…)
 限界だ。これ以上我慢できない。
(…もう…うんちでちゃうぅッ)
 ビクッと瑠未が大きく痙攣したのを確認し、宗一郎は指を引き抜いた。
 ブッ…にょるぅッ…ぶリュッびゅッ…ぷりぃ
 細長い褐色のうんちを捻りだし、瑠未の肛門は満足そうにヒクヒク痙攣している。
 それにしても…凄まじい悪臭だ。
 小柄でかわいい瑠未のお腹に、本当に「これ」が詰まっていたのだろうか?
 美少女には排便をしてほしくない。というのは、世の男性の願望として皆無ではないだろう。
 その願望を一瞬でたたき壊すような脱糞と、鼻が曲がるような悪臭。
「クサッ…ルミさん。こんな臭いウンコ漏らさないでください。恥ずかしくないのですか?」
「……」
 恥ずかしいに決まっている。漏らしたくて漏らしたんじゃない。お尻の中を掻き混ぜられ、我慢できなかったのだ。
(あたしが悪いんじゃない…あなたが…あなたがッ)
「まぁいいでしょう。これで入れやすくなりましたし…」
 宗一郎は、瑠未の恥ずかしい姿にやっと勃起したペニスを、残りかすが付着している瑠未の肛門にあてた。
 瑠未はなにかがお尻にあてられたのを感じたが、それが宗一郎の性器とは思い至らなかった。そんなこと、想像もしていなかったからだ。
(な、なに…?)
「入れますよ」
(入れる? なにを? 指なら今まで入れてたじゃない…)
 メリィッ
「クガアアァッ!」
 肛門が引き裂かれたと思った。
 …実際、裂けていた。
 もちろん、瑠未が想像したほど壊滅的な状態ではない。瑠未の想像では、五百ミリリットルのペットボトルをねじ込まれ、ビチャと血が噴き出している状態だったが、実際にはペニスを挿入されただけだ。
 出血はしている。少しだけだが、裂けてもいる。だが、二度と排便ができないような状態ではないし、壊れたともいえない。
 しかし瑠未にはわからない。
 圧倒的な恐怖が瑠未を襲った。
 痛みより、恐怖が強かった。
 お尻が壊れた。いっぱい血が出てる。死んじゃう。殺される。しんじゃう。ころされる。シンジャウ。コロサレル。
 …死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
 殺される殺される殺される殺される殺される…
「…あぁああぁぁ…」
 …イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ
 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないッ。
「イッ、イヤアァアアアァアアァァアァアァァーッ!」
 瑠未の絶叫は、防音設備が完璧な室内でだけ、激しく響いた。

 バージンより先にアナルバージンを失った瑠未は、なにが行われたのかも理解できずに声もなく泣いていた。
 宗一郎は、呆然となっている瑠未のお尻からまだ力あるペニスを抜き、肛門からゴプッと溢れ出す血と精液の混合液は無視して、なに物ともいえないような茶色い汚物が付着したそれを、今度は小陰唇もまったく顔を見せていない、白い肌の割れ目に添える。
 そして瑠未の細い腰をしっかりを鷲掴むと、
「いくよ」
 言葉と同時に、なんの躊躇いもなく瑠未の閉じた秘穴に突き刺した。
「アグッ、ヒッ、ヒィイイィイイイィ〜ッ!」
 あまりの激痛に、瑠未は獣じみた悲鳴を上げた。
 きつい締め付けに難儀しながらも、宗一郎は力一杯腰を動かす。
 パンッパンッという肉と肉がぶつかり合う音と、「ガッ!」、「ギッ!」という瑠未の鳴き声がハミングを奏でる。
 瑠未の破瓜で紅く染まる結合部。いや、それにしては出血が酷い。どこか裂けてしまったのかもしれない。
「ヒッ! ヒイッ…!」
 眼球がこぼれ落ちそうなほどに瞼を開き、大粒の涙を溢れさせている瑠未を、宗一郎は執拗に責め続けた。
 瑠未の眼球は躰中を突き抜ける激痛に瞳孔が収縮し、視覚を司る器官としての役割を果たさなくなって、彼女の視界は黒と赤の斑に染まる。
 貧血状態に陥った瑠未は、思考力が皆無となる。自分がどこでなにをして(されて)しるのかわからなくなり、与えられる苦痛も痺れて感じなくなっていった。
 瑠未は…堕ちていった。

     5

 あの日。瑠未が処女を奪われた日から、もう一ヶ月ほどになる。
「似合うよ。ルミ」
 宗一郎が一人暮らしをしている、二十歳ほどの青年が住めるとはとてもではないが思えない、高級マンションの一室。
 瑠未は、「ご主人様」である宗一郎のプレゼント。小さな鈴が付いたピアスを桜色の両乳首に飾り、お褒めの言葉を頂いていた。
 ピアスに付いている小さな鈴がリンリンと鳴る。瑠未には、「お前はもう戻れない」、「お前は奴隷だ」と、「ナニモノ」かに告げられているかのように聞こえていた。
「…はい、ありがとう…ございます。ご主人様…」
 感情を宿さない暗くよどんだ瞳をご主人様に向け、瑠未は力なく答える。
 つい一ヶ月前まで、とても表情が豊かだった瑠未の顔には、無表情という仮面が張り付いてしまっていた。
 奴隷の証である首輪と、二十センチほどの鎖で繋がった手足の拘束具。そして乳首を飾るピアスだけが、奴隷である今の瑠未に許された「衣装」だった。
 産毛のように生えていた恥毛は、ご主人様の命令で毎日手入れしているので、彼女の股間はつるつるとしている。
 その無毛のクレパスに、宗一郎は手を差し入れた。
「ぅくっ」
「いい子にできたら、今度はここのピアスを買ってあげるよ」
 瑠未の皮を被った未発達なクリトリスを指で刺激し、宗一郎が告げる。
「は、はい…あり、ありがとう…ございます。う、うれしい…です」
 これまで何度となく繰り返された「調教」で、瑠未の躰は宗一郎に触れられるだけで濡れ、感じるようにされてしまった。
 宗一郎が瑠未の愛液で濡れた指を、瑠未の口元に差し出す。瑠未はチュパチュパと音を奏でその指を舐めた。
「美味しいかい?」
「…は、はい。おいしいぃ…で、ですぅ」
 リンッと、乳首を飾るピアスの鈴が鳴る。瑠未の躰が、奥の方からご主人様を求め出す。
 気持ちよくなりたい。
 痛くて、気持ちいいことをして欲しい。
 鞭で叩いて欲しい。針を突き刺して欲しい。浣腸して欲しい。玩具で躰中をかき混ぜて欲しい。おしっこ飲みたい。うんち食べたい。精液飲みたい。顔に、躰に、オマンコに、お尻に、精液が欲しい。前の穴にも後ろの穴にも、ご主人様のちんぽハメて欲しい。グチュグチュにして欲しい。
 躰が熱を持ち、うずき始める。
「も、もう…ご、ごしゅじんさまぁ」
 無表情だった瑠未の顔に、なにかをせがみ、強請るような表情が浮かぶ。だがその瞳は、暗い色のままだった。
「して欲しいのかい?」
「は、はいぃ」
「なにをして欲しいの?」
「あっ…な、なんでもして…ください」
「なんでもいいだね?」
「はい…なんでも、いいですぅ」
 宗一郎は瑠未を突き飛ばすように床に転がすと、乱暴とも思える動きで、これまでの調教で十分に彼のモノを受け入れるようになった瑠未のアナルを犯した。
 お尻に肉をぶつけられる。直腸が埋められる硬い棒に拡がり、刺激される。乳首のピアスの鈴が、リンリンと小さく鳴る。
 そのあまりの快感に、瑠未は涎を垂らしながら喘ぎ続けた。
「あたしは奴隷。ご主人様の、奴隷…」
 心の中で、そう繰り返しながら。



終わり