雨がふっても傘さして
   終幕 「雨がやんだら窓あけて」
  人面石発見器


 当たり前のように繰り返される、幸福な日々。
 取り立てて事件なんかなく、平和で、平穏で、とても幸せな毎日。ボクは、そんな毎日を送っている。
 ボクの名前は紅野抄(こうの しょう)。職業はイラストレイター……なのかな? 秋雪蛍(あきゆき ほたる)というペンネームで、作家活動をしているんだ。
 画家なんて呼ばれることもあるけど、そんな、画家なんて呼ばれるほどたいしたものじゃない……と、自分では思っている。
 午後四時。ボクはイラストの下書きをする手を止め、ドアの外へ耳を傾ける。そろそろ、彼女が帰ってくる時間だ。
 ほら、聞こえてきた。トントンと階段を昇る、彼女の足音が。
「抄さん、ただいまですっ!」
 声と同時にドアが開き、桃の丘女学園初等部の制服に身を包んだ彼女が、嬉しそうな顔で告げる。
「おかえり。らいるちゃん」
 トコトコと、ボクの側へと歩み寄ってくる彼女。そして、ボクの右頬に軽く送られてくる、「ただいまですのチュー」。
 ボクも彼女の頬にキスを返し、
「おかえり」
 もう一度告げる。
 頬を桜色に染め、照れた顔でニッコリと微笑む彼女。この笑顔が、ボクの「宝物」だ。
 彼女の名前は、呼虹らいる(こにじ らいる)ちゃん。一応、ボクの婚約者……ってことになっている。
 婚約者といっても、彼女はまだ十歳の小学五年生だから、結婚するのは先のことだ。それに、世間的に認められた婚約者というわけでもない。
 ……まぁ、そんなことは関係ないけど。
 ボクは彼女と結婚するつもりでいるし、彼女もボクとの結婚を望んでくれている。だから、ボクたちは婚約者だ。
 お尻にまで届く長い髪。大きく円らな瞳。砂糖菓子のような甘い香りと、心に染み込んで癒してくれるかのような、やさしくさわやかな声。
 彼女は、ボクがこの世界中で一番大切に想っている存在だ。ボク自身よりも大切な、唯一の存在。
 この世界のなによりも、ボクは、彼女……呼虹らいるちゃんを愛している。

     ☆

 今日、五月二十二日は、ボクの二十一回目の誕生日。
 ダイニングのテーブルには、らいるちゃんが腕をふるってくれた手料理が並べられている。テーブルの中心にはケーキが置かれていて、これも彼女の手作りだ。
 そういえば去年の誕生日は、ボクは彼女と一緒にいてあげられなかった。仕事で、東京にいっていたからだ。
 あの頃は、ボクとらいるちゃんは婚約者じゃなくて、同居人……みたいな関係だった。それにらいるちゃんは、ボクのことを「抄さん」ではなく「お兄さん」と呼んでいた。
 今では、「お兄さん」なんて他人行儀な呼ばれかたをしていたなんて信じられないけど。
「はい、抄さん。あ〜んっ……してくださいです」
 フォークに刺したケーキの欠片を、ボクの口元へとさし出すらいるちゃん。ボクはそのケーキの欠片を口に入れる。
「おいしいですか?」
「うん。美味しいよ」
 ボクの答えにらいるちゃんはニッコリと微笑み、
「だったら、いっぱい食べてくださいです。今日は抄さんのお誕生日ですから、らいる、いっぱいお料理作ったです」
 いわれるまでもなく、テーブルは料理でいっぱいだ。全部食べられるかどうか不安だけど、残したからといってらいるちゃんが怒ることも、イヤな顔をすることもないのはわかっている。例え残したとしても、彼女はボクが満足してくれれば、それで充分嬉しいのだといっていた。
「抄さんが、ムリして食べて苦しい思いをするほうが、らいるはお料理を残されるよりもずっとずっとつらいです」
 と、以前にそういってくれたことがある。
 だからボクは、食べきれないときにはちゃんと「もう食べられないよ。ごめんね」と、ハッキリいうことにしている。
 二人きりの誕生日パーティー。といっても二人で暮らしているんだから、二人きりなのはいつものことだ。
 でもらいるちゃんは、いつもよりもはしゃいでいて、ずっとニコニコと楽しそうにしている。彼女が楽しそうにしていると、ボクも楽しくなってくる。
 こんなに楽しくて、嬉しい誕生日パーティーは初めてだ。
 ボクはらいるちゃんと出会えたことを、信じてもいないけど神さまに感謝した。そしてらいるちゃんにも、ボクを「選んでくれて」ありがとう……と、心から感謝した。
 本当に、キミと出会えてよかった……と。

 二人だけのパーティーも終わり、ボクたちは和室のリビングへ移動した。
 パーティーの間中はしゃいでいたらいるちゃんは、今は胡座で座るボクの腰に乗り、静かにしてボクの胸へと背中を預けている。
 こうしていると、痛いほどに彼女への想いが脹らんでくる。
 言葉にならない感情。
 好き。愛してる。守りたい。ずっと側にいたい。ずっと、側にいてほしい……。
 無理に表現するなら、そういったものが混ざり合った感情だろう。でもボクが感じているのは、ただ、彼女が愛おしくて仕方がない……という想いだ。
 無言で、互いの温もりを感じるボクら。時間がゆっくりと過ぎていく。
 やがて、時計の針が午後九時をまわる。いつもなら、二人でお風呂に入る時間だ。
「抄……さん」
 ふと、らいるちゃんが口を開く。
「なに?」
「おふろの時間……です」
「そうだね」
「でも、じゅんびするの忘れてたです」
 ホントはらいるちゃん、こんなことをいいたいんじゃないと思う。たぶん、ボクが考えていることと同じことを、彼女も考えている。
 だからボクは彼女をギュッと抱きしめ、
「しよっか?」
 いった。
 らいるちゃんは肯いて、
「する……です」
 自分を抱くボクの腕に、小さな手の平を重ねた。

     ☆

 らいるちゃんの部屋。壁には、昔ボクが描いた絵が飾られている。夜桜と十六夜の月を描いた絵。そのタイトルは、「来流 −Rairu−」。
 彼女と出会う数年前に描いた絵だけど、偶然(もしくはなにかしらの必然?)彼女と同じ「名前」だ。この絵はボクがプレゼントしたわけじゃなく、出会ったときには彼女が所有していた。
 個展で販売したものだから誰かの手に渡っているのは当然だったんだけど、それがらいるちゃんの手に渡っていたなんて、ちょっと「運命的」な「なにか」を感じずにはいられない。
 ボクは着ている物を脱ぎ、ベッドの縁に腰を下ろす。
 最初が「そう」だったからというのもあるし、ボクのベッドよりらいるちゃんのベッドのほうが大きいということもあって、ボクたちはこの部屋で「する」ことが多い。
 そりゃ、この部屋以外で「した」こともあるけど……。
「今日は、たっぷりするです」
 らいるちゃんがボクの首筋に腕をまわし、抱きついてくる。らいるちゃんも、その身になにもまとっていない。
「うん、しようね」
「はいですっ!」
 以前は、二人ともヘトヘトになるまですることが多かったけど、最近はそうでもない。飽きたとかいうわけじゃなくて、そんなにヘトヘトになるまでする必要がないというか、回数なんか関係なく、愛し合っていることが「確認」できるようになったから……とでもいうのかな?
 う〜ん……どういえばいいんだろう? 確かに身体を重ねることも大切なコミニュケーションの一つだと思うけど、そればかりが「方法」ってわけじゃなくて、ただ会話するとか、それこそ見つめ合うだけでも、充分にコミニュケーションが取れるようになったから……なのかな?
 する回数が減った理由は自分でもよくわからないけど、ボクの彼女への想いが色あせるなんて考えられないし、そんなこと感じたこともない。ボクは彼女を愛しているし、本当に大切に想っている。
 いつも考える。どうすれば、ずっと彼女が微笑んでいられて、幸せでいられるのだろうか……と。
 らいるちゃんがボクを必要としてくれていることは、彼女の仕草や言葉から痛いほどに伝わってくる。だからボクはいつも彼女の側にいるし、いたいと思っている。ボクが側にいる。ただそれだけで、彼女は微笑んでくれる。幸せだといってくれる。
 彼女の幸せ。それは同時に、ボクの幸せでもある。
 たぶん、「隙間」がないんだと思う。ヘトヘトになるほど身体を重ねてまで埋める「隙間」が、今のボクたちにはないんだと思う。だから、ムリしてまで身体を重ねる必要がなくなったんだろう。
 といっても、ボクは彼女を抱きたいとは思うし、するときには彼女の幼い身体に夢中になってしまうのも事実なんだけど……。
 ボクたちは裸で抱き合い、唇を重ねる。やわらかな彼女の唇。舌とともに、彼女の甘い唾液がボクの口に入ってくる。絡み合う舌。吸い、吸われる唇。首筋にまわされた彼女の腕が、強くボクを抱きしめる。ボクも彼女の細い腰を抱き、
「んっ……ぅうン、ン、ちゅっ、ちゅく……ん、ぅンっ」
 深く、長いキスを続けた。

 長いキスの後。
「抄……さん」
 唾液で濡れたらいるちゃんの唇が、ボクの名を紡ぐ。ボクは彼女の肩を抱き、ゆっくりとベッドに仰向けで寝かせつけた。
 彼女の長い髪がシーツに拡がって、それはまるで彼女が黒い翼を拡げたかのように、ボクの目に栄えて映る。
 そっと、らいるちゃんの頬に手をそえる。信頼の色を帯びた視線が、真っ直ぐにボクを捕らえてきた。
「愛してるよ、らいるちゃん」
 言葉にしなくても伝わっていると思うけど、ちゃんと言葉にして伝えたかった。
「らいるもです。抄さん……」
 らいるちゃんも、言葉にして返してくれた。ボクは彼女の唇に触れるだけのキスを送り、次いで薄い胸へと顔を近づける。
 らいるちゃんは、一年前と比べて少し背が高くなっているように思うけど、胸はぜんぜん大きくなってない。一年前と同じでペッタンコだ。
 彼女は、自分の胸が膨らんでこないことをとても気にしているようで、
「すぐに大きくなるですっ! 抄さんのお顔がらいるのおっぱいにうまっちゃうくらい、すっごく大きくなるですっ」
 なんてよくいってるけど、ボクは別に、彼女の胸が大きくても小さくても、例え今のままでも気にしない。ボクが好きなのは彼女で、彼女の胸じゃないんだから。
 それから、これはらいるちゃんにはいってないけど、ボクは彼女の胸が「すっごく大きく」はならないと思っている。
 ボクにはよくわからないけれど、らいるちゃんくらいの年齢の子なら、ブラが必要な子だっているはずだ。だけど彼女は、まるでブラなんて必要ないし、実際着けていない。今の段階でこれじゃ、将来「すっごく大きく」なるとは思えない。
 ボクはらいるちゃんの控えめな胸、その左側の先端を口に含む。舌で擦るように刺激すると、ぷっくりと脹らんできたのがわかった。
 こういう反応が返ってくると、ペッタンコでも、やっぱり女の子の胸なんだな……って思う。
「ぅあ……っ」
 ボクが送る刺激に、小さく吐息を漏らすらいるちゃん。ボクは舌での刺激を続けながら、左手を彼女の股間へと潜らせた。
「ンっ……!」
 プニプニとしたワレメに指を埋め、温もりに満ちた中をほぐす。らいるちゃんとするようになって一年になるけど、彼女のかわいい場所は、見た目では一年前と比べても、形が変わったようには思えない。あの頃と同じ、肌に刻まれた短い線でしかない。
 指でその線を割り内部を探っていると、そこがしっとりと濡れてきた。ボクはらいるちゃんの一番敏感な部分……クリトリスを探り、湿った指で刺激する。
 ぷちっとした肉豆をクイクイと押し、コシコシと擦っていると、
「……ぅうンっ!」
 彼女の細い腰がピクンッ! と跳ね、サラサラとした透明な蜜が、これまで以上に零れてきたのがわかった。どうやら、軽くだけどイッちゃったみたいだ。いくら弱点を責めていたからといっても、いつもより早い。
 ボクは胸から顔を上げ、
「今日は、ずいぶんと敏感だね」
「な、なんだからいる、今……とってもエッチな気分になっちゃってるですぅ」
「今日は、たっぷりするって決めたから?」
「わ、わからないです。で、でも……たっぷりしたい、で、です。抄さんと、たっぷりエッチしたいです」
 恥ずかしそうな顔で、ボクに告げるらいるちゃん。
「ボクもしたいよ? 今夜はらいるちゃんと、たっぷりエッチしたい」
「はい……です。明日は学校お休みですから、クタクタになるまでしてもだいじょうぶです。ひさしぶりに、らいるの身体が抄さんのエッチなお汁でベトベトになっちゃうくらい、エッチするです」
 らいるちゃんって、たまにこういう「スゴイこと」いうよな。ま、そんなところもかわいいんだけど……。
「じゃあボクは、らいるちゃんのエッチなお汁でベトベトにしてもらえるのかな?」
「はいです。抄さんを、らいるのお汁でベトベトにしちゃうです」
 急に可笑しくなって、ボクは笑ってしまった。らいるちゃんもクスクスと笑っている。
 しばらく笑い合ってから、
「らいるちゃんのエッチなお汁、ボクに飲ませてくれる?」
 ボクはいった。
 らいるちゃんは大きく脚を拡げて、
「どうぞ……です」
 かわいい場所を露わにしてくれる。少し湿って濡れている、ぷくっとした感じで盛りあがったスリット。ボクは開かれた股間に顔を埋め、挨拶代わりの軽いキスを送った。
 そして、小さくかわいいスリットを両手で左右に拡げ、内部を露出させる。
 肌とはまったく違う色彩の、キレイなピンク色をした肉のうねり。
 クリトリスは充血し脹らんでいて、舌先でツンツンとつつくと、その刺激に反応してか、ヴァギナからトロリと蜜が零れてきた。
 ボクはその蜜を舐め取り、味わってから飲み込む。でも蜜は次々と溢れてきて、ボクを潤してくれる。
「らいるちゃんの手料理も美味しいけど、エッチなお汁もすごく美味しいよ?」
「な、なにいってるですか!? 抄さんっ。そ、そんな恥ずかしいこといわないでですっ」
 顔を真っ赤にして、ちょっと困ったような顔でいうらいるちゃん。ホント、らいるちゃんってかわいいよな。
「らいるちゃんだって、ボクのを美味しいっていってたじゃない」
「それは……そうですけど……」
「ボクだって、らいるちゃんのが美味しいって思うよ? らいるちゃんのだから、美味しいって」
「ら、らいるだって、抄さんのだから、おいしいって思うです。抄さんのしか、そんなこと思わないです。抄さんいがいのひととエッチするなんて、らいる、考えられないです。考えたくもないです」
「うん。ボクもらいるちゃんだけだよ。らいるちゃんとしか、したくない」
「はいです。だかららいる、抄さんとするです。抄さんとだけ、するです。これからもずっと、抄さんとだけです」
 なんだろうな、この会話。ボクたち以外の恋人も、こんな会話をしているのかな? 後で冷静になってから考えると、すごく恥ずかしくるようなことを話してるんだろうと思う。でも今は、なにも恥ずかしいなんて感じない。恥ずかしいどころか、らいるちゃんの言葉を、ボクはすごく嬉しく感じている。
「抄さん……らいる、ほしいです。抄さんが……ほしいです」
 ボクのモノは、すでに準備が整っていた。そしてボクも、彼女をほしがっている。
「きて……くださいです。抄さん」
「……うん」
 正面から、らいるちゃんに入る。ボクはこの形が一番好きだし、らいるちゃんもそうみたいだ。ボクは下半身を重ねるように、彼女の中へと埋めていく。
「うっ……ぅウンッ!」
 彼女の中はとても温かく、何万本もの細く短い触手が絡みついてくるかのような感触で、ボクを迎え入れてくれた。
 でも、根本まで埋まることなく、ボクは彼女の最深部へと到達する。先端を最深部へと擦りつけていると、彼女も腰を動かしてきて、
「お腹が……ジンジンしてるです。は、恥ずかしいですけど、らいる、とってもエッチな気分です……。抄さん、エッチならいるは、きらい……ですか?」
 と、訊いてきた。
「そんなことないよ。だってらいるちゃん、ボクにしかエッチな気分にならないんでしょ? ボクだけが、エッチならいるちゃんを知ってるんだ。エッチで、とてもかわいいらいるちゃんを知ってる。だから、嬉しいよ。ボクだけが知ってる、エッチならいるちゃん。他の誰も知らない。らいるちゃんに、エッチなところがあるなんてね。ボクもらいるちゃんにだけ、エッチなボクを見せてあげる。だから……ね? 今夜はたっぷりと、エッチなことしよ?」
「は、はいです。らいる、がんばっちゃうです」
「うん。ボクもがんばるよ」
 がんばるという言葉通り、らいるちゃんが腰をくねらせてくる。ボクも彼女の動きに合わせ、動く。
 繋がった場所から湿った音が響き、その音色にらいるちゃんの吐息が混ざってきて、やがて吐息は喘ぎとなり、高く、そして甘く室内に響き渡った。
「アッ、アンっ! あっ、あっ、しょ……さんッ! すき、すきですッ! ぁンッ! 抄さんっ! しょうさあぁ〜んッ」
 滲んだ汗で輝く、らいるちゃんの身体。とてもキレイで、愛おしく感じる。
 泣きたいほどの幸せ。
 身体を重ねているから、繋がっているからじゃなくて、「愛し合っている」と感じられるから。
 胸が苦しい。彼女への想いで。
 らいるちゃんと出会えて、本当によかった。
 これほど、誰かを愛することが素晴らしく、幸せなことだなんて、ボクは彼女と出会わなければ知らずにいたかもしれない。
「しょ、抄さんッ! ら、らいる、アッ、アンッ! も、もうッ……! アッ、アァあぁ〜ンッ!」
 高い声とともに、背中を反らせるらいるちゃん。
 桜色をした胸の先端がめいっぱいに尖り、ビクビクと震えている。ボクを包む彼女の中が、強い締めつけと痙攣を送ってくる。
「ウッ……はッ、ハウっ……!」
 そしてらいるちゃんは、「ハァ、ハァ」と息を荒くして、グッタリと脱力してしまった。
 ボクはいったん動きを止め、彼女の回復をまつ。しかし彼女は荒い息のままで、
「ハァ……しょ、抄さ、さん。ハァ、ハァ……つ、つづけて、く、ください……で、です」
「少し休んだほうがいいよ。時間はたっぷりあるんだから、焦らなくていいよ」
「ら、らいるだけ、き、きもちよくなるなんて、イ、イヤです」
 そういってくれるのは嬉しいんだけど、ボクだってまだイッてないだけで、気持ちよくないわけじゃないんだけどな。
 でもらいるちゃん、変にガンコなところもあるから、いい出したら聞かないし……。
 ボクがどうしようかと思っていると、らいるちゃんが身体をピクピクさせながら、腰を動かしてきた。
「あっ、だからムリしなくていいって」
「ムリ……してない、です。今夜のらいるは、エッチな子、ゥウンっ! で、ですから、したいん……で、です」
 ……しょうがないな。なんか、かわいすぎるっていうか、たまんないよ。ボクだって男だし、恋人に「したい」なんていわれたら、期待に応えたいなんて思ってしまう。
「うん、わかったよ。だっら続けるよ?」
「はい……で、です。ら、らいるの中に、抄さんのエッチな白いのを、アッ、アンッ! いっぱい、だ、だして、アッ、アあぁゥンっ!」
 ボクは彼女のセリフの途中から、動きを再開した。細い腰を両手で掴み、奥まで埋めると入り口まで引き、再び奥まで突く。
 らいるちゃんはシーツをギュッと掴み、閉じた瞼の隙間から涙を零している。
「つ、辛かったら、ちゃ、ちゃんと、いって、ね」
「ヒゥっ! い、いいですっ! きもちいいですぅっ」
「ボクもいいよ。す、すごく、いいから」
「は、はいですっ! アンッ! アッ、あウッ……ら、らいるも、しょ、しょうさんっ! アッ、アンッ! アァあンっ!」
 らいるちゃんが、二度目の絶頂へと達する。ボクも、搾り取るように締めつけてくる膣壁の力強さに導かれ、彼女の中へと放出した。
 放出を終えて結合をとくと、
「しょ、抄さんの白いのが、た、たっぷり……です」
 いってらいるちゃんは、股間から零れる精液を二本の指ですくい、口元へと運ぶ。その指をパクッとくわえ、チュパチュパと舐めるらいるちゃん。
「やっぱり、抄さんのおいしいです」
 ……自分の体液を美味しいっていわれるの、照れるな。さっきのらいるちゃんも、こんな気持ちだったんだろうな。
「ちょっと苦くて、お口の中がザラザラしますけど、おいしいです」
 そんな、具体的にいってもらわなくてもいいんだけど……。
 らいるちゃんは、何度も指を股間と口の間で往復させ、ボクが放出した精液を舐め取っていく。そうして自分の股間をきれいにしたらいるちゃんは、
「抄さんのも、らいるがお口できれいにするです」
 と、ボクの股間に顔を寄せてきた。
「今夜のらいるちゃん、なんだか大胆だね」
「はいです。今夜のらいるは、とってもエッチならいるです。抄さん、明日はたいへんです。クタクタで、お仕事できないかもです」
 らいるちゃんはクスクスと笑って、ボクのモノを口に含んだ。

     ☆

 心地いい疲れに身体を支配され、ボクたちは隣り合ってベッドに沈んでいる。
 ふと、壁にかかっている円形の時計に目を向けると、すでに午前0時をまわっていた。
「抄さんのお誕生日、おわっちゃいましたです」
 らいるちゃんが呟く。
「うん」
「でも今日は、らいると抄さんが初めてキスして、エッチした記念日です」
 一年前の今日。ボクの二十歳の誕生日の翌日。それは、ボクたちが初めてキスし、結ばれた日だ。あの日、外は大雨だった。
 あの日から、もう一年か……。本当に、あっという間だった。

『らいるが、お父さまを殺してしまったです……』

 あの日知った、らいるちゃんが抱え込んでしまっていた苦しみ。そして、今でも抱え込んでいるだろう悲しみ……。
 ボクは本当に、この「世界で一番大切な人」を癒してあげられているのだろうか……?
 自信がないわけじゃないけど、不安もないわけじゃない。ボクは完全じゃないし、それほどたいした人間でもないんだから。
 と、
「抄さん……大好きです」
 らいるちゃんが、ボクの腕にしがみついてきた。
 腕に……いや、身体中に感じる、彼女の温もりと存在。それは圧倒的な幸福感と安心感を、ボクに与えてくれる。
 ボクは彼女に、彼女がボクに与えてくるものと同じものを与えてあげたい。ボクが、いつも彼女を必要としているように、彼女にも、いつもボクを必要としてほしい。
「ボクも、らいるちゃんが大好きだよ」
 ボクの言葉に、彼女が抱きついた腕へと頬を擦りつけてくる。これは、らいるちゃんが甘えているときに見せる仕草だ。
 ボクは空いている腕で彼女の頭をなで、
「ずっと、大好きだからね」
 囁くようにして告げた。
「はいです……。らいるはいつだって、抄さんを信じてるです。抄さんがらいるにくれる言葉も、やさしさも、全部……抄さんの全部を、らいるは信じてるです」
 平穏で幸福な毎日。晴れわたった空のように、雲ひとつない穏やかな毎日。
 でも、本当はそうじゃないんだろう。
 きっとボクが「平穏だと思い込んでいる毎日」には、「曇っている日」もあれば「雨がふっている日」だってあるはずだ。
 けどボクは、側にらいるちゃんがいてくれるから、「毎日が晴天続き」だと思い込んでいるし、そう感じている。
 でも、例えボクたちにハッキリとわかるほどの「雨がふる日」がきても、二人でならどんな雨にだって負けやしない。
 らいるちゃんは、ボクを信じてくれている。そしてボクも、らいるちゃんを信じている。
 ボクたちは信じ合い、そして愛し合っている。
 だからボクたちは、雨がやんだら窓をあけて、「晴天続きの未来」へと進んでいけるはずだ。
 そうさ。二人でなら、どんな雨にだって負けやしない。
 この先、ずっと……。
 ボクはらいるちゃんを両腕で抱きしめ、
「愛してるよ、らいるちゃん」
 これまでも、そしてこれからも変わることのない想いを、言葉という形にして送った。


終わり