「亞綺個人にはご安心! −幕間−」
人面石発見器
さいしょに
このお話は、「小天使症候群 〜りとるえんじぇるしんどろ〜む〜 Vol.II」に収録されている、「亞綺個人にはご安心!」の続編となっております。
ホテル楓の辻。
安直な名前だが、この楓の辻(かえでのつじ)町では一番大きなシティホテルだ。その最上階。特別なゲストにしか貸さないゲストルームに、福井源二郎(ふくい げんじろう)と瀬良原亞綺(せらはら あき)の姿はあった。
源二郎は二十歳で、職業はモデル。生来の女顔を活かした職業であろう。浪人生とモデルを兼業していた源二郎は、彼にとって三度目の大学受験を受けることもなく進学は諦め、今ではモデル業に専念している。
その恋人である亞綺は九歳で、小学四年生。身長は135cm弱。サラサラの髪をセミロングで揃えている。彼女この春には五年生になるが、三月生まれなので十歳の誕生日を迎えるまでには、まだ三週間ほどの時間が必要だ。
この歳の離れたカップルが、昨年末から「おつき合い」を始めて、もう二ヶ月以上が経過している。
駅前広場で亞綺と待ち合わせをし、そこで出会った「実の兄とラブラブになるにはどうしたらいいのか」……などと訊いてきた「外見はそこそこかわいいが、なんとなくアブナイ雰囲気を漂わせていたおんなの子」と別れた源二郎は、亞綺にいわれるままホテル楓の辻へと移動した。
亞綺がいうには、
「たまにはホテルでしよ? お部屋とってあるから」
ということだ。そしてホテルにきてみると亞綺のいう通り自分の名前で部屋がとられていて、彼はその部屋の豪華さに唖然となっている状況だった。
「ね、ねぇ亞綺ちゃん? こんなすごい部屋、ボク、あまりお金ないんだけど……」
亞綺が勝手にとった部屋だ。とはいえ、支払いは源二郎もちだろう。そう思いビビリながらいう源二郎に、
「お金なんていらないよ。このホテルね、亞綺のおばさんのホテルなの」
と、亞綺はあっさりと答えた。
「え? どういう意味?」
「だから、このホテルのオーナーて、亞綺のおばさんなの。ママのお姉さんなんだぁ。このまえおばさんに会って、亞綺、彼氏できたんだよ……っていったら、お祝いにこのホテルの部屋つかわせてくれるって。だから、お金の心配はしなくていーの」
源二郎は驚いた顔をして、
「亞綺ちゃんのお家って、お金持ちだったんだ?」
「ちがうよ。お金もちなのはおばさんで、亞綺んチはふつーだよ」
亞綺はくすくすと笑い、源二郎に抱きついた。
「気にいった? ゲンちゃん」
「あっ、う、うん」
「えへ……よかったっ。今日は、この部屋におとまりだよ? だいじょーぶ?」
「ボクは大丈夫だけど、亞綺ちゃんこそ、お泊まりなんて大丈夫なの? お家の人、心配するでしょ? それに、明日は平日だよ。学校じゃないの?」
問う源二郎に、
「ママにはおばさんのホテルにとまるっていってあるから、へーきなの。それに明日は、亞綺の学校そーりつ記念日でお休みなんだぁ。だから、亞綺もおとまりだいじょーぶ」
亞綺は答え、彼の胸元に顔を擦りつけて甘えるような仕草をみせる。そして、
「チューして? ゲンちゃん」
源二郎の腰にまわしていた腕をとき、顎を上げて瞼を閉じた。
彼は亞綺の肩に手を置いて屈み、彼女の鮮やかに咲いた桜色の唇に、自分のそれをそっと重ねる。
触れるだけのキス。
短いキスが終わると、
「……ゲンちゃんのチュー、優しくて好きだよ」
亞綺がやけに大人びた、真剣とも思える顔つきでいった。
返答に困る源二郎。恋人の「こういう表情」をみるのは初めてだ。亞綺は表情が豊かで、いつもニコニコしているという印象がある。いい代えれば、「子供らしく、無邪気な印象」といえるだろうか。
「ボ、ボクだって、亞綺ちゃんが好きだよ」
ドギマギしながら、返答になっているのかなっていないのか、源二郎はそんなことを口走った。
その言葉に亞綺はニッコリと微笑んで、
「ゲンちゃん、エッチしよ? 亞綺、もーガマンできないよ」
源二郎の腕をとり、ベッドルームへと引っ張っていった。
☆
服を脱いで大きなベッドに上がる二人。源二郎のボロアパートにある安布団とは違い、ふかふかのぽにゅぽにゅだ。
馴れない高級(だろう)ベッドになんだか落ち着かない源二郎を押し倒すように、
「ゲ・ン・ちゃんっ!」
亞綺が抱きつく。
「くすっ……ゲンちゃん大好きっ!」
最近亞綺は、源二郎に「好き」と告げてくることが多くなった。そして、甘えるような仕草をみせることも。
源二郎は思う。
どうして亞綺は、自分を選んでくれたのだろう……と。
不思議だ。自分は、亞綺とつり合うほど魅力的な男だと思えない。女みたいな顔だし、高卒だし、お金もちってわけでもない。
亞綺ほど魅力的な子ならば、自分なんかよりももっといい男を選べるはずだ。
なのに亞綺は、自分を彼氏にしてくれた。
両手を源二郎の頬にそえ、吸いつくようなキスをしてくる亞綺。源二郎も心の中で「ボクだって、亞綺ちゃんが大好きだよ」……と告げながら、重ねられた唇を吸う。
先ほどのキスとは違い、長いキス。二人の唇は三分以上も繋がったまま、室内に湿った音を奏でた。
「ぷはぁ……」
やっとのことで濡れた唇が離れると、
「こんなことしてるの亞綺ちゃんのおばさんにしられたら、マズイんじゃない?」
今さらになって気がつく源二郎。しかし亞綺は笑いながら、
「へーきだよ。おばさんって、ちょっとかわってるの。亞綺に彼氏ができたからって、ホテルの部屋かしてくれるよーなひとだよ? たまにはごーかな部屋で、彼氏とこーゆーことしなさい……って、そーゆーいみでこの部屋かしてくれたんだよ」
「そ、そうなの?」
「うん。だからへーきだよ。おばさんはね、亞綺がエッチな子だってしってるから。だって亞綺と亞衣ちゃんにエッチなことおしえてくれたの、おばさんだもん」
亞衣(あい)というのは亞綺の双子の姉で、源二郎も彼女のことはしっている。
「だからあんしんして? 亞綺は、ゲンちゃんを困らせるよーなこと、しないよ?」
「あ……う、うん。ごめんね」
「どーしてあやまるの?」
「な、なんとなく」
亞綺は小首を傾げ、
「亞綺のこと、しんじてない?」
呟くようにしていった。
「そ、そんなことないよッ!」
慌てて否定する源二郎。亞綺を信じていないわけでない。今の源二郎にとって、亞綺はこの世界のなによりも愛おしく、大切な存在だ。
大切な……恋人。
愛している。本当に。
源二郎は亞綺と体位を入れ替え、彼女をベッドに仰向けにして寝かせる。
「しよ? したいんだ、亞綺ちゃんと」
「うん。亞綺もしたい。ゲンちゃんと」
裸でベッドの上にいる者たちのセリフとは思えない。そもそも、「する」ために裸になりベッドに上がったはずだ。
亞綺の、少しは脹らんでいるのかも……? というほどの薄い胸。源二郎はその先端の鮮やかな色をしていて、素肌との境界をはっきりさせている部分の左側を口に含み、舌で転がす。
「ぅん……」
ピクンと小さく身体を震わせ、亞綺が声を漏らす。源二郎はもう片方の先端を指で刺激しながら、口に含んだものを吸った。
と、微妙な硬さをともなって両の先端が膨らんでくる。
「くすくすっ……ゲンちゃん、赤ちゃんみたい。ママのおっぱいおいしー?」
胸を吸い続ける源二郎に、亞綺はからかうような口調でいう。源二郎は先端から口を離して頭を上げ、なにか困ったような苦いものでも口に入れたかのような顔をした。
「……どーしたの? ゲンちゃん。赤ちゃんはおしまい?」
「あの……亞綺ちゃん」
「ん?」
「その、ママっていうの止めて。なんか、イヤだから」
ママという言葉に、源二郎は自分の母のことを想像して、ちょっとブルーが入ってしまったのだ。源二郎は、はいっきりいって母親が苦手だ。せっかく亞綺とお楽しみの最中なのに、「あんなの」を思い出して水をさされたくない。
「ほら、亞綺ちゃんはボクの恋人で、お母さんじゃないでしょ?」
「そんなのわかってるよ。どーしたの? なにいってるの?」
亞綺には、源二郎が「なにをいっている」のか、よくわからなかった。しかし、源二郎がイヤだといっているのだから、
「う〜ん……よくわかんないけど、ゲンちゃんイヤだったんだね。ごめんね」
どうやら自分は源二郎がイヤがることをいってしまったらしいと察し、謝った。
これは二人の間での決まりだ。イヤなことはイヤだとはっきりいう。悪いことをしたと思ったら、すぐに謝る。それで終わり。後には引きずらない。
些細なことでケンカするのはくだらないし、そもそもケンカなんてしたくない。それでも、なにか「かみ合わない」ことはある。人間同士なのだから、恋人といってもすべてが「すんなり」いくということはない。これは仕方のないことだ。
だから、悪いことをしたと思ったら、素直に謝罪する。謝罪されたら許して忘れる。二人が、「二人」でいるために決めた「方法」だ。
源二郎は亞綺が詳しい説明を求めてこなかったので、「うん」とだけ答え、亞綺のおでこと唇に軽いキスを送って、このことはこれで終わり。
仲直りした(といってもケンカしたわけではないが)恋人たちは、じゃれるようにして互いの身体中にキスを送り合う。
「ゲンちゃん、大好きだよ?」
告げて亞綺は、彼の首筋を舐める。
「ボクもだよ、亞綺ちゃん」
源二郎も、彼女の頬にキスを返す。
繰り返しくりかえし、キスを送り合う二人。そしていつの間にか二人は、源二郎を下にしてシックスナインの体勢になっていた。
その体勢で、すでに準備万態になっている源二郎のペニスの先端を、亞綺が口に含む。ぬるりとして、温かい感触に包まれる先端。源二郎のモノは標準サイズより大きいため、亞綺の小さな口では先端を含むのが精一杯だ。
「ぅん……ぅチュっ、ちゅっくっ」
亞綺は丹念に舌をはわせ、源二郎を昇らせていく。源二郎の目の前では、亞綺のかわいらしい「まんまん」がお尻といっしょに揺れている。だが身長差があるため、この体位ではまんまんは舐めにくい。源二郎は亞綺の弱点であるお尻を責めることにして、手を伸ばした。
源二郎の指がアナルに触れた瞬間。
「きゃっ!」
亞綺は吸いついていたモノから口を離し、驚いたような声を上げた。
「もーゲンちゃん。亞綺がおしり弱いってしってるくせに、さわるんならさわるっていってよぉ。おしゃぶりしてるんだから、オチンチンがぶってかんじゃってもしらないよ?」
少し怒ったふりをする亞綺に、
「ごめん。でも亞綺ちゃんのお尻、さわって欲しそうだったから」
亞綺が本気で怒っているわけではないことを理解している源二郎が、笑いながら返す。
「じゃあ、お尻さわるね」
「うん、いーよ」
弾力性に富んだアナル。源二郎はそこに、ぐにゅう……と右手の中指を埋めていく。
「ぅあぁっ!」
一番の弱点を責められ、高い声を上げる亞綺。
「はぁ、はぁ……い、いーよ? もっとしてぇ」
その言葉に源二郎は左の中指も埋め、埋めた二本の指を開いて亞綺の肛門括約筋を伸ばす。弾力性に富んだアナルが大きく拡がり、源二郎からはその内部までもがみえた。
「亞綺ちゃんのお尻の中、丸みえだよ」
「やっ、は、はずかし〜よぉ」
「恥ずかしくなんかないよ。とってもかわいいよ、亞綺ちゃんのお尻。あっ、お尻だけじゃなく、亞綺ちゃんは全部かわいいけど」
「う、うん……ありがと、ゲンちゃ……ぅあっ!」
亞綺の言葉の途中。源二郎は一端アナルから両手を離し、すぐさま、揃えた右手の中指と人さし指を、グリグリとアナルの奥まで捻り込んだ。
「ダ、ダメだよゲンちゃんっ! そんなにされたら、あ、亞綺イッちゃうよぉ〜っ」
激しい源二郎の責め。、亞綺はおしゃぶりを続ける余裕もなく、源二郎の責めに悶え、喘ぐしかない。
「イッちゃっていいよ」
亞綺のまんまんが湿り気を帯び、ヒクヒクと震える。
「ヤだよぉっ! ゆ、指じゃヤなのっ。オチンチンがいーの、ゲンちゃんのオチンチンがいーのぉっ。アッ、アッ、お、おねがいゲンちゃん。オチン、オチンチンでイカせてぇ〜」
亞綺の意志を尊重しようと、源二郎がアナルから指を抜く。と、亞綺は彼から下り、源二郎にお尻を向けて、うつ伏せ立て膝の体勢をとった。
源二郎は亞綺のお尻に顔を埋め、底の蕾にキスを繰り返す。挿入の準備としてのキスだが、亞綺はそのキスに激しく感じているようで、
「アッ、あンっ!」
高く甘い声を上げる。
「ゲ、ゲンちゃんっ! あっ、そ、そんなにしちゃ、イッ、イッちゃうよぉっ」
このままイカせてしまうのは、亞綺の望んでいるところではないだろう。源二郎はお尻から顔を上げ、
「じゃ、入れるよ?」
力強いモノを、亞綺の蕾にあてがった。
「うん……きて、ゲンちゃん」
亞綺の了承に、腰を前に押し出す源二郎。
グニュっ……!
亞綺の解れたアナルは大く円らに拡がり、彼のペニスを自ら招き入れるようにして飲み込んだ。
その瞬間。
「ぅアッ……アアァあぁゥンッ!」
亞綺の身体がビクビクビクッ! と跳ね、その股間から透明な蜜が滴り落ちた。それは太股を伝ってシーツに零れ、染みとなる。
どうやら挿入を果たしただけで、亞綺は達してしまったようだ。
「亞綺ちゃんって、本当にお尻弱いよね。まだ、入れただけだよ?」
「ハァ、ハァ……だ、だって、昨日はしてもらえなかったんだもん」
昨日は源二郎の仕事の都合で逢えなかった。だから、もちろんしていない。
二人はつき合い始めてから、身体を重ねない日のほうが珍しい。平日亞綺は、学校が終わると源二郎のアパートに直行して「恋人の時間」を過ごすことを望み、休日は、デートをしたり身体を重ねたりして、朝から晩まで一緒にいることを望んだ。もちろん源二郎も、亞綺と同じ気持ちだ。
一緒にいたい。抱き合いたい。
「亞綺、さみしかったけど、今日できるのたのしみにして、自分でもしなかったんだよ? ゲンちゃんに気持ちよくしてもらいたかったから、亞綺、がまんしたの。だ、だから、感じやすくなってたんだもん……」
挿入されただけでイッてしまったのが恥ずかしいのか、亞綺がいいわけめいたことを口にする。しかしその言葉は、源二郎にはとても嬉しいものだった。
自分と逢えなくてさみしい。自分に気持ちよくしてもらいたい。
亞綺はそういってくれたのだ。
愛おしさがこみ上げてくる。想いが溢れてしまいそうだ。
「ありがと、亞綺ちゃん。だったら、いっぱい気持ちよくしてあげるね。それにボクも、いっぱい気持ちよくなるから」
「う、うん……。気持ちよく、なろ? 二人で、いっぱい気持ちよくなろーよ」
源二郎は亞綺の細い腰に両手をそえ、埋まっているモノを引いて再び埋めた。
やわらかく、だけどしっかりと自分を包み込んでくれる恋人の身体。いや、身体だけでなく、心も包み込み、暖め、満たしてくれる。
自分もそうありたい。彼女を、世界で一番大切な恋人の心も身体も満たしてあげたい。そして、幸せにしてあげたい。
自分にどれほどのことができるのかはわからない。それでも、自分にできること、自分の全てをかけて、亞綺を幸せにしてあげたいと思った。
亞綺の幸せ。それはきっと、自分自身の幸せにも繋がっている。
二人一緒に、ずっと幸せな時間を過ごしていきたい。
ずっと、今は考える必要のない、だけれどいつかくるはずの「終わり」のときまで。
「亞、亞綺……ちゃん」
ペチペチと、肉のぶつかり合う音。その音に、
「アっ、あんっ! ゲンちゃんっ、いっ……アッ、あぁンッ!」
亞綺の喘ぎが重なる。
源二郎の腰が前後するたび、亞綺のアナルは埋まったり捲れたりと、忙しく形を変える。そして隣接した股間からは、止まることなく透明な蜜が滴り続けていた。
「ハゥ……! ハッ、あっ、ぅあっ! ハッ、ハッ、アンっ!」
汗によって輝く亞綺。甘い香りが源二郎の鼻腔をくすぐってくる。
「ゲンちゃんっ! 好きっ、だ、だいすきいぃっ」
いいながら亞綺は、激しく達した。源二郎をギュッと締めつける。その締めつけに導かれ、彼は、二日ぶりの精を大量に恋人の体内へと注ぎ込んだ。
☆
行為が一段落し、ベッド上に寄り添うように寝転ぶ二人。
「ハァ、ハァ……ゲ、ゲンちゃん、けっこーやるよーになったよね。さいしょは、亞綺にされるだけだったのに……」
「そりゃ、いっぱいしてるからね」
「そーだね。いっぱい……してるね。えへへ、なんだか亞綺のおしり、ゲンちゃんのオチンチンいれるばしょになっちゃったみたいだね」
「ボクだけ?」
「そーだよ、ゲンちゃんだけだよ? 亞綺のおしりにオチンチンいれていーのは、ゲンちゃんだけ。おしりだけじゃなくて、亞綺とエッチしていーのは、ゲンちゃんだけなの。ウソじゃないよ? 亞綺ホントーに、今はゲンちゃんとしかしてないし、しないんだからね」
「ボクだって、亞綺ちゃんとだけだよ」
「うん、わかってるよ、ゲンちゃん……」
見詰めあい、クスクスと笑みを交換する。と、源二郎が、大きなアクビをした。
「ねむいの? ゲンちゃん」
「あっ……ごめんね。昨日は、ほとんど寝られなかったから」
「そっかぁ。さつえータイヘンだったの?」
源二郎は昨日、ファッション雑誌の撮影で東京に出かけていて、今朝(といっても昼近くに)帰ってきた。
「ほら、ボクってちゃんとモデルの勉強してたわけじゃないから、いろいろとわからないこともあるし、失敗もしちゃって」
「いいよ。ねむいんなら、ねちゃいなよ」
「でも、せっかく亞綺ちゃんと、こんな豪華なホテルに」
亞綺は源二郎の言葉を遮るように、
「ムリしなくていーよ。亞綺はね、ゲンちゃんと楽しくエッチしたいの。つかれてるんだったら、ねちゃっていーよ?」
彼の髪をなでながらいった。
「……じゃあ、少し寝かせてもらうね」
「うん」
そして瞼を閉じたと思ったら、次の瞬間には、源二郎は眠りに落ちていた。
(ゲンちゃん、ホントにつかれてたんだぁ……。亞綺、ムリさせちゃったかな。ごめんね、ゲンちゃん)
亞綺は源二郎の身体が冷えるといけないと思い、彼の上にシーツをかけると、自分もその中に潜り込んだ。
自分のすぐ隣りで眠ている源二郎。彼女のお尻の中には、彼が自分を愛してくれた証が溜まっている。亞綺はその感触を、とても嬉しいものとして感じた。
(……なんかいーな、こーゆーの)
源二郎とつき合うようになるまで、こんな幸せはしらなかった。ただ側にいるだけで安心できて、ただ一緒にいるということを、たまらなく嬉しく感じてしまう。
(なんで亞綺、ゲンちゃんと会うまえにエッチなことおぼえて、しちゃってたのかな?)
そう思うと、少し悲しくなる。
(亞綺は、ゲンちゃんの初めての女の子。だけどゲンちゃんは、亞綺の初めての人じゃない)
自分も、源二郎との行為が初めてだったらよかった。しかし、「これまでの自分」があったから源二郎と出会えたことも、彼女は否定できない。
エッチなことなどなにもしらずに、「普通」に生きてきたら、源二郎と出会っていなかったかもしれない。
「これで……よかったんだよね?」
源二郎の寝顔に囁く亞綺。当然、眠っている彼からの返答はない。
(くすっ。ゲンちゃんって、ホントに女の人みたいな顔してる)
キレイだと思う。ステキだと思う。そして自分が源二郎の彼女であることを、誇らしく感じる。
(ゲンちゃんは、ホントに亞綺のこと大切にしてくれてる。ホントに亞綺のこと、好きって思ってくれてる)
その「事実」を疑えるほど、亞綺は「子供」でも、そして「大人」でもなかった。
(ゆっくりねむってね。亞綺、ゲンちゃんが目を覚ますまで、ずっと側にいるからね。ううん、目を覚ましてからも、ずっと側にいるよ? ずっと、すっと……ね)
亞綺は源二郎の腕に身体を密着させ、目を閉じて彼の寝息に耳を澄ませた。
二月下旬。未だ肌寒い毎日が続いているが、春の風はすぐそこで、自分の出番を心待ちにしていた。
終わり