「ノンフィクション」  星都



「クソーッ!」
 小さな田舎町の百貨店。そのブックコーナーの片隅で、星野は溜息混じりに呟いた。
「……またダメか……」
 そんな時身につまされるのが、自分の才能の無さ。初めて投稿した小説が掲載されたことで、「俺には文才がある!」なんて思い込んでしまった自分がバカだった。その後何度投稿してもボツばかり。
「やっぱ、経験がなきゃダメなのかな」
「先生……星野先生!」
「え?」
 振り向くとロングヘアーの女の子。ちょっと小首を傾げ、おかしそうに見上げている。
「……」
「忘れちゃいましたぁ? あたしぃ?」
 頬を膨らませ、怒ったフリを見せた。
「……由比……ちゃん?」
「ピンポ〜ン。なに読んでるんですかぁ?」
「いやっ、別に……」
 星野はスッと他の雑誌で隠し、由比に分からぬよう置いた。
「大きくなったな」
「えへっ」
 ハイネックの白いセーター。由比は、両手でその膨らみを強調しながら、
「先生のおかげかな……」
 と、頬を染めた。
「ヘンなこと言うな」
 ドギマギと辺りに目を配る星野を見てクスクス笑っている。
「あの日以来ですねぇ」
 星野から視線を逸らした由比は、昔を懐かしむように遠くを見つめた。そして、そのまま瞼を閉じた。
(恨んでないよな……)
 星野の瞳は落ち着きがなくなった。由比の想い出に登場する星野が、『いいひと』で終わっているとは思えない。
 ミッション系の有名私立中学。そこを目指したのは、由比の両親だった。由比としては、友達と一緒に市立へ行きたかった。しかし、「最近風紀が乱れている」そんな噂を耳にした両親が強く私立を勧め、由比が折れた。
 難関と言われるミッション系私立中学だが、由比なら間違いなく合格すると誰もが思っていた。だからこそ、安くすむ無名私立大学生の星野が選ばれたのだが、由比の両親は学力UPのためじゃなく、「私達は一生懸命なんだよ」という思いを由比に見せる為家庭教師を雇ったのだ。
 星野の力がどれだけあったかは分からぬが、由比は見事合格。しかし、これからも星野を家庭教師にして欲しいと願う由比の気持ちは聞き入れられなかった。
「来月からは、国立の学生さんを頼みますから」
「それがいいですね。中学になりますと、私の学力では荷が重いですから……」
 親達の嫌味めいた言葉に、星野はそう言うしかなかった。元々、中学になったら辞めようと思っていたのだが、母親の言葉には我慢できないモノがあった。
 小学校の総まとめ。それが二人の最後の勉強だった。早々と切り上げた二人は思い出話に花を咲かせていた。そして……。
 由比に対し恋愛感情があったかどうか、星野には分からない。可愛い由比に好意を抱いていたのは確かだ。しかし、それ以上に母親への怒り。少女への興味。そして、ちょっとした悪戯心がその時の星野の行為を後押ししていた。
「好きだ!」
 口先だけの愛。
「先生……!」
 それに気づかぬ少女は、星野の愛を必死で受け入れていた。
(あのことは誰にも言ってないだろうな)
 それが気になり、由比の家は勿論、由比の両親が通るであろう道路に近づくこともなかった。この百貨店も、最近まで遠ざかっていた。
(それにしても……)
「いい女になったな」
「そんな見ないで下さい。恥ずかしいです」
 身長は十センチ近く伸びたろう。体重も増えてる筈だ。全体に丸みを帯び、所謂〃女らしい〃体型になっている。
「先生のアパート、近いんですか?」
「あぁ、すぐ側だよ」
「行っていいですか?」
「エッ、今から?」
「一度遊びに来いって言ってたじゃないですかぁ、いいですよね!」
 柔らかな由比の手がごつい星野の手を握り、駄々っ子のように揺すってせがむ。
「分かったから……放せよ」
 人目が気になる。直ぐにでもそこを離れたい。そのためには、由比の言うことを聞くしかないだろう。


「ナニか悪いモノでも食べたかな」
 アパートが近づくにつれ、星野の歩調は目に見えて早くなった。
「適当に座っててっ」
 ドアを開けるなりトイレに飛び込む。
(間に合った……それにしても)
 終始にこやかで楽しそうな由比、一体どういうつもりでアパートに来たのだろう。
(また姦られたいのか……)
 痩せぎすの彼女の身体は、抱くと骨がゴツゴツした。目を閉じようものなら、男を抱いているとしか思えぬ身体だった。
(随分ふっくらして……)
 抱き心地は数段良くなっていそうだ。あの時は少女の身体を味合うというより、母親への怒りをぶつける〃モノ〃としてしか見てなかった。優しく扱う気持ちなど毛頭なく、ただ、怒りを込めて激しく腰を打ち付けた。
 子供の頃、イジメっ子に虐められ、その腹いせにそいつの教科書をボロボロになるまで踏みつけたことがある。その時感じた快感と同じ快感に包まれていた。
(私立をバカにしやがって! クソババァ!)
 小さな由比の膣に収まりきれないほど大量の精液を放出。痺れる快感は性的と言うより、復讐を為し得た満足感に近かった。
 赤く染まったティッシュに心を痛めることもなく、さっさと部屋を後にした星野。そんな星野を恨んでる様子は由比にない。
(忘れた訳じゃあるまいし、二人切りになるってことは、『シテもいい』って言ってるも同じ。遠慮なく、戴こう)
 万年床の横に小さな電気ゴタツ。その上はワープロと乱雑な雑誌の山。
「アッ! それは!」
 星野は咄嗟に手を伸ばし、由比から雑誌を奪った。しかし……。
「秘密だって言ったのに……二人だけの秘密だって言ったのに……」
「だから、誰にも分からないように名前も変えてあるし、それに、それに……アッ! 由比ちゃん! 待って!」
 一歩遅かった。由比が思いっきり閉めたドアに、星野は強か額を打ち付けてしまった。しかし、そんな痛みより由比の心の痛みの方が遙かに強烈だろう。
「裏切られた感じなんだろうな」
 星野が書いた小説で唯一採用されたモノ。それは、由比との性交を事細かく書いたモノだった。確かに名前は変えてある。しかし、それは星野の名前だけ。それも、星野都美男を『星都』としただけ。そして、由比の名前はそのまま使っている。全く知らぬ人ならともかく、二人を知る者が見たなら直ぐに分かるだろう。由比ならなおのこと。
 九割がた〃出来る〃と思っていたソコは、虚しく項垂れてしまった。
「これで良かったんだ。あの子の為には」
 初めて会った頃、由比は〃ただの教え子〃だった。親しみが強まるにつれ〃愛らしい女の子〃と変化し、そのまま良い関係でありたいと願った。
 しかし、中学へ合格した頃から変わった。母親の嫌味な言動が挨拶代わり。穏やかな星野とて、許せる範囲を超えてしまった。母親への怒りが、母親が最も大切にしている我が子〃由比〃への怒りと変化するまで時間は掛からなかった。
 そして最後の日、由比を抱いた。
 再開した由比は、女を感じさせる少女へ成長していた。
(抱きたい!)
 彼女と別れ、暫く御無沙汰の星野はわき起こる欲望を感じた。それは〃由比〃だからではなく、一度抱いた女なら落としやすいと判断したからだ。
 考えてみると、由比を抱いた時も、一人の女として抱いたわけではなかった。そして今日、由比を抱きたかったのは、単に欲望をぶつけたかったからだ。星野にとって由比は、オナニーの道具に過ぎなかった気がする。
 血の付いたティッシュを無造作にゴミ箱へ放り込み、いたわりの言葉の代わりに「秘密だぞ!」と言い捨て部屋を出た星野。改めて振り返ってみると、なんと惨いことをしてしまったんだろう。と後悔の念がたつ。
 最後に見せた由比の寂しげな顔。そして涙。それは、星野が初めて見るモノだった。
「初めて……?」
 由比を貫いたあの時、必死で痛みを耐えていたあの時でさえ、由比は涙を見せなかった。瞼と唇をギュッと噛み締めながらも、由比の表情は何処か嬉しそうだった。
 それが、別れの時には涙を見せた。
「俺のことを、そんなに!」
 そうとしか思えない。由比は星野を本気で愛していた。どんなことでさえ、星野となら嬉しく感じたのだろう。


 まだ新しい大きな屋敷。そこが由比の家だ。今は由比しか居ないはず。星野は何度か深呼吸を繰り返し、ドアを叩いた。ドアホン越しではなく、ドア越し、出来れば、ドアを開け直接話したい。
 トントントン……。
 階段を駈け降りてくる足音。
「どちら様ですか?」
「俺だ! 由比ちゃん、聞いてくれ!」
「え?」
「二人のことを小説に書いたのは、決して忘れないように記録に留めておきたかったからなんだ。秘密を破る気なんてなかった」
「あ、あのう」
「俺、分かったんだ。由比ちゃんの後ろ姿を見て、失いたくない女だ!って、誰よりも大切な、大好きな女だってことが、分かったんだ」
「あの、私……」
「会いたいんだ。あの時のように、思いっきり抱き締めたいんだ。いいだろ?」
「……思いっきり……?」
「君への愛の強さを、教えたい!」
「……待って……十五分だけ、待って」
「十五分?」
「カギは開けます。でも、十五分は、入って来ないで……シャワーを浴びたいから」
 星野は約束通り時が経つのを待った。シャワーを浴び、恐らくバスタオル一つであろう彼女の足音が聞こえても、駆け出したい気持ちを必死で抑えて待った。
 十五分が過ぎた。張り裂けそうな胸を痛めながら、星野は静かに由比の部屋へ向かった。
「由比ちゃん」
 毛布を頭までスッポリ被り、由比はベッドに潜っていた。
「由比ちゃん!」
「イヤッ! 顔は見ないで……恥ずかしい」
「分かった。でも、いいんだね!」
「……」
 足元から、毛布をゆっくりと捲っていく。
 ゴクッ。
 星野の喉が鳴った。久しぶりに見て、その成長に驚いたが、服を脱いだ彼女は更に星野を驚かせた。僅か十ヶ月で、こんなにも変わるものなのか。腰の張り、陰毛の濃さ、胸の膨らみ。どれも想像以上だ。
 陰毛に水滴が付いている。星野は、それに指を絡め水滴を拭き取ると、そのまま股間に潜り込ませた。
「ハッ……」
 一瞬息を飲んだ由比。キュッと加わった下半身の力が、吐息と共に抜けていく。
 指先が、柔らかく暖かい肉襞に挟まれた。肛門からクリトリスまで、星野の指が由比を掻き分け、上下する。
「由比ちゃん……濡れてるよ。一人でシテたの?」
「……」
 由比が激しくイヤイヤをした。
 顔を覆った毛布の上からしっかり両手で押さえている。星野はその指に鼻を鳴らした。「アソコの匂いが残ってるよ」
「ウソ! シャワーの前だもん。匂いなんて残ってないもん……」
 今にも消え入りそうなか細い声で匂いを否定した。しかし、オナニーをしてたことを認めてしまったことに、気づいていない。
「そんなに恥ずかしがらなくたって、中学生ならオナニーぐらい当然だよ」
「ナニも言わないで……思いっきり、抱き締めて!」
 泣いているんだろうか、声が少しヘンだ。だが、熱く燃える欲望の渦の中、そんなことを気にする余裕などない。星野は由比の望み通り、強く抱き締めた。
「由比ちゃん、いいよ。最高の抱き心地だ」
 以前のような骨が当たる感触などない。星野に包まれた由比は、ピチピチした適度な弾力を返してくる。
「このまま、このまま入れていいんだね!」
「うん。早く。早く入れて!」
 小さな蕾を押し広げ、星野のモノが潜り込んでいく。熱い肉襞が怒張したペニスを締め付けてくる。
「俺の、愛を受け取ってくれ!」
 激しい腰使いに、由比は堪らず声を上げ初めた。
「あ〜、あ〜ああぁぁぁ〜」
(エッ! ウソッ……)
 それは思いもしなかったことだ。由比の腰が星野の動きに合わせ蠢いてきた。その絶妙な動きに、星野は敢え無く爆発してしまった。
「由比ちゃん。俺、俺、もうだめだよ」
 縮んでしまったモノを股間に咥えたまま、由比はいつまでも腰を振り続けていた。



 プルルル、プルルル……。
「はい。星野です……ハ? 由比ちゃん?」
「昼間は、ごめんなさい……良く考えたんだけど、誰かに話した訳じゃないんだもの……秘密を破ったことにならないですよね」
「俺は、小説にして記録を残したかったんだ。由比ちゃんと二人きりの〃あの時〃を」
 今更ナニを言ってるんだ。それが星野の本音だった。
「これから、行ってもいいですか?」
「これから?」
「いいですか? 会いたい! 会いたいんです」


 夕方からどんよりとした雪雲が広がっていた。今夜はこの冬一番の冷え込みになるそうだ。ファンヒーターの温風も、いつもほど暖かく感じない。
「本当に来るのかな……」
 明かりを消して、布団の中で待ってて。と、はっきり言った訳ではないが、雰囲気からするとそう言いたかったに違いない。
「まるで夜ばいに来るみたいだな」
 時折身体が震える。寒いからではない。それほどまでに自分を惚れてくれる女がいることが、不思議でならない。不可解な女心に緊張し、震えてしまう。
(昼間の快感を忘れられず、又、ヤリにくるのか……スケベな女だ)
 約束の時間が過ぎても、由比は来ない。星野は不安になっていた。もし、由比に騙されたとしたら、頭に来る前に情けない。
(来た!)
 ドアの音がした。カシャ、と鍵を掛ける音。靴を脱ぐ音。そして、両手を前に横に、たどたどしい足取りでやってくる。明るい街灯の下を歩いてきた由比にとって、この部屋は暗すぎる。
(あいつ……)
 由比に比べ、星野の目は暗闇に慣れていた。由比の表情一つ一つまで、はっきり見て取れる。
(……髪を切ったんだ)
 爪先に布団が触れた。由比は立ち尽くし、じっと見下ろした。そこに星野が居るかどうか確かめているようだ。
 星野の気配を感じ取ると、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。そして、ナニかが吹っ切れたように素早くセーターを脱ぎ、持ったまま丁寧に畳んで足元へ置いた。次にブラウスのボタンを外していく。
 どうしてこんなに興奮するんだろう。星野の呼吸は途切れ途切れにしか出来ぬほど乱れている。昼間、由比の部屋へ行く時の興奮より、更に激しい興奮がピクッ、ピクッと身体を痙攣させた。
 由比の指がジーンズのボタンに掛かると、星野は瞼を固く閉じた。何故か、見てはいけないと感じた。
(脱いでいる。本当にヤル気なんだ……)
 ファスナーの音に次いで、ジーンズの擦れ合う音がした。そして、足元へ置く音。しかし、それからナニも起こらない。
(……!)
 星野はそっと瞼を開いた。由比は既にブラジャーを外していた。指先をパンティのウエストに掛けたまま、怖いほど真剣な表情を星野に向けている。
(ヤバッ!)
 ギュッと瞼を閉じた。寝たふりをすることが、由比への礼儀と思えた。
 パンティを脱いだ由比が布団に潜り込んで来る。それは、星野の予想と違っていた。
(ウソだろ……)
 てっきり添え寝のように寄り添ってくるものだと思っていた。ところが、布団の中頃を捲り上げた由比は、そのまま頭を入れてきた。
(……自分から握ってくるなんて!)
 欲望で熱く勃起したモノに、冷えた由比の指が絡んだ。そして、
「先生……」
 由比のくぐもった声が漏れてくる。
「……あたし、イケナイ女の子なんです。何人もの男の人と、イケナイことしちゃったんです。先生と会えなくなってから、寂しくて、寂しくて……つい」
(やっぱりシテたんだ)
 彼女の腰の動き、それはかなり熟練されていた。そうとう経験を積んでいるな。と思ってはいたが、はっきり言われてしまうとなんとなく物悲しく感じる。
「今の彼は一番長い付き合いで、こういうことも、彼が教えてくれたんです」
「ウッ!」
 亀頭をグルグルと舌で撫で廻し、そのまま深く呑み込む。亀頭が喉に刺さるほど深く。グイッと。
「由比……ちゃん!」
 シーツを握り締め、星野は唸った。
「でも……」
 何度か出し入れをした後、由比はまた語り始めた。
「今日、先生と会って分かったんです。『あたしが好きなのな先生だ!』って。今まで付き合った男の人は、先生と会った時に、先生を満足させられる為の勉強相手にすぎなかったんだって……」
「由比ちゃん……そんなに俺のことを、嬉しいよ」
「あたしの勉強の成果、見て下さい」
「ううっ……」
 由比が再び口に含むと、布団が大きく上下に動き出した。星野は布団を捲り、自分のモノが由比の口に含まれていることを確かめた。
「本当に……!」
 実際に見ないと信じられない。見てもなお、錯覚としか思えない。が、由比の口は確かに星野を呑み込んでいる。
「キモチイ〜イ?」
 口に咥えたまま、流し目でそう問いかけてくる。
「気持ちいいよ……ちょっと、くすぐったいけど……」
「ん?」
 由比は意味が分からず首を傾げた。
「髪の毛が、くすぐったい……けど、イイ気持ちだ」
 切ったばかりの毛先、由比の頭が動く度、下腹部にサワサワと触れてくすぐったい。
「んふっ」
 幼い笑顔を見せると、由比は次の行動へ移った。
「可愛いよ。ココも」
 由比の女陰が目の前に。星野はじんわりと濡れたソコを一舐めし、
「これも、今の彼に教わったのか?」
「……」
 咥えたままコクッと頷く。そして、すぐに口を離し、
「今日、別れちゃったから……もう、彼じゃない……」
「別れた?」
「先生と会った後……」
「俺の為に……?」
 由比のスリットをもう一度、舌先に力を込め、射し込むように舐めた。そして、指で大きく開いてみた。
(なんだ?)
 ヒクッ、ヒクッ、と息づく蕾が白い液体を滲ませた。
「別れたいって言ったら、彼、最後にヤらせろって……」
「男なんてみんなそうだよ」
「最後に……ナマでヤらせろって……」
「ナマで……させたのか……」
「でないと、いつまでもつきまとうって言うから……ナマでなんて、先生としかシタことなかったのに」
 由比は声を詰まらせ、それをごまかす為に星野を呑み込んだ。
「ナマで……」
(ということは、コレは……)
 白い液を指に取り、匂いを嗅いだ。
「……!?」
 紛れもなく精液の匂いがする。
「クソーッ!」
 由比に性戯を教え、その身体を自由にしていた男がいる。星野は激しい嫉妬を感じた。
「こいつは、俺のモノだ!」
 ジュル、ジュルルル……。
 そこに男の名残があることに我慢できない。星野は夢中で精液を啜り、男を呑み込んだ。
 星野の嫉妬が由比にも伝わったのだろうか、由比もまた、夢中でしゃぶりついた。
「出る……出るぞ……ウッ!」
 由比の尻を鷲づかみにしたまま、星野はイッた。
(昼間の女……)
 欲望が一段落すると、それが気になった。わざわざシャワーを浴びる為に時間を取った女が、股間に男の匂いを残したまま来るだろうか? まして、顔面に跨ってくるとは到底思えない。
 白い尻にくっきりと付いた爪痕。星野はそれを優しく撫でた。昼間の女より、尻が小さい。太腿も細い。そして、頼りない恥毛。
(由比じゃなかったのか……)
 由比は萎びたモノを離すことなく口に含んでいる。イッた後の過敏になっている先端を避け、根元を唇で刺激している。終わりにするか続けるか、ソレの反応如何で決めるつもりらしい。
 萎えてもまだ離さぬ女。
(同じだ! やっぱり、由比だったのか)
 はっきり言って経験不足の星野、女に腰を振られると直ぐにイッてしまう。しかし、
(あの腰使い……もう一度味わってみたい)
 ムクッとペニスが動いた。それを待ち侘びていたように、由比の頭も動き、亀頭に舌が巻き付いてきた。
 ムクムクッ!
 ムクッ!
 張りこそ劣るが、太さ長さは充分。
「先生! 今度は、こっちに頂戴!」
 由比は両手を突っ張り、星野の口から陰部を引き離した。そのまま胸、腹、臍。愛液をなすり付けながらずらして来る。
「……おかえりなさい……!」
 指先でちょっと角度を調節しただけで、星野のソレは由比の体内に包まれた。
「おっ……締まる!」
 思わず呟いてしまうほど、由比のソコは締め付けてくる。もし、最初にソコへ入れていたなら、根元まで挿入される前に果ててしまったに違いない。一度出してあることで、なんとか我慢できた。
(振られたら、アッと言う間だ)
 それは男として情けない気もする。星野はイッてしまった時の言い訳を考えた。
 が、
「ごめんなさい……」
 由比は涙声で言った。悔しくて仕方ない。そんなイントネーションだ。
「あたし……クネクネ出来ないの……」
「え? クネクネ?」
「腰……動かせないの」
 由比は腰だけを独立して動かすことが出来ないようだ。実際、由比の動きはお世辞にも上手いとは言えない。
「泣くことないよ。今度は、俺がシテやる」
 腰を動かせない由比。そんな彼女が可愛く思えた。と共に、昼間の女が由比で無かったことが確実となった。
(誰だったんだ)
 星野はソレを考えるのを止め、由比と楽しむことに専念した。上体を起こし、由比を前のめりにすると、ペニスが抜けないよう気遣いながらゆっくりとバックに持ち込んだ。
「あっ、あっ、あ〜っ」
 シーツを握り締め、噎せるような快感を全身で受け止める由比。一生懸命、星野より先にイクことを身体に言い聞かせている。女をいかせた時の満足げな表情を、星野の顔に見たいから。なのに、
「由比ッ! イクッ、イクゾ!」
「も、もう少し、もう少し待って!」
 由比はそんな表情で振り向いた。しかし、天井を凝視しながら最後の一瞬に集中している星野は、由比の願いなど感じ取れる筈もなかった。
「ウウッ! クゥ……」
 欲望を吐き出し萎えてしまったソレを、由比が締め付けてくる。星野の体液を一滴残さず搾り取ろうとするかのように、キュッ、キュッと締め付けている。
 星野がぐったりと体重を預けると、由比は潰れてしまった。愛の連結棒も抜けてしまった。星野は由比の股間に手をやり、
「良かったよ。由比のココは、百点満点だ」
「嬉しい。先生が、満足してくれて……」
「お前は、満足した? イッたのか?」
「……先生が満足なら、あたしも満足……」
「イかなかったのか?」
「あたし、イッたことないも……先生に、教えて欲しい」
 顔を逸らし、由比は初めて嘘を付いた。
「可愛い奴」
 星野は由比を強く抱き締めた。愛情はともかく、〃失いたくない〃と思った。


 八時を過ぎた。そろそろ帰らなければならない時間だ。もう、一時間近く無言のまま抱き合っている。時々顔を覗き込み、キスをせがむ由比の愛らしさに、星野はこのまま帰したくないと思った。しかし、そんな訳にはいかない。
「もう、帰る時間だろ?」
「先生……また、来てもいいですか?」
「ああ、いつでもいいよ」
「それまでに、腰……動かせるように予習してきます」
「いや、予習はいい。一緒に勉強しよう」
「色々、教えて下さいね」
「ああ、たっぷり、教えてやるよ」
「先生……」
 由比は恥ずかしそうに星野の胸に頬を当て、
「さっきの……復習しなきゃ……」
「復習……?」
 縮んだペニスに由比の指が絡んできた。出してから充分に休息を取ったソレは、瞬時に反応した。
「思いっきり打ち付けて……あたしの……」
「あたしの?」
「あたしの、おまんこが壊れるくらい激しく」
「ッ!」
 由比の口から聞く淫らな言葉に、星野の理性は消し飛んだ。凶悪な強姦魔のように由比の両脚を剥ぎ開き、頼りない恥毛の下で幼い疼きにヒクつく蕾へ、痛いほど勃起したペニスをぶち込んだ。
「最高だよ……由比!」
「先生、もっと、もっと奥までっ!」
 腰を浮かし迫り出してくる由比の股間へ激しくピストンする星野。その光景はあの日と似ている。ただ、あの日は由比の母親への怒りを込めたピストンだった。しかし今は、由比への愛情を込めたピストン。より強い快感を与えてやりたい願いをペニスに込め、激しく腰を振っている。
「由比……そろそろ、イクぞ!」
「頂戴っ、あたしのナカに、たっぷり頂戴!」
「オオオッ!」
 一段と激しさを増すピストンに、由比の表情は無惨に歪んだ。それは痛みに因るものではなく、強すぎる快感に因るものだ。
「あたし、あたしっ……」
背を反らし、星野の恥骨にクリトリスを擦りつけながら、由比は叫んだ。
「っイクゥ〜っっ!」



 終わった後のけだるさの中で、星野は帰り支度をする由比を眺めていた。まだまだ幼い彼女が、大の大人と対等に快感を享受できる。それが不思議でならない。
 自分から咥え、跨ってきた女が、今はあどけない少女に戻っている。目が合うと頬を朱らめて逸らしてしまう由比。どちらが本当の由比なのか、そんなことを考えるのはナンセンスと分かっていても、考えずにいられない。それほど、行為の最中と後ではギャップが大きい。そのギャップが激しいほど、男はその女に夢中になる。そんな男の心情をも、誰かに身につけられたのだろうか……。
「今日のこと……小説に書いてもいいですよ」
 帰り際、由比は恥じらいながらそう言った。想像力の乏しい星野、実体験を書くのが一番いいことは充分承知。
 由比との再開、謎の女とのセックス。最後に、由比とのセックス。
「昼間の女の正体は次回作として……」
 ワープロのスイッチをON。由比とのセックスに燃え尽きた星野の身体に、再び炎が立ち上った。
「今度こそ!」
 二度目の掲載の手応えを感じながら、星野はワープロを打ち続けた。


   おわり