「マスコット(前編)」  Aristillus



    −1−

 ノックの音に、俺がドアを開けると、そこに栄子の母の姿があった。
 いつもの気の弱そうな、歳以上に老けて見える顔が、目を伏せて立っている。
「ごめんなさい……うちの栄子、お邪魔してませんか?……」
 くたびれた感じに同情のまなざしを送って、俺は玄関に招き入れた。
「こんにちわ、三浦さん。一体どうしたんですか? 栄子ちゃんは、今日は見てませんけど……」
「なら、いいんですけど……」と言いながら、部屋を見渡すと、足元の靴をちらりと見る。
 そんな初歩的なことで、バレるようなアホじゃ無いぜ。
「また、栄子ちゃん、お父さんに暴力を振るわれたんですね? 出てっちゃったんですか?」
「いえ! いえ、そんなことはありません……」
 目を伏せたまま、ありがとうございましたと頭を下げて、栄子の母は去っていった。


 俺はため息をつきながら、足音が聞こえなくなるまで、耳を澄ましていた。
 念のためカギを閉めてから、奥の部屋に戻って、声を出す。
「おい、行ったぞ」
「……うん」
 小さな声がして、洋服ダンスのドアが開く。中から縮こまって服に埋もれていた、小学校低学年の子が現れた。
 真ん中で分けた長髪は、それぞれこめかみの辺りで、ピンで留めて垂らされている。
 黄色とピンクのTシャツに空色のジャンパースカートで、アクセントになってる黒いハイソックスがかわいらしい。
 栄子はごそごそ出てくると、俺にニカッと笑いかけてから、脇の座椅子に近いカウチに大股開いて座り込んだ。どこか空虚な笑いに、俺はズキンときた。
 無防備にパンツが丸見えで、俺はそれを眺めながら話しかけた。
「また、殴られたんだろ。見せてみな」
「そう! ひどいのよ! お父さん。……お母さんも、黙って見てるだけなんだから」
 あの人ならそうだろうと、気の弱そうな母親の顔を思い出しながら、俺は思った。
 別に他人の家庭に口を突っ込む気も無いが、前に、彼女の体に残るあざを見て、俺は本当に腹が立っていた。


 そのまま脱がすとパンツ一丁になってしまうので、俺は気を使って、肩のボタンをはずして腰にジャンスカを下げてから、Tシャツをめくり上げた。
 背中に赤と蒼のあざが散っている。腹や胸にもそれはあった。
「かわいそうに……」
 俺は背中を撫でてから、前の方を撫でようとして、一瞬躊躇した。
 だが栄子は、俺が胸に触れても気にせず、眉をしかめたまま目を伏せている。
 俺はなるべく優しい笑みを浮かべて、腹と平らな胸も撫でてやった。すべすべの感触がぞくぞくするほど気持ち良かったが、それを顔に出す訳にもいかない。
 彼女の小さな顔には傷一つ無い。それが俺の怒りの原因だった。
 彼女の父は、他人にバレないように、見えない所を殴っている。
 親のすることではない。大学生らしい正義感で、俺はそう思っていた。
 じっくりとさすってやってると、やがて、沈んだままだが、穏やかな顔になった栄子がつぶやいた。
「ありがと、お兄ちゃんが撫でてくれると、気持ちいいよ」
「うん」
「もう少し、続けて」
「うん、……腹、減ってないか? それとも、なんか飲みたくない?」
 彼女は目を伏せたまま、小さくうなずいた。


    −2−

 俺は僻地のド田舎にある、とある大学の学生だ。
 回りはみごとに自然が満ちているが、他には驚くほどなんにも無い。
 大学を中心に、そこだけ開けた町の安下宿に、俺は住んでいた。


 栄子は、俺と似たような近所の下宿に、一家揃って住んでいる所の女の子だ。
 休みに暇そうにしてた俺と下宿の階段で知り合ってから、友達のいないらしい彼女は、急速に俺に接近してきた。
 そういえばこの辺には子供が少ない。大学中心の町だからしょうがないが、子供にとって、あまりいい環境とは言えないだろう。
 まとわりつくのを不思議に思っていた俺に、彼女はやがて、そっと秘密を打ち明けてくれた。
 父の家庭内暴力に、どうやら家にはいたくないらしい。
 俺の中に正義感が芽生えて、つい部屋に連れていくと、彼女は喜んで俺の部屋に居つくようになった。
 今では、家でなにかある度に、俺の部屋に逃げ込んできている。
 聖人君子でもあるまいし、やましい下心が無かったとは言わないが、大学生の俺にできるのは、それくらいしかなかった。


 パスタを作ると、栄子は喜んでパクついた。
 本当は、飯を食わせると家に食事に帰らないからバレるのが分かってるんだが、俺は栄子と一緒に食事するのが好きだ。
 バレても、今まで彼女の母は騒いだり、怒鳴り込んだりしてきたことは無い。
 栄子も、よっぽどのことがないと、家でのことを口にしなかった。
 俺は大学のことなど話してやりながら、彼女のよく動く口元を眺めて、食事を続けていた。
「大学って汚いの?」
「違うよ、大学の建物はすごくきれいなんだけど、俺の入ってる部の部屋はすごく汚いんだ」
「違う所なの?」
「うん。脇に小さな建物がズラッとあって、色んな部がたくさん入ってる。みんなで使う部屋だけど、たいがいすごく汚くなってるんだ」
「面白そう! どんな部があるの?」
「テニスやら、バスケやらの運動をやる所とか、絵を描いたり、星を観察したりする文化系のものまで、山程あるよ。沢山あって、実は、俺も全部は知らないんだ」
「へぇー、大学って、難しい勉強してるばっかじゃないんだー」
 真面目に部活動をやってる奴は少ない。大概はナンパ目的か、遊びのためだ。
 一般に認められてるバスケ部より、いかにも遊びに見えるマンガ研究会の連中の方が、校内印刷物のイラストや、立て看板の制作など、真面目に大学に貢献してるのを、俺は知っていた。
「栄子ちゃんは、行ってみたい?」
「えー! 行っていいの!?」
「どうして?」
「だって、大学って、大学生しか入っちゃいけないんでしょ?」
 俺は笑って言った。
「教室は入れないけど、門が開いてれば、大学には誰でも入れるよ。もちろん用も無いのに入って来られると困るけど、よっぽどのことがなけりゃ大丈夫」
「見たいけど、でも、あたし、大学に用はないよ?」
 食事を終えてカウチに移動すると、俺は真面目な顔になって、彼女を見つめた。
「栄子ちゃん」
 けげんな表情で見つめる。
「このまま俺の部屋にいるのは良くないよ。二人っきりでここにいると、俺はおかしくなっちゃうかもしれない」
 眉が寄る。
「ずいぶん仲良くなって、君が好きになっちゃったんだ。このままだと君に、何するかわからない。だから、君の行く先を一つ、見つけてあげようと思ってたんだ。それに、俺がここにいない時もあるしね」
 好き、に反応して彼女の顔がふにゃっとなる。
 俺も若い男だ。正直、この頃自制心に自信が持てなくなってきた。
「わからないって、あたしに、何をするの?」
「君の知らなくていいこと。それでね、栄子ちゃん。俺の入ってる部の連中に紹介したいんだけど、いいかな?」
「いっぺん、行ってみたいけど……ねえ、なんで好きになっちゃうといけないの?」
「……そりゃ、君にエッチなことしちゃうかもしれないからだよ。栄子ちゃんは小学生だから、まだ知らなくていいんだ」
「やーだ! そんなこと考えてたのー!」
 ぱんぱんと俺を叩く。俺がのけぞると、彼女は膝に上がってきた。
「おい!」
 こんな風に接触してきたのは初めてだ。体が反応してズボンの中が硬くなる。
 正直に言うと、彼女を想像してオカズにしたこともある。性欲は有り余っているが、さすがに俺も、小学生の彼女に手を出すつもりは無かった。
 それでも、こうやって抱きついてこられると、どう反応していいものか迷って、されるがままに固まってしまう。
 彼女は無邪気な顔で、俺の膝に乗ってぴたぴたと手を出していた。
「あたしも、お兄ちゃん好きだよ」
 あっけらかんと言った。
「そ、そうか、そりゃうれしいな……」
「エッチなことしたけりゃしてみて。あたし、怒らないから」
「!」
 目が点になって、思わず硬直して彼女の肩をつかんだが、すぐに気付いてそっと体を離した。
 頭の中がピンク色で一杯になっている。
「駄目だ。それはできない。しちゃいけないんだ」
 自分に言い聞かせるようにそう言うと、彼女を膝から降ろした。
 それでもそっと、けげんそうな顔をした彼女の額に素早くキスをする。『唇にしろ!』と言う頭の中の声を押さえて離れると、彼女がおでこを押さえてうれしそうな声を上げた。
「キスされちゃったあぁ!!」
 俺は苦しくなった呼吸をさとられないように、横を向いた。


    −3−

 部室に入っていくと、薄暗い中に、いつものメンバーが揃っているのが見えた。いつもの事だが、暇そうにしている。
「よう、えーちゃん! ここんとこ見なかったけど何してたんだ?」
「あっ、えーちゃん。部費払っておいてね。まだでしょ」
 貫禄のある、眼鏡をかけた女性が声をかけてくる。
「久しぶりに会ったらこれかよ。じゃな」
 俺は渋い顔をして、帰るふりをした。
「あっ、こらこら」
 今、部室にいるのは5人だけだが、実際は、20数人の部員がいる。
 どっちにしろ、この部屋に全員は入れないし、半数近くはいるのかいないのか分からない幽霊部員たちだ。
 TVが点けっぱなしだが、誰も見ていない。
 席に付いて、ジュースの栓を切ると、俺は真面目な顔になって、相談を始めた。
「おお、家庭崩壊」
 面白そうに、1年先輩が言う。
「なあるほど、それで小学生相手に忙しくて、来れなかったワケね。この変態」
「そうだよ。その通りだよ、悪りいか」
 開き直って俺が首を振りまわす。
 笑って見ていたが、眼鏡をかけた女性、持田、通称もっちゃんが言った。
「いいこととは思えないけど、ここで子供見てるぐらいならいいんじゃない? ここなら必ず誰かいるし、女性もいるし」
「えっ! どこに?」
 ノートがびゅっと飛んできて、はっしと拝むようにつかむと、俺と同級の遠藤がにやりと笑った。
「俺もかまわねえよ。むしろ大歓迎。なあ、えーちゃん。その子美人か?」
 重みのある辞書がすごい勢いで飛んで、奴は今度は体ごと床に伏せた。
「なにするんだ! バッキャロー!」
「いいかげんにしなさい、このバカ!! 何かあったら、あんた一人じゃ済まないんだからね!」
 部長は泰然と、タバコを吸いながら事の成り行きを見ている。むろんどちらも本気じゃない。
 俺は笑いながら、なんとか受け入れてもらえそうな事に、ほっとした。
「しかしよ、考えてみりゃ、そういうことなら警察か、然るべき場所に相談すべきじゃねえの?」
「本人にその気が無きゃあ、しょうがねえだろう。親を犯罪者にしたがる子はいねえだろ?」
 俺は肩をすくめた。
 皆、真面目な顔になる。俺達は皆、そういうマジな修羅場には慣れていなかった。
「……個人的にはかまわないと思うが、小学生はここではさすがに目立つ。えーちゃんが、授業で一緒にいられない時だけ、たまに訪れてくるんであれば、いいんじゃないか。しかし、何かあれば、連帯責任だ。バレないように、全員注意しろよ」
 部長がゆっくりと言った。安心感が広がり、皆がうなずいた。
「ひでえ話だがな、……その位は全員で協力してやってもいいだろ」
 ぽつりと遠藤がつぶやいて、言った。
「で、どんな子なんだ?」
 今度は俺も、「違う! 違う!」と手を振り回している奴に、腕を振り上げた。


    −4−

 初めて栄子を連れていった時は、もう大歓迎だった。
 部室の皆も小学校低学年となれば、どう接していいか分からない。それで、皆できる限りの知識を絞って、彼女の気を引く話題を探って話し掛ける。俺にはその様子がおかしかった。
 彼女はというと、思った通り人見知りで、俺にぺったり引っ付いたまま、回りを珍しそうに見回しながら、無邪気に言葉少なに受け答えしている。
 子供と同レベルでアニメの話ができるのは、今の大学生ならではだろう。
 とんちんかんな会話が、ようやくまともになった頃に、俺は席を立った。最初から無茶はできない。
「後ろに気を付けろよ。送りオオカミ!」などと、とんでもないセリフに送られて、俺は彼女を送っていった。
「えーちゃんって、呼ばれてるのね。おかしい!」
 外に出たとたん、かしこまってた栄子ちゃんがせいせいとした感じではしゃぎだした。
「そう、えーこちゃんにえーちゃんだよ。どうだった? 嫌じゃなかった?」
「うーん、分かんない。面白い人が、いっぱいいた」
「みんないい奴だよ。俺がいない時や、助けが欲しいと思った時は、いつでも行って大丈夫だよ。ただし、」
 俺は言葉を切って、振り向く。
「みんなに迷惑かけないように、出入りする時は注意するんだよ。俺んちに入る時みたいに」


 部室に帰ると、大騒ぎだった。
「かわいい子じゃないか、うん。ちょっと影があるが、事情があるからしょうがない。将来美人になるかもしれん」
「ほんとにえーちゃんになついてるのね。弱みに付け込んで、悪い事してるってんじゃなさそう。安心したわ」
 いや、わからん!と言う遠藤をはたいて、俺は頭を下げた。
「みんな、すまん。関係ないことで気を使わせちまった。いつ来るか分からんが、来たらなるべく嫌な顔しないで、相手してやってくれ」
「なんか言ってた?」
「面白い人が、一杯いたってさ」
「確かに、変な人ならいくらでもいるからね」と遠藤を見る。
 素早くタバコを点けて、禁断症状、禁断症状とつぶやく遠藤を見て、俺は微笑を浮かべた。奴も気を使ってたらしい。
 今日は、話を聞きつけた奴が多いせいか、ずいぶん部員の数が多い。
 部長が現れると、俺達に話しかけた。
「もう帰っちゃったのか? その……お嬢さんは」
 コンビニの袋を下げている。
 近くの連中は、部長の言い方に、笑っていいものか複雑な表情を浮かべた。
 二三人、後ろを振り向いて、音も無く笑っている。
 しょうがない、と言いながら、机にぶちまける。アイスが広がった。
「おお、部長のおごりだ。すげえ、初めてだ」
 お前らにじゃねえ、と言う声を聞きながら、俺はアイスを取った。
 部長が、栄子の事を回りに聞きまわっているのを見ながら、俺は小さな幸せを確かに感じていた。


    −5−

 暑い。すさまじく暑い。
 大学の施設に行けばクーラーもあるのだが、そんな気にはならない。部室にはもちろん、そんなものは付いてない。
 しょうがないので、扇風機にあたりながらだらしなく寝そべっていると、ドアが細く開いて、するりと栄子が入ってきた。
 カギはかけてない。どうせ盗まれるようなものも無かった。
 いつもの通り、入ると内からカギをかけて、俺を振り向いた。今日は、逃げ込んできたんじゃなさそうだ。
 俺は安心して、起き上がるのをやめた。
 縁にオレンジが入った白いTシャツに、お気に入りらしい空色のジャンスカを重ねている。素足はほっそりとして、膝にあざが一つあった。
 髪は左右に束ねて、するんという感じで左右に伸びている。
 おー、と俺が声をかけると、栄子ははにかんだ笑いを浮かべて、俺の脇に立った。
「どうした?」
 俺の首をそろりとまたいで、仁王立ちで俺を見下ろす。
 彼女のスカートの裾が、風にはためいて震えている。暗がりの中に、パンツがはっきり見えていた。
 彼女の意図が分からず、スカートの中を見つめていると、彼女は微笑して俺の胸に座り込んだ。
 スカートがめくれ上がって、彼女の秘部を覆う、ごく普通の綿のパンツが陽光にさらされる。
 近くで見ると、ちょっとゆったり目の大事な部分が、うっすらと黄色に変色してるのが分かる。ひょっとしたら、まだおねしょの癖があるのかもしれない。
 布地越しに、彼女のお尻の感触と共に体温が伝わって、俺の体がカッと熱くなった。
 彼女はそのまま、くりくりと俺の胸の上でお尻を動かしだす。
 ぞくっとして、俺のパンツの中がきつくなる。俺は手を伸ばして彼女の腕をつかんだ。
「暑いよ」
「やっぱり、あたしのパンツ見てるー。エッチなこと、したいんでしょ」
「あ、いや、そんなつもりじゃ無いんだ」
 俺は目を逸らした。
「エッチなことしても、怒らないよ。かまわないんだからー」
 彼女には怒れない。暴力は論外だ。それで俺は多少語調を荒げて言った。
「おいおい。かまわないなんて言うんじゃねえ。しかたがないみたいな、言い方はやめろ」
「……ごめんなさい。でも、好きで好きでしょうがないの。ねえ、エッチなことしたいけど、良く知らないから教えてよ」
 うーんと俺は天をあおいだ。やぶ蛇とはこのことだ。
 彼女は純真で切実な目で、俺を見つめている。
「俺の、何がそんなにいいんだい?」
「えーちゃんに会った時、カッコいいなって思った。でも、なんでもないみたいに、あたしをかばってくれたから、大好きになっちゃったの」
「そんなこと……」
「みんな、あたしにしつこく聞くんだ。でも、えーちゃんはちがう。あたしがうんとそばにいても邪魔にしないし、触っても怒らないから」
 気にもしなかった事に気付かされて、俺の心は曇った。
「でも、もっと触って欲しかったのに、いつでもすぐに離しちゃうんだ。だから……」
 栄子には、いつでも抱きしめて、愛してると言ってやる、大人の手が必要なんだ。
 相手が大学生の俺だから、こういう形でも触れ合いを求めてしまうんだろうか。
「……わかった。それじゃ、ちょっとだけ」
 彼女は花が開くように喜んだ。
「栄子ちゃん、触られるの、そんなに好きなんだ」と言いながら、腕を撫でてやる。
 さらに膝から太股まで、肌の部分を撫でていく。柔らかくて小さくて、とても気持ちがいい。
「うん。……でも、えーちゃんだからだよ」
 俺を見下ろしたまま、目を細めて微笑する。今度は服の上から、全身を撫でていく。
 膝をかかえて撫でながら、言った。
「大好きなら、俺にキスしてくれる?」
 頭を持ち上げて、目をつぶる。
 俺の頭を小さな手がはさんで、柔らかい唇が俺の唇に押し付けられる感触がした。それ以上、どうしたらいいのか分からないらしく、何度か離れては押し付けるのを繰り返すと、そのうちちゅっと音がして、目を開いた俺の前で会心の笑みがこぼれた。
 きゃあ!と喜びの声を上げて、俺の胸の上で、ぴょんと彼女のお尻が跳ねた。
 彼女のファーストキスの相手が自分だと、彼女に気付かせるべきかと一瞬、考えた。
「よかったよかった、ちゃんとできたね」
 背中を撫でながらほめると、また彼女の小さな顔が接近してくる。
 何度かそうしてキスをすると、俺は背中に腕を回して彼女を抱き寄せた。
 彼女の足を回して俺の体の上に全身を乗せると、めくれあがったスカートの下に、彼女の股間が俺の腹に押し付けられているのが感じられる。俺のズボンの中のこわばりが、また大きくなった。
 ほっぺたを付け合って、ぎゅっと抱きしめたまま、そっと体を揺すり始める。
 彼女の足が俺の胴体をはさんできた。
 こすれ合う全身に彼女の熱が感じられて、暑いけど気持ちが良かった。
「どう? 気持ちいい?」
「うん……」
 背中からお尻を撫でて、そのパンツに包まれた小さなお尻の感触を味わう。
 細くて肉が無い彼女の尻は、片手で二つとも押さえられるほど小さい。そのまま押し付けると、彼女の股間の感触が強まった。
 栄子は初めての感触をじっくり味わってるみたいで、黙って、されるがままになっている。
「もうちょっと、続ける?」
「うん」
 もちろん抱っこしてるだけだが、体を揺すり続けながら、『こうやって揺すってやるという行為は、いやらしいのと紙一重なんだなあ』と思うと苦笑が浮かんだ。
 やがて耐えられなくなった俺は、彼女をカウチに座らせて、離れて前に座った。
「栄子ちゃんのパンツ、見せてくれない?」
 いたずらっぽく首をかしげると、栄子は腰を突き出して、足を大きく開いた。
 両足を上に跳ね上げて、ぶんぶんと振り回す。
 その度に、めくれ上がったジャンスカの中のパンツにしわが寄って、彼女のきれいな秘部の曲線や、お尻のラインがあらわになる。
「どう?」
「とてもかわいい。興奮しちゃうよ」
 ゆるんだ顔で俺は言った。内腿の肌の白さが、目を釘付けにしている。
「よーく見て」
 片足を高く上げて、バレエのポーズをしたり、両腕で膝をかかえてぱっぱっと開いたり、足と腕で体を支えてブリッジのように腰を上げて、俺の前に、彼女の大事な部分を隠した布をよく見せてくれたりした。
 彼女のジャンスカは、今では胸までたくしあげられて、視界をさえぎるものは何も無い。
 栄子はそうしながら、得意そうな笑顔を浮かべて俺の様子をじっと観察している。
 俺が膝立ちでいざり寄ると、それに合わせて彼女は両膝を抱えてお尻を持ち上げた。
 俺の視野一杯に、彼女の大股開きの股間が突き付けられる。
 細い腰をそっとつかんで、片手で秘部の真上を指でなぞってやった。
「きゃっ!」
 彼女は腰を揺すって悶えた。
「エッチぃ!」
「エッチなことしてるんだよ」
 すりすりと布越しに撫でる。薄い布の中に、彼女の亀裂の形がはっきり指に伝わってきた。
 夢中になって、すりすりとこすり続けると、そのうち彼女の腰がぴくっぴくっと小さくけいれんした。どうやらほんの軽くだが、快感を感じたらしい。
 顔を見上げると、真っ赤な顔が目をつぶっていた。
「気持ち良かった?」
「もう、いちいち聞かないで! えーちゃんがしたいこと、していいよ」
 そんな事言っても、このままオオカミになる訳にもいかず、俺はしばらく考えて、彼女に言った。
「シャワーに行こう!」
 ボロいこの部屋の唯一のいい所は、風呂が付いていた事だ。
 俺がパンツを脱ぐと、彼女の目が俺の股間を見て、大きく広がった。俺のペニスは勃起して、前に鋭く突き出されている。
「どうしたの? おちんちんが大きくなってるよ!」
「こら、あんまり見るな。うーん、教えといて上げよう。男はエッチなことしたくなると、ここがこういう風に大きくなるんだよ」と言いながら、俺はちらちら見える彼女の股間の亀裂から、目が離せなかった。
「へーっ」
 水のシャワーで、たっぷりと体を冷やしてから、石鹸の泡をこすりつけていく。
 彼女は、きゃあきゃあ騒ぎながら、冷たい水を浴びている。
 ざっと自分にこすりつけて、全身泡まみれにしてから、彼女に優しく泡をこすりつけてやる。
 彼女の体をこする指に快感が走る。慎重に股間に泡を付けていった時も、彼女は気にする事もなく、はしゃいでいた。
 俺はぼうっとして、思わず口走っていた。
「栄子ちゃんが洗ってくれる?」
「うん! でも、立ってると、届かないよ」
 腹を泡まみれの手でこすってくれながら言った。
「違うんだ。ここ」と泡の中に、まだ突き出てる俺のペニスを指差す。
「えー!!」
 俺を見上げる。
 まずいかなと、俺が声を出そうとした時、彼女が俺のペニスをつかんだ。
「おう!」
 はっと俺を見上げる。
「いや! いいんだ。続けて」
 両手で泡を立てながら、俺のペニスをこすっていく。顔には面白そうな表情が浮かんでいる。
 小さな指の感触に、俺のペニスはたちまち堅く反り返っていった。
「あっ、もっと大きくなったー」
「栄子ちゃんの手が気持ちいいからだよ。もっとこすって」
 彼女は歯を見せると、大胆に全体をこすりだした。
 陰嚢も泡でまみれた手で包んできれいにすると、片手でペニスを握って上下させる。泡で滑りの良くなっている軸に指が上下に動く度に、強烈な快感が走った。
「大きくなーれ、大きくなーれ!」と言いながら、大胆に軸をしゅっしゅっとこする。
 くっちゅくっちゅと滑りの良い音がして、たまらずにどんどん高まっていく。頭の所を何度か包むようにこすられた時、俺は熱いものが上がってくるのを止められなかった。
「んんっ!」
「あれっ、お兄ちゃん、おしっこー?」
 手のひらに飛んだ液体の熱さにびっくりして、彼女が見上げた。
「ち、違うよ! うー」
 止めた息の中、なんとか声を出した。
 どくどくとそのまま先端から粘液がしたたって、彼女はどうしたらいいか分からずに、手を止めてそれを見つめている。
 彼女の手のひらに流れる精液は、真っ白な泡の中で、少しくすんだ色をしていた。
 熱い噴出が収まると、聞きたげな彼女の顔に笑いかけてやりながら、シャワーで全て洗い流してやった。
「ふう、ありがとう……栄子ちゃん。すごく気持ち良かった」
「あれ、なあに? どういうこと?」
「おちんちんをこすると、ああいう白いのが出るんだ。Hな事のうちの、男がしてもらうと気持ちいい事の一つだよ」
「なーんだ、先に言ってよ!」と言うと、泡が取れて剥き出しのペニスをまたつかんで、こすろうとする。
「おうっ、栄子ちゃん。あれが出たらおしまい。うっ、だからもういいんだ」
 先端に再び走る快感に、腰を引きながら俺は言った。
 シャワーから上がると、さっぱりした気分で、二人で扇風機にあたった。
「気持ちいいー!」
 扇風機に近づいた彼女の頭から、ほどかれた髪がばさばさあおられている。
 シャンプーの香りを嗅ぎながら、彼女を後ろから抱きしめた。
 彼女も俺も、Tシャツにパンツ一丁の格好だ。
「さっきはありがとう、栄子ちゃん」
「えーちゃんが出した白いの、なあに?」
 回した腕を撫でながら、彼女が言った。
 説明すべきではなかったが、嘘をつきたくなかったので、少し考えて低い声でささやいた。
「……精液っていうんだ」
「へー、せいえきって、何?」
「あれが、女の人の体の中に入ると、二人の子供ができるんだ」
「えーっ! あたしに子供ができるの!」
「違うよ。えーと、その、えーい! 女の人のおまんこに入れて、中に精液を出すと、初めて子供ができるんだ」
 彼女が真っ赤になった。とんだ所で性教育になってしまった。
「……あたしと子供を作ろうとしたの?」
「そ、そんな馬鹿な。君はまだ子供だろう。まだできないよ。Hな事っていうのは、みんなそれの回りの事だってことさ」
「へーえ、そうなんだー! 知らなかった。だから、あたしのパンツを見てたのね」
 自分の股間に手を入れて、俺を真っ赤な顔で見上げて言った。
「あたしのおまんこ、見たかったんだー」
 俺がかすかにうなずくと、パンツを脱ごうとする。
「駄目だ! やめてくれ!」
 けげんな顔で見上げる栄子に、俺はなんと言って説明すればいいか、分からなかった。
「……今日はあれで全部おしまい。このまま抱っこしていてあげるから、俺を困らせないでくれ」
 後ろから抱きしめた腕に力を込めた。
 風に吹かれながら、俺達は触れ合ったまま、しばらく動かなかった。


    −6−

 夏休みの間も、カギは部の管理なので、部室は自由に使える。部室にはパソコンがあるので、持ってない奴等が自然に集まってくる。俺もその一人だ。
「なあ、えーちゃん」
 遠藤が話しかけてきた。いつにない真面目な口調に振り向くと、奴は言った。
「栄子ちゃんの親父の暴力って、まだ続いてるのか?」
 うなずいて、口をへの字にする。
「本当に?」
「なんだ、何が言いたい?」
「おい、怒るな。お前以外、それを見ちゃいないだろ。疑う訳じゃないが、俺たちの誰かが確認しておくべきじゃないかって、思ったんだ」
「そりゃ……確かにそうだが、あれを見せたくはない」
「俺も見たかあない。だから、俺じゃなくてもいいから、部の誰かに確認させておいてくれないか」
「……分かった」
「悪い」
 俺達は気まずく黙った。


 その午後、栄子が部室に素早く滑り込んできた。
 このプレハブは、すぐ外の道路に面していて、一階の部室に入るのに見咎められる可能性は少ない。それでも彼女は注意を怠らなかった。
 もうすっかり部員達は慣れて、今では一部の部員達のアイドルだ。
 今日は長い髪は結い上げられて、目立たないように後ろにまとめられている。
「じゃーん!、来たよ! こんにちわー、みなさん」
 よおとか、やあとか言う声があちこちからして、部長にぴょんと抱き付くとその目尻が下がった。どうやら部長にとっては、父性本能を刺激されるらしい。
 そんな部長が、もっちゃんと共に、彼女の世話を一番見てくれる。
 三人が触れ合ってる姿はまるで本当の子連れ夫婦のようだ、と部員の笑いを誘っていた。もっとも今は、もっちゃんは夏休みで帰郷しているが。
 俺が手を振ると、うれしそうに栄子は駆け寄ってきた。
「えーちゃん、もう夏休みなんでしょ。いいなー。私達より早いなんて」
「大学生の特権だよ。それより栄子ちゃん、ちょっとだけ、いいかな? おい、遠藤!」
「おい、何も俺は……」
「休みに入りゃ、女は来なくなるだろうが。別にお前じゃなくてもいいけど、ちゃんと責任を取れ」
「……」
「栄子ちゃん、君の背中を遠藤に見せたいんだけど、いいかい?」
 彼女は、悲しそうな顔で俺を見上げたが、やがて目を伏せて、うなずいた。
 いつのまにか部室は静まり返って、全員の注目を浴びている。俺は彼女を抱きかかえて、背中をめくってやった。
「……もういい。分かった」
 かすれた声が聞こえる。
 元に戻すと、背中を優しく撫でてやる。突然彼女がうえーんと泣き出して、俺達は皆で一生懸命慰めてやるはめになった。
「……もう二度とやらない。栄子ちゃん、飯食いに行こう! 全員、俺のおごりだ!」
 他に言いようもなかったんだろう。異議など出るはずも無かった。
 俺達は、彼女の笑いを誘って陽気に話しかけながら、外へ向かった。


   CONTINUE.