「『2人のキズナ』(後編)」  秋葉 時雨



 ──夢衣にとって正輝とはいなくてはならない存在だった。どんなに自分が遅れても、いつも優しく微笑んで待っていてくれる兄の事が大好きだった。
 いつから好きだった、と言う記憶は無い。たぶん生まれた頃から好きだったんだと思う。
 正輝のいる場所が夢衣のすべてであり、いつも正輝の隣にいるのは自分だと思っていた。
 だから、正輝が中学に上がってもワガママを言わず、夢衣は必死になって我慢した。
 兄を困らせたくはなかったし、帰って来たら、一番に自分に会いに来てくれると言う自信があったからである。でもどーしても会いたくて黙って学校に向かえに行き、兄を驚かせようとした時……。
 そこには夢衣の知らない別の世界があった。
 部活に勤しむ、正輝の楽しいそうな姿。回りで黄色い声を上げている同い年の女の子達。
 自分にしか見せてくれないと思っていたあの優しい笑顔がその子達にも向けられている。
 実際、誰にでも優しくできるのが正輝の長所なのだがそれが今回は災いした。
 心をズタズタにされる程の激しいショックを受けた夢衣は兄に会う事もせず、真っ直ぐ家に逃げ帰ったのである。
 夢衣が告白したのはその日の夜だった。だから兄に触れられ、抱き締められた時、夢衣は有頂天だった。世界で一番好きだった人と、やっと心が通じ合ったのである。
 正輝がいない間の孤独な時間も苦にはならなくなったし、兄が帰って来たら母達の目も気にせず抱きついた。
 夜になれば毎晩の様に愛し合い、終わる瞬間、正輝の情熱を注がれる度に幸福感に満たされた。
 その後は一緒に寝て、大抵朝の早い正輝に起こされ、時々寝坊した兄の胸の中で目が覚め、そのままHになってしまった事もある。
 そんな、兄妹の頃には絶対得られなかった日々が嬉しく思い、夢衣はこの幸せが長く続いてほしいと願っていた。
 だが、異変は突然やって来た。「せーり」と言う物が始まった時から兄の態度がおかしくなったのである。
 あまりHもしてくれなくなったし、いつも抱き締めてくれていた両手は、前と同じ様に頭を撫でるだけになり、夢衣が何を言ってもただ、優しく笑うだけになった。
 正輝の笑顔が大好きだった夢衣だったが、心の内を見せてくれない兄の存在が、また遠くなってしまった様な気がしてならなかった。


「お兄ちゃん」
 部屋に入ると夢衣はそのまま昨日、2人で寝たベッドに倒れ込む。この部屋にいるとまるで兄の匂いに包まれた気がして孤独感が少しだけ薄らぐ。だから最近、夢衣は内緒で毎日ここへ来ていた。
(ムイの事、嫌いになっちゃったのかな……?)
 瞳を閉じると、昨日の事が鮮明に思い出される。一緒に寝ているのに、けっしてこちらを向こうとしなかった兄の背中が夢衣にはとても悲しかった。
 2人にできた壁を壊す様に、夢衣も必死に正輝にしがみ付いた。
 だが、夢衣がどんなに好きだと言っても、抱きついても正輝は困った顔をしてただごまかすだけ。
 そんな兄の態度が悲しくて夢衣は逆に激しく正輝への思いを募らせて行った。
 どんな形でも良いから兄の温もりがほしくって……。
 夢衣の方から求めた事も何回もある。しかしそれでも満たされるのは、正輝と一緒にいる時だけ。また一人になれば孤独感に襲われる毎日を送っていた。
 そんな兄の気持ちが知りたくて、取ったのが昨日の行動である。
 恥ずかしかったが、正輝を喜ばせればまた夢衣を好きになってくれるかもしれない。
 一人よがりな思い込みで当たってみたが結果は同じ。やはり兄の本心は見えなかった。
(どうしたらお兄ちゃんに喜んでもらえるんだろう?)
 ふと、あの学校に迎えに行った時の光景が頭に浮かぶ。あの夢衣より大人の女の子達に兄を取られたくなかった。もっと正輝に愛されたい。正輝を一人ジメしたい。抱き締められて、身体中にキスされてそれから……。
 留まる事を知らない恋心は、さらに熱く燃えて行く。
 あの幸せだった日々を思い出し、気づくと夢衣の大きな眼からは自然と涙がこぼれていた。
 一度、押し流れた感情は止める事ができず夢衣は積を切った様に泣き出した。
「ウ……ヒック、ヤダ、ヤダよ。お兄ちゃんに嫌われるなんてぇ……! ウッ、ウッ……」
 寂しさを少しでも紛らわす様に夢衣は自分の手をスカートの中に入れ、そっと秘処に触れた。
 兄の部屋でいけない事だと分かっているのに抑える事ができない。少し手慣れた手つきでゆっくりさすると、もうその部分が湿っているのが分かる。
 早る気持ちを我慢してスカートを完全に取り、直に秘処に触れると夢衣の腰がピクンと震える。
 下だけではなく、まだ膨らみもなくブラも付けていない胸を触る事も忘れない。正輝と恋人になってからは、いつの間にかこんな事も覚えてしまった。
 自分がしている事をすべて兄に見透かされている様な気がして、夢衣は恥ずかしさと何かゾクゾクする様な奇妙な気持ちに包まれる。
「ふあ……っ! 気持ち良いよぉ」
 悲しみに暮れていた顔が上気した大人の表情に変わって行った。
 秘処に触れている指もすでに水音がするまでになり、夢衣がいよいよ、一番気持ち良いクリトリスに触れようとしたその時……。
「何、してんだ……? ムイ」
 驚いて振り向いた夢衣の顔が凍りつく。
 開けっぱなしの部屋の入り口には、同じくボー然と立っている正輝の姿があった。


 一瞬、自分の部屋で何が起こっているか分からなかった。ただ、妹がスカートを脱いだ姿で自分の下着に手を入れてるのが分かった時、頭の中がカッと熱くなるのを正輝は感じた。
「……お兄ちゃん」
 振り向いた夢衣の顔は泣いていたのか目が少し赤くなっている。それでも火照った様な表情は生唾を飲み込む程、色っぽかった。
「……どうしたんだよ? ムイ」
 暫く見とれていた正輝だったが、ようやく冷静さを取り戻すと、念のためドアを閉めてから夢衣の頭を撫でてやる。本当は情欲の炎がメラメラと燃えているのだが、極めて良い兄を演じる様に努める。すると、その手を払い夢衣は正輝の腰のあたりに顔をうずめて抱きついて来た。
 ちょうど、夢衣の胸の部分が正輝の股間に当たっていて、正輝は思わずたじろいだ。
「ごめんなさい。お兄ちゃんの部屋に勝手に入っちゃって、ムイ、なんでもするから、だから嫌いにならないで……」
「分かったよ。ムイ、だから手を離して……」
「ヤダッ!! 今、手離したらお兄ちゃんまた、ムイの事嫌いになるもん。また、ムイの遠くに行っちゃうもん……だから、だから、ずっと一緒にいて。ムイの事嫌いにならないで! お兄ちゃんのいない世界なんてムイ、生きていけないもん!」
 顔は隠れて見えなかったが、夢衣は泣いていた。悲痛な心の叫びが自分の取った行動のせいであると正輝にもすぐに理解できた。
 まさかここまで妹を傷つけていたと言うショックと、夢衣の身体から感じる暖かいぬくもりが、正輝に思いっきり抱き締めてやりたい衝動に走らせる。
 だが、今一歩の所で兄としての理性が手を止め、正輝の中で恋人としての想いと、夢衣の将来を心配する家族としての想いがぶつかり目まぐるしく葛藤が続いて行く。
 一旦、落ち着く様にふーっと大きくため息をついた正輝は泣いている妹を慰める様に優しく頭を撫で、そして自分に問う様に疑問を口にした。
「ムイは俺達が兄妹だって事は知ってるよね?」
「うん」
「だったら、兄妹は本当は恋人になっちゃいけないって事も知ってるよね?」
「……うん」
「それでもムイは俺の事が好きなのかな?」
 諭す様に正輝が聞くと嗚咽が止まり、夢衣が不意に顔を上げた。
 ──その表情は満面の笑みだった。
「そんなのあたり前だよ。だってムイが世界で一番好きなのはマサキお兄ちゃんだけだもん……」
「……そっか」
 その答を聞いた時、さっきまでずっと悩んでいたあの3つの選択肢の内、2つが自然に消えていた。
 ここまで想ってくれる人に、言い訳で逃げるのは卑怯だと思ったからである。
 静かに両手を離し、しゃがみ込むと正輝は夢衣と向かい合い、両肩に手を置いた。
 何か重大な事を言われるのが分かったのか兄をみつめる夢衣の眼はひどく脅えている。
「じゃあ、俺もこれからは自分の気持ちに正直になる様にするよ……この際、常識なんか知るかってんだ」
「お兄ちゃん?」
 笑顔でとんでもなく恐い言葉を口にする正輝に夢衣も驚いて眼を丸くする。
 しかし、夢衣をみつめる正輝の表情は今までのどの笑顔をよりも優しく、暖かい物だった。
「俺もムイの事が好きだよ」
「……えっ?」
 一瞬、夢衣の表情がこわばる。何を言われているのか分かってないのかもしれない。本当は心臓がドキドキして顔を背けたくなるのだが今、言わないと一生後悔する様な気がして、正輝は言葉を続けた。
「俺もムイの事が世界で一番好きだ。ムイのいない世界なんて、俺には考えられないよ」
「お兄ちゃん……!」
 今までしてやれなかった分、思いっきり抱き締めてやる。やっと大好きな人の胸の中に、再び飛び込めた少女は、二度と離さない様にその大きな背中に手を回した。
 暫く抱き合っていた2人だったが、互いの鼓動を感じると自然に見つめ合い、どちらとなく求める様にキスをする。それは、最初合わせるだけの軽い物だったが何度も繰り返す内に、次第と激しい物に変わって行き、そして……。


「ん、やだっ、お兄ちゃん。もっと……」
 唇を離すと夢衣は名残惜しそうに舌を延ばした。夢衣の方はもう全裸である。
 元々、脱ぎかけの姿だったので脱がせるのは簡単だった。正輝の方は制服姿だったので取り敢えず、上だけ脱いでいる。2人もヨダレで顔がベタベタになり、荒い息遣いをする程長い間キスを続けていた。
「キスも良いけどこっちの方が……」
「えっ、や、はうっ!」
 ほぼ完壁な不意討ちで正輝が夢衣の秘処に指を滑り込ませる。熱を帯びたそこは、さっきまで自分で慰めてたせいかまるで触っていないのにすでにビショビショだった。
 よっぽど正輝とのキスに興奮したらしい。そんな妹の反応に正輝は愛しさが込み上げて来た。
「放って置くのも可哀相だろ?」
「あっあっ……ご、ごめんな……あっ、さい。はっ、うっ、くぅっん!」
 ヌルヌルと指を浅く上下すると、ほどよくトロケた秘処から愛液が指を伝って流れ落ちる。
 もう準備は良しと判断した正輝は、ズボンのファスナーを下ろすと、我慢しきれなくなった肉棒を引っ張り出した。その誇張した物を見て、思わず夢衣がはっと感嘆のため息をつく。
「ムイ、4つんばいになって」
「う、うん」
 正輝に言われると夢衣は恥ずかしがりながらも、お尻をこっちに向ける。
 すぐにでも入れたかったが敢えて焦らす様に分身を股の間に挟み、秘処の上をゆっくりと上下に動かすと堪え切れないのか夢衣の背中になびく髪がブルブルと震える。
「あっ、やだっ、イジワル、しないでっ、早く入れて!」
「あ〜ごめん、ごめん」
 夢衣の甘えた、それでいて泣きそうな声を聞くともっとイジメたいと思ってしまうのだが、正輝の方もこれ以上は耐えられそうにないので大人しく秘処に肉棒をあてがう。
 一呼吸入れると、そのまま一気に突き入れた。
「んあ……っ!!」
「う……」
 じんわりと自分を包み込んでくれる肉の感触を楽しむと、夢衣の小さなお尻を掴み、一気に動きを早くした。
 今まで抑えていた気持ちが加速して、腰が勝手に動いてしまう。
 夢衣の方も正常位とは違った部分に当たるのが良いのか、自分から動きを合わせ腰を打ちつけて来る。
 秘処の締め付けもまた絶妙で、そのなんとも言えない快感に気づいたら歯止めが利かなくなっていた。
「あ! あっ! や、う、ふ、んぅ、う、くぅん……!」
「ムイ、気持ち良いの?」
「き、気持ち良いよぉ。ど、どっか飛んじゃいそ……!」
 ──ズチュ、ズチュズチュ!!
 夢衣の反応を示す様に動く度に淫らな水音が部屋に響く。
 見ると、夢衣の方も両手でシーツを掴み身体を縮こませて小さく震えていた。
 そこでこねる様な手つきで胸を触り、小さな乳首をつまむと夢衣の背中が反り返った。
「あっ! や、お、お兄ちゃ……あああっ!!」
 ビクンビクンと小刻みに痙攣し、そのまま倒れる。どうやらイッてしまったらしい。身体と同じ様に脈動する秘処が正輝を悩ませる。
 いつもならここで夢衣の事を考え、中止するのだが今日は後ろからの体勢と言う事もあってか、妹を犯していると言うシチュエーションが強く正輝の本能を刺激する。
 そこで少しだけ考えると、悪いと思ったがまた動きを再開する事にした。
「や、ダメッ!! 今動いちゃあダメェ!!」
「ごめん、押さえられそうもない」
「あっ、あっ、はあああーーーーーーっ!!」
 ガクンガクンと乱暴に扱われ、激しく腰を打ちつけられる。一度、イって敏感になっている少女がそんな責め苦に耐えられる訳がない。
 すぐにまた昇り詰め、高みに放り出された。二回目の絶頂に正輝もすぐに追い詰められ、頭が真っ白に白熱する。気がついた時には一番奥まで自分の分身を突き立てていた
「う、くっ……!!」
「ふあっ! あ、熱っ・・・!」
 限界を越えた肉棒が膨らみ、少女の中で白濁した精液がぶちまけられる。
 いつも夢衣とする時に考えていた避妊とか余計な事がまったく思いつかず、正輝はただ心地良い疲れに全身を包み込まれながら、分身を抜く夢衣の隣に倒れ込む。
 夢衣の方も今だ治まらない激感に翻弄されながら、兄の姿を見て、そのまま意識を失って行った──。


「ん……」
 目が覚めると目の前に見た事がある胸板が見える。ぼんやりとした意識で辺りを見回すと、温かい表情をした兄が自分に腕枕をしてくれているのが分かる。
 そこど夢衣の意識がはっきりと覚醒した。
「あっ! ……お兄ちゃん」
「なんだ、もう起きちゃったのか? ムイの寝顔、可愛いかったのに……」
 夢衣の鼻をツンと小突きながら正輝が優しくつぶやく。
 兄にそう言ってもらえるのは嬉しいのだが、全裸のまま毛布だけで隠した姿で見つめられるのはやはり恥ずかしい。普通、正輝はこんな事を言う少年ではないのでなおさらである。
「もう少し寝てて良いよ。母さん達、遅くなるみたいだからさ」
「うん。ねぇ、お兄ちゃん?」
「うん? 何」
 兄に抱き締められ、頭を撫でてもらうと安心感からか、また眠気が襲って来る。
 夢衣は閉じそうになる大きな眼を、必死に我慢しながらどうしても言いたかった言葉をつぶやいた。
「大……好きだ……よ」
 そのまま寝息を立て始めた妹を見て、正輝は起きない様にそっと抱き締めた。暖かい夢衣の感触が今まで埋まらなかった心の隙間に愛しさを注ぎこんでくれる。
 少し、目が潤みそうになって正輝は思わず鼻をすすった。
「それはこっちのセリフだよ」
 聞こえてない妹の耳元につぶやくと正輝はそのまま身体を起こした。
 これから先、2人の前には山積みの問題が立ちふさがっているだろう。ひょっとしたら、正輝が考えている以上に大きな障害が待っているかもしれない。しかし、それでも。それでも、自分の隣には夢衣がいてくれると正輝は信じている。
 「兄」としてではなく、「恋人」ととしてどんな事があっても想い続け、守り続けようと今決めたのだ。
 すべては、世界で一番好きな人のためにーーー。
「おやすみ、ムイ」
 愛しい少女を笑顔で見つめ、正輝は額に優しくキスをした



(終わり)