『幽かにくゆる煙の影』

   「第四話 心、刹那に込めて(前編)」  海並童寿



 ずきずきと痛む頭が、恭介に目覚めを強いた。まだ、辺りは暗い。
 よろよろと立ち上がり、とりあえず水をと、台所へふらふら向かう。
 頭痛がひどい。さっきから聞こえる規則的な声が、頭にもろに響いていた。
(うう、水みず……)
 水道からコップに水を注ぎ、一気に空ける。
 もう一度寝ようと振り返って、それが目に入った。
 天井付近に浮かんで、ひくひく、と痙攣している蛍の姿。規則的な声の正体は、どうやら蛍の寝息であったらしい。はぁはぁと、妙に荒い呼吸が続く。
(いい夢見てやがら……ちぇ、こっちも寝よ寝よ)
 その時はそれしか考えず、恭介はごろり、と床の空いたスペースに再び体を横たえた。
 やがて、朝。
「ん……」
 ぼんやりと恭介は目を開いた。その目が時計を見て、違和感を覚えた。
(……んだ? 10時?)
 時計が指していたのは間違いなくAM10:06。
(ここんとこ毎朝、蛍に6時にはたたき起こされてたんだけどな)
 そう思いながら、視線を上に向ける。
 蛍は──まだ寝ていた。相変わらず荒い寝息をたて、ひくひくと体を震わせている。
「昨日の一件でお疲れ、か」
 ポケットの手帳をぱら、とめくる。今日の仕事は──古紙回収の手伝い。勿論霊体の蛍にはほとんど出番がない。古新聞や雑誌の類が想念を持って化けるほど年を経ることなど滅多になく、あったとしても恭介が黒狗を引き出して一発殴れば片が付く。
「……寝かしといてやるかね」
 恭介はそう呟いて、朝食の支度を始めた。パックのご飯をレンジに入れ、特売で仕入れた冷凍食品からおかずになりそうなものを見繕う。それらを一通り暖める間に、半ば自動的に一本の線香を供える。
(案外、こんなもんより精液でも飲ませてやった方が喜んだりしてな)
 ふん、と鼻で嗤いながら卓へ戻る。遅まきな一日が、始まろうとしていた。


 そして──2日が経った。
 蛍は、一向に目覚める気配を見せなかった。
 そもそも幽霊に眠る必要があるかと言えば、実のところ、ない。しかし、生きていた頃の習慣というものもある。それに、蓄積する疲労──無論、精神的なものだが──を解消する手段として、睡眠が有効な手段であることは生者と変わりない。
 いずれにしても2日間眠りっぱなしで目覚めないというのは明らかに異常であった。
 今日の分の線香を立てて、恭介は浮かんでいる蛍を見やった。
 ほとんど天井にくっつかんばかりに仰向けに浮かんでいるため、表情は分かりにくい。ただ、頬が若干こけているように、恭介には見えた。荒い息も、よくよく聞けば苦しそうにも聞こえる。
(香りなんてのは寝てようが起きてようが転がってようが飛んでようが届くもんだろうと思うが……もう一本、足すか?)
 線香をもう一本足そうかと考えたものの、量の問題ではないような気がして止める。
 なんとなく手帳をぱらぱらと繰る。幸か不幸か、拝み屋仕事の依頼はしばらく入っていない。
 と、手帳からひらり、と紙片が落ちた。
「んだ……あぁ、あの小僧のか」
 泰彦の名刺であった。その名刺と蛍の姿を交互に見やる。
 ふぅ、とため息を一つ落とすと、恭介は携帯を取り出した。
 連絡を入れて30分後、ドアを文字通り蹴破って白作務衣姿の泰彦が現れた。
「ね、姉さんがどうしたっていうんですか!?」
「……何でもいいからそのドアちゃんと直せよ。大家がうるさい」
 恭介のぼそり、とした一言に一瞬気勢を削がれつつも、泰彦は部屋中をきょろきょろと見回し、ほどなく浮かんでいる蛍を認めた。
「息が荒い……まるで風邪でも引いたような……」
 心配げに蛍を見上げる。
「そりゃ違うな。息が荒くなるのは苦しいときだけじゃねえだろ」
 微かに嗤いを浮かべて恭介が言う。
「は?……あの。まさか、姉さんが、その、淫らな……」
「生娘じゃあるまいし。その手の夢くらい見たって不思議はないさ」
 泰彦は憮然とした表情を浮かべた。
「2日間休むことなしに、ですか? 霊体だって却って疲れますよ。いい加減、目も覚めそうなもんだ」
 と、言って泰彦ははっとした顔つきになった。
「──目覚めさせないモノがいるとすれば、話は別か」
「あん?」
 恭介が片眉をひそめた。
「確か石黒さんは霊体に触れられるんでしたよね。お手数ですが、姉さんを下ろしてもらえませんか」
「あいよ。そんくらいならおやすい御用お休み日曜ってなもんだ」
 恭介は軽く背伸びして蛍の手を取ると、ぐっと引き下ろした。と、
「──」
 思わず泰彦とともに息を呑む。
 女性のその手の表情は苦痛の表情と見分けがつかないとよく言うが、いま蛍が浮かべているのが苦痛のそれであることは、明々白々だった。
「とりあえず……失礼します、姉さん」
 泰彦はそう言うと、蛍の額の辺りに手をやった。そして、目を閉じ、低く何事かをつぶやき始めた。
 ほどなく、泰彦の表情が苦悶にゆがんだ。
「ぐっ……こ、こんな……」
 脂汗をだらだらとしたたらせ、歯を砕けんばかりにぎりぎりと食いしばる。
「……だ、だめだ……もう、だめだ!」
 そう叫ぶと、泰彦はどう、と後ろに倒れた。
「酷すぎる……酷すぎるよ……こんなの……俺には耐えられないっ!!」
 そう言うと、泰彦は外聞もなく、ひく、ひくとしゃくり上げ始めた。
「初めて見た姉さんの痴態がそんなにショックだったか? ま、女ってのはあんなもんだ。お前の姉さんはちょっとばかり目覚めるのが早かったってことさ」
 嗤いすら浮かべてそう言う恭介に、泰彦はがば、と顔を上げると猛然と迫った。胸ぐらを掴み、そのまま恭介を壁にだん、と叩きつける。
「貴様に……貴様に何が分かるかぁっっっっ!!」
「──るせぇな。少し落ち着けよ、シスコン坊や」
 冷たい瞳で恭介は泰彦を見やった。軽く右腕を上げる……その肘から先を黒い炎が捲く。
「そうだな。生前の姉さんの力を知らないお前には、分かりたくっても分からないよな」
 逆に、今度は泰彦が恭介を嗤った。
「なに……?」
 泰彦は恭介を横に放り捨てた。2、3歩跳ねて、恭介は体勢を取り戻した。
「姉さんは──この1000年でもまれに見る霊力の持ち主だったんだ。今晴明なんて呼ばれたりもしたよ。無論それは素養の話であって、これからその霊力を開花させていこうとしていたときに姉さんは姿を消した」
「期待しすぎたんじゃないのか? 重圧に耐えかねて──」
 茶化すような恭介の言葉を遮って泰彦は続けた。
「素人さんから見ると逆に思えるだろうが、肉体を失うと霊力は極端に落ちる。理屈はあんたなら分かるだろう、『サースティハウンド』石黒恭介」
「──調べたな。俺のことを」
 ふん、と泰彦は鼻を鳴らす。
「あんなデタラメの番号を教えられて調べずにいられるか。斯界では存外有名で助かったよ」
 泰彦は更に続けた。
「肉体はつまるところ世界の物理的側面に最も近い霊体だ。霊力を使って物理的なモノに影響を与えたければ、霊力を物理事象に変換できなくてはいけない。肉体を通して霊力を使うなら意識するまでもないことだが、肉体を失えばそれを意図的に自前でやる必要が生じる。必然的に、自由に使える力はその余力ということになる」
「テストでもありゃ、満点合格おめでとさん、だな。それがどうした?」
 泰彦は軽く目を逸らした。
「そして、純潔性は霊力を高める。純潔を失えば、相対的に霊力は落ちることになる。問題は失い方だ。純潔でなければ霊能者は務まらないというなら霊能者の系譜なんてあっという間に絶えてしまう。もし互いに愛し合って純潔を捧げるなら、その代わりに霊能者は……その、『愛の力』とでもいうものに目覚めることが出来る。純潔性による単純な底上げよりは不安定だが、どうかすると増強効果は遙かに上を行く。そうして霊能者は力を衰えさせることなく、子孫を残して来られた」
 泰彦はそこでようやく恭介に視線を戻した。
「──問題は、初めての交わりの時、どちらかに愛がなかった場合だ。こないだ会ったときに分かったが、姉さんの力の衰え方は、どう考えても肉体を失っただけのものじゃなかった。姉さんは──強姦されたんだ」
 恭介は呆れた様子で天井を向いた。
「だから、女っつーか姉さんを神聖化するのはいい加減卒業しろこの童貞坊主。女にしろ男にしろ、愛なんてなくったってセックスはなんぼでもできるんだよ。特に、女の方は昔からそれを金に換える手段があったしな──」
 と、泰彦は懐から匕首を取り出し、ぐい、と恭介に迫った。喉元に紙一枚の距離でぴたり、と刃をつける。
「黙らないと二度と口をきけなくしてやるぞ、犬。俺は──今、見たんだよ」
「見た……だと?」
「そうさ。姉さんが酷たらしく処女を散らされる悪夢を──な」


「インクブス、だ?」
 恭介は眉をひそめた。
「インクブスってのぁ、霊体にも取り憑けるもんなのか?」
「現にそこで、姉さんに取り憑いてるんですよ」
 お互いに一旦頭を冷やし、恭介と泰彦は向かい合って卓に付いていた。
「それにしてもやり方が妙に回りくどい。そのおかげで奴の存在が分かったんですから塞翁が馬、ですね」
 泰彦は顔をしかめた。
「回りくどい……って、どういうことだ?」
「奴のエサはあくまで、『女性が性的な夢の中で感じる快楽』に基づくエネルギーです。つまり、いくら性的な夢を見せても、取り憑いた相手が夢の中で何も感じなければ、奴にとってはくたびれもうけってことになります。それなのに、わざわざ快感を感じにくい初体験、しかも強姦された記憶なんかを引きずり出して夢に見せている。そのままじゃ腹の足しにならないと思ってか、夢の中では姉さんは……その、いささか感じやすくなっている。えらい手間ですよ」
「そら、見せられた方にしてみりゃ、ある種拷問だな……」
 レイプ願望でもあるならともかく、強姦されて感じたい女性というのも少なかろう。
 その自分の言葉に、恭介はふと思い当たることがあった。
「……拷問か。いや、復讐──かもな」
「え?」
 泰彦が片眉をひそめ、恭介を見た。
「蛍と初めて会ったとき、こてんぱんにしてやったインクブスがいたんだ。蛍の結界術がなきゃ、取り逃がしてたところだった」
「姉さんの結界術はほんと、天下一品ですからね……生前の力なら、道真公とも渡り合えるって言われてましたよ」
「……そらまた、ある意味化け物並みだな……」
 呆然と恭介が呟く。
「ま、とにかく、そうだと決まったもんじゃないが、奴の逆ギレ逆恨みお礼参りって線はあるな」
 そう言って、恭介は席を立った。
「ちょ、ちょっと、石黒さん。どこへ行く気ですか?」
 慌てて泰彦がそれを追って立ち上がる。
「どこって……お前に関係なかろうが。今日は幸いオフだ。携帯の電源すこーんと切って、こないだの損でも取り返しに行くかってとこさ」
「ね、姉さんはどうなるんですか!」
 恭介は泰彦に冷たい目を向けた。
「知るか。お前の大切な姉さんなんだろう。親にしてみりゃ大切な娘だ。七条の方でどうにかしろよ」
「──無理です。俺や両親では、多分、奴とは戦えない」
 泰彦はそう言ってうつむいた。
「どういう意味だ?」
「奴を引きはがすには奴の姿をまず見定めなければなりません。しかしそれができるのは、夢が終わったその刹那だけです」
「それくらいお前に教えられなくても知ってる。だから、それがどうした」
「──奴の夢は無限に繰り返すんです。勿論、CDを繰り返し再生するようなもので、終わりの刹那は確かに存在する。ですが、その刹那に奴の隙を見いだすことが出来なければ、もう一度、姉さんと一緒に、あの夢を最初から見なくてはならなくなる」
 泰彦は顔を上げ、恭介を正面から見据えた。
「だから、俺は耐えきれない、って言ったんです。あの短い間に、姉さんの悲惨な姿を俺は5回見せられた。これがもし、例えば父なら……思いあまって、インクブスごと姉さんも、自分も、霊的に抹殺してしまいかねない」
「……」
「石黒さんは他人だから平気だろう、なんて言ってる訳じゃないですよ。俺は、噂に聞いた『サースティハウンド』の腕を信頼して言ってるんです。やって──もらえませんか、石黒さん」
 恭介はふう、と息をつき、泰彦に向けて右人差し指をぴ、と立てて見せた。
「?」
「100万だ。びた一文、まからんぞ」
「……分かりました。必ず、お支払いします。ただし──」
「何だ?」
 泰彦はすっ、と目を細めた。
「失敗したら──俺が、貴方を、殺します」
 恭介はふ、と笑った。
「分のいい賭けだ。乗ろう」
 そう言って、ぽん、と泰彦の肩に手を置き、蛍の方へと向き直る。
「そうだ。一つ聞きたいことがある」
 蛍の方を向いたまま、恭介は尋ねた。
「何ですか?」
「俺のことを調べたんだろう。なんでそっちから電話を寄越さなかった?」
 泰彦は視線を逸らした。
「……本当は、まだ、両親にはこのことを話していないんです。いざ話そうと思うと、そんなことはないと分かっていても、もしや、両親が姉さんを拒むようなことが、と思うと……」
「もう少し親と姉を信じてやれ。じゃ、始めるぞ」
 恭介、そして泰彦は改めて蛍の側へと座った。


「石黒さんの意識を姉さんの夢に繋ぐところ、逆に切り離すところは俺がやります。石黒さんには最大火力で当たって欲しいですから」
「分かった。じゃ、頼むわ」
 恭介の左手を泰彦が右手が握り、泰彦の左手は蛍の額にわずかに重なる位置に置かれた。恭介が目を閉じ、泰彦も目を閉じて低く、呪[まじな]い言をつぶやき始める。
 恭介の暗い視界に、ぼんやりと映像が焦点を結び始めた。
(……なんだこりゃ)
 畳と布団、そして横たわる白いモノ。徐々に輪郭がはっきりしてきた途端、不意に映像が変わった。情景はほとんど変わらないが、横たわる白いモノの形が若干違う。動いたにしてはその形の変化は急すぎた。
(っちゃー……丁度、今のが夢の切れ目、か……)
 白いモノの正体はほどなく判明した。──裸身の蛍だった。布きれ一つ身につけず、敷き布団しかない布団の上に、ぐったりと横たわっている。
(何をやってるんだ?)
 ぴくり、と蛍が身じろぎした。ぼんやりとした目を開き、ゆっくりと周囲を見る。
((え……ここ、どこ?))
 蛍の思考が声になって聞こえる。
((すこし、さむ……))
「きゃぁぁぁっっっ!!」
 思考の末尾は悲鳴となって蛍の口から出た。がばっ、と両腕で胸と秘所を隠す。
(ん?……なんだ、胸、そんなにでかくねーな)
 夢の中の蛍の胸は、数日前かいま見た姿よりふた周りほど小さかった。丁度年頃の少女の、ごく普通な胸の大きさである。
((ど、どうして私、裸なの?……確か、学校の帰りに、いきなり男の人に囲まれて、それで……))
 おびえた様子で、きょろきょろと辺りを見回す。壁に囲まれた、狭い空間。天井だけがいやに高い。部屋の隅には更に壁で囲まれた空間があり、そこには扉が二つついていた。それより大きい扉が、丁度蛍から見て反対側の壁に一つ。都合3つの扉が見えた。
 その、大きい扉から──中年の和装の男性が姿を現した。
「ひ……」
 反射的に蛍が後ろに下がる。男はそんな蛍にずかずかと近寄り、じろ、と眺め回した。
「──やはり小娘だな。やむを得まい、女は女だ」
 低くそう言うと、男はいきなり蛍の、胸を隠している左腕を掴み上げた。
「い、嫌ぁ! な、何するんですか、放して下さいっ!!」
 もがき、男の手から逃れようとするが、もっと見られたくない部分を隠している分、動きが鈍くなる。
「五月蠅い」
 そう言って、男は蛍を布団の上に突き飛ばした。うつ伏せに倒れたところへ、男がのしかかる。
「きゃっ、嫌っ、やめて、どいてぇっ!!」
 うねうねとあがくが、男は両手でいきなり蛍の胸を鷲掴みにした。
「い、痛いっ!! や、やめてぇ、お願い……」
 蛍の悲鳴などお構いなしに、男はぐにぐにと、力任せに小さな乳房を揉みしだく。
「うっ、うぐっ、うう、う……」
 蛍の口から嗚咽が漏れた。
「……ほう。それでも乳首を立てるくらいの芸当はできるか」
 ややあって、男がどこか感心したような口調で言った。と、男の手の動きが若干変わった。
「うあっ、い、痛いっ、つ、つねらないでぇ!!」
「これは駄目か? ならば……」
 更に男の手の動きが変わる。
「ひっ、うっ、や、嫌ぁ、気持ち悪い、あ、あぅ、くっ……」
 蛍のもがく動きが緩慢になる。
((なに……? 胸の、先のところが、むずむず、して……や、こんなの、やぁ……))
「ふふふ……ではこれはどうだ?」
 再び男の手の動きが少し変わった。具体的に何をしているのかは、ちょうど蛍の胸と布団とに挟まれて、恭介からは見えない。
「あ、くひっ、や、や、ああっ、ん、くぅっ……」
((ああ……嫌ぁ……なんで……こんなこと、されて……私……))
「どうして、なかなかに女の反応をするではないか。くく、面白い」
 男はにやにやと笑いながら、蛍の胸をなぶった。
「さて、こちらはどうか、な……?」
 男の右手が蛍の体の下から引き抜かれ、そして男の股間と蛍の体の間へと潜り込んだ。
「ひ、や、や、嫌ああっ、やめて、やめてぇぇぇ!!」
 蛍がひときわ激しく暴れた。やはりどうなっているのかまでは見えないが、おそらく、男の手が蛍の大切な部分に触れたのだろう。蛍は秘所を前から手で隠していたから、背後からの侵入までは防げなかったのだ。
((いやぁ、痛い、気持ち悪い、ひりひりする、やぁぁ……))
 もぞもぞと男の腕がうごめく。蛍はひっ、ひくと切れ切れの悲鳴を上げた。
「ん、ほほう、濡れてきよったな。生娘の割には素直でよい体だ」
((そ、そんな、濡れてなんて……私、感じてなんか……))
 混乱する蛍。しかし、男の言葉を証明するように、微かにくち、くちと水音が立ち始めた。いや、男がわざと音が聞こえるように計らって、蛍の秘部をもてあそんでいるのだろう。
「ほれ、聞こえるだろう。お前の恥ずかしいところが、気持ちいい気持ちいいと言っているぞ……」
「う、うそですっ、そ、そんな、く、あくっ」
 ひくっ、と蛍の体が震えた。
((私……おかしいの? こんなこと、されてるのに……うっ、い、嫌……))
「や、やめて、あうっ、くださいっ、んっ、な、何でも、ほかのこと、なら、何でも、ひふっ、します、から……」
 蛍の懇願に男はくく、と嗤いを返した。
「馬鹿を言え。お前はこのためにここにいるのだぞ」
「え、ええっ?」
 男の言葉の意図を理解できず──否、理解を拒否して、蛍が叫ぶ。
 男は体を起こすと同時に、蛍の腰を引き上げた。うつぶせで尻を突き上げたような姿勢になる。
「お前は──儂の子を産むために、ここへ連れてこられたのだ」
 男が着物の前をはだけると、そこには隆々と屹立した男の一物があった。


   後編に続く