「生徒会室にて」  坂下 信明


 燃えるような夕焼けの色が、静かな生徒会室を埋め尽くしていた。
 真っ赤な部屋にはたった独り、髪の長い幼い少女が机に向かって作業を続けている。透き通るような白い横顔も赤く染まり、艶やかな黒髪とのコントラストが美しい。
 少女の名前は藤井利奈。私立金剛般若学園初等部の生徒会長だ。もう六年生なのに、利奈の身体はあまり発育していない。身長もここ二年、伸びていなかった。中学年と間違われることにも、もう慣れてしまっている。
 幼い外見でも、利奈はこの学校を代表する優等生なのだった。だからこそ、生徒会長に選ばれた。壇上に上がって挨拶をする利奈の愛らしい姿は、全生徒の圧倒的な支持をうけている。だが、生徒会の仕事のほとんどは、裏方仕事であった。
 白地に青いマス目の入った用紙に文字を書き込むといった作業に没頭している利奈は、男が生徒会室に入ってきたことさえ気がつかなかった。
「……あれ、まだ残ってたんだ」
「あ、木崎先生」
 利奈は男の名を呼んで立ち上がった。男──木崎義郎がそれを遮る。
「いいよいいよ、作業が残ってるんだろ。続けて」
「……はい」
 利奈は残念そうに席に腰を下ろす。義郎はその向かいの席に座った。
「……でも、どうして独りなんだい? 他の執行部の連中は?」
「あとはこの、プログラムの清書だけだし、帰ってもらいました」
「やれやれ、あいつら、あれほど仕事を藤井にばかりおしつけるな、って言っておいたのに」
「いいんです。わたしが帰っていいって言ったんだし」
 義郎はおや、と利奈の顔を見た。利奈は作業に没頭して、義郎の方を見ようとしない。
「……なんか、機嫌がよくないみたいだね」
「…………」
 質問には答えない。黙ったままで、作業を続けるふりをしている。しかし持ったペンは文字を書くことなく空を泳いでいた。
「なにか悩み事でもあるのかな? 生徒会長、藤井利奈さん?」
「……だって」
 利奈は、きっ、と義郎の顔を睨む。日本人形のような端正な顔が睨むと、不思議な迫力があった。義郎は少したじろいだ。
「なに?」
「だって義郎、最近ぜんぜんかまってくれないんだもん」
 下の名前で呼ばれて、義郎は慌てて生徒会室の中を見回した。誰もいないことを確認してから、口を開く。
「いや、利奈だって忙しそうだし、そうそう二人きりになれないじゃないか。人目のあるところじゃ、僕だって普通の生徒と同じように扱うしかないよ」
「それは、わかってる、けど……」
 利奈の顔が、急に寂しそうにしおれてゆく。
「……こんなふうになるために、わたし生徒会長になったんじゃないよ。顧問の先生が義郎だって聞いたから、立候補したのに」
「でも、実際にいっしょにいられる時間は増えたじゃないか」
「ほかの執行部とも、ね」
 利奈はペンを指先で器用に回した。苛立ちを紛らわすための動作だ。
「いっつも、『生徒会執行部』と『顧問』なんだもん。前はたまに早く帰ってデートに行けたのに、生徒会長になってからはそれもなし。行事が近づくと日曜日もなし。これじゃ、なんのために生徒会長になったのかわかんないもん……」
「……そりゃ、『生徒によるよりよい学園生活づくりのため』だって、選挙の時に言ってただろ」
 意地悪く義郎が揶揄すると、利奈はふたたび義郎を睨んだ。
「そんなの……ただのタテマエだよ」
 ペンを放り投げ、机に膝を載せる。義郎はとっさの利奈の行動に対処できず、飛びかかってきた利奈を受けとめきれずに椅子ごと後ろに倒れ込んだ。静かな生徒会室に、激しく音が響きわたる。
「……あててててて」
「……わたしは、いっつも、義郎のことしか、考えてないの」
 義郎の上にのしかかっている利奈は、胸に顔を埋めてつぶやいた。
「どうしてかわからないけど、なにを考えても義郎のことになっちゃうもん。宿題のこと考えても、会議のこと考えても、けっきょく義郎の顔になっちゃうのよ、みんな」
「利奈……」
「そりゃ、義郎には義郎の立場があるもんね。それはわかってる。けど、わかってても押さえられないものって、あるんだよ」
 利奈はうっとりと目を閉じる。久しぶりの、義郎の匂いだ。
「……ねぇ、ちょっとだけ、このままでいさせて」
「わかった」
 義郎は利奈の長い髪を撫でた。
「……でも、作業ってあとどのくらい残ってる?」
「えっと、一枚は書いたからあと三枚かな」
「マズいな。それって、クリスマス会のプログラムだろ? 確か、今日の夜に輪転機にかける予定だった」
「そう。少し遅れちゃいそうだけど……マズいの?」
「うん。準備室の輪転機は今壊れてるから職員室のを借りなきゃいけないんだけど、早くしないと施錠されちゃうんだ。枚数が多いから、できれば今日中に輪転機にかけておいて、明日の朝には終わるようにしたいんだけど」
「……あと、どれぐらいで締められちゃうの?」
「一時間後ぐらい、かな」
「ぐぅ、やります、書きますよぉ」
 できればもっと浸りたかったが、しょうがなかった。利奈は真面目な生徒会長だ。悔しいが、仕事をないがしろにもできない。
「……いじいじ」
 利奈が義郎の胸に指で『の』の字を書いた。義郎は弱った顔をするが、すぐに何かを思いついたようだ。
「そうだ。じゃあ……」
「?」
 義郎は利奈を立たせると、まず自分が利奈の席に腰掛けた。それから手招きをする。利奈は一瞬だけ顎に手をあてて考え込む仕草をしたが、すぐにぱぁっと顔を明るくして駆け寄った。
「よいしょっ」
「これなら、くっついたままで作業が続けられるだろ?」
「うんっ」
 利奈は義郎の上に腰掛けたのだ。この姿勢なら互いが密着したままで、利奈が作業を続けることができる。
「じゃあ、早く仕上げて、今日は一緒に帰ろう。送っていくよ」
「わぁい。がんばりまーす」
 腕まくりをして、利奈がペンをとった。すぐに紙に走らせる。
 義郎はそんなひたむきな利奈を見つめて、微笑んだ。何を考えても義郎のことになると言いながらも、決して自分の責任は放棄しない、その真摯な姿勢が素晴らしい。教師と生徒の許されない関係であるとしても、義郎はこの小さな恋人と付き合っていることに誇りのような思いをいだいた。
「あったかーい」
 利奈がふざけて、義郎に背中をこすりつける。特例として生徒会室には暖房が入れられているが、それでも日が傾き始めると寒くなってくる。人肌、それも愛する人の人肌は、ひときわ暖かく感じるのだった。
 ──あ、やばい……
 しかし、義郎の方は冷や汗をかいていた。利奈との時間がなくて寂しかったのは、義郎も同じだった。久しぶりに密着すれば、自然と下半身が反応をしてしまう。更に今の利奈の動きが、必要以上に下半身を刺激している。
 義郎は必死になって、下半身を鎮めようと別のことを考え始めた。しかし目の前の利奈の頭を見ると、もう別のことなど考えられなかった。
「……なんか、あたってる」
「…………」
 利奈は口にしてから、真っ赤になった。義郎は答えられない。
 首を振って、利奈は気を取り直して用紙に向かう。今の義郎がどんな状態になっているのか、利奈にはよくわかっていた。でも、今の利奈はこの仕事を早く片づけないといけないのだ。
 とは思っても、すでに利奈の頭の中も真っ白になっていた。書かなければならない文字が、思い浮かばない。下書きを用紙にまとめるだけのことなのに、たったそれだけのことが今の利奈にはできなかった。
 義郎は義郎で、自分を押さえるのが精一杯だった。利奈が上の空になっていることに気づかない。
「……義郎」
「……え、あ、なに?」
「……わたしのこと、愛してる?」
 振り返り、真っ赤になって利奈が訊ねる。義郎もしどろもどろになって答えた。
「あ、ああ、あ、愛してる、よ」
「だったら……」
 利奈には、それ以上の言葉が続けられなかった。肉体関係は初めてではない。学校でしたことも何回かある。それでも今回は、なんだかとても照れくさかった。口をつぐんだまま、義郎の手に自分の手を重ねる。そのまま、自分の太股に導いた。
「利奈……」
「いいの……義郎もわたしを欲しがってたってことがわかったから」
 大人びたセリフを口にして、利奈は俯いた。義郎の手のひらの体温が、利奈のむき出しの太股に伝わってくる。それだけでも利奈は、自分の大事なところが熱を帯びてくるのを感じていた。
「……しよ?」
「ああ」
 義郎が、手を蠢かす。白い太股に指を這わせ、義郎は利奈のつむじにキスをした。利奈の身体を電撃が貫く。力が抜けて、全てが義郎に委ねられた。
 ぐったりとした利奈のブラウスのボタンが、一つずつ外されてゆく。優等生の利奈は、いつも白いブラウスと肩紐つきの紺のスカートだ。また、私立金剛般若学園生徒のあかし、腕章も常につけている。
 ブラウスの前が開かれた。下にはやや厚手の白いランニングシャツがある。その胸のあたりを、義郎の手のひらが撫でた。あたり、というのは、そこには女性的な膨らみがほとんど見られないからだった。
「……まだ、しないのか?」
「うん……締め付けられるの、好きじゃないから」
 ブラジャーのことだ。実際、サイズ的には不必要と思われた。
 しかし、義郎の指が胸の上を往復するうちに、乳首だけが厚手の木綿を押し上げてくる。乳房が未発達のわりには、感度よく勃起する乳首だった。つまり乳首の保護という点では、ブラジャーも必要と言えなくはなかった。
「んっ……」
 シャツの上から、義郎が乳首を摘んだ。久しぶりということもあって、感度は極限にまで高められているようだ。くりくりと乳首を苛められるだけで、パンツにまで染みてしまいそうな潤いを感じた。
「……気持ちいい?」
「うん……とっても」
 内腿を擦りあわせて、利奈は答えた。閉じられた脚の間に、義郎の手が潜り込む。するっとスカートの中に潜り込んだ。
「あ、やだ……」
 その言葉が拒否を意味することでないことは、義郎にもわかっている。むしろその言葉が、スカートの中で起きている現象を説明しているようなものだ。
「もう濡れてる……」
「……言っちゃ、やだ」
 利奈が顔を両手で覆った。その手を優しく下ろしてやって、義郎は利奈の頬に軽く口づけをする。利奈がうっとりと目を閉じた。
 義郎の指が、パンツの股の辺りを押さえている。熱とともにじんわりと広がる染みを感じながら、指を動かした。湿り気はどんどんと多くなり、利奈の口からは吐息が漏れるようになる。
 空いた左手でシャツをまくり上げ、義郎はむき出しになった固くしこった乳首を弄ぶ。利奈がおとがいを反らせた。髪の中から姿を見せた耳を、義郎が甘噛みする。
「ひゃん」
「だめだよ、利奈……そんなにかわいいから、僕はもう利奈のことしか考えられなくなっちゃうよ」
「……うん、もっと、もっとわたしのことだけ思ってて。わたしも、ずっと義郎のことだけ思ってる……」
 ぎゅっ、と義郎は利奈を抱き締めた。そしてスカートの中のパンツに手をかける。清潔な白いパンツがするすると引き下ろされた。利奈の足首で丸まる。
 利奈が身体をひねって、背後の義郎の顔を見た。そして目を閉じる。利奈が何をおねだりしているのか、義郎にはすぐわかった。唇が、唇と重なった。
 ねっとりと長いキス。とても小学生とは信じられない濃厚なキスだった。義郎の舌先が利奈の唇を割って入り、利奈の唇はそれに応えて絡みついてゆく。
 それと同時に、義郎は利奈のスリットをまさぐった。まだ一本の恥毛も生えていないそこに、潤いをたたえたスリットがある。義郎の指がスリットに沿うようにして押しあてられ、ゆっくりと動き始める。利奈の愛液が義郎の指を包み込み、優しい刺激を小陰唇に与えた。薄いサーモンピンクの秘肉がさらに充血し、包皮に包まれたままのクリトリスが徐々にめくられてゆく。
「あっ、んんんっ、やだ、久しぶりだから……」
 義郎の唇から自分の唇を離した利奈は、恥ずかしそうにいいわけをする。いくらいいわけをしても、くっちゅ、くっちゅと音をたてるスリットが、大量に愛液を漏らしてしまっていることを示していた。
「あっ、ズボン汚しちゃう」
 真面目な利奈は、そんなことを気にして義郎の手を押さえた。
「いいよ、ズボンなんか」
 構わず、義郎は愛撫を続ける。指は次第にスリットに飲み込まれるように沈んでいく。義郎は指を曲げて、スリットの中心部をまさぐった。
「ん、だめっ! 指、いま入れちゃ……あんっ」
 たっぷりと濡れているため、義郎の中指はすんなりと利奈の中に潜り込んだ。爪を立てないようにして、幼い利奈の膣壁をかき回す。ひくひくと指を締めつけのが、健気だ。
「あぁっ! もうだめぇっ!」
 義郎の腕に縋りついて、利奈は絶頂を迎えた。と同時に、利奈のスリットから透明な液体が噴き出される。
 ぷしゅっ。
 液体が義郎のズボンにかかった。
「……はぁっ、はぁっ……あ」
 息を荒くつきながら、利奈は義郎のズボンを見た。
「よ、よごしちゃった……」
「いいよ、これぐらい」
 義郎は笑って見せた。おしっこではないので、気にするほどのことではない。
「だめだよぉ……ほら、早く脱いで」
 そう言う利奈の動作は緩慢だ。一度絶頂を迎えてしまったためだ。ゆっくりと義郎の上から降りると、義郎を立たせてジャージのズボンに手をかける。
「わ……すご……」
 ズボンを脱がせるのに苦労するほど、義郎のペニスは鋭く反り立っていた。
「……これって、わたしのコト、思ってくれてるから?」
「恥ずかしいこと、言わせないでくれよ」
「いいじゃない、さんざん恥ずかしがらせたくせに」
 そう言って、トランクスの上から義郎のペニスを握った。脈動を感じて、利奈はうっとりとする。
「……さきにいっちゃって、ごめんなさい……」
 トランクスを下ろして、むき出しになったペニスを握る。ゆっくりとスライドさせてやると、張りつめた亀頭がさらに膨らむ。
「……手、だけ?」
「そういう言い方、ずるいよ……」
 上目づかいで義郎の顔をちら、と見やってから、利奈は自分の髪をかき上げた。それからおもむろに、亀頭に口を近づけた。
 ちろ、と舌先が尿道を撫でた。ぴくんと反応するペニスをいとおしそうに、利奈は口に含んだ。利奈の口にとってはかなり大きなペニスだが、何とか亀頭だけは覆い隠した。舌で愛撫しながら、指をさおに絡めてしごく。
「んっ……いいよ、利奈。気持ちいい」
「んん」
 義郎は利奈のさおを握る手を引きはがすと、自分の腰に置いた。両手を自分の腰に押さえつけると、利奈は口だけで義郎のペニスを愛撫せねばならなくなる。利奈は少し苦しくなりながらも、顔を前後に動かした。唇が、ペニスの表面をすべってゆく。
「ああっ、もうだめだ、出るっ」
「んっ! ぷはぁっ」
 義郎はあまりもたなかった。すぐに利奈の肩を押してペニスを引き抜いた。
 ぴゅぴゅぴゅっ、ぴゅぴゅっ。
「きゃん!」
 利奈の頭に、精液は勢いよくほとばしった。その量は多く、利奈の髪、顔、胸、あらゆる場所に飛び散った。
「……やだぁ、こんなにたくさん……」
「ご、ごめん……」
 利奈は目に入らないように瞼の精液を指でふき取った。
「でも……ほんとにいつもより多いよ」
「そりゃ、溜まってたからね。出すのは、二ヶ月ぶりぐらいだから」
「え?」
 利奈はきょとんとした。二ヶ月前といえば、忙しい合間を縫ってなんとか、義郎の部屋で愛し合った頃だ。
「……義郎も、ガマンしてたんだね。わたし、てっきり……」
 利奈も、男が自分でオナニーするということは知っていた。
「僕も、どうしようかと思ってたよ。だって、あんまり溜めると、いつ利奈に襲いかかっちゃうかもしれないからね」
「……わたしなら、いつでもいいのに」
「じゃあ、今から」
「え? あ」
 義郎は利奈の脇に手を入れて、利奈を持ち上げた。そのまま机に横たえる。
「……利奈」
「義郎……」
 互いに名前を呼び合った。
 義郎は利奈のスカートをめくった。白くすべすべした脚。そして筋だけしか見えないスリット。利奈は自分で脚を開いた。スリットが開かれ、アヌスまでもがあらわになる。
「おいしそうだ……」
「やん」
 義郎はスリットに口をつけた。一度絶頂に達したスリットは充血したままで敏感だ。利奈は親指を噛んだ。
「んぐっ」
 ちろちろとクリトリスを攻められて、つい脚を閉じようとする。しかしがっちりと義郎に押さえつけられてしまっていた。逃れられない。
「あんっ、んっ、ひゃううぅっ」
 ひくっ、ひくっと痙攣し始めたことを確認して、義郎はクンニリングスをやめた。放出したばかりなのに少しも萎えない自分のペニスを握りしめる。
「……入れるよ」
「うん……」
 幼いスリットに、義郎の亀頭が押しあてられた。くにゅくにゅと動かして、利奈の愛液を塗りたくる。たっぷりと愛液がまとわりついてから、義郎は小さな膣口にペニスを押し込んだ。
「にゃあうぅぅっ」
 文字では表現できないような声を立てて、利奈はのけぞった。何度しても、この挿入の瞬間の感覚は不思議だった。大きくて暖かいものが、利奈の身体の中に侵入してくるのだ。にゅるん、そしてずりずりと、硬いものが利奈の内側を動いているのだ。
 義郎は、利奈の足首を掴むと、脚を高く上げさせた。スリットを出入りする自分のペニスがよく見えた。全部は入りきらないが、一番奥まで貫いている。義郎は腰を振った。
「あっ、あっ、んっ、あ、あんっ、ひゃっ、んみぃ」
 リズミカルに利奈が喘ぐ。机が揺れるので、しっかりと机の縁を掴んでいる。精液にまみれたままの顔が、快楽に溢れていた。
 義郎はランニングシャツをめくり上げ、平らな胸を撫でた。鋭く突き出た乳首が手のひらを押し返す。利奈は首を激しく振って快感の波に耐えた。
「やんっ、ああんっ、そ、そんな、はげしぃよぉ……ひぅっ」
 利奈の幼い膣を壊してしまいそうなほど、義郎は突いた。二ヶ月間の禁欲が、義郎をつき動かしている。緩めようとも緩まなかった。
 ぐちゅぐちゅと淫液が机に水たまりを作っていた。
「だめぇん、もぉぉ、はんっ、あ、く、くる……」
「はぁっ、はぁっ、僕も……」
 小刻みに腰を振って、義郎は再び弾けさせた。あまりに腰を振ったため、射精の途中でペニスは抜けてしまう。
 びゅくんっ、びゅくっ、びゅくっ。
「ああああんんんっ」
 今度の勢いも激しく、精液は利奈の顔や腹に飛び散った。もう、精液にまみれてどろどろだった。
「はぁっ、はぁっ、利奈……」
「義郎……なんか、すごく嬉しい……」
 とろんとした目つきで、利奈は義郎を見つめた。しばらく構ってもらえなかった不満など全て吹き飛んでしまうような、心も身体も満たされたセックスだった。利奈は余韻にひたりつつ、目を閉じた。
「……あ」
 しかし義郎の声に反応して、利奈はゆっくりと目を開けた。
「ん?」
「…………」
 無言で何かを見つめる義郎の視線を追い、利奈も絶句した。
「…………」
「…………」
 書きかけの原稿は、すっかり精液にまみれてふやけてしまっていた。朦朧とした意識を首を振りつつ取り戻しながら、利奈は身体を起こした。
「……これって、やっぱり書き直し?」
「そう……なるね」
 申し訳なさそうな、義郎の声。
「……もぉ、間に合わないよぉ」
 泣きそうな、利奈の声。義郎は慌ててなだめる。
「ごめんごめん、僕が悪かった。僕も手伝うから」
「でも、カギが閉まっちゃう……」
「大丈夫、今日の鍵は僕の当番だから……」
「そうなんだ、じゃあ……え?」
 利奈ははっ、と気づいて義郎を見た。
「……じゃあ、はじめから急ぐ必要なんて……」
「ごめん、ちょっとからかうつもりだっただけなんだ」
 へなへなと、利奈は机に突っ伏した。
「……もうだめ、仕事なんかできない」
「わー、頑張れ、生徒会長。全校が、きみの書いたプログラムを待ってるぞー」
「義郎がやっといて」
「僕が書いたら、すぐにバレちゃうよ。なるべく先生たちの力を借りずに生徒だけでやるって、利奈が宣言したんだぞ」
「……えーん、義郎のばかー」
 利奈は言い返せなくなって、精液にまみれたプログラムの原稿を義郎に投げつけた。



終わり