「はいぱぁがぁる☆リオ」  坂下 信明



 サイレンを鳴らさず赤色灯だけを回して、車は療養所のロータリーで停まった。療養所の小さな玄関の前には、やや脂ぎった中年の男が白衣で立っていた。
「遅かったな、待ちくたびれたわ」
「すみません、強盗事件がありまして」
 軽快なスポーツカーに重厚な装甲をつぎはぎした改造車から、若い男が一人、いいわけしながら降り立った。男は警官のような制服を着ているが、胸には『SD』のプレートがつけられている。
「まあいい。早く中に入れ」
 中年の男に従って、男は療養所の中に入った。外観は見すぼらしい療養所だが、内部は想像を越えた最新設備の城であった。人の姿が極端に少ないのも、コンピューター制御システムが行き渡っている証拠だ。
「連れにきたのは、君だけか」
「なにしろ人手がないもので。だからこの申し出には感謝しています」
「『SD』も大変だな。一般公募で勇士を募らねば、運営すらも危ういとは」
 『SD』──特別市街地防衛隊は、二〇二〇年に発足した民営の自警団である。市民をおびやかす凶悪犯罪は年々その規模と件数を増加させ、警察組織に頼るだけでは平穏な生活を維持することが難しくなってきた。そこで各地方自治体がそれぞれ独立した自警団を組織し、運営するようになったのだ。ただし『SD』は企業として設立されたため、資金的な面では税金を使えず、おもに寄付や警備の賃金でまかなわなければならなかった。
 警察官よりも給料が安く、警察官よりも危険な仕事、それが一般的な『SD』に対する見解であった。よって志願者不足はどこの『SD』でも深刻な問題となりつつある。そこでひねりだされた苦肉の策が、資格、年齢などの一切の条件を排して三ヵ月の研修を受ければ誰でも『SD』に入れるという一般公募であった。
「しかし溝口博士、女性でわざわざ『SD』を志願するなんて、一体どういった人なのですか? 僕は教えてもらえなかったんですが」
「優秀な娘だよ。ほら、この部屋にいる」
 溝口博士と呼ばれた中年の男は、目の前の白い扉を顎で指した。
「それもとびきりかわいい娘だ。だからといって、変な気は起こさないでくれよ、甲斐リュウジくん」
 溝口博士はそう言って、下卑た笑いを洩らした。返答に困った甲斐リュウジをちらりと見たあと、扉をノックする。扉には、『野々原リオ』というネームプレートがあった。
 扉は、向こうから開けられた。ひょっこり、と頭がのぞく。
「あっ、先生!」
「やあ、リオちゃん」
「先生、見てください、似合いますかぁ?」
 扉を全部開け放って、少女はにっこりと微笑んでくるりと回った。リュウジはあまりのことにめまいがした。少女はどこから見ても、十歳程度にしか見えなかった。十歳くらいのその少女が、あろうことか我が『SD』の制服を着てはしゃいでいるのだ。
「うん、よく似合ってるよ」
「えへへ」
「ちょ、ちょっと博士!」
 リュウジは和やかな雰囲気に包まれつつある二人に割り込んだ。
「まさか、この娘が志願者だなんて」
「そうだ」
 溝口博士はこともなげに言い放った。
「この娘が『SD』入隊志願者で、すでに三ヵ月の研修も終わった野々原リオくんだ」 「あ、先輩のかたですかぁ」
 少し間の抜けた声を出して、少女はリュウジにぺこりと頭を下げた。
「本日より『SD』に入隊になります、野々原リオです。よろしくおねがいしまぁす」
 頭を上げた少女の顔が、はにかみながら笑っていた。リュウジは面食らって答えることもできないまま、じっと少女を見つめていた。少しもくせのない黒く長い髪は後ろで束ねられ、腰までの一本の長い三つ編みになっている。日に焼けたことがないような白い肌はまだつるんとしていて、ニキビ一つない。大きく開かれた目はきらきらしていて、純粋にそして真っ直ぐに、リュウジの方を向いていた。リュウジはその視線に急に気後れを感じ、恥ずかしげに目を伏せた。
 すると、リュウジの視界にリオの身体が映る。特注品なのだろう、婦人警官のような『SD』の制服はリオの小さな肉体にもしっかりとフィットし、紺のタイトスカートが妙に大人びた雰囲気を漂わせている。それでも背の低い大人の女性と見間違わないのは、リオの身体にははっきりとした凹凸がないためだ。胸にも尻にも盛り上がりがなく、ただ肩から爪先まで、すとんと一直線のラインになっていた。
「こら、いつまで見とれておるのだ。早く本部に連れていってやれ」
 溝口博士の言葉に、リュウジは我に返った。いつしか本当に、リオに見とれている自分がいたのだ。リュウジは慌てて平静を装って、偉ぶって言った。
「よろしく、僕は甲斐リュウジだ」
 握手のために右手を差し出した。するとリオは一瞬ためらいを見せてから、おずおずと右手を出した。リュウジは怪訝そうにリオの手を握る。意外と硬く、冷たい感じのする手だった。リオはわずかに頬を染めている。照れているらしかった。
「では野々原くん、一緒に来てくれ」
「はい」
 はにかみながら、リオは返事をした。


 リュウジはハンドルを握りながら、溝口博士に渡された資料を見ていた。助手席ではリオが物珍しそうに、しきりに車内を見回している。
 ──博士は優秀な娘だと言ったが、どこが優秀なのだろう?
 疑問に思いながら、資料をめくった。そのページには、生い立ちが記されている。溝口の汚い文字に目を通すと、リュウジの眉が寄った。
 ──五歳時に旅客機墜落事故、両親を失い、当人も多大な後遺症を残す。以来五年間の療養所生活……
 苦労してるんだな、とリュウジは優しい視線を助手席に向けた。リオが気づいて、微笑み返した。
「何ですかぁ、先輩?」
「いや、何も……」
 面と向かってしまうと、リュウジはさっきリオに見とれていたことを思い出してしまい、気恥ずかしさが先に立ってしまうのだった。すぐに視線を資料に落とす。市街地の道路は慢性的に渋滞だが、この辺りの郊外になると交通量はめっきり減る。運転には大して気を使わずに済むのだった。再び汚い字を読みだす。
 ──近接格闘と対銃作戦で特Aだって!? そんな馬鹿な!
 リュウジは研修成績の項目を見て、心の中で叫んでしまった。近接した状態での徒手格闘と離れた相手との銃撃戦、そのどちらも『SD』では最重要の技能になる。市街地での凶悪犯と戦うのが『SD』の務めだ。この二つはその状況で最も活用される技能なのである。よって研修でもこの二つの技能はかなり厳しく教えられ、かつ判定も厳しい。Bまで取れれば『SD』隊員としての技能はあると認められるのだ。
 ──本当に、こんな少女が特Aを……
「先輩」
 突然声を掛けられて、リュウジは心臓が飛びだしそうなほどに驚いた。
「な、何?」
「先輩はどうして、『SD』に入ったんですかぁ」
 資料にある成績からは想像もできないような気の抜けた声で、リオは訊いた。
「どうして、か。僕は何の取り柄もなかったから、どの企業からもそっぽを向かれて、仕方なく、と言えばミもフタもないか。え、と、野々原くんは?」
「リオでいいですよぉ」
 呼びにくそうにするリュウジに、リオは笑いかけた。
「わたしは世のため、人のためにぃ……」
 リオの言葉を遮るように、無線着信のコールが鳴った。
「はい、リュウジです」
『サラ金強盗だ。犯人は車で逃走中。そちらの方が近いから追ってくれ。データを送信する』
「……了解」
 あまりにも愛想のない無線はさっさと切られ、ナビケーションモニターに逃走車の車種や犯人の武装などのデータが映し出される。リュウジは黙ったまま内容を確認したあと、元の道路地図に画面を切り換えた。ただし光点が一つ、新たに記されている。衛星から送られてくる、逃走車の現在位置だ。
「……お仕事ですかぁ」
「そう。まったく、こっちは新人運んでるっていうのに。野々……リオは車の中で見ていればいい。多分僕だけでも大丈夫だ」
「お、お手伝いさせてくださいっ!」
 場違いなほどに力みながら、リオは叫んでいた。リュウジはその縋るようなリオの顔を見て、ぷっと吹き出した。
「そうだな、リオも『SD』隊員だったな。よし、協力してもらおうか」
「はいっ」
 瞳を輝かせて、リオは元気良く頷いた。


 逃走車はすぐに見つかった。療養所から一五キロほど離れた、コンテナ置場に乗り捨てられていたのだった。リュウジは無線で応援を回してもらうように一応伝えてから、リオと車を降りた。
「しかし、妙なところで乗り捨てたもんだ。こんな人気のないところで」
「秘密の基地、とかありそうですねぇ」
 リオの幼い感想に苦笑しながら、リュウジは銃を確認した。旧式のウジーだが、拳銃よりは心強い。犯人は二人組。それぞれが密造拳銃を所持している。たとえサブマシンガンのウジーでも、わずかな油断が命取りになる。
「はい、リオの分だ」
「わ、わたし、いりません」
「え、でも、ないと……」
 その時、ちゅん、と鋭い音とともにリュウジの頬をかすめるものがあった。リュウジは慌ててその場で伏せた。リオにも「伏せろ!」と叫ぶ。
 リュウジはうつ伏せの状態で回りをよく見回してみた。放棄されたコンテナの影に、きらりと光るものがある。おそらく、銃口だろう。
 身を起こそうとすると、再び銃弾がおそった。今度は飛んできた方角が違う。別の銃口も、リュウジを狙っているのだ。
「しまった、囲まれたか」
「まぬけな『SD』もいたもんだぜ!」
 姿を見せない男の一人が、嘲笑の混じった声を上げた。
「俺たちが罠張ってるとも知らずに、のこのこと出てくるとはな。兄貴たちはもう逃げちまったぜ。俺たちはここで時間をかせげばいい」
 男の言葉にかぶさるように、下品な笑いが聞こえてくる。少なくとも、五人はいるようだった。リュウジは唇を噛んだ。犯人が二人だという油断が、この状況を作ったのだ。悔しそうな目でリオを見やると、リオは恐怖におびえることなく冷静に小声で言った。
「どう、しますぅ?」
「とりあえず、様子を見るしかないな」
 回りの男たちはコンテナの影からゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。男は六人いた。迷彩色のズボンに白いシャツという、典型的なチンピラだ。囲みながらリュウジたちを始末するつもりだろう。今立ち上がれば、六つの銃口は一斉に火を吹く。動くことはできない。
「他愛もないもんだ。そんなことじゃ街の平和はまもれないぜ」
 男の一人が軽口を叩き、他の男たちが低く笑った。相手もかなり油断しているようだ。何とかなるかもしれない。リュウジはリオの瞳を見つめて、声を出さずに口だけをを動かした。3、2、1……
「ゼロ!」
 リュウジとリオは一気に立ち上がった。リュウジは一番近くにいた男に身体ごとぶつかって、まず囲みを抜けた。すぐに振り返り、渾身の蹴りを入れる。男は悶絶して地に伏せた。
「……野郎!」
 男たちはみな殺気立って、リュウジを睨んだ。しかしそれが、リュウジの狙いだった。その隙に、リオは逃げ出すことができる。
 ところがリオは走り出さなかった。いきなり、一人の男の腕を掴んだのだ。
「バカ、逃げろ!」
「リオ、いきまぁす!」
 妙な掛け声をかけて、リオは男を投げ飛ばした。自分の体重の二倍はあるであろう、大の男を軽々と、そして高々と放り投げた。一同は、あまりのことに一瞬呆気にとられた。リュウジも口を開けたまま、投げられた男がコンテナの山の向こう側に飛んでいくのを見つめていた。
 リオは皆が茫然としているのをいいことに、またたく間にもう一人、腕を両手で掴んだままぐるっと回った。ハンマー投げの要領で、その男も彼方へ飛び去ってゆく。
「そ、そんなバカな!」
 混乱しながらも残った三人の男たちは銃を構えた。ぴたりと狙いがリオにすえられる。リュウジが叫んだ。
「リオ、危ない!」
 リオははっ、と危険を知って地面を蹴った。しかしそれも逃げるための行動ではなかった。リオは腕を顔の前に交差させて、拳銃を持っている男たちの方へ飛び込んだのだ。いわゆるフライングクロスチョップだ。海老のしっぽのような三つ編みが、風になびく。
 男たちは一斉に引き金を引いていた。これだけの至近距離なら、いくら混乱しているとはいえ、外す方が難しい。ところが弾丸はキーンという高い金属音をたてながら、その軌跡を曲げたのだ。
「タ、タマをはじいた?」
 信じられない出来事にパニックを起こした男の首に、リオのクロスチョップがヒットした。そのチョップはリオの細い腕から繰り出されたとは思えないほど重く、男は吹っ飛ばされるようにして地面に崩れた。
 リュウジはあまりのことに何も出来ないまま、ただ立ち尽くしていた。リオは一人の男が構えた拳銃を握り潰して、男に投げつけた。そして最後の一人の足首を掴んで、ぶんぶんと振り回し始める。ジャイアントスイングだ。
「リ、リオ、これは一体……」
 どういうことだ、と言葉を続けようとしたが、リオが小さな声で呟くのが聞こえた。
「……せんぱぁい、これ、目が回りますぅ」
 ふらふらと不安定なコマのようなリオの腕から、男がこちらへ飛んでくるのが見えた。そしてリュウジの意識は、飛んできた男の頭が腹にめり込んだ時点で途切れたのだった。

「本当に、ごめんなさいっ」
「もう、いいって」
 病院のベッドの上で、左手と右足首に包帯を巻いたリュウジは笑ってリオを許した。結局リュウジはリオに投げられた男に吹っ飛ばされ、左手の指を二本折って右足首を捻挫したのだった。
「わたし、あの技があんなに目が回るものとは知らなくてぇ」
「だからそれはもういいから。それよりも、あの、その力は?」
 泣きそうな顔をして謝り続けるリオに、リュウジは訊いた。
「どうして、そんな力を持ってるの?」
「……え、先生から聞いてないんですかぁ?」
 制服のままのリオはすっと両手をリュウジに差し出した。
「これは、義手ですぅ」
「義手?」
 リュウジはリオの腕をじっと見つめた。どう見ても、普通の腕にしか見えない。
「わたし、事故で腕を切ったんですぅ。その代わりに、先生が作ってくれたんです」
「……あのタヌキおやじめ!」
 溝口博士はリュウジを驚かすために、わざと資料にはそのことを書かなかったのだ。今頃は目を丸くしているリュウジの姿を想像して、一人でほくそ笑んでいるに違いない。
「普通よりちょっと硬くて感覚もないですけどぉ、けっこう便利なんですぅ」
 リオは自分の腕を色々動かしながら、屈託ない笑顔を見せた。リュウジはそんな明るいリオの表情を見て、抱きしめてしまいたい衝動にかられた。両親を失い、両腕さえも失っても明るく笑えるこの少女が、かわいくてたまらなくなったのだ。
「そんなことよりぃ」
 リオはそのかわいい顔をぐっとリュウジに近づけて、言った。
「わたしに何か、できること、ありませんかぁ。先輩のケガはわたしのせいなんだし、おわびがしたいんですぅ」
「とはいっても、ねえ」
 リュウジは詫びてもらう必要などないと思っていた。何しろ、あの危機を救ったのはやはりリオの働きだったからだ。リオがいなければ、リュウジはあの時に蜂の巣になっていたかもしれない。だが、やはり何もしないのはリオも気が引けるのだろう。それなら何か簡単なことをしてもらった方が、リオも納得できるはずだ。
「……そうだ。じゃあ、身体を拭いてもらえるかな。包帯巻いてるから、シャワーが浴びられなくてね」
「はぁい、お安い御用ですぅ」
 リオはすぐに外に出ていき、水の入ったバケツとタオルを持ってきた。一生懸命になって、タオルを濡らして絞った。
「あ、服も脱がさないといけませんねぇ」
 入院用の服は浴衣のように素肌の上に着ている。リュウジはそこであることに気がついた。これを脱いだら、素っ裸じゃないか。
「ちょ、ちょっと待って」
「遠慮しないでくださぁい」
 がばっ、と青い布が引き剥がされ、リュウジは一糸まとわぬ姿に、いや、包帯だけの姿になった。この時、リュウジは抵抗の無意味さを悟った。リオは意識せずして、わずかの抵抗を無駄にするほどの腕力をふるっていたのである。
「では、背中から拭きますぅ」
 半ば強引にリュウジを座らせて、リオはタオルで背中を拭い始めた。リュウジは何だか少し情けない気分になりながら、なすがままにされている。ごしごし、とかなり強い力で背中が拭き清められた。
「はぁい、次は前」
 リオはベッドの上に乗って、リュウジの前に正座した。リュウジの股の間に座ることになる。リュウジは恥ずかしさに耐えながら、必死に奉仕してくれているリオを見た。頭頂部から一本の太い三つ編みが揺れるのまでが、まさしく鼻先にある。リュウジは三つ編みが揺れるたびに少しだけのぞく、リオの白いうなじにどきりとさせられた。幼い少女であるはずのリオなのに、なぜかそこだけは妙な色気をたたえているような気がしたのだ。
 ──い、いかん。変なことを考えては!
 リュウジは慌てて自分の心を叱責したが、身体の一部分だけは正直に反応していた。
「あれ」
 リオがそれに気づいて声を上げた。リュウジは目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。これでは、僕はただの変態じゃないか。
「どうしたんですかぁ、おちんちんがこんなに腫れてますぅ」
 リオはそれの持つ意味をまったく知らないかのように、明るく言い放った。リュウジは驚きながらも、リオは五歳からずっと療養所で暮らしていたことを思い出して、納得した。性的な知識に、触れる機会がなかったのだ。
 ──それなら、多少いたずらしても、いいか。
 リュウジの心に、悪い考えが鎌首をもたげた。優しく、声をかける。
「ああ、それはたまにそうなるんだ。でも、軽くこすってやるとすぐ直るよ」
「こするって、こう、ですかぁ」
 リオはおそるおそるリュウジのペニスを握り、ゆっくりと上下に動かした。
「あ、うん、そう。もっと早くてもいいかな」
「えっと、こう、ですかぁ」
 リオは右手を素早くスライドさせて、ペニスの様子をじっと観察した。初めてみるものなので、興味津々なのだ。
「そうそう。でもその場所じゃやりにくいだろ。僕の上に、乗ってごらん」
 そういってリュウジは横になった。リオは素直にリュウジの腹にまたがり、お尻をリュウジの顔に向けるようにしてペニスをこすった。
 リュウジは思わず唾を飲み込んだ。『SD』の制服のタイトスカートの中身が、リュウジの目の前に突き出されたのだ。子供らしい白い木綿のパンツが、リオの手の動きにあわせて揺れる。リュウジはついリオの健康的なお尻に手を置いた。
「あっ、何するんですかぁ」
 びくっ、とリュウジは硬直してから、何とかこじつけた。
「マ、マッサージしてあげるよ。疲れただろう?」
 リュウジは手のひらでリオのスリムなお尻を揉んだ。
「あぁん、くすぐったいですぅ」
「すぐに気持ちよくなるからね」
 リオはくすぐったそうに身をよじりながらも、懸命にペニスをこすりつづけた。リュウジは調子に乗って、パンツのゴムに手をかける。するり、と引き下ろした。
「きゃ、どうして脱がすんですかぁ? 恥ずかしいですぅ」
「いや、直にやった方がいいから」
 お尻全部をむき出しにしてから、リュウジは親指でその割れ目を広げた。ピンクの皺肌がきれいな肛門、わずかに隙間の赤い肉をのぞかせるスリットがあらわになる。リュウジの興奮が限界まで高められた。
「先輩、なんか先の方がぬるぬるしてきましたぁ」
 熱心にペニスをこすりつづけるリオが、その様子を口にした。リュウジはもう爆発寸前にまで高ぶっている。もう無理にこじつける気はなくなって、リュウジはストレートに希望だけをリオに伝えた。
「それ、舐めてみて」
 リオはその言葉にちょっとためらってから、タオルでペニスを軽く拭いて口をつけた。柔らかい舌の感触を亀頭で確かめながら、リュウジもリオのスリットに舌を伸ばした。ぺろりと舐め上げる。
「あっ、そこは汚いですぅ」
「ううん、全然汚くなんかないよ」
「……なんか、変な感じがしますぅ」
 くすぐったいようなそうでないような、未知の感覚にリオは戸惑っていた。リュウジは夢中になって舐め続ける。次第に戸惑いから受容に変化してゆくリオを、リュウジはたまらなくかわいいと思った。
「気持ちいい、だろ」
「……うん、そうかも……」
「僕も、もう……」
 びしゃっ、激しく射精した。白い液体がリオの頬を強く叩く。リオはその現象が理解できずに、不思議そうな顔でペニスを見つめた。そして指で精液を触ってみる。
「はぁはぁはぁ」
 荒い息をついてリュウジは身を起こした。リオは初めてのことばかりで放心したままだ。四つんばいの格好で、まだ頬にへばりついた精液を指でもてあそんでいる。
「……じゃあ、もっと気持ちいいことをしよう」
「……なにするの」
 振り向いたリオの顔が少し不安に翳っている。リュウジは口許に笑みを浮かべて、優しく言った。
「大丈夫、怖くないから」
 この時のリュウジの心には、いたずらだけでは収まりきらない感情があった。この少女を、何も知らない汚れなき少女を、自分だけのものにしたい。それがただの劣情によるものなのか、それとも劇的に芽生えた恋愛感情なのか、そんなことはどうでもよかった。ただ、その感情がすでに止められないところまで来ていることだけは分かっていた。
 リュウジはあぐらをかいて座った。リオの顔面に一度発射しているのにも関わらず、リュウジのペニスはいまだ天を向いてそそり立っていた。
「ここに、座ってごらん」
「……おちんちん、まだ腫れてますぅ」
 リオは顔を近づけて観察した。リュウジは手を伸ばして、リオのタイトスカートを脱がせる。リオは立ち上がって、おずおずとリュウジの組んだ脚の上に腰を下ろした。リュウジの顔とリオの顔、そしてリュウジのペニスとリオのスリットが向かい合う形だ。
「リオのここは、どうなってる?」
 リュウジはリオのスリットを指で押し広げた。ぶるっ、と身を震わせてから、リオは自分の大切な部分をしげしげと観察した。かあっ、と赤くなって小声で言った。
「……少し、おしっこが漏れてしまいましたぁ」
「これはおしっこじゃないよ。気持ちいい印だ」
 リュウジは指の先をスリットに挟み込むと、わずかにしみだしている粘液をすくい取った。二本の指でねちょねちょともてあそびながら、リオの目の前に差し出す。
「ネトネト、ですぅ」
「そう、これで準備は完了したということ」
「準備って、なんの準備ですかぁ」
 リュウジはその質問には答えずに、リオの白く丸いお尻を両手で抱えた。左手は添え木があるので、その分右手に力を入れる。
「じゃあ、入れるよ」
 ぬるっ、と一度は滑ったが、二度目で何とかペニスの先がスリットの奥の穴に引っ掛かった。
「い、いたいですぅ!」
「大丈夫、ちょっと我慢して!」
 めり、めり、とペニスがリオの中へめり込んでゆく。リオは激痛から逃れようと腰を浮かそうとするが、脚に力が入らないようだった。結局は重力の法則に従って、ゆっくりとペニスを受け入れることになる。
 ペニスが半ばまで埋まったところで壁のようなものがあり、そこからは侵入ができなかった。リュウジはそれ以上の挿入を諦めて、リオの唇を強く吸った。かなり痛いのだろう、目に涙を浮かべながら耐えているリオは、それでも応えるようにリュウジの唇を吸い返した。
 リュウジはキスしたまま、器用に右手だけでリオの制服の前を開けた。ブラウスのボタンも外すと、清潔そうな白いランニングシャツがあった。リュウジは指をまさぐるようにして、シャツの上からリオの幼い乳首を探り当てる。本来なら虫刺されのようでしかないはずの乳首は、リュウジが指で摘んだりする内にニキビのように盛り上がり、シャツの白い生地を押し上げていた。
「気持ちいい?」
「……はぁっ、い、いたいよぉ」
 泣きながら訴えるリオの瞳に、リュウジは急に罪の呵責を感じ始めていた。止めてと言わずにただ必死に耐えている姿が、逆にいじらしい。リュウジはリオの細い肩に両腕をまわして抱きついた。
「ごめんね、すぐ終わらせるから」
 ゆっくりと腰を動かし始めた。リオも始めは痛がったが、次第に慣れたのか抵抗の意思はなくなった。もたれ掛かるようにリュウジに身体を預けて、押し殺したような声を洩らすようになる。
「んふっ、くんっ、はぁ、あっ、あっ」
「リオ、リオ、好きだよ、リオ」
 うわ言のようにリュウジは囁き続ける。リュウジのペニスは激しくグラインドするが、リオのスリットもそれにあわせて伸縮するため、リオの痛みはほとんどなくなっていた。むしろ舐められた時に感じた、あの未知の感覚が再び激しく甦っていた。
「あっあっ、んあ、な、なにか、なにかが来るよぉ」
「リオ、い、いくよっ」
「ふわあぁぁっ!」
 ばしゃばしゃっ、とリュウジはリオの中で爆発した。リオはのけぞり、びくんびくんと痙攣したあと、倒れ込むようにしてリュウジを押し倒していた。
 その瞬間、ぐき、という非常に嫌な鈍い音がした。


「本当に、ごめんなさいっ」
「もう、いいって」
 リュウジは苦笑いしながらそう答えた。左手と右足首の包帯に加え、今度は首にギブスがある。二人が果てて倒れ込んだ時に、リオがリュウジの首を軽く捻ったのだ。軽く、とはいってもそれはリオにとっての“軽く”であり、首の骨を痛めるのには充分なだけの力がかかっていた。
「わたし、あの時なにがなんだか分からなくなっててぇ」
「だからそれはもういいから。僕もちょっと強引だったし」
 そこでリオは、恥ずかしそうにもじもじとしながら言った。
「……でも、気持ちよかったですぅ」
 そっと口をリュウジの耳元に近づける。
「また、いろいろ教えてください」
 リュウジは予想外の言葉に一瞬間を置いてから、答えた。
「……うん、このケガが直ったらね」
「はいっ、嬉しいですぅ」
 リオは喜色満面で、リュウジに抱きついた。首に手を回す。
「ぐえ」
「あっ、ごめんなさい!」
 ──この娘と付き合っていくには、まず身体を鍛える必要があるのかもな。
 ギブスの上から首をさすりながら、リュウジはそんなことを思ってまた苦笑いを浮かべた。



終わり