「パンツ泥棒を探せ!」  坂下 信明



イラスト:河澄翔


 僕は黒板に書く手を、少し休めた。
 何気なしに生徒たちを振り返ってみる。やっぱり、ちょっと様子がおかしい。クラス全体が落ち着かず、そわそわとしている。まったく授業に身の入っていない子も、何人かいた。
 でも僕には、その理由がわからない。そんなものだ。担任とはいえ、いつも生徒たちと一緒にいるわけじゃない。きっと子供たちには、子供たちなりの問題というものがあるのだろう。僕はそうやって、割り切ることにした。
 黒板の方に向き直って、一気に教科書の問題を書き写してしまうことにした。簡単な、算数の問題だ。僕たち大人にとっては、問題とさえ呼べないような数式が並んでいる。しかしこの簡単な数式も、生徒たちにとっては頭をかかえてしまう難問なのだ。
 僕はちょっとおもしろくなった。きっと生徒たちなりの問題というのも、僕らからしたらすっと解けてしまうような、ひどく簡単な問題であるのに違いないのだろう。僕がおもしろく感じたのは、彼らが簡単な問題で悩んでいることだけではない。いつか自分にもあったそんな時代のことを思い起こしたからだ。
 さて、そんなことばかり考えていてもしかたがない。僕は教師なのだ。彼らに勉強を教えるという、義務があるのだ。
 僕は、とりあえず生徒たちに問題を解かせることにした。名簿をみながら、指名する生徒を考える。この学校は名簿を男女で分けていないので、適当な順番で指名していけばどちらかにかたよることはないので楽だ。
 五年三組。新任だった僕が、初めて受け持つことになったクラスだ。まだ三ヵ月しかたっていないが、さすがに全員の顔は覚えている。僕は今日の日にちに月と年号を足してみた。32。
「じゃ、藤井さん、この問題を解いてみてくれるかな」
 僕はこの時、すこしどきどきしていた。名簿番号32番、藤井利奈。クラス委員でもあるこの娘は、長くつややかな髪に、利発そうで大きな目を持った、人形のようにとても愛くるしい女の子なのだ。頭のいい子特有の、たまに見せる大人びた見つめ方には、気がつくと引きずりこまれている。
 ひいきはいけないとは思いながらも、ついついひいきしたくなる、そんな娘だった。
 だから僕は、藤井のいつもの、あの元気のいい返事を、心おどらせながら待っていたわけなのだが……
 返事はなく、代わりに回りの子のくすくすと笑う声が返ってきた。僕は不思議に思って、藤井の席、やや窓よりの後ろの方という生徒たちにとっては天国ともいえる地帯に視線を向けた。まさか、あの娘がいねむりしているとは、思えなかった。
 藤井利奈は起きていた。ぱっちりとした目を黒板の方に向けていた。だが、何かを見ているといった様子はなく、ただぼうーっと、視線がただよっていた。
 僕は予想外の出来事に、しばらく藤井を見つめていた。すると、席の後ろの娘がえんぴつでちょんちょん、とつついた。藤井はびくっ、と身体を震わせて、慌てて回りを見回した。そしてようやく、僕の視線に気がついた。
「は、はいっ」
 藤井はすぐに立ち上がると、すこし恥ずかしそうに、顔を赤らめながら僕の顔をじっと見つめた。僕はその目に、照れてしまいそうで慌てて黒板の方に顔を向けた。
「あ、えっと、その問題を解くんですか?」
 間の抜けたその質問に、教室内が笑いに包まれた。僕も思わず、一緒になって笑ってしまった。すると藤井は、なおいっそうと赤くはなったが、持ち前の気の強さをそこで発揮してみせた。
「先生の声が、小さくて聞こえなかっただけなの!」
 でもそのいいわけは、もう一度、教室を笑いに包ませただけたった。


 僕は木崎義郎。今年度からこの学校、私立金剛般若学園初等部で教員になった、新米もいいとこの教師だ。本当は公立に行くつもりだったのだが、子供が減っていくにしたがって教師の数が余りはじめ、僕もあやうく職にあぶれそうになっていた。だから、教育委員会にいる叔父の紹介でこの学校を勧められた時に、僕はすぐさまありがたく話に乗ることにした。
 赴任してみると、ずいぶんと風変わりな小学校だった。仏教系だとは聞いていたが、制服がわりに卍をデザインした腕章を支給するといった発想が、よく理解できなかった。まあ、生徒のほとんどは普段は外しているみたいだが、毎週月曜の朝会には着用が義務づけられている。赤地に黒の卍の腕章を、全校生徒800人余りが着けて整列している姿は、ユダヤ人から見れば悪夢の再来に違いない。たとえマークが反転していたとしても、だ。 他にも、文殊菩薩の銅像が建っていたり、チャイムの音が鐘(しかもあのお寺特有の重みのある鐘)の音だったりするが、そういった妙なところ以外は普通の学校と大差はないようで、生徒もいたって普通の子供たちだった。最近では、変な部分に対して慣れてしまいつつあるためか、この学校で働くことがとても快適になってきていた。残業はないし、エスカレーター式なので受験問題もないし、給料も公立より高いし、下手に公立校に就職してしまうよりもよかったのかもしれなかった。
 今日も、もう最後の仕事だ。全校の戸締りの確認だが、そんなに大変な仕事でもない。たいていの窓は、帰りの会の時に閉めてしまっているし、運動部の子と帰宅部の子はもう教室には用事がないので、開ける子はほとんどいないのだ。だから、だいたい確認して回るだけでいい。そして最後に、生徒が残っていないのなら、出入口に施錠して、終わりになる。
 僕は順番に教室を回りながら、今日の算数の授業中のことを考えていた。あの真面目な藤井が、僕の声の届かないくらいにぼーっとしていたのだ。それは、クラス全体が落ちついていなかったことと、関係があったのだろうか。
 日が長いとはいっても、もう日は半分ほど、暮れかかっていた。きれいな夕日が、どの教室にも差し込んでいる。僕はいろいろと考え込みながら、廊下を歩いていた。
 気がつくと、そこは五年三組、自分の教室だった。戸が開いていたので、おかしいなと思った。僕は、ちゃんとみんなが教室を出ていってから、最後に戸を閉めて職員室へ帰ったのだ。すると、だれかが教室に戻ってきたことになる。
 僕は、ひょい、と教室をのぞいた。
 そこにいたのは、藤井利奈だった。
 僕は驚きはしたものの、怪訝に思う気持ちの方が強かった。なぜ藤井が、こんな時間にこんな場所で、立ちつくしているのだろうか。
 僕は隠れるようにして、藤井を見ていた。なにをしているのか、気になったからだ。でも、そう思うのは、自分へのいいわけに過ぎないのかもしれない。その時僕は、立ちつくしている藤井が、すごくきれいに見えたのだ。若いというよりもまだ幼い、白くつやのある肌に、夕焼けがはねかえって朱色に輝いている。少し悩んでいるような表情も、とても小学生だとは思えない憂いがあって、大人びた雰囲気があった。僕はなぜか感動してしまい、目が離せなくなってしまった。ずっと見ていたい、そんな思いが、僕が教室に入っていこうとするのを止めたのだ。
 しばらく、見つめていた。藤井は、いろいろと思い悩んでいるようで、一人で首をかしげたり、振ったり、うなずいたりしていた。僕にはそれが、カメラの前でポーズをとるモデルのように見えて、おかしかった。
 すると、藤井は急に決心したかのように大きくうなずいて、行動をおこした。僕には、その行動があまりに突飛すぎることと、目的がわからないことで、混乱することしかできなかった。
 藤井の手が、すっ、とスカートの中に入ったのだ。
 僕には、まさか、という期待があった。だが、すぐにそれを打ち消す意識もあった。何を期待しているんだ、こんなところでパンツを下ろすなんて、あるわけないだろ。
 藤井は手をスカートに入れたまま、止まっていた。しきりに、あたりを見回していた。よく顔を見てみると、夕日のせいでわかりにくかったが、かなり赤面しているようだった。恥ずかしいのかも、しれない。
 なんで恥ずかしいのだろう。僕の中で、まさか、がもしや、に変わった。その途端、
 するり
 聞こえないはずの音が、僕には聞こえたような気がした。藤井はすごく恥ずかしそうにパンツを下ろした。一気に脱ぐつもりだったようだが、膝に引っかかってしまい、そこで手をはなした。
「……なんか、すぅすぅするぅ」
 小声で、そうつぶやいた藤井は、白いパンツを脚にまとわりつかせたままで、自分で少し、スカートを持ち上げてみた。
 僕は、目を見開いたまま、固まってしまった。



イラスト:河澄翔


 すらりとしなやかな太腿から上が、あらわになった。脚の付け根の、ぷくりとした肉に入った裂け目が見えた。僕は激しく興奮していた。意志とはうらはらに、股間で熱いものがむくむくと大きくなってゆくのがわかった。
 藤井はむきだしになってしまった自分のスリットをちらりと見下ろすと、トマトよりも真っ赤になった。それなのにすぐにはスカートから手をはなさずに、何回もちらちらと見ている。僕はその間、ずうっとスリットを見つめ続けていた。
「恥ずかしいなぁ、もう」
 そう言いながら、再びパンツに手をかけた。慌てたように、脚を抜いた。そして脱ぎたてのパンツを顔の前に持ってきて、しげしげと眺めた。
「エサには、なるのかな」
 エサ? 僕は首をかしげた。
 藤井はパンツを、自分の机の上に置いた。ふうっ、と大きな深呼吸を一つして、窓の外を見た。
「いけない、もうこんな時間だ!」
 外はもう、夕日もほとんど沈んで、闇が濃くなりつつあった。僕も、そう言われなければ気づかなかった。もう七時近かった。
 藤井はいきなり、こちらに向かって走りだした。僕はどきっ、とした。
 見つかる!、と思ったが、藤井は廊下までは来なかった。戸の横にある、掃除道具入れの中を整理している。僕は気づかれないようにこっそりとのぞきこんだ。すると藤井は、掃除道具入れの中に入って、中からその扉を閉めた。
 僕には、藤井が何をしたいのか、よくわからなかった。ただ、だれかをまちぶせしているような感じはした。だれだろう。そういえば、あのパンツはエサなのだと言っていた。すると、藤井はだれかを捕まえるために、掃除道具入れの中に隠れたのだろうか。
 僕は、どうするべきか迷っていた。このまま見過ごして、何もなかったように通りすぎてもよかった。だが、そうしてしまえば、藤井が置き去りになってしまう。もう夜になるし、第一出入口の鍵を閉めたら藤井は帰れなくなってしまう。
 意を決して、僕は教室に踏みこんだ。掃除道具入れを一瞥してから、まっすぐ藤井の机へと向かう。白いパンツを掴むと、激しい興奮が僕を襲った。まだ、温かい。このまま自分のものにしてしまいたい衝動にかられるが、その持ち主が掃除道具入れの中にいるのだから、それはできなかった。
 仕方なく、パンツを握りしめたまま、掃除道具入れまで歩いた。こんこん、とノックして、声をかけた。
「藤井さん、開けるよ」
 開けると、小さくちぢこまった藤井が、驚いた顔で僕を見上げた。
「せ、先生! どうして」
「それはこっちのセリフだよ。なんで、こんなことをしてたんだ?」
 僕が差し出したパンツをみると、藤井はきゃっ、と短い悲鳴をあげてそれを奪い取った。すぐにポケットにしまいこんで、真っ赤になりながら、上目づかいに訊いた。
「先生……これ、ほしいな、とか、思いません、でした?」
 僕はこの質問に、正直どきっ、としたが、なんとか平静をとりつくろった。
「お、教え子の下着をもらっても、あまりうれしくないけど」
 藤井は、その答えに安心したようだった。ほっ、と息をつく。
「そんなことより、何をしてたんだ?」
「ぎくっ」
 藤井は、そんな擬音をわざわざ言ってみせた。
「じ、実は……」
「実は?」
「しゅ、趣味なんですじゃあ失礼しまぁす」
 途端にその場を逃げだそうとする藤井の肩を、僕はとっさに押さえた。
「そんな答えで納得すると思っているの? さあ、もう遅いから僕が車で家まで送るよ。話は車の中で聞かせてもらおうかな」
「えー」
 観念したのか、藤井はがっくりと肩を落とした。


「おとといの体育の授業のときに、みちえちゃんのパンツがぬすまれたんです」
 藤井は仕方なく、話しはじめた。少し言いにくそうなのは、内緒にしておく約束でもしていたからだろう。
「パンツって、いつもはいてるもんじゃないか?」
「替えのを、持ってきてたんだって」
 そう言って赤くなったので、僕はその理由が思い当たった。五年生というのは、難しい時期だ。
「それで、わたしたちは、犯人を探すことにしたんですけど……」
 実は、それが初めての事件ではなかった。他にも二人、先週に盗まれていたのだという。クラスの女子は怒りに燃えた。意地でも、犯人を見つけ出してやると思った。
「わからないんです。よく考えたら、同じクラスの子は一緒に体育やってたんだし、盗めるわけがないなぁ、って。だから、先生のうちのだれかがやったんじゃないか、て話になったんです」
 そこで、どうやって犯人を見つけるのかということになり、みんな悩んでしまった。さんざん話し合ってから、藤井はおとりを使ったらどうか、と言ってみた。
「そしたらみんな、それいいよ、って言ってくれたんだけど、じゃあだれがやるの?、という時点でまた困ってしまって。仕方ないから、いいだしっぺがやりますって、わたしがやることに」
 僕は呆れた。おとり捜査で下着ドロを捕まえようという発想もすごいが、だからといって教室にパンツを脱いで置いておくという発想も信じられなかった。
「見回りの先生は、一週間交代でかわるから、そのうちに犯人の先生がまわってくるかなぁ、って思ってたんですけど」
「あのねぇ」
 僕は助手席にちょこんと座っている藤井の顔を見ながら、言った。
「そういうことがあったら、自分たちでどうにかしようとか思う前に、僕にでも話してみてくれないかなぁ?」
「だって、先生が犯人だったら困るし」
 僕はがっくりと肩を落とした。
「……そうか、僕ってそんなに信用ないのか」
「そ、そ、そんなことないです。ただ、もしもっていうことも……」
 慌てて訂正した藤井は、その後、すこしうつむき加減になってつぶやいた。
「でも先生は、わたしのパンツにも興味がないって、言ってくれたし」
「疑いは、晴れたかい?」
 こくっ、とうなずいた。
「じゃあ、後は僕に任せて、もうそんな、バカなことはやめなさい」
「……はい」
 まだ不服そうな感じで、藤井は返事をした。すこしすねているようだ。曲がった口もとも、愛らしく見えた。
 まだドライブを楽しみたかったのだが、残念ながらもう、藤井の家に着いてしまった。藤井を降ろすと、僕も降りた。
「あれ、先生どうしたんですか?」
「いや、一応ご両親に挨拶しておかないと」
 すると藤井は、いつもの人なつっこい笑顔を浮かべた。
「まだ帰ってないですよ。電気ついてないから」
 確かに、門灯にも部屋にも、明かりはともっていなかった。
「あがってってもいいですよ。変なこと、しないなら」
「へ、変な、ことって」
 藤井はくすっ、と笑った。
「じょうだんです。じゃあ、ここまででいいですから」
 玄関に向かって走りだしたあと、急に思い出したかのようにくるりと振り向くと、深々と僕に向かっておじぎをした。
「今日はどうも、ありがとうございました。おやすみなさい」
 そう言って走って家に入っていった。僕は藤井が鍵を開けて、中に入るのを見届けてから、車に乗りこんだ。助手席のシートに手を置くと、まだぬくみがある。僕はなぜか妙に興奮したまま、車を出した。

 今日の体育の授業は、鉄棒だった。
 小学校では、全部の教科を一人で見なければならないので、大変だ。僕は体育が苦手なのに、生徒にそれを教えるというのは皮肉なものだと思った。
 体操服に着替え終わった生徒たちを、身長順に整列させた。男子の半袖、半ズボンが子供っぽさを強調しているのに対して、女子のブルマーというのは、なぜか大人びて見えてしまう。本当はそれほど膨らんでもいないおしりのラインが、紺色のぴったりと密着したブルマーによって強調されているせいなのかもしれない。僕にはロリコンの趣味はないはずだが、時たまじっと見入ってしまうことがあるのも、そのために違いない。
 出席を取っている最中、女子の一人が手を挙げた。
「せんせー、藤井さんが気分が悪いそーです」
 見ると、藤井は下を見たまま、ふらふらとしていた。
「ほ、保健室に行かせて、ください」
 頼りなげな声で藤井がそう言ったので、僕はすこし慌てた。
「そうか。よし、僕が連れていこう」
「えっ」
 藤井は驚いたように、僕の顔を見た。僕も藤井の顔を見つめた。血色は悪くない。そのとき、僕には藤井のたくらみがすぐにわかってしまった。
「立っているのも辛そうだね。おぶっていこう」
「い、いいです。一人でも、行けますから」
「気分が悪いんだろう? 遠慮しなくてもいいよ」
 その言葉に、藤井は急に膝をついた。これも演技だとしたら、演劇部の部長にでもなれそうだな、と思った。
「ほら、乗りなさい」
「すみません」
 僕は藤井を背負うと、生徒たちに向かって自習の宣言をした。生徒たちは歓声をあげて喜んでくれる。僕はそのまま、運動場を出て校舎に入っていった。


「先生、もしかして気がついてます?」
 背中に乗っている藤井が、おそるおそる訊ねてきた。
「やっぱり、仮病だったか」
 僕はため息をもらしながら、答えた。
「やだ、気がついてるんなら、早く下ろしてください」
「こら、動くんじゃない」
 僕はしっかりと藤井のすらりと細い太ももを押さえこんだ。勢いあまって、おしりにも手が触れてしまう。
「やっ!」
 しかし藤井は激しい抵抗を見せたので、僕はバランスを崩しながら藤井を廊下に落としてしまった。藤井は軽く尻もちをついた。
「いったー」
「大丈夫? ごめんね」
 藤井は僕の方へ脚をひろげるようにして、おしりを床につけている。安っぽいヌードグラビアのようなポーズだ、などと僕は不謹慎なことを一瞬考えてしまった。
 すると、まるでその考えが伝わったのか、藤井は真っ赤になって股を閉じた。体操座りになって、恥ずかしそうに僕の顔を見上げる。
「先生の、エッチ」
「エッチって、何もしてないし、何も見てないよ」
「おしり、さわった」
「あ、あれははずみで……」
「……先生、気づいた?」
 僕には、その質問が何のことかはさっぱりわからなかった。首をぶんぶんと横に振ってやると、藤井はほっ、と安心して立ち上がった。
「あー、おしりが痛い」
 そう言いながら、藤井が腰をひねりながらおしりをさすった。僕はそれを見て、目が点になってしまった。ブルマーがやけにおしりの割れ目に食い込んでいると思ったら、下着のラインが見えなかったのだ。
「ふ、藤井、さん。パンツは、どうしたの、かなぁ」
「きゃあっ!」
 僕は慌てて、藤井の口を手でふさいだ。
「静かに! 他は授業中だからね」
 モゴモゴと口を動かしている藤井が、落ちつくのを待ってから階段下の物陰へ移動した。手をはなすと、真っ赤になりながら怒ったような顔で、僕をにらんでいる。
「先生、やっぱり気がついてたんだ」
「いや、その、あのね、それは触ったからじゃなくて、今のブルマーの状態を見れば、だれでも気づくんじゃないかと」
「あ、ほんとだ」
 藤井は慌てて、ブルマーの食いこみを直した。その様子を見ているうちに、僕ははっ、と我にかえった。
「それより、どうしてパンツをはいてないんだ? まさか、この前僕がよしなさいと言ったのに、まだ犯人捜しをしてるの?」
「だ、だって、この時間が狙われてるのはわかってるから、教室なんかに置いておくよりも更衣室の方がいいって、みんなが……」
 僕は頭をかかえた。藤井はしっかりとした子だから、一度注意すればそれでいいと思っていたが、予想外に頑固で、実行派であるようだった。
「まったく、藤井さんがこんな子だったとは、思いもしなかったなぁ」
 僕はそう口に出してしまっていた。藤井はなぜかその言葉に、ぴくっと反応してこう訊き返してきた。
「じゃあ、どんな子だと思ってたんですか?」
「そりゃ、お人形さんみたいにかわいいから、先生の言うことはちゃんと守ってくれるいい子だと……」
 そこで、つい口がすべって、余計なことまで言ってしまったことに気づいた。特定の教え子に対して『かわいい』と言うのは、教師としてはあまり好ましいことではない。
 藤井はその言葉をどのように取ったのか、急にくるりと向きを変えて、走りだした。
「先生、更衣室!」
「えっ、あっ」
 僕はその勢いにのまれて、追いかけるようにして走り出すほかなかった。

 藤井はさっさと女子更衣室に入っていった。僕は一瞬入るのをためらったが、別にやましいことはしていないと自分に言い聞かせて、踏みこんだ。
 なんとも言えない香りが、していた。まだ香水などを使っていない娘の方が多い分、いろんな香りが混じっているのだろう。
「あっ、やっぱりない」
 僕は藤井の声で正気にかえった。すぐに藤井のロッカーの方へ行ってみる。
「ここに、置いといたのに」
「おかしいな」
「ね」
 藤井はそう言って僕に向きかえったが、目が合いそうになると急にそっぽを向いた。僕にはその態度が少し気になったが、僕の意識は別のことに集中していた。
 ──ここは職員室が近いから、ごそごそしてたらすぐに見つかるはずだけど。
 授業が始まってのことだから、だれかがうろうろしていたらすぐに見つけられてしまうはずなのだ。職員室には、常にだれかがいることになっている。
「あーあ、来るのがおそかったかぁ」
 すると、やはり外部の人間とは考えにくいことになる。内部の、それも教職員の確率が高い。僕は、用務員の船尾さんの顔を思い出していた。あの人は、たまにすごくいやらしい目つきになることがあったから、怪しいような気がする。
「先生? どうしたの?」
「ちょっと待ってて」
 僕はそう言ってから、藤井を残したまま職員室の方へ駆けだしていった。
 何気ないふうを装って、職員室に入る。そこには、教頭しかいなかった。
 聞きたいことがあるから、と言って、船尾さんが今どこらへんにいるのかと教頭に訊いてみたが、いつも渋い顔をしている毛の抜けあがった教頭は短く、知らん、掃除でもしてるんだろうとだけ答えた。
 僕はすぐに藤井のいる更衣室に戻った。不思議そうな顔をして、藤井が立っていた。
「どうしたんですか?」
「よし、犯人を捜しにいこうか」
「え?」
 急な僕の言葉に、藤井は面食らっているようだった。

「じゃあ先生は、その用務員さんが犯人じゃないかと、思ったんですね」
「うん。前もこの時間だったんだから、職員室には教頭先生か用務員さんしかいない時間帯だった、ってことになる。だから、とにかく用務員さんを捜してみて、話を聞いてみよう」
 僕たち二人は、用務員の船尾さんを捜すために、校舎をぐるぐると回ることになった。授業をやっているクラスに見つかると、不審に思われてしまうので、慎重に移動しつつ、船尾さんの姿を捜した。ところが、なかなか見つからない。十分も捜し回っていると、次第にいらだってきた。
 だが、藤井の方はやけに楽しそうだった。僕の手を引っ張って、「宝さがしみたーい」と言いながら歩き回った。そのため、僕のほうはすっかり疲れてしまい、情けないことながら休憩しようと持ちかける羽目になってしまった。
「じゃあ、先生。あの教室で休みましょ」
 そこは、理科実験室だった。どこのクラスも使っていないので、無人だった。僕たちはその教室に入ると、椅子に腰掛けた。
 ふうっ、と息を吐いてから、藤井を見つめると、今自分のある状況というのが非常にマズいものであることに気がついた。授業を放棄して、一人の生徒と校内探索をしているのだ。理由はどうであれ、見つかってしまえば処分は免れないだろう。
 さぁーっ、と血の気が引いてゆく僕のことなどお構いなしに、藤井ははしゃぎながら窓の外を見ていた。階段の下で口を滑らせてから、まだ一度も僕と目を合わそうとはしないのになぜか明るくしゃべり続ける藤井の気持ちが、その時の僕にはまったく予想すらできなかったのだ。
「あれ」
 何かを見つけたのか、藤井の動きが止まった。
「先生、園長室に教頭先生がいるよ」
「え」
 僕は立ち上がって、藤井の指さす方を見た。
 この学校は、なぜだか職員室が一階、園長室が四階にある。四階まであるのは本棟だけで、ほかの校舎は三階までしかなかったのだが、この理科実験室はあとで建てましたために四階に相当する位置にあった。つまり、水平方向に園長室が見える位置に、僕らはいるのだ。
 確かに、教頭の姿があった。抜けあがった額が、まぶしい。しかし、なぜだろうか。今日は園長が出張なので、園長室には用事などないはずだ。
 僕はわずかに芽生えた疑いを持って、カーテンの陰に隠れるようにして教頭を見守ることにした。藤井も、よくわからないながらも僕の真似をしてくれた。
「あっ、ハンカチを出した」
 藤井が、そう言った。僕もそう思った。教頭は窓の外をきょろきょろと見回しながら、白い布をポケットから取り出したのだ。
 しかし、教頭がその布を拡げたとき、僕も藤井も絶句した。
 それは、白いパンツだった。
 教頭はそのパンツをしげしげと眺めたあと、顔をうずめた。匂いを嗅いでいるらしい。それから一度顔を離し、じっと見つめて、舐めた。
 僕はあまりのことに、発する言葉がなかった。パンツ泥棒の犯人は、教頭だったのだ。職員室に一人きりになるあの時間が、下着を盗む絶好のチャンスであったにちがいない。そして戦利品を楽しむために、だれも来ることのない園長室にやってきた。
 僕は次第に、肚が立ってきた。教頭ともあろう人が、生徒の下着を盗んで、舐め回すなど、あってはならないことだった。
 だが、教頭の行為は舐めるだけでは収まらなかった。感極まったのか、右手にパンツを握りしめたまま、ズボンのファスナーを下ろした。そして、黒々とした太い肉棒を取り出すと、パンツでしごき始めたのだ。立ったままだったので、ここからはその何もかもが見えた。
「やだっ、なにあれ……」
 藤井の言葉で、僕は思い出した。すぐ横で、藤井もその様子を見ていたのだ。
「いかん! 藤井、見るな」
 僕は慌てて、藤井を窓から引き離した。子供に見せるべきものではなかった。
 藤井は全身の力が抜けているように、くたくたと床にへたりこんだ。頬が紅潮して、目つきがうるんでいた。
「ねえ、先生、あれって、わたしの」
「藤井、今見たことは忘れなさい。後のことは、先生にみんな任せて、ね」
 僕は、震えている藤井の肩を、そっと抱いてやった。藤井もゆっくりと僕の背中に腕を回して、しがみついてきた。
 かわいそうに、あんな光景を見てしまうなんて。すさまじいショックに違いあるまい。僕は胸が痛んだ。
 しばらく抱いていると、震えが収まってきたので、僕は藤井の肩をポンポンと叩きながら身体を離した。だが、藤井は離れようとはしなかった。より一層強い力で、僕にしがみついてきた。僕は柔らかい声で、訊いた。
「……どうした?」
「……なんか、変。体が、熱いの」
 少し息も荒く、肌が全体的に赤く火照っていた。ショックのせいだろうか。
「立てるか?」
 僕は肩を貸しながら、藤井を立たせてみた。何とか、立てるようだった。僕は藤井から身を離して、もう一度教頭の姿を窓まで見にいってみた。もういなかった。
 がたん、と音がしたので僕は驚いてそちらに視線を向けた。藤井は、力尽きたかのように膝をつき、手をついて何とか身体を支えていた。
 僕はその時、藤井に色っぽさを感じていた。よつんばいにって、僕の顔をじっと見上げているのだ。桜色の頬で、目は今にも泣きだしそうなほどうるんでいて、唇が何かを訴えかけるようにわなないている。男をドキッ、とさせる何かが、そこにはあった。



イラスト:河澄翔


「せんせぇ、わたし、おかしいです。あれを見てたら、体の中がすごく熱くなってきて、脚がガクガク、ってゆって、なんか、自分の体じゃないみたい」
 僕はそこまで聞いて、やっと藤井の今の状況が把握できた。しかし、わかったからといって、僕にはどうすることもできないことに、変わりはなかった。
「藤井さん、落ちついて。すぐ収まるはずだから、ね」
「せんせえっ」
 藤井はよつんばいのままで、僕の元へ来てしがみついてきた。僕はそれにあらがうことができずに、膝を床について抱きしめた。いい香りがする。そう思ったとき、僕は胸がきゅん、と締めつけられた気がした。
 そして、僕は衝動的に、藤井の唇に僕の唇を重ねた。藤井の身体が、びくっと硬直するのが腕に伝わってきた。でも、すぐに硬直は解け、やわらかな身体が僕に寄りかかるようにしてとろけてゆく。
 僕が唇を離すと、藤井は目を閉じたまま、僕の胸に顔をうずめた。
「先生、好きです」
「藤井……」
「ずっと好きだったんです。だから、先生が私のパンツに興味がないって言った時はさみしかったし、かわいいって言ってくれた時はほんとにうれしかった」
 藤井はそう言いながら、泣いていた。僕は、あまりに急なことだったのでどうしていいのかわからなかった。でも、上目づかいに僕の顔を見た藤井が、かわいくてかわいくてたまらなくなっていた。理性というものが、なにか熱いもので流されていってしまったような感じがした。僕は、勝手に動いた。
「藤井!」
 右手が、腰からブルマーの辺りにまで下がっていった。藤井は、もう身体を強張らせることもなかった。僕はゆっくりと藤井のおしりをなでまわした。
 もう一度、キスをした。藤井の小さな唇は、すっぽりと僕の唇に包まれてしまう。
 左手を、藤井の胸にあてた。さすってやると、もう小さなしこりが二つ、できていた。僕はそのしこりを、掘り起こそうとするように指で掻いた。
「んっ、んん」
 指の先で、しこりをくりくりとこねくると、藤井の声が短くもれた。僕は調子に乗って、体操着の裾から手を入れた。しこりを、つまんでみる。
「せ、せんせぇ、なんか、変な感じかするぅ」
「心配しなくてもいいよ。僕に任せて」
 右手を太腿に這わせて、次第に核心へと向かわせる。少女の核心に指が触れると、藤井が脚を閉じようとした。
「はずかしい……」
「力を抜いて。何にも恥ずかしいことはないから」
「でも……あっ」
 右手は、緩んだ脚の合間に滑り込むようにして、そこにたどり着いた。熱くなっているそこを、上下に指でこすっていると、ブルマーが湿り気を帯びてきたようだった。
 藤井はくたっ、と床に横たわってしまった。僕は愛撫を中断すると、藤井を二の腕で抱き抱えた。
「きゃっ」
「ベッドに運ぶよ」
「ベッド、って?」
 僕は理科実験室特有の、あの、黒くてつるつるとした巨大机に藤井を横たえた。藤井はくすくと笑った。
「これって、ベッドなの?」
「そう。不真面目な教師と生徒用のね」
 僕には、冗談を言う余裕があったらしい。しかし、体操着をめくりあげてしまうと、藤井は恥ずかしさで横を向いてしまった。
 胸の膨らみは、まったくといっていいほどなかった。ただ、淡い桜色の乳首だけが、かすかにとがっているだけだ。僕はその乳首に、キスをした。
 舌先で味わうと、それが精一杯固くなっているのが感じられた。こりこりとしている。僕は右手で右の乳首を、口で左の乳首を転がした。
「あうっ」
 藤井は軽くのけぞった。
「気持ちいい?」
「わ、わかんな、い」
 呼吸を荒くしながらも、健気に藤井は答えた。僕は右手を下へ向かわせる。ウェストのゴムをもぞもぞとくぐり抜け、ブルマーの中へもぐりこんだ。
 そこにはスリットが一本、あるだけだった。僕はそのスリットに沿うようにして、人指し指を上下に動かした。
「や、やぁ」
 動かすたびに、指は少しずつスリットにめりこんでゆく。わずかだがぬるりとした液体がにじんできたために、指は随分とスムーズに動くようになっていた。
「いやぁ、こわいよぉ」
 腰がビクビクと震えだしたので、僕もさすがに手を休めた。そして、ブルマーに手をかけた。一気に下ろして、左足だけを抜いた。抵抗はしなかった。
 そこはまったく、無垢なままだった。一本の発毛も見られずに、ただつるりとした肉の丘があるだけだ。僕はその丘にはしった一本の亀裂を、指で拡げた。
「やめて、先生、そこ、きたないから」
「ううん、すごくきれいだよ」
「あ、あ、あん」
 僕は開かれたスリットに、再び指を押し当てた。ぬるりとした感触が、強くなっている。僕はまさぐりながら、なんとか小さな豆を捜し出した。
 その豆は、クリトリスと呼ぶにはかわいそうなほど、まだまだ未熟でちっぽけな突起だった。しかし、指で触れると、藤井は急に抵抗を始めた。
「いや、いたい、そこ、いたいの」
 僕はやむをえず、指でいじるのをやめた。かわりに、口をつける。
「先生、きたない!」
 まず、スリット全体を、舌で舐めあげた。
「うくっ、ふぁっ」
 声にならない藤井の声を聞きながら、僕は音を立ててスリットを舐めた。たまに休んだり、クリトリスだけをちょろちょろといじめたりしていると、スリット全体がぷっくりと充血してくるのがわかった。
 僕はその反応にたまらなくなり、自分のズボンも下ろすことにした。息子は、限界まで固くそびえ立っていた。
「藤井、これがなにかわかる?」
 僕は息子を藤井の目の前に持っていった。藤井は目を開けた途端、きゃっ、と短く叫んで顔をそむけた。でも、ゆっくりと首を回して、向かい合った。
「教頭先生のと、おんなじ……」
「これも、怖い?」
 藤井は首を横に振った。
「じゃあ、キス、できる?」
「えっ」
 藤井は一瞬ためらったようだったが、すぐにうなずいた。そして、恐る恐る、僕の息子に、口をつけた。
 藤井の唇は、温かくて柔らかかった。僕はその感触に、あやうく爆発してしまいそうになった。藤井はキスに慣れると次第に大胆になって、息子に手をそえた。そして、握ってみた。
「すごく、かたい」
「藤井のせいで、そうなっちゃったんだよ」
 そういいながら僕は、藤井のスリットに手を伸ばした。藤井は鼻で声を出しながら、キスを続けた。僕はもう臨界点に達していた。しかし、挿入ができないであろうことはわかっていた。藤井には、指一本でさえもつらいだろうからだ。
 だから僕は、息子を藤井の口から離して、スリットにあてがった。
「なに、するの?」
 不安げな藤井の顔が、かわいかった。
「大丈夫だよ。痛くないからね」
 そう言って、腰を動かした。するり、とスリットに僕の息子がこすれた。
「あん」
 僕はその反応に気を良くして、強く腰を振った。藤井のぬるぬるした部分に息子の頭がこすりつけられて、僕も非常に気持ちがよかった。藤井も、気持ちよさそうな鳴き声をもらしている。僕は空いてしまった手で、藤井の頭を優しくなでてやった。そして、とがった乳首を掌で転がしたりしてやった。
「ううん、ふふぅ、あっ、やあぁ」
 僕の腰の動きが速くなるにつれて、藤井の声も早くなっていった。
「……もう、だめだ!」
 僕は耐えきれなくなって、精を放った。びくっ、びくっ、と白い液を藤井の胸と腹にまき散らす。その痙攣で、さらに藤井のスリットが刺激された。藤井も拳を握りしめ、未知の快感に耐えているようだった。しかし、耐えきれなかったらしい。
「いやっ! でちゃうう」



イラスト:河澄翔


 ぷしゃあぁぁ
 黄色い液体が、放物線を描いて吹き出した。それは僕の上着を濡らして、そして僕が避けてからもしばらく放出され続けた。
 おしっこが止まるころ、藤井は恥ずかしくてたまらないのか、両手で顔を覆っていた。僕はそんな藤井の頭を優しくなでてやり、おでこにキスをした。

 僕らは無言のまま、辺りを雑巾で拭いていた。藤井は真っ赤になりながら、一生懸命に拭いている。僕は努めて冷静なふりをして、雑巾を揉みだしていた。
 掃除が終わっても、僕たちはしばらくぼうっ、としていた。どんな態度で、どう接すればいいのか、僕にはわからなかったのだ。
 その時、チャイムが鳴った。僕は青くなった。
「あーっ! 授業が!」
 僕は慌てて、教室を出ようと藤井に声をかけた。すると藤井は、落ちついた風で僕の上着の袖を掴んだ。
「あの、先生、わたしのこと、どう思ってるの?」
 もじもじとしながら、すがるような瞳で僕のことを見つめていた。僕はどぎまぎとしながら、はぐらかすような感じで言った。
「えーっと、二人きりの時だけは、利奈、って呼ぶからな。利奈は僕のことをなんて呼びたい?」
 藤井はぱぁーっ、と顔を明るくしながら、僕に飛びついてきた。
「義郎!」
 そうか、呼び捨てか、と僕は少しがっくりときたが、まんざらそれも悪くないなと思いながら、この小さな恋人を強く抱きしめたのだった。
 ただ、その瞬間、僕はもしかして教頭よりもよっぽどひどいことをしたのではないだろうか、という思いが浮かんだ。すると、利奈はその不安をかき消してくれるかのように、軽く背伸びをしながら僕にキスをした。
 そのキスは、まるで初めての時のように、あまずっぱい味がした。



終わり