『アンドロイド☆プリンセス』シリーズ

   「勉強熱心なセクサロイド」  坂下 信明



 カイン松本が目を覚ますと、エリカは横で寝ていた。
「うわっ、エリカ様!」
 エリカはカインの狭いベッドの端っこで、身を丸めて縮こまって寝ていた。ピンクのネグリジェにきれいな金髪がかぶさって、きらきらと光を弾いている。大人びた恰好はしているが、軽く握った拳に口づけをしているようなそのあどけない寝顔は、やっぱりまだ十歳の子供なのだなとカインは思った。
 カインはエリカを起こさないようにベッドから出ると、青いパジャマを脱ぎはじめた。正装に身を固めてから起こさないと、エリカに怒られるのだ。「ケライのくせに、そんなかっこでご主人様の前に出ないで!」と。
 ──でも、もうこの生活にも慣れちゃったな。
 床屋に行っていないのでかなりのびてしまった髪をかき上げながら、カインは昔を思い返した。
 カイン松本は元捜査官であった。アンドロイド保護監査局捜査班に籍を置いていた。二十二世紀になってアンドロイドにも人権が与えられたため、その人権保護と国民登録などを受け持つのがアンドロイド保護監査局であった。その中でも捜査班はアンドロイドがらみの犯罪の捜査、摘発を目的とした機関で、一般の警察と同様な捜査権や逮捕の権利を有しているセクションだ。別名で捜査第五課とも呼ばれている。
 だが色々あって、今はエリカの家来だ。呼ぶときにはちゃんと様をつけなければならないし、身の回りの世話もしなければならない。初めは十歳の少女に仕えることが癪に触ったが、慣れてしまえば苦にもならない。それどころか、最近ではこの仕事に喜びを見いだすこともしばしばだ。エリカの側にいることが、世話を出来ることが幸せだった。
 古めかしい黒の燕尾服に身を固めて、カインは鏡で確認した。頷いてから、エリカを起こしにかかる。小さな肩に手を置いて、軽く揺する。
「エリカ様、起きてください。朝ですよ」
「……え、何、カッくん」
「もう私はカッくんではありません。仕事中はカイン、とお呼びください」
「ん〜、あたしまだ眠い、だから夜、おやすみ」
「今日は大事な商談がありますから、起きていただかないと困ります」
「じゃあ、困って、カイン」
 カインの眉が、ぴくっ、とつり上がった。さっきこの仕事に幸せを感じたのを、深く後悔する。ごろんと寝返りを打つエリカの、無防備な脇腹に手を伸ばした。
「それでは、非常手段を取らせていただきます」
 指を細かく動かした。
「……きゃははははははははははは」
 エリカは大声で笑いながら、のたうち回った。それでもカインはくすぐるのを止めない。手から逃れようとするエリカの動きにあわせて、脇腹をくすぐり続ける。
「起きますか?」
「ははははははははははは、お、起きるぅ、やめてぇ」
 カインは指を動かすのをやめて、エリカを抱き上げた。エリカはすっかり目が覚めたのか、頬を膨らませながら不機嫌そうにつぶやいた。
「……おはよ」
「おはようございます、エリカ様」
 エリカを床に立たせて、カインは深々と頭を下げる。
「まったく、人間のケライはこれだから、やんなっちゃう。カイン、コードAよ」
「はい、かしこまりました」
 カインはまた頭を下げて、部屋を出ていった。コードAとは、着替えから洗顔、食事の用意を含む朝の仕事を表す命令だった。日常的なものにはコードHまでがあてられ、IからYまでが特殊コードになり、Zは仕事終了を表している。つまり大抵の日はコードAで始まり、コードZで就寝となるのだ。
 エリカは大きなあくびを一つもらすと、ピンクのネグリジェを脱ぎはじめた。白くすべすべとした素肌が露になる。下着は付けていなかった。エリカは髪を指ですいて、軽く整えた。軽くつり上がった目が意志の強さと気位の高さを表している。とても十歳とは思えない、女神のような端正な横顔が眩しいほどだった。
 エリカの裸身はほっそりとしていて、透き通るような白さを持っていた。第二次性徴以前特有の凹凸の少ないラインは、官能的な色気というものを含まない分だけ逆に、芸術的美しさを有していた。全く膨らんでいない胸には薄桃色の乳首が貼り付いており、白い裸身にわずかな彩りを添えている。
 カインがノックの後、部屋へ入ってきた。手には、エリカの着替えがある。
「エリカ様、遅くなりました」
「ほんと、遅いね」
 カインは、エリカの裸を見ても何も言わず、黙って着替えを差し出した。
「どうぞ」
「や」
 エリカはそっぽを向いて拒絶の意を表した。
「着替えさせて、カイン」
「……はい」
 カインは仕方ない、といった風に肩を落として、まず下着を手に持った。白地にワンポイントのリボンが付いている、スタンダードな子供用パンツだ。それをカインが拡げるようにして持ったままかがむと、エリカはカインの肩に手を置いて体重を支えながら、左足からパンツに通した。するとカインの目の前にちょうど、幼い性器の裂け目がくる。カインは平静を装いながらも、次第に激しく動悸し始めているのに気づいた。慌ててエリカに話しかける。黙っていると、心臓の音を聞かれてしまいそうなのだ。
「エリカ様、これからはちゃんと、ご自分の寝室でお休みになられてください」
「カッくんと、一緒に寝ちゃ、だめ?」
 甘えるような声に、カインは少し驚いてエリカの顔を見上げた。
「寂しい、のですか?」
「だって、カインはいつでもそばに居てくれるけど、カッくんはベッドでしか一緒にいられないから……」
「仕事中はこのカインでいるように、そう仰ったのはエリカ様です。仕方ありません」
 カインは突き放すように言った。エリカは口をとがらせる。
「カインは人間のくせに、応用性がないのね」
「その方が気が楽です。さあ、手を挙げてください」
 シャツを着せようと手に取ると、エリカはそれを奪った。
「もう、いい。自分で着る」
「……わかりました」
 エリカは黙々と服を来た。白地に赤のチェックの入ったシンプルなドレスは、十九世紀のイギリスで流行ったものだ。カインの燕尾服を見ても、エリカの趣味がクラシカルなものであることがわかる。
 しかしエリカが窓辺へ歩み寄り、カーテンを開けて広がった光景は、そんな二人の恰好とはかけ離れたものだった。鋼鉄のビルが互いの身長を競い合うかのように立ち並び、その合間を血管のように道路が巡っている。道路では時速三百キロメートルは出る最新のコイル式自動車が、皮肉にも渋滞に巻き込まれてのろのろと流れてゆく。夜には変幻自在のイルミネーションを見せる歌舞伎町のネオン街も、朝になればみすぼらしい金属質のつぎはぎを露呈するだけだ。
「あたしね、二十世紀末の東京の映像を見たことがあるの」
 エリカはなぜか、寂しそうな口調でそう言った。視線は、窓の外の風景に固定したままだ。
「あたしには、今と何も変わってない気がした。人間って、一体百五十年もの間、何をしてきたんだろう、って思う」
「いろいろしてきましたよ。だから、まだこのままなんです」
 カインはエリカの横で、空を見上げた。夏の日差しが、鋭く差し込んでくる。
「何もしていなかったら、人類はもうここにはいなかっでしょう」
「そう、だね」
 エリカはカインに向き直って、笑顔を見せた。
「カイン、今日の予定は?」
「……仕事の依頼が、入っています。今日の午後一時に、小金沢邸へ出向く事になりますが」
「……あたし、あの人きらい。カイン、一人で行ってきて」
「一人で、ですか? しかし、こちらでモニターは取れませんから、確認の方ができなくなります。それに、小金沢氏は大口の契約主ですし」
「いいの。一応、表向きはあんたがロイス・エドフォードなんだから、失礼にはならないし。仕事については、カインに一任する」
「いいんですか? どんな仕事でも取ってきてしまいますよ。もう家計は破綻寸前なんですから」
「いいよ、なんでも引き受けて。あたし、今日、気分いいから」
 エリカは微笑みながら、大きくのびをした。
「大見得きってきていいよ。史上最高のアンドロイド・クリエイター、ロイス・エドフォードに作れないものはないっ、てね」
「……はぁ、後で泣いても知りませんよ」
 カインはエリカの自信たっぷりの言葉に、ため息で返事をした。
 ロイス・エドフォード、それは日本でも有数の違法アンドロイド・クリエイターの名前であり、エリカの仕事上の名前であった。エリカは天才的なクリエイターだが、十歳の少女であるエリカがクリエイターとして仕事を取るのは無理がある。そこで、偽名を使って年齢、性別を偽って仕事をしているのだ。
 そして今では、カインが表向きのロイス・エドフォードとして仕事を取っている。前歴がアンドロイドの人権を守る保護監査局員だったカインにとって、それは皮肉な仕事であった。何しろ違法アンドロイド製造の片棒をかついでいるのだ。警官が泥棒に転職するようなものである。
 それでもカインは後悔していなかった。自分でも不思議に思うが、それはきっとエリカの魅力のせいなのだろう。卓越した技術と知識で、人間と寸分たがわぬアンドロイドを作りだすわずか十歳の美少女。人間としても成熟した感性を持っている。にもかかわらず幼くわがままな感情を失わずにいるエリカは、街の空気で荒れてしまったカインの心に、太陽のような光を与えてくれるのだった。
「あたしがいいって言うんだからいいの。ほら、顔を洗いにいくよ」
「はい」
 カインは微笑んで、エリカの後を追いかけた。


 午後三時。
「だからって、何でそんな仕事受けてくるのよ!」
「だから言ったんです。私は知りませんよ、と」
 小金沢邸から戻ったカインはコードDの命令に従って、オレンジペコのミルクティーをカップに注ぎながら言い返した。
「あたし、セクサロイドは作ったことないのよ。それもちっちゃな女の子のなんか」
「誰もセクサロイドを作れとは言っていません。小金沢氏が要求しているのは、幼い恋人です」
「一緒よ。あんのスケベじじい、どうせ変な目的にしか使わないんだから」
 憮然とした態度で、エリカはカップを持ち上げた。透き通るような碧い瞳に、険しい色が混じる。
「カイン、断ってきて」
「無理です。彼の機嫌を損ねたら、すぐに監査局へ密告されてしまいます。今の私たちには、逃げだす資金もないんですよ」
「……どうしても?」
 甘えるような視線を、エリカはカインに送った。しかしカインはその手には乗らない。もう慣れっこになっているのだった。
「どうしてもです。納品は一週間後。すぐにでもかからないと、間に合いませんよ」
「……わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
 エリカは悔しそうにミルクティーを飲み干すと、緋色のソファーから立ち上がった。
「あーあ、幼女セクサロイドにまで手を染めるとは、ロイス・エドフォードも地に落ちたものね。で、どんなのが好みだって言ってた?」
「エリカ様です」
 エリカはその答えに一瞬硬直して、ゆっくりとカインの顔を見つめた。
「え?」
「以前見かけてから、随分とエリカ様を気に入られたようで、出来ればあんな娘がいいと言っておられましたが」
「げろげろ、あのじじい、あたしに目をつけるなんてたいがいにしてよ」
「エリカ様、少し言葉の方が下品になっています。それに、依頼主を悪く言うことはあまり感心できません」
 カインが眉をひそめた。エリカは諦めたのか、いやそうながらも頷いた。
「はいはい。もう仕事に不平は言いません。ラボの方にこもるから、食事だけは持ってきてね」
「わかりました。いつでも御用の時は、ベルでお知らせください」
「……じゃあ、お願いね」
 エリカは飲み干したカップを置くと、部屋を出た。


 そして三日後。
「はいっ、できました」
「相変わらず、早いですね」
 そう返事しながら振り向いたカインは、ぎょっ、と目を見開いた。そこには、エリカが二人、立っていたのだ。
「型番EF−70、アルテミスよ」
「アルテミスですぅ」
 片方が紹介すると、もう片方が間の抜けた声で返事をした。へらへらと緊張感のない笑顔を浮かべている。カインは頭が痛くなり、目頭を強く押さえた。
「思考ルーチンの方は、まだなんですか?」
「あ、それだけど」
 本物の方が照れくさそうに答えた。
「……あのね、あたしセクサロイド用の思考プログラムが作れなかったの。よくわかんなくって。だから最低限の言語解析と一般常識だけ打ち込んで、あとはぜんぶ学習機能にメモリー回しちゃった」
「そうなんですぅ」
「学習機能、ですか?」
 カインが怪訝そうに問い返した。
「そう。だから勉強させなきゃ、使い物にはならないの」
「はい、使い物になりませんですぅ」
 楽しそうにおうむ返しするアルテミスを、エリカが殴った。
「あ、痛いですぅ」
「と、まあ、このくらいの感覚はあるんだけど、あの、その、あっちの感覚に関してはあたしの知る限りしか、えっと」
 赤くなって説明しようとする本物のエリカを見て、カインはくすっと笑った。
「エリカ様、大体わかりましたからもう結構です。それで、あちらの機能の方は?」
「それは大丈夫。だってあたしのをそのままイミテイト……」
 そこまで口にして、エリカは耳まで真っ赤になった。
「……もう、だからセクサロイドなんか作りたくなかったの!」
「落ちついて下さい、エリカ様。つまり後は、性的な知識と感覚を学習させればセクサロイドとして完成するわけですね」
「うん、そう」
「それで、どうやって学習させればいいのですか?」
 カインが訊くと、エリカはくるっと後ろを向いて、答えた。
「カインが、教えてやって」
「私が、ですか?」
「……仕方ないでしょう。他にいないんだから」
 そのまま、ドアのノブに手をかける。
「あたしはラボでモニター見てるから、お願いね。別に難しく考えなくても、普通にしてれば覚えるから」
「エリカ様」
 カインの声を振り切るようにして、エリカは勢いよく部屋を飛びだしていった。


「もう。セクサロイドって、だから嫌いよ」
 ゴーグルのついたヘッドフォンを頭にかぶりながら、エリカは愚痴をこぼした。
「こんなこと、カッくんに頼まなきゃいけないなんて……」
『よろしくおねがいしますです』
 ヘッドフォンからアルテミスの声が聞こえてくる。ゴーグルにはカインしか映っていない。アルテミスの視点なのだから、それは当たり前だ。しかし、アルテミスのサイズはエリカと全く同じである。ゴーグルに映るのは、エリカのいつもの見えるものばかりだった。少し見上げるようなカインの顔も、同じように見える。
『まいったな、でもやらなきゃいけないんだろうな』
 少し困惑げなカインの手が、顔をかすめるようにして伸ばされた。アルテミスの肩に手を回したのだろう。
『アルテミス、こっちにおいで』
『はぁい』
 画面はドア、廊下、ドア、室内というように変わってゆく。エリカは思わず、声を上げていた。
「なんでカッくんのベッドなの! あそこは……」
 はっ、と息を止めた。ゴーグルには天井が映っている。ベッドに寝かされたらしい。
「あそこは、あたしの……」
 エリカの声は、弱々しかった。


「服、脱ぐんですかぁ」
「……んー、多分脱がしてもらえると思うから、楽にしていてくれればいいよ」
 カインはアルテミスの服を脱がしにかかる。古風なエプロンドレスは脱がすのが難しいが、何とかパンツ一枚にまで脱がし終えた。
「寒いですぅ」
「じゃあ、すぐ温かくしよう」
 カインの指が、アルテミスの胸をすうっとなぞった。白い肌にぽつりと浮かんだ乳首をかすめる。アルテミスはくすぐったそうにもがくが、カインは左手を肩に回して押さえつけた。
「これは、気持ちいいことだよ」
「気持ち、いい?」
「そう。そしてこれも」
 指で乳首をつまむ。アルテミスはむずがゆいのか、細かく身を震わせる。カインは幼い乳首に口をつけた。強く吸いながら、舌で先を転がす。アルテミスの反応が、少しずつ変化し始めた。その感覚を快感だと認識するようになったらしい。
 カインはその反応に満足しつつ、エリカのものと同じパンツに手を掛けた。するりと引き下ろすと、アルテミスも腰を浮かせて応じた。抵抗しないようなプログラムには、なっているらしい。
「ほら、そうするとここが段々湿ってくる」
「おしっこ、するところですかぁ」
 パンツを脱がせて脚を開かせると、カインは一本の筋でしかないスリットを指で拡げた。サーモンピンクのきれいな秘肉が外気にさらされる。
「気持ちいいから、濡れてくるんだ」
 言い聞かせるようにカインは耳元で囁いて、二本の指でスリット全体を圧迫してやった。揉むように愛撫してやると、指に絡みついてくる液体があった。
「気持ちよかったら、声を出してもいいんだよ」
「……はい、んっ、あ」
 アルテミスが鼻にかかったような声をたてた。カインの指はにゅぷ、にゅぷといやらしい音をたてながらスリットを押し広げてゆく。すると、小さな突起が指に触れた。
「そしてここが、一番気持ちいいところ。段々と、固くなっていくよ」
「んっんっ、あぁっ……はぁっ」
 指は探り当てたクリトリスを入念にこねくり回した。こりこりとした感触が強くなってゆく。勃起しているのだ。カインは指での愛撫を急に打ち切ると、愛液でぬるぬると光るスリットに顔をちかづけた。両手でスリットを開かせると、ぷっくりと充血した秘肉の奥にある小さな穴と、米粒ほどしかない小さな突起がよく見える。カインはスリット全体に舌を這わせて、愛液を啜った。アルテミスはびくん、と腰をのけ反らせた。
「あっあっあっ、き、気持ちいいですぅ……」
 クリトリスを下でつついてやると、アルテミスはカインの頭を手で抱え込んだ。それがよりいっそう強い刺激を与える結果になり、アルテミスはシーツを握りしめ、噛んだ。
「……気持ちいいのが限界になったら、意識はどこへ行ってもいいからね」
 口を離して再び指の愛撫に切り換えて、カインは言った。アルテミスが理解出来るかどうかわからないが、カインにはそうとしか説明のしようがなかった。しかしアルテミスはその意味を、正確に把握できたようだった。
「ん、ん、ん、ん、あ、ど、どこかにぃ、いきますぅ」
 カインの指がするり、とスリットの奥にまで潜り込んだ瞬間、アルテミスは壊れてしまったかのような痙攣を見せて、がっくりと脱力した。カインは荒い息をつくアルテミスの唇に、自分の唇を合わせた。
 がしゃん!
 その時、下の階でものの壊れる音がした。そして鈍い爆発音。カインは何事かと耳を澄ませた。どたどたと廊下を走る音が聞こえてくる。足音はすぐにドアの前にまで来ると、蹴破りそうな勢いでエリカが飛び込んできた。
「エリカ様!」
「もう実技はおしまいよ! アルテミス!」
 エリカは叫びながら、アルテミスをベッドから引きずりおろした。そして代わりにベッドに上がる。
「カイン、もういいわ。客に渡す前に傷ものにされたらたまらないもの」
「ですが、教えないと」
「アルテミス! いい? 見て覚えるのよ。カイン、コードZよ」
 エリカはカインに職務の終了を告げるコードを与えると、腕を首に絡ませながら耳元でささやいた。
「……カッくんのばか。あたしがモニターしてるの意識して、アルテミスにキスしたでしょ」
 泣きだしそうな声だった。カインの手が優しくエリカの頭に載せられた。
「やっぱり、バレたか」
 その口調はもう、エリカの忠実なる家来のものではなかった。コードZによって職務は終了し、カインとエリカの主従関係は解消された。今の二人はただの男と、ただの少女なのだった。
「あたし、いやだ。カッくんが他の娘とキスするなんて、ぜったい、やだからね!」
「やれやれ、独占欲の強いお嬢様だな。わかった、もうしないよ。だから、機嫌を直してくれ」
 カインはエリカの涙を親指でそっと拭うと、ゆっくりと顔を近づけた。ねっとりとした濃厚なキス。舌と舌が絡み合う。エリカはカインの背中に腕を回すが、回りきらずに手のひらで背中をさすった。カインはエリカの首筋、背中、そして尻まで手を這わせてから、スカートの中にもぐり込んだ。
「あっ……」
「もうこんなになってるよ、エリカ」
「だって、それは、あっ」
 くちっくちっ、とカインの指が音をたてて動いた。エリカは恥ずかしそうに頬を赤らめてうつむく。
「それは、なんで?」
「……だって、あんなのを見せられてたんだもん」
 カインは微笑んだ。大人の中にもかなうものはいない最高のアンドロイド・クリエイターであるエリカも、この時だけはただの幼い少女に戻ってしまう。カインにはそんなエリカがかわいくて仕方なかった。そしてついつい、意地悪をしてしまうのだ。
「……じゃあ、アルテミスの勉強のために、よく見せてあげような」
「え、そんな」
 エリカが抵抗しようとする前に、カインはエリカの太腿を両手で大きく開いた。エリカの白い下着がチェックのスカートから現れる。カインはパンツの布地が二重になっている一番大事な所を指でなぞった。じっとりと水分を含んだそこは、指がなぞるたびにエリカのスリットの明確な形状を露呈してゆく。
「さあアルテミス、よく見るんだ。ここがどうなってゆくのかを」
「はぁい。すごく濡れていますぅ」
 全裸のアルテミスは床の上に正座して、エリカのパンツがスリットに食い込んでゆくのをじっと見つめていた。表情は真剣そのものだ。
「は、恥ずかしい……」
 エリカはアルテミスの熱心な視線を感じながら、現状から逃れようと身をよじった。それでもカインの力にはかなわず、エリカは瞼をぎゅっと閉じて羞恥に耐えた。
「じゃあ、ちゃんと見てみようか」
 カインはエリカのパンツを一気にはぎ取った。エリカに抗う隙を与えない早業だった。エリカのスリットは透明で粘度のある液体で濡れそぼり、わずかに開いた隙間から赤く充血した柔らかそうな肉が見える。その様子は、当たり前だがアルテミスにそっくりだった。舐めてみれば、味も一緒に違いない。
「アルテミス、触ってもいいぞ」
「はぁい」
「えっ、うそ、いやっ!」
 アルテミスは膝で歩いてエリカの前に座った。人指し指でつん、とエリカのスリットに触れる。
「あっ、やめてっ!」



イラスト:河澄翔


「アルテミス、一番気持ちいい所はどこだった?」
「はぁい、ここですぅ」
 アルテミスの指がエリカの一番敏感な部分、クリトリスを突いた。エリカは声にならない声を発して、びくびくっと腰を震わせた。
「もっと、濡れてきたみたいですぅ」
「よし、アルテミスはまた、そこで見ていろ」
 カインはようやく、エリカを押さえつける力を抜いた。しかしエリカにはもう、逃げる気力も体力もなかった。弱々しくベッドに倒れ込んだ。カインはその間に燕尾服を脱ぎ捨てて、エリカの横に添い寝した。
「どう、気持ちよかったか?」
「……カッくんの、ばか……」
 エリカは瞳を潤ませて、カインに背を向けた。自分の造ったアンドロイドとはいえ、あんな姿を他人に見られるのは恥ずかし過ぎたのだ。
 カインはエリカの金髪を指で整えながら、小さな声で言った。
「かわいかったよ、すごく」
 エリカの背筋が、しゃん、と伸びた。
「やっぱり本物は違うね。アルテミスよりもかわいいよ」
「……もう、当たり前じゃない、そんなこと」
 振り返ったエリカは、微笑んでカインにしがみついた。すると、こつんと何かが腰にあたる。エリカは手をもぞもぞと動かした。
「……すごく、固くなってるよ、ここ」
「そりゃ、まあ」
 きまり悪そうにごまかしたカインを見て、エリカはくすくすと笑った。あたしにあんなことしたのに、自分のこととなるとこれだから、かわいい、とエリカは思った。そして、いいことを思いついた。そうだ、仕返ししてやろう。
 エリカはカインの固くなったものを両手で握って、ゆっくりとしごいた。すでにカウパー氏線液が漏れているので、ぬるぬるとした感触が伝わってくる。
「カッくん、気持ちいい?」
「……うん」
 さっきまでエリカを苛めていたのに、オチンチンを握った途端に従順になってしまうカインが、エリカにはおかしかった。エリカは楽しそうにカインのペニスに唇を寄せて、軽いキスをした。カインが反応したのを確認してから、おそるおそる舌を出す。ぺろっと舐めると、カインの反応が両手に伝わってくる。エリカは面白くなって、ぺろぺろと舐め続けた。
 頃合いを見計らって、エリカは立ち上がった。
「アルテミス、おいで。あたしの真似をしてみて」
「お、おい、エリカ」
「はいですぅ」
 驚いて身を起こしたカインの前に、アルテミスが這ってきた。カインが逃げようとすると、エリカが横から抱きつく。
「逃げちゃだめ。これは仕返し」
 エリカの顔を見つめてから、ペニスを握ったアルテミスの顔を見ると、カインは妙な気分になった。同じ顔の少女二人に、責められているような感じがする。アルテミスは全裸だが、エリカは服を着たままなのも不思議な光景だ。
 アルテミスがカインの亀頭を舐め始めると、エリカはカインを押し倒してキスをした。俺は今、同じ唇で二箇所を愛撫されているのだと思うと、奇妙なものだ。これまで知らなかった新しい性の感覚が、身体の奥で燃えているようだった。
「カッくん……」
 エリカが甘えるような声を出した。普段はご主人様で気位が高いので、エリカはそれ以上のことがなかなか言えない。それでもカインには、エリカの瞳の色を見るだけで、大体の意味はわかるのだ。
 カインがアルテミスをベッドから降ろさせた。それからエリカの赤いチェックのワンピースを脱がす。エリカもカインも無言のまま、もつれ合うようにしてベッドに倒れ込む。エリカが、下になった。
「……エリカ」
「…………」
 エリカは目を閉じて、真っ赤な顔で震えていた。カインは自分のペニスをしっかりと握りしめ、エリカのスリットにあてがった。亀頭をスリットに擦りつけて、タイミングをはかる。三回往復すると、エリカの身体から緊張が抜けた。その瞬間だ。
 ずっ、ずずっ。
「あ、あ、さけるう!」
 小さなスリットが限界まで開かれて、カインのペニスを受け入れた。
「力を抜いて、ゆっくり入れるから……」
 少しずつ少しずつ、カインは腰に力を込めてペニスを押し込んでゆく。半分ほどめり込んだ時点で、ふっと抵抗が少しだけ弱まった。エリカがカインを精神的にも受け入れたからだ。
「はぁっ、はぁっ、カッくぅん、こ、壊れちゃいそ、おっ」
「ごめん、動くよ」
 カインは締めつけに耐えきれずに、腰を振った。思っていたよりもスムーズに、ペニスは狭い膣をスライドした。エリカは痛みに耐えるためにカインにしがみついていたが、次第に甘い疼痛が下腹部に広がってゆくのを知って、更に強くしがみついた。カインの大きくて固いものが、エリカのおなかの中で暴れている。回りを擦り奥を突くその棒がいとおしい人のものであると思うと、エリカは膣だけではなく心も満たされた気になった。
「んあっ、あぁあぁん、気持ちいいよお」
「俺もだよ。もう、いきそうだ」
 まだいくのは早い、そう思って歯を食いしばったカインの視界に、正座して二人を凝視し続けているアルテミスの姿があった。アルテミスは熱心に、二人を見つめている。
 カインは一度ペニスを抜いた。ぐったりと弛緩しているエリカをうつ伏せにして、尻を撫でた。きれいにすぼまったアヌスまでよく見えた。そしてまだ肉付きの少ない尻を抱え上げて、再び挿入する。
「んんんっ、なんか違うの、お、奥までくるぅ」
 こつこつと奥にあたる音をたてながら、カインは抽送した。エリカの腰を掴んで、きつくならないように優しく突き立てる。エリカは肘をベッドに突いて、カインの動きに合わせて揺れている。
「あ、もう出る!!」
「んああぁ、好き、カッくん!」
 弾けるような射精だった。エリカの膣内で炸裂した後も、どくどくと精液は注ぎ込まれる。二人は断続的に痙攣を繰り返して、ぐったりとベッドに倒れた。
 その様子を見つめていたアルテミスは、二人に何が起こったのかよくわからないのか、不思議そうな表情のままで固まっていた。


 セクサロイド、アルテミスを小金沢氏に納品した次の日。
 エリカの昼食は豪勢だった。デザートさえついている。
「お金が入るってのは、いいものねー」
「今日だけですよ、贅沢は。この調子では、またすぐに預金は底をつきます」
 呆れ顔でカインが言うと、不意に電話が鳴った。一般に普及している情報端末型ではなく、やはりエリカの趣味による骨董品なみで音声のみの電話機だ。
「はい、ロイスですが……ああ、小金沢さまですか。どうですか、アルテミスの方は。ええ……」
 カインは小声で何度か返事をした後、ゆっくりと電話を切った。
「……にゃんて、ゆっててゃ?」
「エリカさま、口に物が入っている時には、喋らないでください」
 カインは苦笑いを浮かべている。エリカは口の中の物を飲み込んでから、訊いた。
「どうしたの?」
「あの、少し教育をしすぎたようで、アルテミスは昨晩から今まで、その、休みなしにやり続けているそうです。このままでは死んでしまうから、止めに来てくれと……」
 しーん、とその部屋は静まり返った。エリカは腕を組んで考え込み、三分後、やっとのことで結論を出した。
「ほっとくことにしよう。死んでくれれば、密告されずに済むし」
「そうですね。それがいいでしょう」
 カインが珍しく賛同したので、エリカは驚いてカインの顔を見た。
「え、ほんとにいいの?」
「エリカさまの姿に欲情した、報いです」
 そう言ったカインの顔がやけに真剣だったので、エリカは思わず吹き出した。



終わり