EPISODE-S「不機嫌な復讐者」より

「仕方ないなぁ、少しだけだからね」
 子供を諭すような口調で、小麦は敷いたままだった布団まで這い進んだ。男はしっかりと小麦を抱きしめているので、布団まで引きずられてゆく。
 布団の上で、小麦は大の字になった。それを受け入れの意味だと理解したのか、男は嬉しそうに小麦の胸をTシャツの上から撫でさすった。すぐにふたつのポッチを見つけて、そこを重点的に擦る。
「んっ」
 薄い布地の下の乳首は、刺激によってくっきりと浮かび上がった。集中的に責められて、小麦は太腿をすり寄せた。早々に、パンツの中が熱を帯びてきていた。直接的刺激だけではなく、パブロフの犬と同じような条件反射なのだろう。
 ――いや、パブロフのトラだよな。
 どちらにしても、肉欲に正直なケモノなんだろうな、と小麦は自嘲した。
 いつからだろう、男の与える愛撫に期待するようになったのは。昔は、ただ男のために耐えているだけだったのに、今は自ら進んで脚を開く。
 男を父として愛しているから、という言訳が小麦にはある。だがそれは、肉体的に開発されてしまった言訳にするには足りない。小麦は肉欲に溺れるようになったきっかけについては気づいている。認めたくないだけだ。
 ――ケイの紋章、か。
 それを刻み込まれた時から、自分の肉体に変化が起きていた。
 篠沢ユリの建前上の兄であり保護者であり、性のパートナーである小次郎の中にいるデーモン、ケイが小麦に紋章を刻みつけた。時折浮かび上がり、身体能力を劇的に引き上げてくれるそれは、ケイがユリを守らせるために刻みつけたものらしい。とはいえ、ユリに危険が迫っている時以外でも発動する、気まぐれなもののようだ。
 小麦は紋章について考えると、すぐに例のことも思い出してしまい不愉快になる。だから、もう考えるのはやめた。もとより、普通の人間の肉体ではない。初めての男が誰であろうが、もうどうでもいい。
 本当にどうでもいいのなら、不愉快にもならないはずなのに、小麦はいつもそう思うことで平静に戻ろうとしているのだった。
 昨日の美紀との電話以来、考え込みがちな小麦だったが、男はそんな事情は全く知らない。Tシャツをめくり上げ、嬉しそうに胸にむしゃぶりつく。赤子のような男の行為に、小麦はふっと口の端に笑いを浮かべる。
 くりくりと硬い乳首を懸命にしゃぶりながら、男は小麦のスパッツをパンツごと引き下ろした。発毛の兆しすら見えない小麦のスリットは、まだ見事な一本線だ。男は小麦の全身にキスをしながら、次第にスリットに顔を近づけてゆく。両手を尻の下に差し入れて、スリットに食らいつく。
「んっ」
 閉じたスリットを、舌がこじ開ける。朝にシャワーは浴びたから、匂いはそんなにしないはずだと小麦は妙なところを気にしていた。
「……ひえこぉ、いい匂いだぁ」
「そ、そんな」
 恥ずかしくなって足を閉じようとする小麦。しかし男は逆に太腿を布団に押しつけるようにして、更に足を拡げさせた。唇と舌だけでなく、顔全体を小麦のスリットにこすりつける。剃り残した髭がちくちくと痛い。
 痛みとむずかゆい快感が混じってわからなくなってしまう頃には、スリットにねばっとした透明な液体が滲み出していた。男はその粘液を指先ですくい、膨らみはじめたクリトリスに刷り込んだ。
「う、んん」
 小麦は、大きく漏れそうになる声を鼻声に押しとどめた。
 男は自分の中指に唾液を絡ませておいて、まだほぐれていない膣にやや強引に挿入する。小麦は一瞬だけ眉をしかめた。しかし親指がクリトリス、人指し指がアヌスに触れたとき、かすかな痛みは帳消しになった。いわゆる、三点責めだ。
 クリトリスとアヌスを圧迫されながら膣をかき回されるのだ。性戯に慣れていない幼い肉体には酷なほどの刺激だった。
「んくっ、だ、だめ、そんないっぺんになんて……」
 どこが責められているのか、小麦にはわからなくなっていた。中をかき回している指が、クリトリスに触れている指やアヌスを押している指と同じに思えて、下半身そのものをわけのわからない存在に犯されているような気がしてしまう。
 挿入されている中指が複雑に動き回り、小麦の膣はほどよくほぐされたようだ。男はそれを確認すると、あっさりと指を抜く。
「あっ」
 小麦の声は、指が抜かれるときの摩擦に応えて漏れた喘ぎでもあり、唐突にやんでしまった愛撫への講義でもあった。
 男は全裸になると、布団の上で大の字に横たわった。ペニスは真上を向いて屹立している。こういう体勢を取った時の男の希望を、小麦は知っていた。
「上に、なってほしいんだ?」
 男は目を閉じて、ただ頷いた。小麦はやれやれといった表情で、男の身体を跨ぐ。仕方がないようなそぶりを見せながらも、指で責めたてられた膣は期待に涎を溢れさせていた。自分の指でスリットを拡げて、ペニスを膣に導こうとする。
 するといきなり、男が小麦の尻を掴んだ。ゆっくりとペニスを呑み込もうとしていた膣に、ペニスが荒々しく突き刺さる。
「んはぁっっ!」
 小陰唇まで内部に押し込みながら、ペニスは深々と小麦を貫いた。引き抜くと、膣が裏返りそうなほどペニスに張りついている。
 揺するように動かしているうちに、溢れた涎が摩擦を和らげた。
「す、すごい、なかが、いっぱいになってる」
 どんなに潤滑油がその役目を果たそうとも、まだ小学生の小麦の膣は、男のペニスを呑み込むのが精一杯だ。張り裂けそうな感覚に、腰を動かせない。
「しょうがないな、ひえこは。ちゃんと、おしえてやったのにな」
 腰の動かせない小麦に代わり、男は下から突き上げ始めた。
「くっ、んんっ、んああっ、ああっ、あ」
 荒波に弄ばれるヨットのように、小麦の細めの肉体は飛び跳ね、叩きつけられた。それでも尻を強く掴まれているので、ペニスが抜けることはない。男は小麦の反応が面白いのか、腰で円を描いたり指先でアヌスをつついたりする。
「あっ、ああっ、す、すごっ、こわれそうなのに、こわれそうなのにっ」
 自分の身体の中が、突かれるたびに破壊されているような気がした。いや、もしかしたら、突き崩されているのは精神の方かもしれない。男のペニスは、肉体も精神も貫いているのだろうと小麦は思った。
「出すぞ、出すぞ、ひえこ。元気な子を、産んでくれひえこ。息子が、息子がほしい」
「んっ、産むよ、産みます、げんきな、男の子を産みます。だから、中に力強く出してくださいっ。元気をわけてあげてくださいっ」
 小麦も、稗子になっていた。小麦には生理はない。どんなに力強く膣内で射精しようとも、子供はまだ、産めない。それでも壊れてしまっている父の心の奥底から絞り出される希望には、小麦はどんなことでも応えてやりたい気になっていた。
「で、でるっ」
「んはぁぁっ!」
 脈動するペニスの先から、大量の精液が吹き出した。実の父の精液を膣の奥深くで全て受け止めながら、小麦は男の胸に倒れ込んでいった。