第三幕 「雨は……こわいです」より

 どのくらい、彼女を演奏していただろう。ボクが演奏を中断して顔を上げると、
「はぁ……はぁ……しょ、抄さあぁん……」
 らいるちゃんはぐったりとして、上気した顔を飾る潤んだ瞳でボクをみつめた。
 彼女の汗ばんだ肢体は輝き、まるで彼女自身が光を放っているかにも思える。そのあまりの美しさに、ボクは息をのむしかなかった。
「し、して、ください……ですうぅ。さいごまで、ちゃんと、し、してください……で、ですうぅ」
 彼女が求めてるもの、ボクとの結合。
「うん……しようか? 最後まで」
「は、はいですうぅ」
 らいるちゃんは自ら細く長い脚を開き、ボクを受け入れる体勢を取る。
 ボクは開かれた場所に身体を差し入れ、彼女の、強く掴むと折れて砕けてしまいそうな腰に手をそえた。
 ホントに「できる」のか?
 一瞬、そんな思いが脳裏を横切る。だけど、
「……抄さん。らいる、できるです。ちゃんと、抄さんとひとつになれるです」
 その言葉で、ボクの覚悟は決まった。
 堅く膨張し、熱く波打つ部分を、ボクと彼女が「ひとつとなる部分」に誘う。
「あっ……」
「こわい? らいるちゃん」
「いいえです。こわくないです。でも、抄さんのあれ、とてもあついです。らいるのあそこ、やけどしちゃいそうです」
 ボクは苦笑してしまった。
「でも……らいるは、やけどしてもいいです。抄さんとひとつになれるなら、やけどしてもいいです」
 らいるちゃんは、ボクを真っ直ぐに見て、
「らいるは、抄さんを愛してるです。
 たぶん、初めて会ったあの日から、ずっとずっとすきになりつづけて、いつのまにか愛してて、とても大切な人になってて、うしないたくなくて、ぜったいうしないたくなくて……。
 らいる、さっきはちょっとかっこわるいとこみせちゃいましたですけど、抄さんだからいいです。
 抄さんになら、かっこわるいとこも恥ずかしいとこも、全部みられていいです。
 だってらいるは、らいるの全部を抄さんにみてもらって、それですきになってもらいたいです。
 抄さん。らいるのだめなとこは、ちゃんといってほしいです。らいる、がんばって直すです。抄さんにすきになってもらえるように、直すです。
 えっと……です。だ、だから、らいるは抄さんがすきです。愛してるです。
 ら、らいるを、もらってくださいです。らいると、ひとつになってくださいです。
 エ、エッチな子だって思わないでくださいです……らいるは、抄さんだから、こんなこといってるです。
 抄さんだけです。らいるがこんなエッチな気分になるのは、抄さんを愛しているからで、だから抄さんにしか、エッチな気分にならないです」
 ボクはじっと、彼女の言葉を聞いていた。
 と、らいるちゃんは急に我に返ったようにハッとした顔をして、
「な、なにいってるですかっ! らいるはっ。
 しょ、抄さんっ? 本当に、らいるはエッチな子じゃないですっ。
 で、でも、してほしいっていうのも本当で、だ、だから、し、してくださいですっ」
 少し支離滅裂なとこもあったけど、彼女がどれほどボクのことを想ってくれているのかは、わかりすぎるくらいに理解できた。
「らいるちゃんがエッチなら、ボクだってエッチだよ。らいるちゃんがボクとひとつになりたいって想いに負けないくらい、ボクも、らいるちゃんとひとつになりたいから」
「お、同じ……ですか? らいると抄さん、同じですか?」
「うん、そうだよ。だから、ひとつになろう」
「あっ……は、はいですっ!」
 準備は整っている。後は、らいるちゃんの奥へと突き進むだけ。
 ボクが視線を送ると、彼女は小さく肯いて、
「きて……くださいです」
 ボクは、彼女の奥へと力をこめて進んだ。

「ひぃグウゥッ!」
 それは立ち入る……というよりは、引き裂くという感覚に。包み込まれるというよりは、締めつけられるという感覚に似ていた。
 力をこめたときの、肉を裂くような感触に、ボクはゾッとした。
 壊してしまったのではないか。大切な人を、傷つけてしまったのではないか……と。
 もしかしたらボクは、心のどこかで、「無理だ。とても受け入れてはくれないだろう」……と、考えていたのかもしれない。
 だけど、先端だけとはいえ、ボクは彼女と「ひとつ」になっていた。
「ウッ! う、ウゥ……っ」
 下唇を噛みしめた、苦悶の表情。シーツをギュッと握りしめた拳は、ブルブルと震えている。
 結合部に目を向けると、少量だけど血液としか思えない液体が、そこを染めていた。
 先端を締めつける彼女の力。とてもじゃないけど、それ以上奥に進めるとは思えないし、進んでいいとも思えない。
「だ、大丈夫? らいるちゃん……」
「ヒウっ……だ、だいじょうぶ……で、です」
 目尻から伝う涙と眉間に刻まれるしわが、彼女の言葉を裏切っているようで、ボクの胸は痛んだ。
 なにか、とても酷いことを彼女にしてるんじゃいか……と、感じた。
「こ、これで、ヒグっ! ら、らいると抄さん、ひ、ひとつになれた……です」
 無理に微笑もうとするらいるちゃん。
「……うん、ひとつ……だね」
 ボクは、絞り出すようにいった。
「は、はいで……す。う、うれしい……で、です」
 らいるちゃんがどれほどの痛みに耐えているのか、ボクには想像もつかない。なのに彼女は、「うれしいです」……と、ボクに告げた。
「ボクも……嬉しいよ」
 そう答えるしかなかった。答えなければいけないと思った。
 そして、彼女を裏切ることだけは絶対にしないと、心の中で誓った。